GIRLS und PANZER〜少年は戦車道になにを望むか〜   作:紅葉久

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戦車の戦闘って難しいですね……
書いてて四苦八苦しました……


3.少女の乗る理由、少年の笑顔

 

「私はお前がムカつく。だから操縦は私がする」

 

 

 操縦手席で本を広げながら、髪の長い少女は和麻にそう言い放った。

 

 

「お前に操縦が“出来る”って言うのか?」

 

 

 顔を顰める和麻が少女に言い返す。

 その和麻の言葉に、少女は顎で目の前に広げた本を指した。

 

 

「今覚えた。だから問題ない」

 

 

 少女が広げていたのは、Ⅳ号戦車にあったマニュアル本だった。

 和麻が見る限り、目の前で操縦手をしている少女は確実に先程まで寝ていた。

 ならばこの少女は、起きてから僅かたった数分で戦車の操縦方法をマニュアルを見ただけで出来ると言い放ったのだ。

 

 

「流石は麻子……学年主席なだけある」

 

 

 沙織が感嘆の声を漏らす。少女の名前を知っているということは、この女は沙織と同じ二年生と和麻は推察した。

 そしてこの少女を学年主席と沙織は言った。目の前の女は二年生の中で最も優秀な生徒ということだろう。

 だがそんな優秀という言葉では、和麻は納得しなかった。

 

 

「ただマニュアルを見ただけで操縦が出来ると思うな。お前、操縦手を舐めんなよ」

 

 

 麻子という少女の発言に、和麻は内心で激怒していた。

 そんなに簡単な世界ではない。ただアクセルを踏み、ギアを変え、戦車を操縦する。文字だけで見れば簡単だろうが、操縦手に求められるのはそれ以上なのだ。

 車長の指示通りに的確に動かす技術。操縦手自身の咄嗟の判断、そして走っている現在地と戦場での状況を理解して最適な操縦をすることを常に求められる。

 それが出来て、初めて操縦手は自分の口から戦車を操縦出来ると言えるのだ。

 和麻は自身がその段階に進み、そしてそれを母親に認められたのは……戦車を操縦して五年以上の歳月を掛けた中学三年の頃だ。

 それを身に染みて理解しているからこそ、簡単に出来ると言い張る麻子に和麻は苛立ちを感じていた。

 

 

「こんなのマニュアル見ただけで十分だ。お前が操縦するくらいなら私がした方がマシだ」

 

 

 しかし麻子は依然として態度を変えなかった。

 橋の上で傾いていた車体を麻子が修正し、彼女は和麻を一瞥する。

 興味が無さそうに、そしてつまらなそうに和麻を見る麻子の瞳に、和麻は頭の血流が激しくなる錯覚を覚える。

 

 

 

「はっ……! 一体何があったんです⁉︎」

 

 

 

 しかしそんな最中、戦車が動く振動で今まで意識を失っていた華が驚くように目を覚ましていた。

 キョロキョロと周りを見回す華に、みほが気付くと彼女に心配する声を掛けた。

 

 

「五十鈴さん、大丈夫?」

「あっ……はい! すいません!」

「良いから休んでて」

「いえ! 大丈夫です!」

 

 

 通信手席で頷く華に、みほが呆れたように苦笑いする。

 和麻と麻子との良いとは言えない雰囲気の中で起きた華に、みほは思わず引き攣った笑みを浮かべた。

 沙織とボブヘアーの少女がその状況で困惑する中、和麻はそんなことを一切気にすることなく、視線の先にいる麻子に冷たい目を送った。

 

 

「……お前が俺に喧嘩を売ってるのは十分にわかった。そこまで言うならやってみろ。そこまで言ってお前が下手な操縦したら……分かってるだろうな?」

 

 

 静かに和麻が告げる。内心の怒りを抑えながら、その目を鋭くさせて麻子に向ける。

 対して、麻子は知らぬ顔と言いたげに飄々としていた。

 

 

