GIRLS und PANZER〜少年は戦車道になにを望むか〜   作:紅葉久

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相変わらず難産でした……
精進します(>人<;)


4.喧嘩する二人、懐かしの知人

 

 

『試合終了! 勝者Aチーム!』

 

 

 

 試合終了の通信が響いた。

 Aチーム――それはⅣ号戦車に乗るみほ達だった。

 III突と八九式を撃破し、そして続けて現れたM3中戦車リーと38t戦車B/C型との戦いで、Ⅳ号戦車に乗るAチームは無事勝利を手にした。

 

 と言っても、その二両の試合内容は大したものではなった。

 

 履帯が泥濘(ぬかるみ)にはまり、無理矢理駆動した所為でエンジントラブルにより撃破扱いになったM3リー。

 そしてⅣ号戦車と対峙した38t戦車は、Ⅳ号戦車へ砲撃を何度か放つが全て掠りもせずに一撃で撃破された。

 

 苦戦を強いられることもなく、難なく全ての車両を撃破したⅣ号戦車もといAチームは試合終了の合図の後、指定された集合地点に移動することとなった。

 

 指定された場所は、以前にⅣ号戦車が放置されていた学内の倉庫前だった。

 試合が終わり、気付けば夕方だった。Ⅳ号戦車が倉庫に着くと、そこには既に和麻とみほ達五人以外の戦車道受講者達が揃っていて、彼女達の到着を待っていた。

 

 

「いやいや、やられちゃったねぇ〜」

 

 

 到着したみほ達がⅣ号戦車から降りると、角谷杏が煤で汚れた顔で参ったと笑っていた。

 砲撃直撃、またはそれに準ずる爆発等の車両撃破で時折車内の乗員が煤などに晒され、身体中が汚れることが多々ある。

 そこで浮上する疑問――何故、砲撃及び爆発があっても戦車内の乗員がほぼ無傷なのかは、それは戦車道の特殊規則により守られているからだった。

 戦車道の特殊規則により、全ての戦車に“ある加工”を義務付けられている。

 特殊な素材を使った強度が非常に高いカーボンで車内をコーティングすること。これが最も守られなくてはならない戦車道の必須特殊規則だった。

 これがあるから、戦車に爆発等が起きても車内にいる乗員を必ず守り、選手が大怪我をしないように配慮されているわけである。

 故に、Ⅳ号戦車を除く撃破された戦車道受講者達は皆見たように身体中に怪我はないが、身体や制服が汚れているのが確認出来た。

 

 

「お前、後でちゃんと約束守れ。分かったか?」

「お前さっきからしつこいぞ。その言葉、今ので何度目か言ってやろうか?」

「うるさい、良いからお前はわかったって言えば良い」

「……いい加減に俺に対するその態度直さないと張っ倒すぞ、この寝坊助女が」

「やれるものならやってみろ、弱腰野郎」

 

 

 みほ達が続けてⅣ号戦車から出て行き、そして最後に和麻と麻子が口論しながら全員の前に姿を現した瞬間――皆が目を大きくしていた。

 

 

「え? なんで百式が戦車から出てきたの?」

 

 

 運動着を着た背丈の小さい少女が和麻を見て指を向ける。

 そして何故、和麻と麻子が口論しているのかとⅣ号戦車メンバー以外が不思議に思っていた。

 

 

「二人とも、そろそろやめなよ。みんな見てるよ? 教官も見てるし」

 

 

 そんな口論している二人に、沙織が呆れたように注意する。

 沙織に注意されて顔を強張らせる二人が嫌々顔を見合わせると、互いに舌打ちを鳴らしてそっぽを向いた。

 口論はやめても、喧嘩はやめないらしい。それに沙織が気づくと、呆れて溜息を思わす吐いていた。

 

 

 

「おお〜! まさか百式ちゃんが乗ってるとはねぇ〜! もしかして戦車道、やる気になった?」

 

 

 

 そんな二人を見た杏が、和麻ににひひと笑みを浮かべる。

 和麻は杏に眉を寄せると、彼は杏に対して首を横に振っていた。

 

 

