GIRLS und PANZER〜少年は戦車道になにを望むか〜   作:紅葉久

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5.勝つことに、負けることに、意味がある

 

 

 

 大洗学園艦が茨城県大洗町に帰港するのは、先々月の二月以来だった。

 先々月は学園艦の定期的に行われる資材補給の為に帰港していたが、今回は違う。今回は戦車道の練習試合を行う為の臨時帰港となっていた。

 

 大洗町の飛び地として建造された大洗学園艦。

 全長は七千六百メートル、艦内の居住者は三万人程度。

 全体で約七キロという巨大な船を用いているが、この大きさでさえも他にある学園艦の中では“小さい部類”になるわけなのだが――

 

 さて、ここで大洗学園艦・大洗女子学園の話をしよう。

 

 角谷杏が生徒会長として、つまり長として務める大洗女子学園・大洗学園艦。

 生徒の自主性を重んじる為に、ここ大洗学園艦では生徒会長率いる生徒会が例年学園艦の運営を任されている。

 学園長は勿論存在しているが、生徒会長に関しては学園長と同等の権限を有しているのが特徴的な学園艦である。

 中学校と高校で通学する生徒数は各校約九千人ほど、計一万八千人が艦上にある町に、そして艦内に居住して通学をしている。

 艦内の総住民三万人の中で学生が半数を超えているのが、この学園艦という名を体現している。

 

 それもそのはず、大洗女子学園には八つの学科が存在しているのだから。

 普通科から始まり、商業科や被服科、船舶科など学園艦での生活、そして運用する為の学科が存在している。

 

 そうは言っても、これほどの大きな船を運用しているほとんどが学生というのだから驚きを隠しきれない。

 

 加えてこの学園艦の運営を学生に任せているところも、十分に常識外れと思えるが……この体制で長きに渡る歴史を作っているのだから不思議な話である。

 

 

 

「母港に帰港するのも、久々か」

 

 

 

 大洗学園艦内にある甲板の一角にある公園で、和麻は学園艦から見えてくる大洗町を見ながら、小さく呟いた。

 甲板の手すりに肘を置き、頬杖を突きながら和麻は次第に大きくなる陸上の小さな町を眺める。

 

 別段、和麻には茨城県大洗町に思い入れはない。

 生活必需品などについては学園艦内で事足りる上に、特に故郷でもない土地である大洗町の本土に上陸してまですることもない和麻には、当然のごとく思い入れが出来るわけもなかった。

 

 

 そんな和麻が、今頃は船舶科の生徒達が艦内で大慌てになっているのだろうと内心で苦笑する。

 学園艦が母港への帰港の為に船舶科の生徒達が様々な準備で、それこそ馬車馬のように走り回っている頃だろう。

 

 

 先日の一件から聖グロリアーナ女学院との試合に向けて準備する為に、和麻はバイトを一週間程休んだ。

 その点は学園長からの許可を得ている。もとより学園艦の存続に関わる案件なのだから、学園長も快く承諾していた。

 バイト先の学園艦整備班からも快く休みを取ることを許していた。むしろやるからには勝てと背中を叩き出すほどの勢いだった。

 和麻としては、自身が戦車道を嗜むことに何一つの疑問を持たれなかったことが意外であり、そして応援までされたことに戸惑ってしまったほどだった。

 

 そんな艦内整備士達に後押しされ、船舶科の生徒達とも少なからず面識がある和麻としては、今日の彼女達の忙しさに静かに黙祷を捧げようと思うばかりだった。

 

 本来なら和麻も駆り出される筈だが、勿論今日は休みである。

 きっと次に会う時は小言のひとつやふたつ……いや船舶科の生徒数的に数百は貰うのだろう。

 それを思うと顔が引き攣る和麻だったが、一度あの忙しさを経験している身としては……甘んじて受け入れようと力なく彼は肩を落とた。

 

 

「……かずくん? 元気なさそうだけど、やっぱり聖グロの人達と会うのは緊張する?」

 

 

 溜息を吐く和麻を、隣にいるみほが心配そうに見上げた。

 見当違いなみほの気遣いに和麻は呆気に取られるが、彼は首を横に振って答えた。

 

 

