GIRLS und PANZER〜少年は戦車道になにを望むか〜 作:紅葉久
「それにしてもさっきの戦闘は中々だったわ。あんな手で百式流のクルセイダーを止めるなんて」
試合の中継が映されるモニターを見つめながら、亜美が楽しそうに話す。
亜美と同じようにモニターを見ていた和麻も、それには素直に頷いて同意していた。
「俺もそう思います。クルセイダーの方も、あんな手を使われるとは思ってなかったでしょう」
和麻自身も、先程のⅣ号戦車とⅢ号突撃砲F型がクルセイダー巡航戦車の履帯を壊す場面を見た時は、正直言って驚くしかなかった。
みほがまさか百式流を止める手段をあんな作戦で行ったことに、和麻はみほの発想に再度驚かされた。
確かに大洗のあの二両で各乗員の能力を考えれば、あれが一番効果的だと思えた。
「やっぽり和麻君も“あれ”をされると対処できないのかしら?」
亜美がからかうように和麻に訊く。
和麻は少し悩んだ顔を見せながら、答えた。
「あの状況で俺が同じくクルセイダーに乗ってたなら、もしかしたら引っかかってたかもしれませんね。初心者と舐めてたら、の話ですが」
そう言って、和麻はもし自分が同じ立場ならと想定して考えた。
「対処するなら、きっと俺ならⅣ号を先に撃破しに行ってたと思います」
「あのすれ違いの時かしら?」
亜美が先程の戦闘を思い出す。もしクルセイダー巡航戦車にⅣ号戦車を撃破する場面があるとしたら、それは互いに至近距離に接近してすれ違った時だと。
それに和麻は頷いて、続けて話し出した。
「あの場面、クルセイダー は不整地で車体を転回すれば履帯が外れる可能性もありました。でもあの場面ならそうしないと詰まれる可能性もある。だから履帯が外れても良いと覚悟してⅣ号を攻撃してたと思います。それで履帯が外れなければ、そのままⅢ突を撃破すれば良いですから。
もし相手が百式流を知ってるなら、相手は普通なら百式流の戦車に下手に近寄らない。なのに近寄ってくるとしたら、相手にはそうしなければならない理由があると俺は考えてたと思います」
と言っても結果論ですけどね、と言って和麻は肩を竦めた。
和麻自身、大洗側の作戦を使われたとしたら本当に気付けるか分からなかった。咄嗟に相手の意図を判断して看破できる自信があるかと言われれば、和麻にはその時にならないと分からないと言えたからだ。
本来、戦う相手が百式流と知られているなら、相手はまずその戦車に接近しない。
中距離から近距離での戦闘に持ち込まれた場合、圧倒的に不利になるからだ。近距離での戦いが得意な百式流に、わざわざ得意距離での戦闘を行う理由がない。
ならばそれをわざわざしたということは、相手にはそれをする意図があると判断できる。
速度の名を謳う百式流。その車両と戦うセオリーがあるとすれば、西住流のように圧倒的な火力で押し潰すのが無難な答えだろう。
それを和麻も理解している。一両に対して、完全に統率のとれた十両が攻めたとすれば生存力の高いと言われる百式流も苦戦する。
少数対多数で戦うことが多い百式流だとしても、数の暴力には勝てない。
数両での自滅覚悟の足止めをした後に、足が止まった戦車を残った叩けば良い。それだけの話だ。
もしくは回避すらできない数の砲弾を叩き込む。時間差などではなく、純粋に同時に砲撃の壁で叩き潰す。これが純粋に百式流を倒す手だと和麻は知っている。
と言っても、それをされると不味いと百式流も分かっているので、それを回避する技術を持っているが……それを言ってしまえば押し問答になってしまう。
とどのつまり、和麻はその場にいる時でなければあの場面のクルセイダー巡航戦車の行動に正解も不正解もできなかった。
「でも……不思議なんですよ」
「何がかしら?」
和麻が不思議そうに小首を傾げたのに、亜美が眉を寄せる。
和麻は少し悩んだように答えていた。