「別に俺はあんたの思惑通りになる気はない。仕方ないから乗っただけだ」

「連れないねぇー百式ちゃんは、そろそろ素直になっても良いんじゃない?」

「ならあんたのその小馬鹿にした態度をまずはやめることだな」

「あらら、こりゃ参った」

 

 

 和麻の言葉に、杏が苦笑いする。しかし彼女は和麻の言う通りにする気などなく、一貫して態度を変えなかった。

 和麻の杏への態度に、メガネの女が「百式! 会長に向かってその態度はなんだ⁉︎」と声を荒げるが、隣にいた大人しそうな女に抑えられていた。

 

 

 

「さて、みんな揃ったわね! 全員集合!」

 

 

 

 そんな皆が騒ぐなか――一人の女の声が響いた。

 騒々しい中で、よく響く声だった。凛とした、活気ある雰囲気を感じる声色。その声を和麻は以前に聞いたことがあった。

 声の元に、和麻以外のメンバー全員が揃って集まっていく。

 

 

「……あの人は」

 

 

 そんな声の主を和麻が見ると、彼は少しだけ驚いたような表情を見せた。

 自衛官の服に身を包んだショートカットの女性だった。凛とした大人の雰囲気を醸し出しながらも、どこか綺麗な顔立ちから活気ある一面を感じる。

 足から頭まで、まるで一本の筋が通っているような立ち姿は、年齢以上に大人の女性という雰囲気を感じられた。

 

 

「……あら?」

 

 

 全員が集まったのを確認したその女性が、ふと孤立した和麻の方を向く。

 そしてその瞬間――先程まで笑顔だった彼女の顔が和麻の顔を見た途端、驚愕と言わんばかりに驚いた表情を作っていた。

 

 

「あなた……もしかして和麻君⁉︎」

 

 

 軍服を着た女が和麻を見ると、目を大きくして彼の名を告げた。

 彼女がすぐに和麻の元に歩き出す。そして近づいた和麻の間近で顔を確認すると、納得したように彼女は息を飲んだ。

 

 

「……まさか、こんなところで会えるとは思わなかったわ」

 

 

 和麻の両肩をガシッと掴み、軍服の女が微笑む。

 そんな彼女に和麻が苦笑すると、深々と頭を下げていた。

 

 

「大変、お久しぶりです。蝶野さん」

「本当に久しぶりね。和麻君……戦車道、ちゃんと続けてくれてたのね」

「いえ……今回は仕方なくⅣ号に乗っただけで、戦車には“あの時”から乗ってませんでした」

 

 

 亜美の嬉しそうな声色に、和麻が申し訳なさそうに返す。

 和麻が大洗で初めて戦車に乗ったのは、先日に倉庫に放置されていたⅣ号戦車の点検で乗った時だ。

 それを含めて、今回で和麻は二回しか戦車に乗っていない。

 

 

「そうだったのね。悪いことを言ったわ」

 

 

 亜美はその言葉に納得すると、小さく頷いた。

 

 

「……すいません」

「良いのよ、気にしないで。ただ私は、和麻君のことを心配してただけよ。それに……こうしてあなたとまた会うことが出来て本当に良かったわ」

「本当に、ご心配をお掛けしました」

 

 

 頭を下げる和麻に、蝶野が彼の肩を「気にしない!」と揺すると無理矢理彼の顔を上げさせた。

 それに和麻が驚きながらも微笑ましい笑みを見せる蝶野に、彼はまた頭を下げていた。

 

 

「いえ、俺は……蝶野さんには迷惑を掛けたと思っています。去年の“あの時”も、蝶野さんには随分と無理を言ったと思ってますから」

 

 

 頭を下げて和麻がそう言うと、蝶野は少しだけ悲しそうな表情を見せた。

 和麻の脳裏に(よぎ)るのは、最後に亜美と会った記憶だった。

 

 白い病室で頑なに頭を下げる自分と、それを納得出来ないような表情で見つめる亜美と母親。

 

 それを思い出すと、和麻にはただひたすらに亜美に申し訳なさを感じていた。

 そんな和麻に、亜美は首を小さく横に振っていた。

 

 

「……あの時の話は後でしましょう。その眼帯のことも……とりあえずは、また和麻君の元気そうな姿が見れて良かったわ」

 

 