「ふん、嫌々操縦するやつよりマシだ。お前はそこで黙って座ってろ」

「ならお手並み拝見と行こうか、寝坊助女」

「精々お前はそこでウジウジしてろ、逃げ腰野郎」

 

 

 互いに声を荒げず静かに告げた。

 しかし、二人のその目は鋭く。互いに睨み合うと、麻子はすぐに行動した。

 まずは車体の制御を行った。次は敵車両との戦闘だった。

 

 

「あの……私が気絶にしてる間に何かあったんですか?」

「五十鈴さん。とりあえずは……今は気にしないで良いよ」

 

 

 みほが不思議そうにする華にそう告げる。

 操縦手席に座る麻子とその後ろに座る和麻を交互に見つめながら、華は小首を傾げて「えっと……わかりました」と答えた。

 みほと沙織から見れば、よくこんな状況でそんな言葉が華から出てきたとしか思えなかった。

 麻子と和麻が言い争っていることで察することをしなかったのだろう。そんな華に、みほと沙織は改めて悪い意味で感心していた。

 

 

「車長。指示」

「車長、指示をこいつに出してやれ。こいつがどこまでやれるか見ものだ」

 

 

 しかしそんな華を、二人は一貫して無視していた。

 麻子が気だるく言い放つ。そして和麻も操縦手席の近くで雑に座りながら、そう言い放った。

 二人の険悪な雰囲気と言葉に、沙織があわあわと慌てる――しかしそれを理解して、指示を出した少女が居た。

 

 

「秋山さん! 砲塔回して! 冷泉さん、徐行してください!」

 

 

 みほが砲撃手に座る少女に声をあげた。

 その指示に冷泉こと――麻子が頷き、秋山という女は「はい!」と返事をすると、すぐに行動した。

 Ⅳ号戦車に対して、後方に位置する八九式中戦車甲型とⅢ号突撃砲F型へ砲塔を回す。

 ゆっくりとⅣ号戦車の砲身が回り出す。しかし、それを黙って見ている相手ではなかった。

 

 

――二両からの砲撃がⅣ号戦車へ放たれる

 

 

 Ⅲ号突撃砲F型――III突が放つ砲撃がⅣ号戦車の横を通り抜ける。しかし八九式中戦車甲型――八九式の砲撃がⅣ号戦車の側面装甲に衝突するが、運良く砲弾が装甲によって弾かれた。

 

 だが砲撃の装甲衝突による衝撃。それはⅣ号戦車内に振動を与えた。

 

 

「危ない危ない!」

 

 

 揺れる戦車内で慌てる沙織に、それに反してみほは冷静に状況を把握する。

 装填手席のハッチからみほが身体を乗り出し、敵車両の位置を確認。そしてⅣ号戦車の砲塔が八九式へ向けられた瞬間、彼女は秋山に指示を出した。

 

 

「次の砲撃まで時間はあります! ゆっくりと照準を合わせて、合図と一緒に発射してください!」

「はいっ!」

「八九式の装甲ならこの距離で抜けます! 慌てず、ゆっくりと!」

 

 

 秋山が砲撃手席からみほの指示通りに動く。照準を敵車両へ定め、彼女がみほの合図を待つ。

 そして橋の上で揺れていた車体の揺れが(しず)まるのと同じタイミングで、みほは告げた。

 

 

「――撃てッ!」

 

 

 瞬間、空気が震えた。Ⅳ号戦車の砲塔から、轟音が響いた。

 砲撃音と共に、Ⅳ号戦車D型の短砲身24口径7.5cm砲から放たれた砲弾が八九式へと飛翔した。

 安定した車体。そして風もないこの状態で、砲弾を邪魔するモノなどない。

 

 そして数秒後――Ⅳ号戦車から放たれた砲弾は八九式への装甲を貫いた。

 

 小さな爆発。それと同時に八九式の車両から白い旗が飛び出した。

 戦車道において、戦車から白い旗が出る意味はただひとつ。それは車両撃破の合図だった。

 

