GIRLS und PANZER〜少年は戦車道になにを望むか〜   作:紅葉久

43 / 48
15.戦車に乗るのが楽しい

 

 

 

 

 

 大洗の町中を八両の戦車が走る。

 大洗女子学園は聖グロリアーナ女学院の一手でM3中戦車リーを失い、残りは四両となった。

 対して聖グロリアーナ女学院も大洗女子学園の一手でマチルダⅡ歩兵戦車を一両失ったことで、残りの車両は大洗と同じく四両。

 

 M3中戦車リーを撃破された時点で、みほは聖グロリアーナの手を推察して即座に作戦を変更する。

 それと同じくして、ダージリンも予想よりも早く大洗女子学園が即座に動いたことに意外と言いたげに驚いていた。

 

 

「思っていたより早いわね」

 

 

 紅茶を一口飲んで、ダージリンが僅かに微笑む。

 八九式中型戦車甲型をチャーチル歩兵戦車とマチルダⅡ歩兵戦車が追いかけているなか、別行動をしているクルセイダー巡航戦車の通信で得た情報からダージリンも推察していた。

 

 先程からわざと遠回りさせていたクルセイダー巡航戦車から敵車両発見の連絡が一向に来ない。加えて、聖グロリアーナの車両が大洗の作戦通りに誘き寄せられているはずなのに、先程のマチルダⅡ歩兵戦車が一両撃破されてから現時点までの間、未だに自車両が撃破されていない。

 ダージリンが察するに仕掛けてきた大洗の作戦は八九式中戦車甲型を囮にした待ち伏せ作戦のはず、しかしその待ち伏せが一向に出てこないということは――待ち伏せをしていたはずの車両が全て一時離脱していると考えるのが妥当だろう。

 

 更に先程までチャーチル歩兵戦車に乗るダージリンの視界に取られていた八九式中型戦車甲型が、路地を明らかに先程よりも細かく曲がっていた。

 ダージリンが見る限り、先程までの動きとは違う。先程までは逃げるように自分達を誘き寄せていたはずが、今はこちらから姿を消して逃げ切るという強い意志が感じられる動きだと思えた。

 

 

「バレてるわね。もう一両か二両は撃破したかったのだけど」

「えっ……もうですか?」

「えぇ、向こうの隊長さんは随分と頭が回るみたいだわ」

 

 

 驚くオレンジペコに、ダージリンが頷く。

 一向に待ち伏せしてるはずの敵が姿を見せない。八九式中戦車甲型が全力でダージリン達の視界から姿を消そうとしている。その二つの要因で、ダージリンも結論は出ていた。

 

 聖グロリアーナが大洗の車両を一両を撃破しただけで、大洗はダージリンが仕掛けた作戦を看破していると。

 

 おそらく八九式中型戦車甲型を追う聖グロリアーナ車両の中にクルセイダー巡航戦車が居ない状態で、大洗が自分達の車両を不意打ちで撃破された時点で知られたに違いない。

 それをあえて“偶然”と思わず、相手が意図して行ったと大洗は即座に判断したのだろう。

 その判断を即座にした。その点にダージリンは素直に内心で驚くだかりだった。

 

 

「でもダージリン様、正直さっきのはかなり危なかったと思いますよ? もしクルセイダーが走ってる道の反対側に大洗の車両が居たら、どうされるつもりだったんです?」

「その時は素直に撃破されるしかなかったかもしれないわね。でも、私達の方が早かった」

 

 

 オレンジペコの質問に、ダージリンがくすくすと楽しそうに答えた。

 ダージリンも、ある意味で言えば“賭け”に勝っていたのだ。

 クルセイダー巡航戦車が隠れている車両を見つけられる確率は、実のところ半分しかなかった。

 八九式中型戦車甲型が逃げている道に対して、クルセイダー巡航戦車がその道を外周りか内回りをしようとしても、その道に対して左右の道のどちらかひとつしか走れない。

 仮にクルセイダー巡航戦車が走る道が違えば、大洗側の隠れている車両を見つけられずに聖グロリアーナの車両が撃破される。

 しかしその撃破されるという確率を聖グロリアーナが背負うなかで、聖グロリアーナのクルセイダー巡航戦車が先手で大洗の車両を半分の確率で見つけられたのは、ダージリンにとって実に面白い結果だった。