 蝶野が自分より背の高い和麻の頭をガシガシと雑に撫でる。

 そして和麻の背中を手で叩くと、蝶野は「ほら、和麻君も来なさい」と促して皆の元へと戻って行った。

 

 

「……変わらないな。あの人は」

 

 

 撫でられた後のくしゃくしゃになった髪を直しながら、和麻が呟く。

 あの人に頭を撫でられたのは、随分と久しぶりだった。

 蝶野亜美――それが彼女の名前だった。和麻が小学生の頃、母親から友人と紹介された自衛官の一人だった。

 和麻にとって、亜美とは去年以来の再会だった。そんな懐かしくも男らしい亜美に、和麻は何も言わずただ彼女の後をついて行った。

 

 

「あの百式君が敬語使ってる……⁉︎」

 

 

 そして和麻が整列した皆の元に行くと、沙織が目を大きくして彼のことを凝視していた。

 

――本当に気分を台無しにしてくれる

 

 不快なことを言い出した沙織に眉を寄せながら、和麻は彼女に深く溜息を吐いた。

 

 

「お前が普段、どんな風に俺を見てるかよく分かったよ」

「え……だって、百式君だよ?」

「どういうことか説明してもらおうか?」

 

 

 真顔で告げる沙織に、和麻が額に血管を浮かび上がらせる。

 確実にこの女から馬鹿にされている。それを理解した和麻は思わず握り締めた右拳を沙織に見せながら、彼女に顔を引き攣らせた。

 

 

「お前は不良だってことだ。なんだお前、やっぱり馬鹿だな」

 

 

 拳を見せる和麻に沙織が後ずさった時、和麻の隣に立っていた麻子があっけらかんと言った。

 和麻が麻子を睨む。しかし麻子はまっすぐ前を向いたまま、彼に見向きもしなかった。

 

 

「やっぱり張っ倒されたいみたいだな。お前」

「事実を言ったまでだ。言い返せるものなら言い返してみろ」

「……ちょっとお前、こっち向け」

 

 

 麻子の態度に、和麻が彼女に促す。

 そんな和麻に麻子が舌打ちをしながら彼の方に向く――すると、彼はおもむろに向かい合った麻子の両頬をいきなり掴み、“割と”強い力で左右に両頬を引っ張った。

 

 

「ふがっ!」

「そんな舐めたこと言うのはこの口か? んん? この口が悪いのか?」

「いだい! いだい! ふぁなせーっ!」

 

 

 両頬を引っ張られた麻子がその場で暴れる。しかし和麻はそれを無理矢理押さえつけながら、心の中で十秒数えるまで彼女の頬を引っ張り続けた。

 そして十秒経ち和麻が麻子の頬から手を離すと、麻子は慌てて彼から距離を置いた。

 

 

「――ふぉのっ‼︎」

 

 

 しかし離れる寸前に、和麻の脇腹にすかさず拳を打ち込むのを忘れない辺り……麻子も肝が据わっていた。

 脇腹に激痛。和麻は脇腹を押さえながら、その場で片膝を突いて(うずくま)った。

 

 

「ぬぉぉ……この女……ッ!」

「ふぉまえがふぁきにやったふぁらだ、ふぁんせいしろ」

 

 

 真っ赤になった両頬を摩りながら、麻子が涙目で和麻に言い放つ。

 流石の和麻も、こればかりは頭に血が上った瞬間だった。

 今、目の前にいる少女にジャイアントスイングでもしてやろうかと本気で思った。背丈が小さい分、気持ち良いくらいに回してやれると思いながら。

 

 

「はいはい、二人が仲良しなのは良いから。教官も笑ってるよ?」

 

 

 そんな一触即発の二人に、沙織が呆れるように話す。

 その言葉を聞いた瞬間、二人が揃って沙織を睨むと、

 

 

 

「「こんな奴と仲良しでたまるかッ⁉︎」」

 

 

 

 そう、互いに指を向けながら声を揃えていた。

 しかし声が揃った瞬間、また二人が「真似すんな!」と声を合わせる。

 そしてまた和麻と麻子が睨み合う。全くもって行動と言動が同じだった。

 

 

 

「はいはい! 騒ぐのはそこまで! 全員、チーム毎に整列する!」

 

 

 

