GIRLS und PANZER〜少年は戦車道になにを望むか〜   作:紅葉久

36 / 48
8.追う者、追われる者

 

 

 

 戦車道の試合では、互いに決められた試合開始時点から試合が始まる。

 尚、開始地点は両校共に試合開始直前まで知らされることはない。

 それは試合での不正行為などが行われないようにするための規則ということで周知されている。

 試合開始地点を知った状態では地形などを予め理解し、各校で必要以上に戦術の偏りが生まれることか過去にあった為、平等にするために定められている。

 今では、それを見越して試合会場でどの箇所を指定されてもいいようにするのが戦術に特化した学校の基本とも言えるようになってある。

 と言っても、どんな場所から始まったところで“吶喊”で統一する稀有な学校もあるから、その点は各校それぞれという話。

 

 今回の試合、大洗対聖グロリアーナ。この試合は殲滅戦で行われる。

 予め定めた旗車両を撃破された時点で勝敗の決まるフラッグ戦でなはく、自陣の全車両が撃破された時点で勝敗が決まるルールだ。

 

 果たして、試合開始の空砲が鳴り響き、大洗女子学園と聖グロリアーナ女学院の試合開始後の立ち回りは、至って平凡だった。

 

 試合開始後、各校が接敵するまでは遅くて約二十分程度。

 

 試合が始まって十分後。岩山地帯を走る聖グロリアーナ女学院の戦車達を、岩陰から見届ける二名がいた。

 双眼鏡を覗き込み、岩山地帯を右から左へ走る聖グロリアーナをみほは視認した。

 

 

「マチルダ三両、チャーチル一両、クルセイダー一両前進中」

 

 

 みほの覗く双眼鏡の先には、旗車両のチャーチルを中心に両側に各二両並び、三角を描いた魚鱗の陣で走行するのが見えた。

 その陣形に、優花里が感嘆の声を漏らしていた。

 

 

「流石……綺麗な隊列を組んでますね」

「うん。あれだけ速度を合わせて、隊列を乱さないで動けるなんですごい」

 

 

 優花里の言葉に、みほは素直に頷いた。

 こと戦車において、隊列を崩さず、一定の速度で周りと合わせて動くことは並大抵のことではない。

 操縦手は前の限られた視野しかない為、車長の指示を文字通り的確に実行しなければならない。そして速度を一定にして走行し続けるのは、非常に難しい。

 操縦手の僅かなミスでさえ戦車はそのまま動き、隊列を乱す。

 それを十分に理解しているみほは、そのことに素直に感嘆した。

 

 

「それにあのクルセイダー、多分すごく上手い人が乗ってる」

 

 

 特に、マチルダとチャーチルと並んで走る右端のクルセイダーにみほが思わず目を大きくした程だ。

 マチルダとチャーチルの不整地での速度はほぼ同じ。よって隊列を組んで走ることは、ある程度難易度は下がる。

 しかしクルセイダー巡航戦車Mk.Ⅲの最高速度はリミッター付きで四十三キロを叩き出す。不整地では速度がかなり下がるが、それでもマチルダとチャーチルとでは出せる速度が違う。

 それなのにみほが覗く双眼鏡の先で走る隊列で、クルセイダーがそれを苦とも言わぬように並列して走行していた。

 

 

「確か、クルセイダーって……速い戦車でしたよね?」

「うん。だから普通に運転すると簡単に速度を合わせられない。すごく操縦が上手いか、戦車の中を弄らない限り無理だと思うんだけど……」

 

 

 優花里も、みほと同じようにクルセイダーの走行に疑問を持つ。

 みほの話通り、普通なら速度を合わせるのは難易度が高過ぎる。安易に考えるなら、クルセイダー自体に速度を意図的に下げる仕様にしていると思うのが自然だろう。

 しかしクルセイダーにそれを行う自体、あり得ない。速度を強みとする戦車をそのような仕様にする意味がない。それをするくらいなら、クルセイダーではなくマチルダを出せば良い。

 

 ということはつまり――

 

 