 

「まずは一両か」

 

 

 八九式から上がるフラッグを見て、和麻は静かに呟いた。

 残るはIII突。和麻から見れば、ここからが正念場だった。

 

 

「うわ……すご……!」

「じんじんします……!」

 

 

 Ⅳ号戦車から放たれた砲撃の余韻。それに沙織と秋山が声を震わせていた。

 そして敵車両を撃破したことによる高揚感が、二人の感情を更に高めていた。

 目を大きくして、秋山と沙織が感動するなか――一人だけベクトルが違う感動を覚える少女が居た。

 

 

 

「なんだか……気持ち良い……!」

 

 

 

 通信手席に座る華だけが、砲撃の余韻に“快感”を感じていた。

 それを聞いた和麻が内心で思う。

 

――この女、絶対に砲撃手向きの性格だと

 

 砲弾を撃つことに快感を覚える人間。それは間違いなく優秀な大多数の砲撃手が持つ感覚のひとつだ。

 この感覚があるからと言って、才能があるとは限らない。だがそんな快感を感じた時点で、この女は今後砲撃手をするだろうと和麻は確信する。

 一度得た快感を、人間はまた求める。それ故に、きっとこの女は自分から言い出すに違いないと。

 

 

「まずは一両撃破です! 次の準備を!」

 

 

 空になった砲塔にみほが次の砲弾を詰めるなか、初めて車両を撃破したことにメンバー全員がそれぞれ違った感動を感じていた。

 

 

「さぁ、寝坊助女。ここからがお前の仕事だ」

 

 

 胡座で座りながら、和麻が麻子に静かに告げた。

 麻子が横目で和麻を一瞥する。そして小さな舌打ちを鳴らした。

 

 

「お前は黙ってろ、弱腰野郎。西住さん、私に気にせず“普通”に指示を出してくれ。言う通りに動く」

 

 

 そして麻子がみほに指示を仰ぐ。

 みほ自身も和麻と麻子の険悪な雰囲気を感じていたが、彼女はそれを理解して、和麻と麻子の言葉に頷いた。

 和麻と麻子が操縦が出来るか出来ないかで揉めているなら、自分はその二人が求める指示を出さなければならないと。

 

 

「わかりました。では、全速でバックしてください。III突の砲撃に注意しなくてはならないので、私の合図があったら急停車と前進をしてください」

「了解した」

 

 

 みほの指示により、麻子が操縦手を開始する。

 橋の上だったⅣ号戦車をまずはIII突がいる整地へ。橋の上にいる状況ではどちらにせよ、狙い撃ちをされてしまう。

 

 

「III突の砲塔は回らない。なら常に敵車両の射線外にいることを心掛けろ」

 

 

 和麻が麻子に助言する。

 流石の和麻も操縦において“ど”が付く素人である麻子に、助言のひとつかふたつはくれてやろうと思っていた。

 

 敵車両の知識。それは紛れもなく操縦手に関わる必須事項だったからだ。それを知らないから操縦が上手く出来ないなどと仮に言われるのも、和麻には不愉快極まりないからこその考えでもあった。

 

 III突の持つ砲塔は、長砲身の75mmStuK40L/43。構造上、この車両は砲塔が回らない。

 ならば結論、III突の正面に居なければその砲撃がⅣ号戦車に当たることはまずない。

 

 

「うるさい、お前は黙っていろ」

 

 

 しかし和麻の助言を麻子は一蹴した。

 そんな麻子に、和麻は舌打ちを鳴らしながら冷たい視線で彼女に告げた。

 

 

「素人が調子に乗るな。良いから聞け、目の前にいるIII突の砲撃間隔時間は約十七秒だ。向こうもお前と同じど素人だから装填がかなり遅い。次の砲撃音から頭の中でカウントしろ」

 

 

