GIRLS und PANZER〜少年は戦車道になにを望むか〜 作:紅葉久
アニメで例えるならアバンみたいなモノですね。
良ければ読了ください。
1.そこに眠るは、思い出の戦車
とてとてと、小さな少女が歩いていた。
今日も少女――オレンジペコは、また自身の主人を探して歩いていた。
聖グロリアーナ女学院の“紅茶の園”と呼ばれる場所で午後に行われる“お茶会”に姿を見せない主人を心配して、オレンジペコは小さな身体を忙しなく動かして歩く。
そして今回は二番目に思いついた場所で、オレンジペコは主人を見つけることができた。
聖グロリアーナ女学院の校舎内。その内部にある戦車道チームが保有する“記念館”と呼ばれる場所に、オレンジペコの主人は居た。
記念館とは、英国風の校風を持つ聖グロリアーナの戦車道の歴史が詰まった場所だった。
今では使うことが無くなった戦車やパーツ、歴代隊長達の写真などが大きな建物ひとつに詰まっている。言わば、この学校の歴史そのモノと言える場所であった。
「ダージリン様! 探しましたよ!」
そしてその記念館の奥。記念館に展覧されている戦車が並ぶ場所に、オレンジペコの主人――ダージリンが立っていた。
ただ立ち尽くし、一両の戦車を見つめていたダージリンがオレンジペコの方を向く。
「……ペコ? 何かあったのかしら?」
慌てていたオレンジペコを見て、ダージリンは小首を傾げた。
そんなダージリンに、オレンジペコは溜息混じりに少しだけ走って荒くなった息を整えてから彼女は口を尖らせた。
「お茶会の時間になってもダージリン様が紅茶の園に来なかったので探しに来たんです」
「あら? もうそんな時間?」
オレンジペコの話を聞いたダージリンが腕時計を確認する。そして時刻を見ると、彼女は少しだけ目を大きくした。
「……もうこんな時間だったのね」
「珍しいですね。ダージリン様がお茶会の時間を忘れるなんて」
オレンジペコが知る限り、ダージリンは紅茶をこよなく愛している。そんな彼女がほぼ毎日行われているお茶会に出席しなかったことがオレンジペコには非常に珍しかった。
「私だって、そんな時もあるわ」
ダージリンが頬を膨らませる。少しだけ不満気ある目で、彼女はオレンジペコに口を尖らせた。
オレンジペコには、そんな不貞腐れるダージリンが面白く映り、口に手を添えて慎ましく微笑んだ。
笑うオレンジペコにダージリンが「笑い過ぎよ、ペコ」と咎めると、彼女は「すいません」と一頻り笑ってから言葉を返した。
「ところで、ダージリン様? さっきから何を見てられたのですか?」
探していた主人が見つかり、その主人が一体どのような目的があっているのか気になったオレンジペコがダージリンに問う。
先程から不貞腐れていたダージリンがその質問にキョトンと顔を惚けると、彼女は目の前に鎮座する一両の戦車を見つめて、答えた。
「……クルセイダーよ」
ダージリンが見ていたのは、一両のクルセイダー巡航戦車MarkⅢだった。
手入れを隅々までされた白銀に輝く装甲が眩しく、しかし数々の消えることのない傷が、今までのこの戦車の戦闘の歴史を物語っていた。
鎮座するクルセイダー巡航戦車。それをオレンジペコがダージリンに言われて確認すると、彼女は首を傾げた。
記念館とは、過去の歴史を展示する場所であった。つまり言ってしまえば“古いモノ”が飾られる場所であるはずなのに――ダージリンが見ていたクルセイダー巡航戦車は、それに含まれなかった。
「そう言えば前から思っていたのですが……これって、なんで記念館に置いたままなのですか? MarkⅢですから試合で使えるんじゃ?」
かく言うオレンジペコも、この記念館には何度も足を運んだことがあった。
初めてこの学校に入学して、戦車道チームに所属してまず最初に来たのがこの記念館だった。
この学校の戦車道の歴史。それは見ているだけで心が躍るような、そんな錯覚を覚えたのを今でもオレンジペコは覚えていた。
そんななか、オレンジペコはずっと思っていたことがあった。
古い戦車が並んでいるはずなのに――一両だけ、他の戦車と比べると真新しい戦車があった。
それがこの巡航戦車クルセイダーMarkⅢ。聖グロリアーナ女学院が保有する戦車の一両だった。
チャーチル歩兵戦車、マチルダ歩兵戦車。そしてクルセイダー巡航戦車が聖グロリアーナ女学院が保有する主戦力とも言える戦車達。
他にクロムウェル巡航戦車があるが、それは先代隊長が使っていた戦車で今は記念館に鎮座されていた。
そんな主戦力とも言える戦車であるクルセイダー巡航戦車が一両だけ、記念館にあることにオレンジペコは以前から不思議だった。
何故、戦力として使えるはずの戦車を一両だけ記念館に置いているのか?