「あのクルセイダー、かずくんの言う通り要注意」

「ですね……どう動くか分かりませんし」

「クルセイダーなら陽動か奇襲に使うのがセオリーだと思うけど……どちらにしても、先に倒せたら倒したいな」

 

 

 みほがチャーチルとマチルダより上にクルセイダーを危険視する。

 クルセイダー巡航戦車Mk.Ⅲの運用方法は、戦車道においては速度を活用した運用を自分ならすると、みほは考える。

 逃げるにしても、攻めるにしても、足が速いというのは非常に強みになる。奇襲なら相手が対応する前に攻めれるし、陽動も十分に使える戦車だ。

 しかしそのセオリーを無視して、仮に百式流ならば攻撃に特化した戦車に化ける。

 撃たれる砲弾を潜り抜けて接近してくる足の速い戦車が相手に仮にいるとしたら、考えるだけでみほはゾッとする。

 聖グロリアーナのクルセイダーについて。和麻に知らされたことを思い出して、みほはクルセイダーの撃破の優先順位を上げた。

 

 

「勿論クルセイダーも危険ですが、他の車両はこちらの徹甲弾だと正面方向は抜けません」

 

 

 クルセイダーを危険視するみほに、優花里が他の車両の危険度も諭した。

 事前情報から、マチルダとチャーチルの二種類の戦車装甲を正面から砲弾で撃ち抜くには大洗保有戦車ではほぼ不可能だ。それこそ零距離で撃てば可能性はあるが、それより先に撃ち抜かれる方のリスクが大きい。

 

 

「そこはやっぱり……戦術と腕かな?」

 

 

 不安そうな優花里に、みほが微笑んで答えた。

 みほの笑みに優花里がキョトンと惚けるが、意味を理解すると優花里は嬉しそうに頷いた。

 

 

「はいっ!」

 

 

 優花里の声にみほが頷くと、その場から二人が姿を聖グロリアーナに視認されないように隠れて立ち去る。

 そしてみほと優花里がⅣ号戦車に乗ると、みほは操縦手席で首を船のように揺らして寝ている麻子に声を掛けた。

 

 

「麻子さん、起きて。エンジン音が響かないよう転回してください」

「ん……了解」

 

 

 麻子がⅣ号戦車を駆動させる。そしてみほの指示通りに転回して走行を始めた。

 Ⅳ号戦車の後ろに控えていた他四両が続いて発進する。

 布陣は聖グロリアーナと同様に三角形を描いた魚鱗の陣。

 僅かな乱れはあるが、大方陣形は保たれている。

 

 大洗が、先手を取ろうと動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大洗、何か仕掛けるみたいね」

 

 

 モニター中継を見ている亜美が、面白そうに呟いた。

 同じモニターを見つめる和麻は、モニターから目を離さないまま答えた。

 

 

「えぇ、とりあえずは最初の作戦を使うんでしょう」

 

 

 モニターから映る大洗の車両達を見つめて、和麻がこれから起きることを告げる。

 大洗の隊列は、和麻が見る限り及第点。練習通りに動いている。

 

 

「最初、ね。てことは色々考えてきてるのかしら?」

 

 

 和麻の話に、亜美が興味を持つ。

 しかし和麻は苦笑いしていた。

 

 

「流石に聖グロリアーナとの戦いに、作戦のひとつやふたつは要りますよ。それに、俺が作戦を考えたわけじゃないですから」

「えっ……? 和麻君が決めてないの?」

 

 

 亜美が少し目を大きくした。

 まさか練習などを指導していた和麻が作戦を考えていないとは思ってもいなかったからだ。

 

 

「今回はみほ達に色々考えさせてるんですよ。全国大会なら話は変わりますけどね。

 俺が全部を決めたところで、アイツらは何も進みませんよ。俺が試合に出るわけでもなく、ましてや隊長でもない。総指揮はみほに一任してますし、今回の作戦はみほ主導で車長全員で考えて決めています。俺は不安要素を指摘した程度です」

「そんなことで大丈夫かしら?」

 

 