 そして和麻は麻子へ操縦手としての情報を与える。

 麻子が「聞くかボケ」と口を返し、和麻は「黙って聞け馬鹿たれ」と言い返す。

 そんな二人のやりとりに、ようやく慣れてきた沙織は二人の言い争いをあまり気にすることなく疑問をみほに訊いていた。

 

 

「え、百式君。もしかしてずっと数えてたの?」

 

 

 沙織の疑問とは、和麻が告げた敵車両の砲撃間隔時間についてだった。

 先程、和麻が乗車してからIII突からⅣ号戦車に放たれた砲撃は三発。

 たったそれだけの砲撃回数で、和麻はIII突から放たれる砲撃間隔時間を覚えたと言っても過言ではないことを言ったのだ。

 

 

「うん、多分ね。かずくんの得意分野だよ。普通は車長が把握するんだけど、かずくんは車長と操縦手どっちも出来るから並列して秒数を覚えてるみたい」

 

 

 本来、和麻の行った行動――敵車両の砲撃間隔時間の把握は通常、車長が行う。

 それを元に、車長は操縦手及び砲撃手へ指示を出す。敵砲撃の回避、そして反撃。時間短縮も考慮し、車長は冷静な判断を要求される場面がある。

 

 

「それが普通なの?」

「全然、普通は戦場の中で戦車を操縦しながら頭の中で別のこと考えるなんて出来ないよ」

 

 

 沙織の質問に、みほが苦笑いで答えた。

 そうである。操縦手は車長の指示で動くのみなので、本来しなくていい思考だった。

 

 

「だけど、かずくんは無意識で数えられるみたいなの。初めの砲撃音から次の砲撃音までの時間を自然に数えられるって」

「え、でもさっきみたいに二両から砲撃の音が鳴った時はどうするの?」

「違う車両なら……音が違うから分かるんだって」

 

 

 みほの返事に、沙織が言葉を失った。

 自分には先程の二両の砲撃音の違いなど、聞き分けられない。それがどれだけ奇妙で、異質かを沙織は理解した。

 やはり、以前にみほが言った通り……この人は普通じゃない。それを身に染みて理解した瞬間だった。

 

 

「十秒経過。そろそろ来る」

 

 

 和麻が告げる。III突から放たれる砲撃の時間を。

 それを聞いた瞬間、みほはハッチから顔を出すとIII突の砲塔がⅣ号戦車に向いてないか確認した。

 

――III突が動く、回らない砲塔をⅣ号戦車へ向けようと

 

 そしてIII突の砲塔がⅣ号戦車へ向いた瞬間、みほは麻子に叫んだ。

 

 

「――停車ッ!」

 

 

 みほの指示から、麻子が反応する。

 指示が聞こえたと同時に、麻子がブレーキを踏みつける。そして停車する寸前に、クラッチ操作からアクセルを素早く踏んでいた。

 III突から砲撃音が響く。しかし放たれた砲弾の先に既に目標は無く、Ⅳ号戦車は無事橋の上から整地へと移動していた。

 

 

「大口叩くだけある。よく急停止と急発進が出来たな」

 

 

 整地を走るⅣ号戦車を操る麻子に、和麻は少しだけ感心した声色で言った。

 和麻が見た限り、麻子の操縦は確かに初めてにしては上出来だった。

 まだ拙い部分が多いが、今まさに初めて操縦手として座っているのなら……和麻は少しだけ認めざるを得なかった。

 この女……冷泉麻子に、確かに天才と言われる由縁はあると。たった一度のマニュアル読破でここまで操縦出来るのなら、それは本物だろうと。

 

 

「当たり前だ。書いてある通りにやれば良いだけだ」

「素直に受け取れ、寝坊助女」

 

 

 しかし毒舌を止めない麻子に、和麻は苛立つ。この女に感心した自分が恥ずかしいとつい思ってしまった。

 

 

「III突の側面に走ってください! この距離なら装甲が抜けるから大丈夫!」

 

 