「いや、そんなんじゃない。ちょっと考え事をしててな」

「そうなの……? じゃあ、なにを考えてたの?」

「今頃、大洗の船舶科が大慌てで忙しいんだろうなって」

 

 

 みほが目を点にした。そして彼女は可笑しそうに小さく笑っていた。

 

 

「ふふっ……かずくん、そんなこと考えてたの? 確かに黒森峰に居た時も各地へ寄港する時は船舶科の人達すごく忙しそうだった気がする」

「少し前にバイトで手伝いに行ったことがあったんだ。あれは凄かった」

「そう言えばかずくんって前にバイトしてるって言ってたね。そんなに……忙しいの?」

 

 

 そう問われて、和麻は少し考える素振りを見せる。

 そして良い例が浮かぶと、一人頷いてみほに告げていた。

 

 

「みほも一回経験してみたほうが良いぞ。マウスにCV33で挑むのが楽だと思える」

「……遠慮しておこうかな。船舶科じゃなくて良かった」

 

 

 和麻の話にみほが引き攣った笑みを浮かべた。

 そんなみほを見て、和麻は思わずくつくつと笑った。

 

 

「まぁその話はもういい。上陸したら忙しくなるのは俺達も同じだからな」

 

 

 そしてそう告げると、和麻は真剣な表情を見せた。

 

 

「いよいよだね。試合」

 

 

 みほがポツリと呟く。その言葉に、和麻は小さく頷いた。

 

 

「そうだな。あれから一週間くらいか……早いもんだ」

「……うん。でも多分、みんなは今日が来てくれて良かったと思ってるだろうけど」

 

 

 みほが目を暗くした。どこか虚ろな目で虚空を見つめる表情に、和麻は首を傾げた。

 

 

「そんなにみんなは試合がしたかったのか? やる気があるのは良いことなんだが……ならもっと練習をキツくした方が良かったのか……?」

 

 

 みほの言葉に和麻が考える素振りを見せる。

 しかしみほはすぐに和麻を慌てて制していた。

 

 

「絶対にやめた方が良いよ。多分、アレ以上キツくするとかずくん後ろから刺されるかもしれないよ?」

 

 

 みほが頬を痙攣らせて、和麻に話す。

 そんなみほに和麻は首を傾げた。

 

 

「少なからず、練習試合を全員が望んだ結果だぞ? 聖グロと試合をする為には“アレ”くらいやらないと話にならないだろ?」

 

 

 和麻がみほに肩を落として淡々と答える。

 そしてみほに呆れた表情を見せながら、和麻は溜息を漏らした。

 

 

「それにどれだけ俺が頭抱えてあの練習を組んだと思ってるんだ。朝練と昼から下校時間までの七、八時間程度の時間で一週間もない期間で試合が満足に出来るようにするには突貫作業で、文字通り死ぬ気でやってもらうしかなかった」

 

 

 聖グロリアーナ女学院との練習試合までの期間は、僅か五日程度だった。

 その間に全国強豪校と言われる聖グロリアーナ女学院と“勝つ”試合をすると言うのなら、それこそ鬼畜とまで言われる練習が必要になるのは必然と言える。

 

 と言っても、その一番の荷を背負ったのは車長でも通信手でも装填手でもなく――砲撃手と操縦手なのだが。

 

 

「聞いた話だと……操縦手の人達には授業中まで参考書読ませたって聞いたよ?」

 

 

 みほが白い目で和麻を見つめる。

 和麻には、みほのその言葉に心当たりがあった。

 それは確か、聖グロリアーナと大洗の試合が決まった翌日のことだった。

 

 

『百式君……これ、絶対時間足りないと思うんだけど……?』

 

 

 小山柚子が震えた手で操縦手の参考書を握り締めていた。

 和麻は、操縦手全員に数冊の参考書をあらかじめ渡していた。

 実技だけでは理解できない部分、感覚だけではなく座学の部分で理解しなければいけない面があると和麻が思っての判断である。

 

 しかしながら柚子達操縦手メンバーは、本来の学業と戦車道の実技だけでも現時点で柚子達は使える時間を全て使っていた。それこそ家でも参考書で座学の勉強をしている程だ。

 

 だが和麻が全員に提示する座学のノルマが、明らかに時間が足りないと判断できる目標となっていた。

 