そんなオレンジペコの疑問を、ダージリンは少しだけ間を置くと――ゆっくりと答えた。
「……これはね。和麻さんがカスタムした特注のクルセイダーなのよ」
その答えに、オレンジペコが目を大きくした。
その名を、オレンジペコは以前にダージリンの口から聞いたことがあった。
百式和麻。去年、聖グロリアーナ女学院に在籍していたと言われる男の名だった。
以前にダージリンから聞いて以来、一度も聞かなかった名を彼女が口にする。それにオレンジペコは思わず聞き返していた。
「百式さんが……?」
「ええ……この戦車はクラッチから始まり、ギアとエンジン、サスペンションを全て高校戦車道のレギュレーション内に収めて、なおかつ和麻さんが自分と聖グロのメンバーで操縦するためだけにフルチューンした特別なクルセイダーよ」
そのダージリンの話に、オレンジペコが顔を歪めた。
ダージリンの話でした聞いたことがないが、百式和麻は操縦手として類稀なる才能を持つと聞いている。
「……これ、操縦出来るのですか?」
それ故に、オレンジペコは思わず訊いていた。
そんな人物がフルチューンした戦車。それは一体どれほどのモノなのか、オレンジペコには想像も出来なかったからだ。
「もちろん動くわよ。でも、今のグロリアーナのメンバーではこれを操縦出来る人はいないわ。見た目は同じだけど普通のクルセイダーとは中身が別物で、和麻さんが言うには相当ピーキーな仕様になってるの。グロリアーナでこれを操縦出来るのは――アッサムだけよ」
聖グロリアーナ女学院で操縦出来る人がいない。それだけで目の前にあるクルセイダー巡航戦車が異質だとすぐに理解出来た。
そしてダージリンが最後に言った一言に、オレンジペコは意表を突かれた。
「え、アッサム様って操縦手出来るんですか?」
意外な名前が出たことに、オレンジペコは驚いた。
三年生であるダージリンと同学年のアッサムは、共にチャーチル歩兵戦車に乗るオレンジペコが知る限り砲撃手だった。なのに目の前にある特製フルチューンのクルセイダー巡航戦車を操縦出来る唯一の一人と言われたことが信じられなかった。
驚くオレンジペコに、ダージリンがくすくすと小さく笑う。そして笑い終えると、彼女はクルセイダー巡航戦車を見つめながら答えた。
「知らない子も多いけど。元々、アッサムは操縦手よ。今は砲撃手に転向してるけど」
「……操縦は、上手だったのですか?」
オレンジペコが質問する。
ダージリンはそれを聞くと、誇らしげに答えた。
「私が知る限り……最高の操縦手だったわ」
ダージリンが「と言っても、和麻さんの次にだけど」と続ける。
そして楽しげな表情から少しだけ表情に影が生まれると、ダージリンは寂しそうに語った。
「前にペコに話した去年の一件以降、アッサムは操縦手として戦車に乗ることを辞めたのよ。多分、あの子が操縦手として座るときは……」
そこでダージリンは言葉を止めた。ぼんやりとクルセイダー巡航戦車を見る彼女の目は、どこか悲しげであった。
オレンジペコはダージリンの止めた言葉の先を、なんとなくだが理解出来た。
――アッサムという少女が操縦手として戦車に乗る時、それは百式和麻が戦車に乗る時だと
戦車道の道から離れた百式和麻と同じく、アッサムも今まで携わっていた操縦手の道を捨てた。
それは紛れもなく百式和麻という人間を思っての行動だろう。故に、アッサムは百式和麻と同じ得意とする操縦手の道を捨てたに違いない。
それを理解したからこそ、オレンジペコはその先をダージリンに求めない。それを主人に言わせるほど、オレンジペコは不出来ではなかった。
「和麻さんの操縦は、ハッキリ言って異質よ。まるで砲弾が戦車を避けているような錯覚さえ覚える動きをするの。相手の砲撃の間隔時間を一度見ただけで把握して、最小限の操作で避けるのを初めて見たときは――畏怖を覚えたわ」
そして止めた言葉からダージリンが話を続けたことに、オレンジペコは疑問を抱かなかった。
おそらくは、その先は踏み込んではいけない場所だと僅かならに察していた。
「そんなに恐ろしいと感じたのですか?」
「ええ、味方であることが本当に心強く。そして敵ならばあれほど恐ろしいお方はそうそういないわ」
実際に会ったことも、そして百式和麻が戦車に乗る姿を一度も見たことがないオレンジペコには、ダージリンの話が浮世離れしているような感覚だった。
それ故に、会ってみたい。そんな気持ちがオレンジペコの胸に募るのを、彼女は無意識に感じていた。
「このクルセイダーを試しに何人かに操縦させてみたけど、みんな言っていたわ。これを作った人は感覚が違うって」
「感覚、ですか?」
漠然とした話し方をするダージリンに、オレンジペコは疑問符を浮かべる。