「あのクルセイダーから出てきた金髪の人……多分、操縦手で乗ってると思うんですけど、今思うと俺はあの人ならⅣ号を撃破しに行くと思ったんですよね」
クルセイダー巡航戦車から出てきた長い髪をオールバックにした女の子。間違いなく自分の知るアッサムだと和麻は分かっていた。
一年振りに見たが、変わってない。というよりまた一段と大人びた雰囲気が出てきたと和麻は思っていた。
あの人の顔を見た途端、胸が痛くなる感覚に囚われた和麻だったが、それを自分への戒めと思い素直に受け止めていた。
和麻もまさか自分が聖グロリアーナ女学院から立ち去って約一年間もアッサムが操縦手として戦車に乗っていなかったとは思ってもないだろう。
そしてアッサムのⅣ号戦車とのすれ違い時に、何を思って“本来勝てるはずだった”選択を選べなかったかなど知る由もない。
「あの金髪の子ね……上手いの?」
亜美が訊く。何が、と言わないが和麻にはその意味が分かった。
和麻は試合中継がされているモニターを見ながら、昔を思い出して答えた。
モニターの向こうでは、既に住宅街に隠れた大洗の後に続くように、クルセイダー巡航戦車の修理を終えた聖グロリアーナの車両達が住宅街に入って行く場面が映っていた。
「俺が知る限り……天才だったと思います」
和麻が“天才”という言葉を使ったことに、亜美は少し驚いた顔を見せた。
幼少期から亜美は知っていた。和麻はこと戦車道で天才という言葉を使いたがらない。
才能があっても無くても、全ては努力の元に成り立つと和麻は思っている節があった。
その和麻の考えも、和麻の母である百式一姫が説いた言葉だった。
戦車道に於いて、才能に溺れることなかれ。日々の努力が自分の才能を育てると。
だからこそ和麻は亜美の知る限り、過去に一度も数多く会った戦車乗りの才能がある人に対して天才と呼んだことがほとんどなかった。
才能の種があれど、努力という水と栄養をあげなければ育たない。その人間が自分自身をどう思っているかは置いて、和麻自身は努力を惜しまなかった人だからその人はその場に立てたと思っている。
だからこそ、和麻が素直に天才と言ったことに亜美は驚いていた。
「俺が聖グロに居た時期の話ですが、会ってすぐにあの人は操縦で相当努力してきた人だったと思いました。クイックも、ドライブアクションやアクセルブローと数多い百式流の技術を短期間で習得してました。多分、聖グロの中で一番早く百式流の極意に辿り着けたかもしれない人だったと」
疾風迅雷と過去に謳われた和麻ですら辿り着けない百式流の極意。疾風迅雷の先にある百式流の極み、その頂にアッサムが辿り着けた人だったと言った。
そこまで言い切った和麻の評価に、亜美はクルセイダー巡航戦車の操縦手――アッサムに興味が湧いていた。
「一姫さんが聞いたらスカウトしそうな話ね」
「でしょうね。実際、本当にやりかねないです」
「あの人、自分で良い人材と思ったらすぐに声掛ける癖あるから」
和麻と亜美が揃って苦笑いする。
当の一姫本人が聞いたら機嫌を悪くしそうな話だった。しかし事実なのだから仕方のない話でもある。
そんな話をしているうちに、和麻と亜美が見ていたモニターに変化があった。
その瞬間、二人が揃ってモニターに視線を向けていた。
「さて、これで大洗は最後の作戦ですね。色々と腹立つことがありましたが、運良く五両がまだ生きてる。この作戦で車両を少なくても二両は仕留めないと勝ち目がない」
大洗が最後の作戦を使う。
そこで大洗は聖グロリアーナの車両を最低でも二両、もしくは三両以上を撃破出来なければ勝ち目はないと和麻は判断する。
そして一番先に撃破しなくれはならないのは、間違いなくアッサムの乗るクルセイダー巡航戦車。
「上手くいくと良いわね。その作戦だと聖グロも即座の対応はできないから、その間にどこまでやれるか楽しみだわ」
亜美の楽しげな表情に、和麻が苦笑いする。