 亜美が見る限り、みほの実力は確かに高いと判断出来る。

 伊達に黒森峰で過去に副隊長を務めていたわけではないだろう。その点は亜美は納得できる。

 しかし全てをみほに一任したと言う和麻に、亜美は怪訝な表情を作った。

 和麻がモニターから目を逸らし、亜美の顔を見遣る。

 亜美の表情に、和麻はモニターを見つめながら告げた。

 

 

「俺が大洗で全員に仕込んだのは、みほの指示をある程度出来るレベルに引き上げることでした。俺とみほは、根本的に違うんです」

 

 

 和麻が静かに告げる。

 亜美が「何が違うのかしら?」と問い、和麻は言いづらそうにして答えた。

 

 

「俺とみほは戦術の考え方が違うんです。百式流と西住流、その時点で違いますが……みほは全く違うんです」

 

 

 和麻の話し方に、亜美が続きを促す。

 和麻はⅣ号戦車が単独で移動する映像を見ながら、話を続けた。

 

 

「俺と違ってみほには、柔軟な発想がある。本人は分かってないでしょうが……アレは強い。黒森峰や聖グロみたいなセオリーに囚われない柔軟な発想、みほの戦術は相手からすれば厄介ですよ」

 

 

 和麻がはっきり強いと断言したことに、亜美は納得した表情で頷いた。

 百式和麻にここまで言わせる人間、西住流の次女。話を聞く限り、みほの戦い方は本来の西住流とはかなり本質が違うらしい。

 

 

「でも、なんでそんなことまでわかったのかしら?」

 

 

 ふと、疑問に思うことを亜美が訊いていた。

 和麻とみほは、それぞれ違う学校にいた。大洗で一緒になったとしても、校内で団体戦を出来る戦車数はない。

 和麻がそれをどういう経緯で知ったのか、亜美は純粋に疑問を持った。

 

 

「ゲームで」

「……ゲーム?」

 

 

 和麻の返答に、亜美が思わず復唱していた。

 話が見えない亜美に、和麻はそのことに不思議そうに訊いていた。

 

 

「蝶野さんもやったことありません? 戦車道大作戦?」

「それくらいなら、あるわよ」

 

 

 戦車道をモチーフにしたボードゲームだ。

 かなり昔に、よく和麻の母である一姫に対戦させられたことがある。

 しかしその話を持ち出したことに、亜美は納得出来ずにいた。

 

 

「あのゲーム。意外と勉強になること、多いんですよね」

 

 

 和麻が缶コーヒーを飲みながら、しみじみと話す。

 亜美には、いまいち分からない話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 キューポラからみほの双眼鏡が敵機を捕捉する。

 約一キロ程度離れた位置する岩壁の高所から、隠れるようにⅣ号戦車が鎮座していた。

 チャーチルとマチルダ、クルセイダーが進行している陣形に、みほは双眼鏡を覗きながら指示を出す。

 

 

「敵、前方より接近中……砲撃準備」

「装填完了!」

 

 

 みほの指示を受け、優花里が砲弾の装填完了を伝える。

 後は砲撃の合図、車長の発射指示を受けるまでに砲撃手はすぐに準備を開始する。

 砲撃手席で五十鈴華はようやく慣れたとは言えども、少し緊張した手つきで敵機へ照準を合わせ始めた。

 

 

「えっと……チャーチルの幅は……」

『三・二五メートル!』

 

 

 華の呟きに、優花里と沙織が声を揃えた。

 和麻から嫌というほど暗記を強いられた聖グロリアーナの戦車情報。スペック性能は即答できるレベルに二人は暗記していた。

 

 

「四シュトリヒだから……距離は八百十メートル」

 

 

 二人の声が聞こえないくらいに集中しているらしい。華は動くチャーチルに照準を合わせていく。

 緊張している華に、みほは彼女を心配して声を掛けた。

 

 

「華さん、大丈夫?」

「大丈夫です! いつでも撃てます!」

 

 

 即答とばかりに返ってくる華の返答に、みほは安心した表情を浮かべる。

 そしてみほはすぐに表情を真剣に変えると、すぐさま指示を出した。

 