 そんな光景に、微笑ましく笑みを浮かべながら大きな音で手を叩いて、亜美は全員に再度指示を出した。

 流石の二人も教官である亜美に反抗する気はないらしく、二人は舌打ちをすると亜美の指示通りに行動した。

 しかし和麻は今回の戦車道のチーム振り分けに参加していない。なので、亜美の全員整列の声と共にその場から立ち去ろうとしたが――

 

 

「ちなみに帰ろうとしてる和麻君は、ちゃんとAチームに並ぶように」

 

 

 と、そっと立ち去る和麻に気付いた亜美から指示されて、彼は嫌々ながらもAチームに並んで整列することになった。

 

 

「良し! みんなちゃんと整列したわね!」

 

 

 そして全員が整列したのを見渡して、亜美は満足そうに頷いた。

 明らかに不服そうな表情をしている人間が二人いたが、細かいことを気にしない性格の亜美の眼中には全くもって入っていなかった。

 

 

「さて! みんなお疲れ様! Good job! Very niceよ! 初めてでこれだけガンガン動かせれば上出来だわ!」

 

 

 試合が終わった全員を労う言葉を亜美が掛ける。

 満足そうな表情で聴く者。不甲斐ないと思いながら聴く者。

 全員が各々の気持ちで、亜美の話を聞いていた。

 そして亜美はその言葉の後、Aチームを見ると誇らしげに満足そうな表情を見せた。

 

 

「それと特にAチーム……良くやったわね。それじゃあみんな、明日からは日々走行訓練と砲撃訓練に励むように! 分からないことがあったら、いつでもメールしてね」

 

 

 亜美の言葉に、メガネの女が「一同! 礼!」と声をあげる。それに亜美が敬礼し、全員が礼をして教官の訓練は終了となった。

 

 

「良し! それではこれにて訓練はおしまい! 何か質問があったら聞くわよ!」

 

 

 訓練終了を告げて、亜美が全員に告げる。

 そうすると一人の生徒が、その場で大きく手を上げていた。

 

 

「うん! 元気良く手を上げて良し! じゃあそこのあなた!」

 

 

 亜美が最初の人へと質問を促す。

 亜美へ質問したのは、運動着を着た背丈の小さい女の子だった。

 

 

「あの……さっき百式と知り合いみたいでしたけど、教官は百式と知り合いなんですか? それと百式ってそんなに有名な名前なんですか?」

 

 

 その質問に、一番先に反応したのは和麻当人だった。

 まさか本人の前で、百式の名について質問するとは夢にも思っていなかった。

 亜美も少しだけ目を大きくするが、その質問に一度頷いてから答えた。

 

 

「えぇ、和麻君とは昔からの仲よ。和麻君のお母さんにはお世話になっていて、和麻君のことは彼が中学生の頃から知っているわ。それと百式家については、有名もなにも西住家と並ぶ戦車道名家のひとつよ」

 

 

 そして亜美が告げた話に、この場に居た全員が驚いた。

 西住流のことは、既に全員が聞いていた。しかし百式という名が、それほどまでに有名な名だとは思ってもいなかったからだった。

 

 

「勝つことがすべて――撃てば必中。守りは固く。進む姿は乱れ無し。鉄の掟、鋼の心。それが西住流の戦車道よ」

「じゃあ百式流にも、そんなのがあるんですか?」

 

 

 亜美の説明に、続けて運動着の少女が質問する。

 それに亜美が答えようとするが、それよりも先に口を開いた人間が居た。

 

 

「己の信じる道に迷いなく――(はし)る姿は狩人。狩人は常に友と共に。駆ける姿は風の如く。疾風迅雷の矢となりて、敵を討つ。これが百式家の戦車道だ」

 

 

 説明したのは、和麻だった。

 腕を組みながら、嫌々ながらも言っていると言いたげな顔で和麻は全員に説明する。

 しかし西住流と百式流の戦車道の言葉をイマイチ理解出来ない顔を見せる生徒達に、亜美は分かりやすく簡潔に説明した。

 

 

「要するに簡単に言えば、西住流は圧倒的火力で敵を殲滅。百式流は圧倒的速度で敵を翻弄ってことよ」

 

 