そんなオレンジペコに対し、ダージリンは先を話すことで答えた。
「アクセルとブレーキの反応を限界まで上げてるの。繊細な操作が出来るようにって、ちょっと踏んだだけで普通以上に動くみたいだから。旋回運動もかなり普通のクルセイダーと全然違うらしいわ」
聞けば聞くほど、今オレンジペコの目の前にあるクルセイダー巡行戦車がどれほど異端か理解出来た。
普通では操縦出来ないピーキーな性能。それが出す答えは簡単だった。
「これは中学時代の和麻さんが乗っていたクルセイダーの上位互換らしいから。このクルセイダーを見れば、和麻さんの異質さはよく分かるわ」
高校戦車道と中学戦車道のレギュレーションは違う。だから高校戦車道用にチューンナップされたのだろう。
もう表舞台に上がることのないクルセイダー戦車。それがこの場にあるのは――
「どうして、元に戻さないのですか?」
もう百式和麻は、聖グロリアーナ女学院にはいない。
ならばこのフルチューンのクルセイダー巡行戦車に、役目は訪れない。
なのに未だに元ある形に戻されず、記念館に鎮座されているのは、宝の持ち腐れである。
一両の戦車。それは戦力の低下にもなり得る。それなのに去年から置かれているのは、正直なところ奇妙でもあった。
「きっと……諦めきれないのよ」
オレンジペコの問いに、ダージリンが答えた。
目を伏せて、ダージリンが腹元で手を組む。
何かを願うように、そんな印象をオレンジペコは感じた。
「我がグロリアーナの戦車道チーム、その二年と三年は罪を背負っている。その事実を隠すことしか出来ず、その罪を償うことも出来なくても。でも、私達は待っているの……心の何処かで」
泣きそうな表情で、ダージリンは告げた。
一年生であるオレンジペコの代が知らない。二年生から三年生が背負う罪というものを。
そして彼女達が待つことを、オレンジペコは問うてしまった。
「何を待っているのですか?」
問い掛けるオレンジペコの言葉に、ダージリンは彼女を一瞥すると、たどたどしく答えた。
「我が校に……和麻さんが、戻ってきてくれることを」
それは願いと言える言葉にオレンジペコには聞こえた。
ダージリンが心から願う言葉。そして彼女が想う叶わぬ願いを。
行方知れずの百式和麻が聖グロリアーナ女学院に戻ってくることは、今のところはあり得ない。
それなのにそれを願うことは、あまりにも無礼だ。
聖グロリアーナが犯した罪であるのに、なのに身勝手な願いを求めている。
しかし自分勝手だと、そう思われてもダージリン達は思わずにはいられないのだろう。
手放したくなかった。なのに手放してしまった。
自分達の意思に反して、そうなってしまったことを悔やみ。そして後悔をしている。
それがダージリン達の心を蝕んでいるのだと、オレンジペコは理解した。
「さて、話し過ぎたわね。そろそろ紅茶の園に行きましょう。みんな、待ってるわ」
一頻り話し終えたダージリンが腕時計を見ながら踵を返し、オレンジペコの横を通り過ぎる。
そんなダージリンに、オレンジペコは振り向くと背を向ける彼女に思わず訊いていた。
「あの! ダージリン様、どうして急に記念館に来たのですか?」
ダージリンが足を止める。そして彼女は、振り向くことなく答えた。
「夢を見たのよ……和麻さんの」
表情が見えないダージリンに、オレンジペコは不意を突かれた。
そしてダージリンの背中が、聖グロリアーナを率いる大きな背中が、いつもより小さくなっているような気がした。
「夢……ですか?」
「えぇ、本当に懐かしい夢を見たわ」
オレンジペコの言葉に、ダージリンが頷く。
声色が楽しそうなのに、どうしてそんなにも寂しそうな背中を見せるのか?
オレンジペコがダージリンを心配する。思い詰める彼女を思って。
そうしてダージリンは、歩き出した。オレンジペコが慌てて後を追う。
そしてオレンジペコが追いかけるなか、ダージリンが歩きながら呟くのを彼女は耳にした。
本当にポツリと、ただ誰にも告げる意図もない。小さな呟きを、オレンジペコは聞いた。
「近いうち――和麻さんに会えそうな、そんな気がするのよ」
その言葉が本当になるかは、オレンジペコには知る由もなかった。
ダージリンはどんな夢を見たんでしょうね?
そしてダージリンが感じる予感、それは本当になるのか?
この作品では、中学戦車道と高校戦車道のレギュレーションは違うものとしています。
そしてアッサム、彼女は特別な設定を設けています。
アニメでは一貫して彼女は砲撃手でした。しかし今作では操縦手としての一面を持っています。
データを用いて戦うアッサムですが、今作ではどんな活躍があるのか?
楽しみにして頂ければ幸いです。
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