 

「――撃てっ!」

 

 

 炸裂する砲撃音。

 飛翔する砲弾は進行するチャーチルに向けて飛んでいく。

 しかし砲弾は旗車両であるチャーチルの手前数メートルの位置で着弾していた。

 着弾にはならなかった。本来なら叱責される場面だろう。しかし約一キロ離れた位置に移動している標的に、一週間程度しか練習を積んでいない華が放った砲弾が標的に対して僅か数メートルしか誤差がない時点で、十分に評価されるべき点だった。

 

 

「……すいません」

「大丈夫、目的は撃破じゃないから」

 

 

 謝罪する華に、みほは問題ない旨を伝える。

 みほからすれば、華の砲撃は十分に評価できた。むしろ上出来と言える。素人の華があそこまで正確に撃てていることは、間違いなく褒められて当然とみほは言いたかった。

 もとより、今の砲撃における本来の目的は撃破ではない。

 撃破出来れば御の字だが、装甲を抜くことが難しいチャーチルとマチルダには難しい話だ。

 

 

「麻子さん! 大変だと思うけど目標ポイントまで移動お願いします!」

 

 

 華が放った砲撃後、みほはすぐに麻子へ命令を出す。

 麻子が静かに頷くと、即座にⅣ号戦車の操縦を開始した。

 岸壁に身を隠すように後方へ退避。聖グロリアーナ陣営に背を向けて前進を開始した。

 そしてそれを追うように、聖グロリアーナ陣営が動き出す。

 逃げるⅣ号戦車。それを追うチャーチルとマチルダ、そしてクルセイダー。

 

 一対五の鬼ごっこが始まった。

 

 岩山地帯の不整地を縫うようにⅣ号戦車が走り抜ける。

 Ⅳ号戦車を操る麻子は、操縦手席から見える僅かな視界とみほの指示だけで無駄な減速をすることなく左右のハンドルレバーを操作する。

 直線的な走りをすれば、後方から追って来る聖グロリアーナ陣営からの砲撃を受ける。

 

 

「なるべくジグザグに走行してください! こっちの装甲は薄いからまともに食らったら終わりです!」

「……了解」

 

 

 それを麻子は理解した上で、みほの指示通り左右に車体を揺らしながら走行を始める。

 まず左右に動きながら走っていれば、余程のことがない限りは後方からの砲撃を受けることはない。

 それこそこちらの動きを先読みされ、動くであろう地点に撃たれでもしない限り有り得ない。

 麻子もその点は理解している。もとより嫌というほど練習されられた彼女にとって、その手の操縦は造作もなかった。

 

 Ⅳ号戦車が逃げていく先は、左右に岸壁が続く直線の道。

 

 後方に聖グロリアーナ陣営の五両が陣形を乱さずに横並びで並列し、Ⅳ号戦車へ絶え間なく砲撃を放っていた。

 Ⅳ号戦車が回避する為に使用できる横幅は、左右の岸壁に阻まれた道の横幅分。聖グロリアーナ陣営の五両が横並びで丁度良く収まる程度の幅しかない。

 終わることのない砲撃の嵐を後方から受けるⅣ号戦車だったが、それを左右に動きながら回避し続ける。

 ただ左右に大きく動いていると思えば、小さく右に動いて更に右に大きく動いたりなど、左右に動くだけで様々なパターンを変えてⅣ号戦車が動く。

 一向に当たる様子のない光景を見て、チャーチルに乗る車長はカップに入った紅茶を飲んで呟いた。

 

 

「……妙に上手いわね、あのⅣ号戦車」

「随分とトリッキーな動きですね……流石にあんな動きだと狙うのが大変です」

 

 

 ダージリンの呟きに、オレンジペコが先を走るⅣ号戦車を見て感心していた。

 単純に左右に動かれるだけなら、熟練の砲撃手なら狙いを定めるのは難易度は高いが出来る。

 しかし目の前のⅣ号戦車は、右へ二回に分けて動いたり、左に動く予備動作を見せたと思えば右に移動している。

 簡単に左右に大きく動くだけと思えば、そんなトリッキーな動きをされれば狙う方も一苦労だとオレンジペコは装填手としての責務である砲弾の装填を行いながら思った。

 