 

 

「それに大洗は、あのまま作戦を続けなかった。知ってか知らないかは分からないけれど、このまま私達のクルセイダーに見つかる確率が“半分”と分かった上で作戦を続行して、もし先に見つかってしまった時点で自車両を失ってしまうリスクを戦略面で劣勢になることを考えてすぐに作戦を変えたのね……あっちの隊長さんは初心者ではなく、頭の回転が早い良い隊長だわ」

 

 

 作戦を変えた判断した大洗に、ダージリンが素直に褒めていた。

 大洗の隊長は、随分と機転が利く人間だと。

 ここまでしっかりとした判断ができるということは、明らかに初心者ではない。

 大洗にいる隊長は、実に良い隊長だとダージリンは素直に思う。今までダージリンが会ったことのないタイプの人間だと。

 操縦技術において異端と言われる百式流を使うクルセイダー巡航戦車をたったの二両で強引に足止めした定石とは違う異様な策、そして今回の判断の早さ。

 大洗の隊長はダージリンが思うに、おそらく突発的な状況変化に対しての対応が早くて上手い人間だと。

 初心者の集団を使って、ここまで聖グロリアーナと善戦していることを考えても十分に評価に値する。ダージリンが戦っていて面白いと思える珍しい相手だった。

 

 

「形が違えば、もっと楽しい試合になったかもしれないわね……」

「なにがですが? ダージリン様?」

「独り言よ。気にしなくていいわ」

 

 

 つい言ってしまったことに、ダージリンはオレンジペコに首を振って誤魔化した。

 実に残念だった。百式和麻の件が無かったら、もっと違う気持ちで試合ができていたかもしれない。どちらにせよ、自分達が勝つという気持ちは変わらないが。

 

 この試合に勝てば、百式和麻に会える。

 その気持ちだけで、今は戦えば良い。

 この試合がどれほど“楽しい”と感じても、それだけは譲れない。

 ダージリンは遂に自分達の前から八九式中型戦車甲型が姿を完全に消したのを確認して、そっと通信機を手に取った。

 

 

 

 

 

 

「やられた。これを聖グロがするとは思わなかった」

 

 

 モニターに映っている光景に、和麻は苦笑いして肩を落とした。

 まさかダージリンがクルセイダー巡航戦車を“その形”で使うとは思わなかった。

 ダージリンがまさか半分しかない確率の手を使うとは和麻も思わなかった。

 

 

「珍しいわね。聖グロがあんな賭けに出るなんて」

「ええ、もっと堅実に行くと思ってました……いや、あの状況だと聖グロにクルセイダーがあるなら“ある意味”堅実かもしれません」

「半分しかないのに?」

 

 

 亜美も、聖グロリアーナの策は理解していた。

 しかし聖グロリアーナなら、真っ向から対抗していくと亜美は思っていた。

 純粋に重装甲で無理矢理敵陣に乗り込み相手の陣形を崩す。これが聖グロリアーナの戦術。大洗にいる車両なら聖グロリアーナの装甲を簡単には抜けないはずなのだから、いつも通りの戦術で戦えば良かったのではと。

 

 

「いいえ、半分もあれば十分です。どの道、あれをされた時点でみほは作戦を変えるしかない」

「……そうね。大洗の戦力を考えたら、一両でも失うわけにはいかないし、安易にあのまま作戦を続けるのも危険」

 

 

 亜美の言葉に、和麻が頷く。

 大洗からすれば、半分の確率で車両を失うデメリットがある作戦を続行する訳がない。みほなら、確実に作戦を変えると和麻は確信していた。

 

 

「仮にあの作戦を“偶然”と思って続けて更にもう一両撃破された後でも、みほはすぐに作戦を変えたでしょう。結局、その判断が遅いか速いかです。でもみほはその判断を即座にした。それだけ半分の確率はそれだけデカイのを分かってる証拠ですね」

 

 

 どこにいるか分からない隠れている車両を半分の確率で見つけられる。和麻ならその確率ならダージリンと同じように同じ作戦を絶対に使うと思った。

 隠れている車両を相手よりも早く見つけられる確率なんてとてつもなく低い。それが半分まで確率が上がるなら、喜んで使うと。

 

 

「おそらくクルセイダーがいなければ、聖グロはこんな手は使わなかったはずです。クルセイダーがいるからこそ使える手だ」

「あんな手、よく思いついたわね」

 

 

 亜美の言う通りだった。和麻も同意だった。

 ダージリンがクルセイダー巡航戦車を相手の裏を突くような使い方をするとは思えない。

 よくもあんな手を思いつく、誰がそんなことを教えたのか?

