はこちん!   作:輪音

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今回は二九〇三文字あります。


CCCⅩ:おっさん提督、検査入院す

 

 

 

寝台特急を下車して到着した地方都市は、思っていた以上の賑わいを見せていた。

はるばる函館から船や汽車を乗り継いで行くほどのことがあるのかとも思えたが、提督の拉致や暗殺を防ぐにはこうした方がいいとの大本営の見解により、えんやこらと思えば遠くへ来たもんだ。

意外と死亡率の高い仕事だからなあ。

安全対策は厳重にしないといけないのだろうさ。

 

 

駅舎前からは様々な方向へ向かう乗合自動車が発着しており、その内の大学病院行きに乗る。

今もなんとか営業を続けているような大型商業施設の近くを通り過ぎ、目的地の病院の敷地内に車輌は入ってゆくのだった。

下車してからは事前に貰っていた『入院のしおり』に記載されていたように、入退院センターへと向かう。

廊下の通り沿いに並ぶ珈琲店や食堂などを眺めつつ、てくてく歩いた。

 

入退院センターは銀行の窓口みたいな場所で、そこの女性に用意した書類や金銭を出してゆく。

入院申込書。

入院保証書。

大本営経由で発行してもらった診察券。

保険証。

入院預り金一〇万円。

 

手続きを終え、今度は昇降機で上層階へ向かった。

そこのスタッフステーションでも書類を複数看護師に渡す。

患者基本情報。

入院についての同意書。

などなど。

必要書類に印鑑で捺印(なついん)し、私の仮住まいは大部屋になる旨を淡々と告げられた。

 

大部屋に着くと中は存外広い。

圧迫感がないのはいいことだ。

荷物を可動式の戸棚に入れ、私室で着ているような衣類に着替えてほっとする。

書類仕事に追われないのは、精神的に安心感さえもたらしてくれる。

いやー、楽でいい。

えーと、帰ったら頑張ろう。

 

今日は昼食から食事が出ると聞いた。

どんな飯なのかな?

少し楽しみだ。

程なく若い看護師がやって来て、この階の設備を案内してくれることになった。

胸がけっこう大きい。

何故か、加賀教官を思い出した。

長門教官や妙高先生も大きいな。

……いかんいかん。

そういうことではいかんのだ。

洗濯機・乾燥機やシャワー室の場所を教えてもらい、次いで食堂を案内してもらう。

ふむふむ。

入院は三日間の予定なので、洗濯物はそのまま持ち帰りかな。

何故か私の洗濯物を艦娘が洗いたがるので正直困惑している。

先日は洗濯担当の曙と霞がおかしくなって非常に困ったのだ。

なんでだろう、なんでだろう。

……まあ、考え過ぎるのもアレかな。

 

それにしても、腹が、減った。

と、その時。

 

「ご昼食の用意が整いました。患者の皆様は箸とコップを持って、食堂までお越しください。」

 

放送が流れる。

よし、行こう。

 

食堂には車輪付きの金属の箱が置かれていて、女の人がその前にいた。

箱は冷蔵と保温の双方が出来るみたいだ。

凝っているなあ。

彼女に病室番号と名前を言って、樹脂製のお盆に載せられた料理を受け取る。

さてさて、献立は如何に?

 

◎とうもろこしのクロケット

◎ご飯

◎ワカメと玉ねぎの味噌汁

◎かぼちゃの煮付け

 

ふむふむ、野菜成分の多い献立だ。

ほうじ茶が魔法瓶に入っていて、それを持ち込んだ樹脂製のコップに注いだ。

では、いただきます。

クロケットはつまりフランス語でいうところのコロッケで、さくさく食べられる。

悪くない。

ご飯はお年寄りにもやさしいやわらか仕上げで、まあ、こんなものだろう。

味噌汁は煮立った感じもなく、少し塩辛いが飲めなくもない仕上がり。

かぼちゃの煮付けは口の中でほろりと崩れるようになっていて、甘みがじわりじわりと広がってゆく。

 

食事を終え、上にある図書室へ向かった。

小さな町の小さな図書室という風情のそこで、『空飛ぶ広報室』『県庁おもてなし課』『ありがとうございません』を借りる。

 