 

「ねぇ、ペコ。あれが戦車道を始めて一ヶ月経ってない操縦手の運転に見える?」

「……いえ、全然」

 

 

 ダージリンの問いに、オレンジペコは素直に答えた。

 たった一ヶ月も満たない期間で、あそこまで細かい操縦をできる選手はオレンジペコも見たことがない。

 それをオレンジペコがダージリンに伝えると、ダージリンは何か考える素振りを見せた。

 

 

「たまたまというのもあり得るわ。咄嗟に適当に操縦しているだけという可能性とあるけど……」

「……けど?」

「あのⅣ号の車体、揺れが少ないのよ」

「揺れ……ですか?」

 

 

 オレンジペコが小首を傾けた。

 ダージリンは訊き返したオレンジペコに、自分の考えをまとめるように話を始めた。

 

 

「戦車って適当に操縦すると車と同じように簡単なミスで車体が必要以上に動くの。だけどあのⅣ号……全然揺れてない」

 

 

 ダージリンがⅣ号戦車を操る操縦手の実力を推察する。

 適当にハンドルを切っているなら、もっと蛇行的なわかりやすい動きになるはずだ。

 そして雑にハンドルを操作しているのだから、本来必要のない動きや車体の揺れが起きてもおかしくない。

 

 しかし目の前のⅣ号戦車は、それが無かった。

 

 ということはつまり、あのⅣ号戦車は目の前で起きている奇抜な動きを自ら行なっているということだ。

 もしそれが自分の意思で出来ているなら、Ⅳ号戦車を操縦する人間はなかなかの腕を持っている。

 

 まさかダージリン本人も、たった二週間程度しか練習していない人間が操縦しているとは思わないだろう。

 

 それこそ以前から操縦手として戦車に乗っている人間が乗っているのだと思うのが普通の考えだった。

 だがダージリンは、その先の予想をした。

 

 もし大洗女子学園に、百式和麻が居ればと。

 

 百式和麻という人間が居て、彼が先導して操縦手を教育したとすれば――目の前のⅣ号戦車の動きに納得が出来た。

 

 

「あの人……なかなかの捻くれ者ね」

「はい?」

 

 

 オレンジペコが思わずダージリンの呟きに反応した。

 ダージリンは先程会った憎まれ口を叩く背の小さかった女の子を思い出して、苦笑いした。

 そしてダージリンの中で半信半疑だった願いが、少し確信へと近づいた。

 

 

 間違いなく、百式和麻が大洗にいると。

 

 

 それを理解したダージリンが目を鋭くさせる。

 その後、ダージリンが目を閉じて開くと鋭かった瞳は消え失せ、穏やかな瞳で笑みを浮かべた。

 良いだろう。相手が“そういう”気なら、こちらもその壁を破ってやろうと。

 ダージリンは手元にある通信器具を手に取ると、すぐに各車両に指示を出した。

 

 

「全車両、速度を上げて! 追うわよ! クルセイダーは陣形を乱さずについてくること!」

 

 

 聖グロリアーナ陣営の速度が徐々に上がっていく。

 陣形を乱すことなく、五両の戦車達がⅣ号戦車へ向けて砲撃を放ちながら迫る。

 しかしそれを見たⅣ号戦車も、全速で逃げていく。

 

 一向にⅣ号戦車を撃破出来ない聖グロリアーナ陣営が、たった一両の戦車を追っていく。

 

 後方から追う聖グロリアーナ陣営の車両を見て、みほは気を抜かずにポツリと呟いた。

 

 

「まずは最初のポイントに向かえば、第一段階」

 

 

 みほがⅣ号戦車が向かっていく先を見つめる。

 目的地点。そこに向かえば、ひとまずみほ達のⅣ号戦車の役割が終わる。

 麻子が操縦する戦車なら、たどり着くまでに撃破はないだろうとみほは冷静に判断する。

 

 