 柚子に続き、他の操縦手メンバー達が首を揃えて縦に振っていた。ただし、麻子だけは例外だった。その分、実技で悲鳴をあげることになるのは必然なのだが。

 和麻はそんな操縦手達の訴えに、あっけらかんと答えた記憶があった。

 

 

『座学の時間がないなら作れば良いじゃないですか? 戦車に乗る時間は限られてます。家でやっても足りないなら、それ以外に戦車に乗れない時間を使えば良いと思いますよ?』

『え……? え、それってまさか……⁉︎』

 

 

 察しがついた柚子が目を大きくする。

 和麻はそんな柚子達に何食わぬ顔で答えた。

 

 

『時間の使い方は、それぞれ。今ある時間を試合まで、戦車道の為に有効に使わないと――俺達は試合には勝てませんよ』

 

 

 確かに強要はしていないが、明らかに時間が足りないと判断して練習が出来ない時間を使えば良いと諭した覚えが和麻にはあった。

 和麻は眉を寄せると、困ったように頭を掻いていた。

 

 

「……仕方ないだろ? 一番手間暇を掛けるのが操縦手なんだ。試合において一番作戦に左右する要因なのは、みほも分かってるだろ?」

 

 

 和麻が同意をみほに求めるが、彼女は半目で渋々頷いた。

 

 

「そうだけど……流石にやりすぎ」

「……悪かったとは思ってるって」

 

 

 それこそ、和麻は鬼と評されるまで練習内容を濃密にした。

 かなり荒療治と言えるほどに、和麻は他校の生徒が見たら絶句する内容を組んでいた。

 和麻も彼女達が嫌いなどという理由で辛い練習をさせているわけではない。

 これも彼女達が決めた選択の結果であるのだから、和麻は彼女達に余計な慈悲を与えるつもりは毛頭なかった。

 

 

「本当かなぁ……?」

 

 

 半目で見つめてくるみほに、和麻は苦笑いしてしまう。

 和麻の内心は、悪かったと思っても止める気はないなのだが……それもみほにはバレているのだろう。

 明らかに先程の言葉を信じていない顔をするみほに、和麻は諦めて答えた。

 

 

「何度も言うが、悪かったとは思ってる。今日の為に本来よりかなり予定を早めただけだ。俺だって心を鬼にしてきたんだって」

「なら良いけど……」

 

 

 みほが半信半疑で和麻を見つめる。

 和麻はみほの反応に困りつつも、話を続けた。

 

 

「まぁ、全員が努力してあれだけの練習を乗り越えたんだ。勝ち負けはともかく、ある程度戦えるようにはなった」

 

 

 和麻が見る限り、荒削りではあるが大洗女子学園の戦車道チームの戦力は当初に比べるとかなり上がっていると判断している。

 勝ち負けを無視すれば、ひとまずは試合がまともに出来ると判断出来るくらいにはなっている。

 

 

「後は、試合でみほ達がどう頑張るかだ。そこからは俺が立ち入る部分じゃない。仮に俺が試合に入ったところで、話は一緒だ」

 

 

 肩を竦めて和麻は気だるく語る。

 みほはそう語る和麻に、口を尖らせた。

 

 

「かずくんが居れば、勝てるかもしれないのに……」

 

 

 みほの返事に、和麻は眉を寄せた。

 その表情は、僅かに怒りの色が見えた。

 

 

「みほからそんな話が出てくるとは……お前、分かってて言ってるだろ?」

「だってぇ……」

 

 

 みほが口を膨らませる。

 みほの言いたいことが分かる和麻は、とりあえずは隣にいるみほの額を中指で軽く突いた。

 

 

「あぅ……」

「俺が居ても居なくても、結果は変わらない。戦車道は一人でやる武芸じゃないんだ。みんなで勝つ、それだけだ」

 

 

 和麻の話に、みほは自分の額を撫でながら頷く。

 仮に和麻が試合に入ることで戦力面が強化されたとしても、チーム戦である以上は全員で勝たなければならない。

 和麻はそのことを重視している。一人で勝つ試合などないと、その考え故の発言だった。

 

 

「俺が試合に居れば勝てる。俺が試合中サポートすれば勝てる。そんな自惚れをする気なんて更々ないし、するつもりもない。チームで戦う競技なんだから、それに……今だけは勝ちに拘る必要もない」