 そしてみほが絶えず指示を飛ばす。

 麻子が操作し、Ⅳ号戦車がIII突の側面へと向かう。

 

 

「おい、寝坊助女。今のカウントは何秒だ?」

 

 

 そんななか、和麻が麻子へ質問する。

 

 

「数えてるわけないだろう。馬鹿たれ」

「さっき言ったよな。数えろって」

「なんで私が、お前の指示を聞かなきゃいけないんだ?」

 

 

 みほの指示とは一変して、和麻の助言を麻子は決して聞かない。

 その麻子の言葉に和麻は目を据わらせると、ハッキリと言った。

 

 

「俺がお前より、何倍も操縦が上手いからだ。素人なら助言くらい聞け」

 

 

 和麻も、自分自身で驚く発言だった。

 まさか他人に、自分の方が上手いから指示を聞けなどと言う言葉が出てくるとは夢にも思ってなかった。

 無意識的に、この麻子に自分は期待しているらしい。

 和麻は今の言葉で、それを理解した。

 

 

「嫌だ。聞かない」

「勝てる試合を捨ててもか?」

「そうだ。お前の指示で勝つくらいなら、負けたほうがマシだ」

「……なら、どうしたら聞く?」

 

 

 麻子の頑固さに、和麻は嫌気が刺す。そして思わず出てしまった言葉を今更訂正する気にもならなかった。

 麻子が和麻を一瞥する。そしてそのまま麻子が沙織をチラリと見ると、彼女は和麻へこう言っていた。

 

 

 

「後でちゃんと沙織に謝れ。そうしたらお前の言うことを聞いてやる」

 

 

 

 その言葉に、和麻は目を大きくした。

 そしてこの女が、操縦手として急に乗り出した理由も同時に理解した。

 

 和麻が沙織を責めるような話し方をしたから。たったそれだけの理由で、麻子は操縦手として今座っているのだと。

 

 確かに、和麻も言い過ぎたと思った。

 しかし無理矢理戦車に乗れと言われる和麻として、沙織の言葉を受け入れることなど到底出来なかった。

 結果として、和麻は自分の傷付いた目を見せてまで、沙織を責めてしまった。

 

 それを麻子は許せなかった。ただそれだけなのだと。

 

 

「え、私⁉︎」

 

 

 麻子の口から出て来た自分の名前に、沙織が目を大きくする。

 そんな沙織を横目に見ながら、和麻は少し考えると――彼はゆっくりと頷いた。

 

 

「……わかった。さっきは流石に言い過ぎたと思ってる。試合が終わったら、ちゃんと謝る」

「約束したからな。破ったら許さない」

「んなことで約束破るか馬鹿たれ。それで、俺の話は聞くのか?」

「良いだろう。聞いてやる……あぁ、ちなみに今のカウントは十二秒だ」

「しっかり数えてんじゃねぇか……この寝坊助女が」

 

 

 二人の会話を他所に、みほがハッチから指示を出した。

 

 

「秋山さん! 砲撃準備!」

「了解であります!」

 

 

 秋山にみほが指示を出す。常に砲塔をIII突へ向けて回していた彼女に、その指示は容易だった。

 

 

「次の砲撃を回避して急停車! 私の合図で撃ってください!」

 

 

 絶えずみほから指示が出る。それに麻子と秋山が返事をすると、すぐに行動した。

 旋回してIII突がⅣ号戦車へ砲塔と向ける。しかし動いている戦車に照準を合わせることができず、砲撃はまだない。

 そして走り続けるⅣ号戦車に痺れを切らしたのか、次の瞬間――III突から砲撃が放たれた。

 

 

「止まる必要はない。そのままアクセル踏み切って走れ。絶対に当たらない」

 

 

 砲撃音が鳴る直前、僅かな時間で和麻は麻子へ告げた。

 麻子が思い切りアクセルを踏む。そして止まることのないⅣ号戦車の後方を、III突の砲弾が通り抜けた。

 

 