――これで聖グロ陣営に大きな痛手を与えることが出来れば

 

 

 みほがそう思いながら、麻子に指示を出していく。

 しかしみほの勘が告げていた。

 いや、分かっていたと言えば良いかもしれない。

 今から行う作戦が、聖グロリアーナに対して決定打を与えることが出来ないと。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、仕掛けたわね。大洗」

 

 

 モニターに映る試合の様子を見て、亜美は楽しそうに微笑む。

 亜美が見るモニターには、Ⅳ号戦車と聖グロリアーナの五両が走っている様子が見える。

 そして更にモニターには地図の全体図が映され、試合に参加している全車両の現在地が簡略化した地図に映されていた。

 Ⅳ号戦車が走る道の先に、四つの車両が映される。

 左右が大きな壁で囲まれた直線の道の先に、大きな崖がそびえ立つ。

 その上に、四両の戦車が待ち受けていた。

 それは紛れもなく、Ⅳ号戦車を使った陽動作戦が手に取るように分かる画面だった。

 

 

「最初の一手、この作戦が通るかどうかですね」

 

 

 亜美と同じモニターを見ていた和麻が、ジッと画面で起きている光景を見てしみじみと言った。

 亜美はその言葉に、興味津々と言いたげに楽しそうに和麻へ話し掛けた。

 

 

「和麻君は、成功すると思う?」

 

 

 まずは先手を打った大洗。

 簡単な陽動作戦も用いた大洗側の作戦が、どう動くかと。

 和麻は画面から目を離さずに、缶コーヒーを啜ると淡々と答えていた。

 

 

「全然、全く通じると思ってませんよ」

「あら? 意外と正直に言うのね?」

 

 

 和麻の答えに、亜美は意外そうに目を少し大きくした。

 和麻はそんな亜美に、呆れたような苦笑いをしていた。

 

 

「それで倒せるようなら、聖グロもそこまでの学校です。ですが……そう上手くわけがない」

 

 

 モニターに映る聖グロリアーナ陣営を見て、和麻の目が鋭くなる。

 

 

「伊達に全国強豪校の名前を張ってるんです。こんな作戦で倒されるようなら、全国大会なんて大したことない」

 

 

 和麻が淡々と告げる。

 その言葉に亜美は随分とハッキリと言ったと思った。

 亜美自身も、大洗側の作戦が素直に聖グロリアーナに通じるとは思ってはいない。

 仮に一両でも撃破出来れば、大洗側には大きなアドバンテージが生まれる。

 それを和麻は少しでも願ったりしないのだろうかと。

 しかし和麻の目を見ると、亜美は少しその考えを改めた。

 

 

 和麻の目が鋭くモニターを見つめていた。

 

 

 缶コーヒーを握っている手に力が込められているのが亜美にはわかった。

 大洗に対して余計な甘えを捨てて、冷静に盤面を見ている。

 大洗と聖グロリアーナ。二つの戦力を知る和麻が、試合の行く末を見守っている。

 

 まずはこの作戦で、どう動くか。

 それでこの試合の結末が変わる。

 

 それをなんとなく感じた亜美は、真剣にモニターに向き合う和麻に小さく微笑んだ。

 間違いなく、和麻は少しずつ昔の顔に戻ってきている。

 その顔を見て、亜美は少し懐かしい気分になった。

 今の和麻の顔は、紛れもなく戦車に乗っていた頃の顔だと。

 




読了、お疲れ様です。

更新遅れて申し訳ありません。
なかなか書けなくて手こずってました。

試合の戦車の動きにリアルさがなければ、それはガルパン世界ということでご容赦を。
気づけばお気に入りが凄いことになってました。
感想も更新してないのに頂いて恐縮です。

年末、ガルパンのBDBOXが発売するらしいですね。
アニメを見る媒体持ってないので、買うか検討中です。
最終章も見てないので、それも見ないといけないですが……
BC学園、すごく気になるんですよね。マリーが可愛い。
でも、一番はダージリンですけどね!


感想、評価、批評はお気軽に。
頂ければ、作者の励みになります!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。