今回の試合で、和麻は一切口出しをしていない。
正直なところ、その和麻からすれば、今回の試合の全てが危ういと思って気が気ではなかった。
最初の作戦の砲撃のミスなんて以ての外だ。それに麻子が勝手にドライブアクションを使って相手を煽る行為も、下手に見様見真似の技術を使うなんて試合経験者からすれば鳥肌モノである。
この大洗最後の作戦も、言ってしまえば大洗側が自分の住んでいる街をどれだけ詳細に“把握”しているかに尽きる。
一応だが和麻もかなり苦労したが大洗町の地図は把握している。その点を踏まえて試合の反省点を考えなくてはならないのだ。
よくあるスポーツのチーム監督もこんな気持ちで試合を見ているのだろうかと、和麻は内心で肩を落としたい気持ちになる。
やることが多過ぎて頭が痛くなる気持ちだった。
◇
Ⅳ号戦車とⅢ号突撃ほがクルセイダー巡航戦車を無事足止めしたことで、大洗側の士気は上がっていた。
あの話に聞いていた強豪のクルセイダー巡航戦車を撃破一歩前まで追い詰めたと、それは必然的にチームの士気を上げていた。
聖グロリアーナがクルセイダー巡航戦車の修理を完了して、ダージリン達が大洗町の住宅街に入った時には既に大洗学園側の準備は完了していた。
『聖グロリアーナ来ました! 五両全部来てます!』
偵察に向かわせていた八九式中型戦車甲型から典子の通信が全車両に届けられる。
その通信が来た瞬間、みほは全員に指示を出した。
「了解しました。では八九式以外の車両は所定の位置に待機。典子さん、お任せします」
『了解しました! 大洗は私達の庭です!』
みほからの通信を終えた典子は、すぐ忍に指示を出した。
「よぉーし! 全員! 相手にサーブだ!」
『了解!』
典子の言葉に、全員が声を揃える。
大洗の最後の作戦。これも待ち伏せ作戦からの地形を利用した不意打ちだった。
本来想定していた予定よりも整った状態での実行、これは実に運が良かった。
聖グロリアーナから無事逃げ切り、大洗町に入った途端に各車長がどこ位置で待機するかを決め、みほが地図で把握する。
そして誘き寄せる役割を一両決めて、各車両が待ち伏せしている箇所を全て通るようにルートを選ぶ。あとはそのルートを相手の砲撃を避けながら通るだけだ。
みほの見立てだと、思った通りに相手が動いてくれれば確実に一両から二両は撃破できる。
まずは最初の門である。大洗の誘き寄せに聖グロリアーナが何両ついてくるかだった。
「相手のスパイクをブロックだ! 根性!」
そしてその誘き寄せの役割を担った八九式中型戦車甲型が隠れていた路地から飛び出した。
敢えて、聖グロリアーナの車両に見つかるように飛び出し、そしてそのまま住宅街へと走っていく。
その光景を聖グロリアーナが見逃すわけがない。
八九式中型戦車甲型の後を追うように聖グロリアーナが追いかけた。
典子がキューポラから身を乗り出して確認する。間違いなく五両全車両が八九式を追いかけていた。
「こちらDチーム! 聖グロの全車両が追いかけて来ました!」
典子からの通信を聞いて、みほは安堵した。まずは一つ目の問題は突破できたと。
『わかりました。では、そのまま予定通りにお願いします。あとその場の判断で予定の各ポイントまでのルートが通れなければ変えても構いません。その際は大きな道は通らないでください。必ず相手の車両が一列に並んで走らなければならない道を通るようにお願いします』
みほから最後の指示を受けて、典子は元気良く了承の旨を伝えた。
その指示を終えて、みほは「ふぅ……」と深く息を吐いた。
「西住殿、良かったんです? やっぱり冷泉殿に任せた方が良かったんじゃ?」
そんなみほに、優花里が訊いていた。
その質問の意味、流石にみほもすぐに分かっていた。
何故、一番大変な役目――誘き寄せ役を麻子に任せなかったのかと。
「ううん、大丈夫。河西さんがわざわざやるって言ってくれたし……それに麻子さんも最初の作戦とクルセイダーの戦いでかなり疲れてるから休んでもらいたいから」