病室に戻り、熱を計ってもらう。

なんとなく五十鈴ぽい看護師だが、気のせいだろう。

髪は黒いし、ツインテールでもない。

 

「困ったことがあったらすぐに言ってくださいね、て……。」

「て?」

「あ、いいえ、なんでもありません。うふふ。ぜーんぶ、頼ってくれていいのよ。」

「はあ。」

「ふふふ、すべて私にお任せよ。」

 

……個性的な看護師だなあ。

シャワー室に行くと言ったら、付いてくるという。

案内しますと張り切っているので、断るのもどうかと思った。

段差の説明や、シャワーの使い方の説明を熱心にしてくれる。

ありがたいのだな、きっと。

お手伝いしますと言われたが、流石にそれは断った。

 

夕食は炊き込みご飯に肉じゃが。

具沢山で食べ応えのある献立だ。

旨し。

 

夕食後、食後の運動を行うために昇降機に乗る。

館内はかなり乾燥しており、ほこりっぽいのが難点だ。

一階の方が風通しもいいし、兎に角歩いて運動しよう。

駆逐艦たちがいないので、少しさみしい。

うちの子たちはみんな元気かな?

 

一階に到着し、売店に入る。

いろいろなモノが販売されていた。

少し高めだが、日本の輸入や流通が回復傾向にあるというのはどうやら本当のように思えてくる。

珈琲店に行くと、台湾やヴェトナムなどの珈琲を推していた。

印象商法が効を奏しているのか、売れ行きはよさそうだった。

コンビニエンス・ストアまで行き、中をぐるりと簡単に見て帰途につく。

 

途中で緑の公衆電話を見かけたので、鎮守府へ電話する。

次々にうちの子たちが話しかけてきて、気分がほっこりした。

テレホンカードの残高がみるみる内に減ってゆき、うちに来ていた瑞鶴と話を終えた時点で弾切れになる。

 

 

『県庁おもてなし課』で高知の魅力に触れている内、消灯時間が近づいてきた。

歯を磨き、主人公と多紀ちゃんがこれからどうなるのだろうと考えながら床に就く。

仕事を離れ、はるばるイスカ……間違えた、はるばる地方都市だな。

明日はリハビリテーションの先生と共に運動する予定だし、採血に心電図にレントゲンもやらねばならない。

さて、明日に備えて寝るとしよう。

 

 

天井の電気や間接照明が消され、この階層は静けさに満たされてゆく。

平和だ。

ここにいると、本当に自分が戦争に関わっているのかわからなくなる。

まるで、函館での日々の暮らしの方が…………らちもない、寝よう。

 

 

「起こしちゃってすみません。お熱を計りましょう。」

「えっ? ああ、はい。」

 

ふと目覚めたら、ナースキャップをかぶった看護師がすぐ近くにいた。

あれ?

気配を感じなかった?

平和ボケしたのかな?

看護師はズボンでなく、スカートを履いている。

電子式体温計でなく、水銀式体温計を渡された。

頭が活性化していないせいか、彼女がややぼんやりして見える。

まあ、寝ぼけているのだろう。

三分経過した後、彼女に体温計を渡す。

手をぎゅっと握られたが、少し冷たい。

氷のうでも触っていたのかな?

 

「お熱は大丈夫みたいですね。」

「それはよかった。」

 

体温計を振って、表示を戻す古典的衣装の看護師。

何故か鳳翔を思い出す。

変だな。

鎮守府をこんなに離れたのに、艦娘に囚われているみたいだ。

 

「ゆっくりお休みください。」

「はい、おやすみなさい。」

 

言外に提督と言われた気がした。

疲れているのかな?

 

 

 

翌朝。

ナースキャップをかぶることもなく、動きやすそうなズボンを装備した看護師が大部屋にやって来た。

夜中の話をしてみる。

彼女は胸を振るわせながら言った。

 

「当病院には、ナースキャップにスカートの看護師はいませんよ。」

 

えっ?

すると、彼女は一体なんだったのだろう?

 

 


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