GIRLS und PANZER〜少年は戦車道になにを望むか〜 作:紅葉久
――大洗学園艦、大洗女子学園
日付は四月に入り、新しい新入生が入学する時期になった。
桜の舞う学園内の校舎を、これからの学園生活が楽しみで笑みを浮かべる者。友人達と楽しげに歩く者など多彩な生徒達が歩いているのが見える。
そんな中――女子しかいない学園内に、一人の少年が芝生で横になっていた。
それは中肉中背の少年だった。少し長めの髪に、凛々しい顔立ちをしている。
変わった点と言えば、少年の右目に大きな眼帯が付けられているというところだろう。顔の右側を覆うような大きな眼帯は少し異様に見え、それだけで少年が少し浮世離れした存在と思えてしまう。
腕を枕代わりにし、少年は潮風を浴びながら心地良い陽だまりの中で静かな寝息を立てる。
そんな少年に、ひとりの女子が近付いた。
足音を大きく鳴らしながら、不満そうに顔を歪めて女子は少年の元へと近づく。
そして女子が少年の横に立つと、彼女は息を大きく吸い込み――大きな声をあげた。
「寝てるんじゃないわよっ! もう登校時間よ! 冷泉さんじゃあるまいし早く起きなさいっ!」
耳元で大きな声が響いた所為か、少年は眠りから強制的に覚まされると――彼は薄く左目を開いた。
「……そど子か、何の用だ?」
芝生に横になったまま、少年が開いた左目を女子――園みどり子に向ける。
そど子。そう少年に呼ばれると、みどり子はムッと目を吊り上げた。
「そど子って呼ばない! 良いから起きて教室に行きなさいよ!」
「うるさい、別に俺が行ったって仕方ないだろう」
「そういうところから風紀が乱れるのよ!」
みどり子の叫びが鬱陶しいと感じた少年が「ったく……」と呟いて、彼女に背を向ける。
しかしみどり子はそれに対して更に表情に怒りを灯すと、背を向けた少年の正面へと移動する。
そしてまた彼女は「起きなさい!」と叫んだ。
「……今朝は整備で早起きだったんだよ。頼むから寝かせてくれ」
「言い訳しない! 学校が遅刻を許しても私は許さないわよ!
みどり子に
「別に調子に乗ってない。まったく……俺なんて居なくても問題ないってのに……」
芝生に座り込み和麻が頭を乱暴に掻くと、寝起きで据わった左目がみどり子を見た。
元々の和麻の風貌と右目の眼帯が相まって、少しだけ凶暴な雰囲気を醸し出す。
それに少しだけビクッと驚くみどり子だったが、彼女は自分を奮い立たせるように頭を振るった。
「そういう問題じゃないの! あなたみたいなだらしない人を見て、周りが真似したら大変じゃない!」
「……お前、俺がこの学校で何て呼ばれてるか知らないのか?」
大きな欠伸を漏らし、和麻がみどり子へわざとらしく戯けて肩をすくめる。
そんなこと知っている。そう言いたげにみどり子は大きく鼻をふんと鳴らした。
「大洗女子学園に“何故か”在籍してる男子生徒。右目の眼帯が奇妙なサボリ魔の変人。それぐらい常識よ」
和麻の学園内での評価をみどり子が告げる。
それに和麻は納得した表情を見せて頷いた。
「わかってるじゃないか、なら俺の真似するヤツなんていないだろ。そういうことで、おやすみ」
ぱたりと芝生に和麻が倒れる。そして腕を枕代わりにして睡眠を取ろうとした。
「だから寝るんじゃないわよ! まったく! ゴモヨ! パゾ美! あんた達も来なさい!」
眠ろうとした和麻に腹を立てるみどり子が振り向く。そしてみどり子の後ろにある木の陰に隠れる二人の女子生徒に、彼女は声を荒げた。
「そど子〜だって怖いよ〜」
「うぅ……殴られたら嫌だもん」
木に隠れて和麻とみどり子を恐る恐る見守る二人が小さく身体を震わせる。
みどり子と同じ姿、同じ髪型をした女子達だった。これで三人が姉妹ではないというのだから、初めて和麻がそれを知った時は随分と驚いた。
少し長めのおかっぱ女子が、後藤モヨ子。少し短いおかっぱ女子が、金春希美と言う。
二人は先陣を切って和麻を注意するみどり子を心配そうな目で見つめていた。
「そんなこと今までされたことないでしょ! したら退学よ! た・い・が・く!」
「んなことするわけないだろうが……」
みどり子に背を向けている和麻が呆れて呟く。何が楽しくて女の子を殴らなくてはならないのか?