 

 

「……あ」

 

 

 そこで和麻は思い出してしまった。

 

 

「どうしたの? 和麻君?」

「いえ……なんでもないです。ちょっと昔のことを思い出しただけで」

 

 

 小首を傾げた亜美に、和麻が戯けて答える。

 和麻はつい言えなかった。ダージリンに撹乱や奇襲以外でクルセイダー巡航戦車の“本来以外”の使い方を教えたのが自分自身だったとは。

 聖グロリアーナに入学した時、ダージリンとその手の話を嫌と言うほどしたことがある。

 まさか、と言うより流石と思える。ダージリンの記憶力に、和麻は感心していた。

 

 

「このままだとクルセイダーに全部倒されるぞ、みほ」

 

 

 気づくとモニターの先には、Ⅲ号突撃砲F型がクルセイダー巡航戦車に追われている場面が映されていた。

 一両対一両の戦い。それは百式流が最も得意とする戦いだ。

 その段階に持ち込まれた時点で、大洗はかなり不利を背負ってるのは明白だろう。

 百式流を使うたった一両のクルセイダー巡航戦車に対抗するには、それこそ数で戦うしかない。

 みほならどうするか、和麻は背中がひりつく気持ちでモニターを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

『こちらチーム、すまない! クルセイダーにやられた!』

 

 

 みほの耳に入ったエルヴィンの通信。それを聞いて、みほは背筋を凍らせた。

 早すぎる。まだⅣ号戦車を動かしてから数分も経っていない。

 

 

「皆さん! 怪我はありませんか⁉︎」

『全員大丈夫だ! それよりもすまない!』

「怪我がないから良かったです! 撃破されたのは気にしないでください! あとクルセイダーに見つかってからどのくらいで撃破されました⁉︎」

 

 

 みほが審判に撃破判定される僅かな時間で情報を聞き出す。

 しかしエルヴィンからの返事に、みほは再度驚かされる。

 

 

『五分も経ってない。見つかって逃げようしたらいつの間にか追いつかれていた』

「分かりました! エルヴィンさん達が撃破されたポイントを教えてください!」

 

 

 そしてエルヴィンから返事が返ってきた瞬間に彼女との通信が途絶えた。

 みほはエルヴィンから伝えられた撃破された地点を地図で確認して、印を付ける。

 その後、みほは首の通信機から全車両に通信を行った。

 

 

「皆さん、今いる地点を教えてください!」

 

 

 その通信から返ってきた残存車両の地点を更にみほが地図に印を付けた。

 現在の車両の地点を確認し、みほが思考する。

 

 

「ここからクルセイダーに一番近いのが八九式で、次に近いのが私達。チャーチルとマチルダの位置はわからない状態」

 

 

 良くない状況。みほが眉を寄せた。

 このままでは八九式中戦車甲型がクルセイダー巡航戦車に見つかってしまうかもしれない。

 残存車両に逃げるように指示を出しているが、速度面の速さではクルセイダー巡航戦車に大洗の車両は太刀打ちできない。

 マチルダⅡ歩兵戦車とチャーチル歩兵戦車の装甲を抜ける攻撃力がある車両は、現状だと38(t)戦車B/C型とⅣ号戦車D型くらいしかない。

 

 

「やっぱりあのクルセイダーをなんとかしないと……」

 

 

 つまるところ、大洗の勝つ為の道にはクルセイダー巡航戦車が邪魔をしていた。

 ただでさえ、聖グロリアーナには高装甲のチャーチル歩兵戦車とマチルダⅡ歩兵戦車がいる。それに加えて機動力に特化した車両があるのは実によろしくない。

 しかしこの場面でクルセイダー巡航戦車と十分に戦える車両、そして操縦手が大洗にはいない。いや、いないことはないが……みほにはその選択を取るべきかどうか悩んでいた。

 百式流のクルセイダー巡航戦車に対して、こちらの車両はスペック面で速度面で有利を取られている。これがみほの頭を悩ませた。

 