「えっ……?」

 

 

 みほが目を大きくした。和麻の言葉に、思わず驚いていた。

 

 

「あれだけ試合で勝つ為に練習してきたのに、勝ちにかずくんがこだわってると思ってた」

「たったあれだけの練習で、歴戦の強豪校に勝てると本当に思ってるのか?」

 

 

 本末転倒な言葉だった。今まで和麻は勝ちに拘る故に、大洗戦車道メンバーに辛い練習をさせているとみほは思っていたのだから。

 

 

「みほ、正直に言ってみろ。お前、勝ちにこだわってるか?」

 

 

 唐突の問いに、みほが言葉を詰まらせた。

 しかしみほは目を一度伏せると、正直に答えていた。

 

 

「ううん、私はどっちでも良いと思ってる」

「理由は?」

 

 

 答えたみほに、和麻が重ねて問う。

 みほはすぐに訊いてきた和麻に、妙な威圧感を感じて言い淀む。

 しかし伏せていた顔を上げて和麻の目を見ると、みほはそんな気持ちが吹き飛んだ。

 真剣な表情をしている。だがその表情は穏やかだった。

 いつも練習の時に起こっているような怒った顔ではなく、真剣に自分と向き合ってくれているとわかる優しい表情だった。

 みほはそんな和麻の顔を見て、自分も知らぬうちに質問に答えていた。

 

 

「私はみんなと戦車道がやれたら、それで良いって思ってる。別に今は試合で勝っても負けても、みんなと戦車道が楽しいって思えれば、私はそれでも良いって思ってる」

「良い答えだ。お前は、それで良い」

 

 

 みほが首を傾げた。

 まるで今までとは正反対の和麻の話に、みほは意味が分からなかった。

 勝ち負けにこだわる必要がない。それはつまり練習を必要以上にする必要はないと言ってるようなものと、みほは受け取った。

 

 

「じゃあ、なんであんなに練習キツくしたの?」

「それはそれだ。あれだけの練習をするからこそ試合をする意味があるし、みほの答えにも繋がる」

 

 

 和麻の答え、その意図をみほは理解出来ずにいた。

 眉を寄せるみほに、和麻は「みほには話しても良いか」と呟いた。

 

 

「戦車道をやるからには、楽しくないと意味がない。楽しいって思えないことをやっても、つまらない。試合をするからには勝ちたい。当たり前のことだ。負けたら悔しい、勝ちたかったと思うだろう。

 勝ち負けを含めてみんなで戦車道をやって楽しいと感じられることが大事だと俺は思ってる。じゃないとやってる意味がない。

 だから全員に勝つ為の練習を必要以上にしてきたんだ。勝てば自分達の練習に意味があったと、負ければあれだけ練習したのに勝ちたかったと思うだろう。

 それを全部ひっくるめて、楽しいと思えれば……結果がどうなっても、アイツらは勝手に伸びてくれる」

 

 

 みほの思う戦車道の在り方と似ている考えだった。

 みほは必要以上に勝つことへこだわることを疑問に感じている。

 

 それは西住流とは真逆の考えである。

 

 勝つこそがすべて。そう唄う西住流の在り方、そしてそれを受け入れることが出来なかったみほが自然と考えた違う在り方。

 勝ちと負けにこだわらない、自分の戦車道を見つけることをみほはこの大洗で見つけようとしている。

 今のみほが思う戦車道の在り方を、和麻はほとんど口にしていたのだ。

 

 

「……アイツらには内緒だからな?」

 

 

 そして和麻がそう締め括ると、気恥ずかしそうに頭を掻いていた。

 

 

「後は生徒会がうるさいから全国大会優勝を目指しているだけだ。練習試合を勝手に組まれたことは今でも腹が立つが、やるからには勝つ。勝ち負けどっちでも良いが、勝った方が嬉しいだろ?」

 

 

 和麻は、大洗が戦車道をする本当の理由を知っている。

 全国大会で優勝。それが大洗女子学園の最終目標だ。

 だが今回は練習試合、勝っても負けても現状は問題はない。

 故に和麻は、この試合で勝ち負けどっちでも得られるものがあると判断している。

 と言っても、やるからには勝つ。そう思っている一面があるのは和麻の性分とも言えるのだが。

 