「止まれ、もうこっちの砲塔は向いてる」

 

 

 空気が震える音がⅣ号戦車の横を通り抜けて、和麻は静かに言った。

 和麻の言葉と共に、麻子がⅣ号戦車を止める。そしてⅣ号戦車がIII突の側面に停止した瞬間――みほの声が響いた。

 

 

 

「――撃てッッ‼︎」

 

 

 

 Ⅳ号戦車から鳴り響く轟音。そして直後に小さな爆発音が響いた。

 和麻がハッチを開けて、III突を見る。そして見えた光景に、彼は口角を上げると――どこか楽しそうに頬を緩めた。

 

 

 

 

「撃破……よくやったよ」

 

 

 III突から飛び出した小さな白い旗を見て、和麻はハッチを閉めながら呟いた。

 

 

「ふぅ……なんとかなりましたね」

 

 

 撃破したIII突を見て、みほが安堵の声を漏らす。

 しかし次の瞬間、Ⅳ号戦車の外から大きな砲撃音が響いた。

 

 

「そう言えば、敵は四両だったな」

 

 

 沙織が慌てふためくⅣ号戦車の中で、和麻が思い出したように呟いた。

 そして和麻がハッチを開けて、音の方へ向くと――彼は視線の先にいる車両の名を告げた。

 

 

「アメリカのM3リーとドイツの38か」

 

 

 橋を跨いで、先にいるのはM3中戦車リーと38t戦車だった。

 あれを倒せば、映えてⅣ号戦車は全車両撃破となる。

 先の二両を確認して、和麻はハッチからⅣ号戦車に乗るメンバーに笑みを見せると――彼は楽しそうに独り言のように言った。

 

 

 

「あの二両倒したら……お前達が一番だな。どうする? なんならお前達が倒すか?」

 

 

 

 楽しそうに話す和麻に、みほ達がキョトンと惚けた。

 それは今まで大洗女子学園で見たことがない。楽しそうな笑顔だった。

 

 みほが笑みを浮かべる。そして沙織が惚けた後、腕を掲げて叫んだ。

 

 

「こうなったらやっちゃおうよ! あの生徒会にギャフンと言わせてやるんだから!」

 

 

 沙織が叫ぶと、和麻以外のみんなが『おーっ‼︎』と声を揃える。

 そんな沙織の言葉に、和麻は良いことを聞いたとほくそ笑んだ。

 

 

「へぇ、あのどっちかに生徒会が乗ってるのか?」

「かずくん……すごい悪い顔してるよ?」

 

 

 和麻の顔を見たみほが、引き攣った笑みを見せる。

 しかし和麻は、そんなことを気にする素振りもなく意地の悪い笑みを見せた。

 

 

「生徒会には散々嫌な思いをさせられたからな。こんな時くらい……仕返ししてもバチは当たらないだろ?」

 

 

 和麻の話に、沙織と五十鈴が頷いた。

 どうやら、Ⅳ号戦車の一部のメンバーは生徒会に不満を持っているらしい。

 みほはそれを理解すると、呆れたようにため息を吐いた。

 そして肩を落としながら、みほは全員に告げた。

 

 

「それでは、残りの二両と交戦します! 各人、戦闘準備!」

 

 

 みほの言葉に、全員が声を揃えて『了解!』と叫ぶ。

 そしてⅣ号戦車は、先にいる二両との交戦のために前進を始めた。




ちょっと無理がある気がしました。しかしガルパン世界なのでご容赦を……
なんだかんだと操縦が上手い麻子に恐怖する作者
ちょっと本編と違う性格な彼女ですが、大目に見てあげてください

今回では、また原作と違う内容となってます。
本来はIII突と八九式は全てⅣ号戦車が橋の上での砲撃で撃破となっています。
しかし今回は麻子がやる気を出した所為で、ちょっと違う展開に。

そしてみんなで生徒会を倒しに掛かる鬼集団。うん、仕方ありませんね()


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