みほが誘き寄せ役に麻子を出さなかったのは、まず第一に操縦手としての疲労を考えてのものだった。
最初の作戦で五両からの砲撃を避けながら逃げ、そしてクルセイダー巡航戦車との戦いでは神経を擦り減らす操縦をしていた。
明らかに他の操縦手に比べて疲労が蓄積しているとみほは判断していた。
少しの時間だが、麻子には休んでもらう。これがみほの選択だった。
そして誘き寄せ役を決める際に、八九式中型戦車甲型のメンバーが名乗りを上げたのもひとつの理由だった。
みほも知る由もないだろう。おりょうと麻子がクルセイダー巡航戦車の足止めに成功したことに、自分も試合で力にならなくてはと思った人間がいることを。
最初に誘き寄せ役をやりたいと言い出したのは典子だった。
そしてそれを聞いた忍も、すぐに同意していた。
忍も、試合で活躍したいという気持ちが少なからずあった。
それもそのはず、バレー部としてスポーツをしてきた彼女にとって――辛い練習したのに本番の試合で活躍できないことを良しとしなかった。
だからこそ、忍も典子の話に乗った訳だった。
「私は疲れてないぞ。別にやっても良かったのに……」
操縦手席で麻子がむくれていた。
沙織から渡された紙パックのオレンジジュースを飲みながら、麻子が納得がいかないと口を尖らせる。
「練習の時に百式君に言われてるでしょ、試合の時は休める時に休めって」
むくれる麻子に、沙織が溜息混じりに彼女を窘める。
みほを含め各車長、そして通信手には予め和麻から試合の注意点を伝えられていた。
砲撃手と装填手、操縦手の乗員に負担を掛け過ぎないこと。これを第一に考えろと和麻から全員に伝えられている。
装填手は重い砲弾の装填で身体に疲労が溜まる。砲撃手は砲撃を続ければ神経を擦り減らす。そして操縦手は身体と神経を擦り減らす。
だから和麻はこの三つの担当に時間がある時は適度に休ませろと言われていた。それを管理するのも車長とそのサポートで通信手だと。
それに付け加えるなら、和麻は車長と通信手も神経を使うから休める時に自己判断でしっかり休めと言われていた。
その言葉にあやかって、沙織も麻子と同じように呑気に紙パックのオレンジジュースを飲んでいた。
「あの男の言い分なんて知らん」
「じゃあ試合終わった後、百式君に言っとくからね?」
「…………鬼か、沙織」
沙織の反論に、麻子が目を大きくして震えていた。
まさかそんな言葉が沙織の口から出ているとは、麻子は思いもしなかった。
「麻子、こういう時に百式君のこと出せば大人しくなるから」
「くぅぅ……」
反論できない麻子だった。事実、麻子がこと戦車道の練習や練習の遅刻で和麻の言いつけを守らなかった時はことごとく彼女は罰を受けていた。
それに対して武力で対抗する麻子なだけに、日に日に和麻と麻子の闘争は大きくなっていた。
しかし沙織達から見れば、犬猿の仲に見えるかもしれないが実は仲の良い二人と思われているから当人達にとってはタチが悪い話だった。
「とりあえず磯部さん達に任せてみましょう。こちらはまだ五両いますし、相手は町の入り組んだ地形も分からないから大丈夫」
みほがそう言って締める。
その言葉に、全員が八九式中型戦車甲型からの通信が来るまで、肩の力を抜くことにした。
読了、お疲れ様です。
今回は和麻が登場。アッサムの話を少し。
始まる住宅街戦、やる気を出すアヒルさんチーム。
次はアヒルさんチームが頑張る話になりますね。
あと三話で試合を終わらせたい……多分五話くらいになりそうな予想。
アニメを見ながら頭の中で想像を膨らませてます。
サンダースとかまほとエリカをアニメで見てると、この子達いつ出すんだろ……と遠い目。
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