 

「うん! 勝った方が嬉しいもんね!」

 

 

 その話を聞いて、みほは嬉しそうに頷いた。

 やはりしっかりとみんなのことを考えてくれている。そのことが改めて再確認したみほは、思わず笑みを浮かべていた。

 

 

「そういうことだ。だからちゃんと“隊長”は頑張れよ」

「……そのことを思い出させないでよ、かずくん」

 

 

 しかし和麻の口から隊長と聞いた瞬間、みほは肩を落として落ち込んでいた。

 

 

「作戦会議で決まっただろ? お前がチームを引っ張れよ?」

「うう……なんで私、あの話受けちゃったんだろ……」

 

 

 溜息混じりに、みほがボヤく。

 昨日にあった聖グロリアーナ戦に向けての作戦会議で、試合の総指揮はみほになったのだ。

 詳細は割愛するが作戦の内容を話し合った結果、みほが全体の指揮を取ることになった。

 話の流れでそうなってしまった分、その責任がみほには少々重苦しいと感じていた。

 

 

「お前がやってくれるなら、俺も応援してる。だから頑張れ、みほ」

「うん……かずくんがそう言うなら、がんばる」

 

 

 和麻に頭の上に手を乗せられ、みほが口を尖らせながらも頷く。

 やりたくない気持ちが大きいが、和麻の応援に応えようと思う気持ちが半分半分と言ったところだった。

 

 

「…………?」

 

 

 そして頭を撫でられてみほが和麻の顔を見上げると、みほは先程までとは違う和麻の表情があった。

 遠くの海を見つめて、どこか不安そうな表情を浮かべる和麻に、みほは訊いていた。

 

 

「ねぇ、かずくん。本当に、大丈夫?」

 

 

 その意味を和麻はしっかりと理解した。

 つい、聖グロリアーナのことを考えていた。

 読まれたと確信し、思わず顔が歪むが和麻は頷いた。

 

 

「……角谷にあれだけ言われたんだ。心底ムカついてタコ殴りにしたいところだったが“本気の拳骨”を一発で手を打った。みほを泣かせたし、俺に隠して勝手に色々やったことと俺に最大級の喧嘩売った罰だ。安いもんだろ?」

 

 

 先週、杏に色々なことを言われたのだ。和麻に、もう逃げるということはない。

 そしてみほや和麻へ好き勝手にした杏には、勿論和麻は文字通り“制裁”を与えていた。

 

 

「……確か会長、あの後しばらく蹲ってたよ。たんこぶ出来たって嘆いてたって聞いたけど」

「良い気味だ。角谷にはたまに痛い思いをしてもらわないと割に合わない」

 

 

 余談だが、和麻の本気で振り下ろした拳骨は杏を涙目にさせる程の痛みを伴った。

 杏の頭には小さなたんこぶが未だにある。治るまでしばらくは痛みが伴うが、和麻はそれを知ると嬉々として喜ぶだろう。

 

 

「さて、もうそろ着く時間だ」

「え? もうそんな時間?」

 

 

 和麻が腕時計を見ると、予定されている接岸の時間が近づいていた。

 

 

「あっ! かずくん、あれ!」

 

 

 その後、みほが海の先を指差した。

 指の先を和麻が見遣る。その先にあるモノに、和麻は久々に見た“ソレ”を見て、懐かしそうに呟いた。

 

 

「アーク・ロイヤル型、聖グロリアーナ女学院学園艦。随分と久々に見るが……やっぱりデカイな、アレ」

 

 

 海の先に見える小さな船。しかし数十キロも離れているのに見えるということは、それだけ大きい船ということだ。

 もう目の前に聖グロリアーナ女学院が来ているのだと、和麻は改めて実感した。

 

 学園艦専用桟橋への接岸予定時間まであと僅か、試合の時間が着々と近づいていた。

 

 

 

 

 




お久しぶりです。

数々の評価と感想、感謝します。
ひとつひとつ毎回感謝しながら拝見しています。

さて、今回は試合前の日常?ですね。
今回は和麻とみほだけの登場です。
無くてもいい話と思えるかもしれませんが、お許しを。

次回、聖グロメンバー出します。
和麻と会うかどうかは、その時に。

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