メタルギアソリッドⅥ Stairway to Heaven 作:山猫飼育系
隻眼の男 ジョーは携帯端末を売って得た金で葉巻を購入し慣れた手付きで一本を取り出す。
葉巻を口に咥え先端に火をつけ濃くのある煙を吸い込むと全身に快楽物質が張り巡らせられたかの如く気持ちの良い気分になった。だがゆっくり一服している場合ではない。とある男と会う約束をしているからだ。というよりも既に約束の時刻は来てしまっていた。相手の男は自分には比較的優しい人間だが時間や約束は必ず守る男だ。なのであまり待たせるのは申し訳ない。ジョーは葉巻の火が消えないように右手で覆いながら少しばかり早歩きで目的地へと向かった。
約束の場所は街外れのバス停に隣接された小屋だった。案の定小屋の中には会う約束をしていた男が椅子に腰を掛け退屈そうにしていた。
白い髪に充分に蓄えられた白い髭。茶色のコートを羽織り一際目立つウエスタンブーツを履いた男は以前会った時よりも老いて渋い風格をしている。
「待たせたな」
「お久しぶりです。ボス 5年ぶりですね」
5年前キプロスで別れて以来の対面となる。男の名はオセロット。ジョーが遅刻したことに関して一切触れず言葉を交わす。非常に器の大きい男だ。誰よりも信頼できどんな状況下でも頼りになる忠実な騎士だ。そして良きパートナーでもある。
「どうでしたか、隠居生活は?…と聞きたいところでしたがアフリカ各地の紛争地帯でBIG BOSSに似た隻眼の男が姿を現しているという噂が跡を絶ちません。もしや」
「ああ。やはり俺は人ではなく銃として生きていくのがお似合いだ。戦争は資金が発生する。葉巻を買う金が必要だ。俺がケバブ屋で肉を削ぎ落としているところを想像してみろ」
「フフ…お世辞でもお似合いですとは言い難いですね」
オセロットが頬を笑みで崩す。こんな姿を見せるのはジョーの前だけだ。だがジョーはジョークを放った束の間真剣な顔になり口を開く。その声は普段よりも低めのトーンだ。
「で、どうだ アフリカの計画は?」
「はい、アウターヘブンはご存知だと思いますが知る人ぞ知る世界規模の巨大な傭兵派遣会社となりました。“国”に成るのも後少しの段階です。」
「そうか、5年間いや……14年間任せっきりですまないな」
「いえ、決して容易い事だったとは言えませんがボスの為ならこれくらいは。それゆえこの成果は私だけではなく沢山の人員達が力となってくれました。 何と言ってもダイヤモンド・ドッグズを
“ミラー ” ーーカズヒラ・ミラー。ジョーにとってそれは久々に聞いた名だった。オセロットとは違い彼は“忠実な騎士”ではなかったが、優秀なビジネスパートナーであり“親友”であった。現在の彼がどう生きているのかとても気になりオセロットに問う。
「カズは今どうしてるんだ?」
「はい、ミラーはどうしても“国”を作るということには納得がいかず半年前アメリカに渡りました。米軍に迎えられたという話です。今思えばミラーの送別会は非常に不思議な光景でしたね。端から見れば敵に寝返る男を祝福して見送るようなものでしたから。ですが兵士達は皆涙を流し彼との別れを寂しがっていましたよ」
「そうか…。 お前も涙を流したのか?ハハ」
「い、いえ!そんな事ある訳ありません。涙どころか何の感情も湧かず…そ、そう部屋でずっと銃の手入れをしていました」
何故部屋で銃の手入れをしていた男がカズの送別会の内容を把握していることについてはこのプライドの高い男には問わないようにした。
「これは噂ではありますが“デイビッド”の教官を務めているとか。デイビッドは“N313計画”での“蛇の役”の最有力候補でもあります。やはり蛇の運命は数奇なものですね。」
オセロットが感情深い表情で言った。時代から蛇の呪いが解き放たれることは無いのだ。
「ところでボス、3日前からメッセージの返信が返って来ていませんでしたがどうかなさっていたのですか?あなたの身に何かあったとは考えられなかったので特に心配もしていませんでしたが」
「おいおい、俺だって病には何も太刀打ちできないさ。まあその件に関してはidroidが壊れたんだ」
「なるほど、5年も経つと機械にもガタがきますか。私に診せてみてください。これでも機械の整備や修理は得意な方です」
「ハハハー これを買う金にしちまったよ」
そう言ってジョーは胸ポケットから自慢気に葉巻の箱を取り出しオセロットに見せ付ける。
だかオセロットはその光景に目を丸くして驚いていた。口がマヌケにも半開きだ。
「売ったのですか!?」
「ああ」
「あの中には我々の通信履歴やアウターヘブンやザンジバーランド両要塞の情報などがーー」
「大丈夫だ ビクとも動かなかった」
「最近ソマリアでは内戦にアメリカ軍が介入していたりもしています。もし分解して解析などでもされたら」
「わかった わかった 今から買って取り返してくるさ」
オセロットは呆れた顔をしながらコートのポケットから札を取り出し数枚ジョーに渡した。
ジョーは半笑いで札を手に取るが内心やっちまったと苦虫を噛んだ。
その後オセロットは懐から無線機を取り出しそれもジョーに渡す。渡された無線機はジョーにとっては気になりざるを得ない代物であった。
「おお、この無線機は」
「アウターヘブン技術班が開発した64年モデル無線機です。世間ではレトロブームが到来しているのでそれに便乗して作り上げた代物です。機能は元物に比べて遥かに上ですが音質や質感は64年のものとほぼ同然に似せています」
ジョーは思い出深いその無線機を体に取り付けた。その感触はあの頃を思い出す。
「懐かしい…」
ジョーは身だしなみを簡単な程度に整え再び街へ行く準備を整える。
「私は近辺のカフェから無線をしています。それに近頃このソマリアで起きているある事件について整理したいものでして」
「ハハ、随分優雅なものだな。行ってくる」
「お気をつけて ボス ではーーidroidを取り戻すのです!」
オセロットの謎のテンションの上がりように少し困惑して軽く首を傾げながらジョーは再び市場へと歩を進めた。