 

「悩むくらいなら私を使ってくれ、西住さん」

 

 

 そんなみほに、麻子が声を掛けた。

 まるで考えを読まれたような麻子の発言に、みほはキョトンと呆けた顔を見せていた。

 

 

「流石に私達でも分かる。この状況、クルセイダーをなんとかしないと試合に勝てない。むしろこのままだと見つかる車両が次々と撃破されるかもしれない。勝つ為にクルセイダーを倒さないといけないなら、私を使えば良い。その為に私はここに座ってる」

 

 

 操縦しながら、前を向いている麻子が淡々と告げる。

 そんな麻子に沙織が目を大きくしたが、どこか納得したように肩を竦めていた。

 

 

「麻子、相変わらず百式君のことになると目の色変えるよね」

「うるさいぞ、沙織」

 

 

 苦笑いする沙織に、麻子が僅かに口を尖らせる。

 そんな二人の話を聞いて、みほもなるほどと納得した。

 

 麻子は、百式流のクルセイダー巡航戦車を倒したいのだと。

 

 もしそれができれば、つまり百式和麻に勝てる可能性があるということだ。

 だからこそ、クルセイダー巡航戦車と戦わなければいけないと麻子は言っている。

 沙織が言った麻子は百式和麻のことになると目の色を変える、その言葉の意味をみほが理解すると相変わらずだなと苦笑いした。

 こんな状況でも、いつもと変わらない麻子や沙織達を見ているとみほの肩の力が自然と抜けていた。

 

 

「……そうですね。じゃあ、みなさん。やってみますか?」

 

 

 麻子にみほが尋ねる。

 麻子は待ってましたと言いたげに即答した。

 

 

「任せろ。西住さんの言う通りに動いてみせる」

「砲撃ならお任せを。至近距離なら外しません」

「装填もお任せください! 西住殿! 冷泉殿!」

「私は地図と通信でみほと麻子をフォローするね!」

 

 

 Ⅳ号戦車に乗る全員が楽しげにみほに答える。

 負けそうなのに楽しそうに戦車に乗る沙織達の姿に、みほも不思議と楽しいと思えてしまう。

 

 そう思うと、みほはハッと思った。

 いつの間にか黒森峰にいた頃、昔と同じ気持ちで戦車に乗っていたことにみほは気づく。

 

 今まで西住流として乗っていた頃とは違うこの気持ち。負けたらダメだという強迫観念に囚われたマイナスの気持ちより、みんなと戦車に乗っているのが楽しいと思えるこの気持ちが、とても心地良いと思える。

 

 

『戦車道をやるからには、楽しくないと意味がない』

 

 

 試合前に和麻がそんなことを言っていた。

 なら、自分も勝ち負けに拘らない気持ちで試合を楽しまなければならない。

 

 

「でも、負けるのは悔しい」

 

 

 試合をするからには、負けるのは悔しい。

 勝負をするからには、勝ちたいと思うのは当然。

 なら、全力で楽しんで試合に勝とう。

 

 

「麻子さん。早速、一両撃破しに行きましょう。あちらの車両が分散していると良いんですが」

「多分、してないと思う」

「麻子、そういうこと言わないの!」

 

 

 麻子と沙織の言い合いを聞きながら、Ⅳ号戦車が聖グロリアーナ陣営に向かっていく。

 

 

「危険ですがもし分散していなければ、私達で分断させましょう。そうなったら麻子さん、結構大変ですよ?」

「それぐらいやってみせる。さっきオレンジジュース飲んで休んだから大丈夫だ」

 

 

 やる気のなさそうなやる気のある麻子が、不思議と頼もしく見える。

 みほはそんな麻子にクスッと笑っていた。




読了、お疲れ様です。

劇場版を未だに一度も見てない作者です。
4DXが出るまで、我慢してます(´ω`)

また更新が遅めになってしまいました。
今回は次の戦闘の前置きみたいな話ですね。

次の話でⅣ号戦車。もとい麻子が頑張ります。
あと八九式も影で頑張る、かも?

感想、評価、批評はお気軽に。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。