 実に分かりやすい説明だった。

 その説明に、和麻は異議を唱えない。事実だったからだ。

 周りが納得したように頷くなか――亜美は思い出したように続けた。

 

 

「あと百式流の最大の特徴は、その操縦技術にあるの。数ある日本戦車道流派の中でも、百式流の戦車操縦技術は日本屈指と言われているわ」

 

 

 亜美が和麻を横目に話を続ける。

 その話に全員が興味津々で聞き、そして皆が和麻を見ていた。

 以前に杏が言っていた話にあったことを、全員が思い出す。

 ここに居る百式和麻は、戦車の操縦でその名を戦車道界に知らしめた有名な選手だったということを。

 

 

「でも、男の人が戦車道って変わってるよね〜」

 

 

 しかし、そんな時だった。背丈の小さいメガネを掛けた少女が、そんなことを言い出したのは。

 和麻が眉を寄せる。その言葉を、随分と久しぶりに聞いたと思いながら。

 

 

「そう言えばどうして男の人なのに、百式先輩は戦車道をやってるんですか?」

 

 

 そして続けて、一年生と思わしき生徒の一人が和麻へそんな質問をしていた。

 彼女には、何気ない質問だったに違いない。しかしその一言が、和麻の心を揺さぶっていた。

 何も知らない人からすれば、当然の疑問だった。男であるのに、なぜ女の武芸である戦車道をしているのかと。

 だがその当然の疑問が、和麻にとっては酷く堪えた。

 この疑問が、その僅かな疑問が不快に変わった時――導かれる言葉が分かっていたからだった。

 

 

「…………」

 

 

 思わず、和麻が言い淀む。そして彼が一年生の方を向くと――その目つきに、一年生の生徒が怯えていた。

 鋭く尖った左目。それは先程までの和麻とは打って変わって、まるで触れてはならないことに触れたと言わんばかりの目だった。

 

 

「かずくん、怖い顔してるよ」

 

 

 一年生を無意識に睨んでいた和麻が、みほに声を掛けられた途端――ハッと表情を緩めた。

 完全に無意識だった。みほに言われるまで、和麻は自分のしている表情の変化に気付きもしなかった。

 やはりみほとの一件以来、相当敏感になっているらしい。和麻は改めてそれを理解した。

 前までは、たとえそんなことを言われても反応することもなかったのだ。

 しかし目の前の一年生の言葉を聞いた途端、酷く貶されたような錯覚を覚えた。

 

 

「……悪かった。すまない」

 

 

 和麻が咄嗟にした自分のした行動に頭を雑に掻くと、彼は怯えた一年生へ素直に謝った。

 だが和麻が謝っても怯える一年生に、彼はもう自分は今はこの場にいない方が良いと判断した。

 怯える一年生を横目に、和麻がその場から立ち去る。しかし立ち去る前に、彼が一年生へ一瞥(いちべつ)すると――彼は簡潔に言った。

 

 

「俺が戦車道をやる理由なんて、簡単だ……好きだったからだよ、戦車が」

 

 

 和麻が申し訳なさそうに、そう言った。

 そして和麻が皆から背を向けて、立ち去っていく。

 それを亜美が見届けると、彼女は呆れたように肩を竦めながら全員に手を叩きながら告げた。

 

 

「うん。じゃあ質問もここまで! じゃあみんな、これからも訓練に励むように! 頑張ってね!」

 

 

 そう締めくくり、亜美は歩き去っていく和麻の後を歩いて追いかけて行った。

 

 全員が立ち去っていく和麻と亜美を見つめる。

 

 しかし誰も二人が消えていくまで、動くことはなかった。

 和麻の立ち去る前の表情。それがあまりにも印象的だったからだ。

 

 どこか諦めた顔。そして立ち去る寂しそうな背中。

 その表情と背中が、どこか悲しく見えたから。

 




はい、ということで蝶野亜美さんの登場です。

察しの通り和麻と亜美には、過去に色々とありました。
それを語るのはおそらく次回になるかと思いますが……たぶん

相変わらず和麻と麻子はあんな感じになりました。
武力行使までする二人を沙織が宥める。ここまでテンプレな流れになりつつありますね……


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頂ければ、作者はまだ頑張れます!(>人<;)

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