もとより和麻にはそんなことをする気もないし、したいとすら思わない。
「……新学期、か」
背後で騒ぐみどり子達をBGMにして、和麻がしみじみと呟いた。
百式和麻が大洗女子学園に来て、三か月ばかりが経った。
半年前に在籍していた学校から転校し、故郷の学校に通うこともなく、和麻は家族の知り合いのいるこの大洗女子学園に特別転入して来た。
本来なら和麻は、学校に行くつもりはなかった。
しかし由緒正しい家系に籍を置いている和麻の家族は、それを許さなかった。
幾度となく繰り返される口論の末、和麻は現在いる大洗女子学園に転入することになったのだった。
と言っても、和麻の本来の目的は大洗学園艦にて整備の勉強をする為なのだが……それの条件として大洗女子学園に籍を置かなくてはならないのだった。
なので和麻自身は学校にほとんど行こうとしない。それを彼の背後で騒ぐみどり子達三人が邪魔をしているわけである。
風紀委員に所属しているみどり子達三人は学内の風紀を取り締まる。
よって風紀の乱れとなる和麻を注意する日々が今日まで長い間続いているのだ。
この学校に来て早三か月。諦めもせずに毎日毎日飽きもせずに和麻のところへ注意しに来る風紀委員三人に、和麻は呆れを通り越して感心してしまうくらいだった。
「……放っておいてくれた方が楽なのにな」
和麻が呟く。脳裏に去年まで所属していた学校のことが蘇る。
和麻にしつこく構ってくる子も居た。お淑やかに注意する子も居た。そして、長い付き合いの金髪少女の顔が彼の脳裏に浮かんだ。
今の風紀委員三人に追い回される日々が、過去の思い出を蘇らせる。和麻にはそれが少しだけ辛いと思った。
一人にしてくれた方が、楽だ。それが和麻の本心だった。
「――なに寝ようとしてるのよ! 良いから起きなさいよっ!」
そして和麻が思考の海に潜り、夢の中に潜ろうとしたところで急に腕を引っ張る感覚が彼を襲った。
和麻が顔を向けると、みどり子が自分の腕を引っ張っていた。
まったく折れる気がないらしい。和麻はそれを理解すると、鬱陶しそうに顔を歪めた。
「服を引っ張るな。わかった、わかったから……行くからその手を離せ」
諦めないみどり子に横になっていた和麻が立ち上がる。
そして自分の腕を掴むみどり子の手を払おうとするが、彼女は頑固として手を離さなかった。
「手……離して欲しいんだが?」
「手を放したらあんた逃げるでしょ! このまま連れてくわよ!」
目を吊り上げて、みどり子が和麻を睨む。
信用されていないらしい。和麻は呆れて肩を落とした。
「そんな子供みたいなことするかよ。ちゃんと行く」
「うるさいわね、良いからこのまま行くわよ。ちゃんと教室に行くまで見届けるに決まってるじゃない!」
まったく信用されていない。和麻は思わず顔を
みどり子の身長は和麻の胸の高さくらいで小さい。そんな子供体型の女の子に連れていかれる構図は、いかがなものだろうか?
みどり子が腕時計を確認する。そして時刻を確認すると、彼女は我が物顔で和麻の腕を引っ張りながら歩き出した。
「ほら行くわよ。もうちょっとでホームルームの時間になるじゃない」
「行くから手を離せって」
「だから離したら逃げるでしょ! 知ってるんだからね、百式さんがホームルームだけは出席しなきゃいけないっていうのは!」
「なんで知ってんだよ……」
みどり子の言葉に、思わず和麻が顔を強張らせた。
百式和麻は授業免除を適用されている。しかしホームルームだけは出席するようにと言われているのだ。
和麻自身、この学校に友人と呼べる人はほとんどいない。いや、ほとんどと言うよりいないと言った方が適切かもしれない。
もとより友達なんてモノを作る気もない和麻だったのだが、生徒会などがしつこく構ってくるのが彼には面倒だと言えた。
「三か月前は許したけど今年からは絶対にホームルームに出席させるわよ」
和麻の腕を引っ張りながらみどり子が誇らしげに告げる。
和麻とみどり子が歩く後ろを恐る恐るモヨ子と希美が追い掛けている。
今だ登校中の生徒達が和麻と風紀委員三人が歩く姿を見て、ひそひそと話をしているのが見える。
そんな少女達を
きっとまた妙な噂が立つのだろうな。和麻はそんな予感を感じながら、みどり子に連れられて自分の教室へと向かっていくのだった。
今回は短めです。
とりあえずは主人公は、この学校にいます。
色々と理由があるのですが、それを詳しく語る日は今後に期待?
大洗女子学園にいるということは、つまり主人公は“あの子”と会います。
多分、次回に出てくる?
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