GIRLS und PANZER〜少年は戦車道になにを望むか〜   作:紅葉久

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2.倉庫に眠るのは……?

 

 

「やぁやぁ! 百式ちゃん! 来てくれたんだねぇ〜」

 

 

 そんなことを言いながら干し芋を頬張る少女――角谷杏に、俺は据わった目を向けていた。

 両腕を赤と白の運動着を着た女二人に押さえ付けられ、無理矢理ここまで連行された俺は全くもって不愉快でしかなく、不機嫌な顔で角谷杏こと生徒会長を睨みつけた。

 

 

「無理矢理連れてきたくせに……アンタ、よくもそんな白々しく言えるな」

「別に百式ちゃんを連れて来たのは私じゃないし〜」

 

 

 我関せずと惚ける生徒会長に俺は無性に苛立った。以前から思っていたが、この女……人の神経を逆撫でするのが実に上手い。わざとなら才能だと思わずにはいられなかった。

 

 

「……この女、殴りてぇ」

「こらこら、ダメだぞ! 暴力はダメだからな!」

 

 

 俺の近くで運動着を着た小さな女が騒ぐ。

 何故か一人で「根性ー!」と叫んでいる女に、俺は「わかってる」と返すと深く溜息を吐いた。

 

 

「何したいか知らんが……アンタ、俺をこんなところに連れてきてどうするつもりだ?」

 

 

 運動着を着た女二人に両腕を掴まれながら、俺は生徒会長へ問う。

 俺が連行された場所は、大洗女子学園内の野外にある大きな倉庫だった。

 角谷杏を始め生徒会メンバー二人が彼女の後ろに控えていて、他にも幾つかのグループがそれぞれいるのを確認する。

 そしてその幾つかのグループの中に西住みほがいるのを横目に、俺は生徒会長へ舌打ちをした。

 

 

「いや〜まさか百式ちゃんが本当に捕まるとは思わなかったね〜。うむ、運が良い」

「やっぱりお前の差し金じゃねぇか……」

 

 

 先程、校舎内の芝生で昼寝していた時のことだった。

 四人組の赤と白の運動着を着た女達が俺を見つけるなり、リーダーと思われる小さな女を筆頭に俺を無理矢理ここまで連行したのだ。

 無理矢理引き剥がそうとしたが、相手は女だ。男ならまだ話は別だったが、俺には乱暴なことをする気もなく、結局は以前の風紀委員のごとくされるがままに連行されてしまったのだ。

 

 

「どうせ俺を見かけたら連れて来いとかそんなこと言ったんだろ?」

 

 

 なんとなく、生徒会長が言いそうなことが予想出来る。

 そんな俺の言葉に、生徒会長はけらけらと笑った。

 

 

「おお、分かる? 百式ちゃん、さっすが〜」

 

 

 本当にいちいち腹が立つ女だった。

 

 

「……お前達もなんでこんなところに集まってんだ? この時間はまだ授業中だぞ?」

「それ、百式君が言う?」

 

 

 俺に向かって、武部が目を細める。まぁ、正論だろう。

 確か今の時間は午後の授業の時間だったはずだ。なのに今、学校内とは言え、校内で授業を受けていない彼女達に俺は首を傾げていた。

 

 

「今は選択科目の授業なんだよね〜」

 

 

 生徒会長がぷらぷらと干し芋をちらつらせる。

 その言葉に、俺は大まかな予想がつくと思わず舌打ちをしてしまった。

 

 

「……戦車道か」

「そそ、一昨日の全校集会で戦車道の選択科目を追加したから。だから今のこのメンバーは戦車道の選択科目を選択した生徒なんだよね〜」

 

 

 生徒会長を横目に、俺は周りを見渡す。

 なるほど、だからみほが居るわけか。だが肝心のモノが見当たらないことに、俺は思わず鼻で笑った。

 

 

「ふん、戦車道をするって? この学校に戦車なんてあるのかよ?」

 

 

 ここに来て数ヶ月。俺は大洗学園艦に戦車の影も見たことがない。

 戦車が無いのに戦車道をすると言い張る生徒会長に、俺は呆れた表情を見せた。

 

 

「これが意外とあるんだよねぇ〜」

「……なに?」

 

 

 俺が聞き返す。そうすると生徒会長は笑みを浮かべると、彼女の背後にあった倉庫の扉が開かれた。

 開いた倉庫へ生徒会長が我が物顔で歩いていく。それに生徒会メンバー二人が続くと、他のみんなもあとをついて行った。

 そして俺を掴む女達も、一緒に歩いていく。言わずとも、俺も引っ張られながら後を追うことになった。

 

 

 

「――Ⅳ号戦車?」

 

 

 

 そう、みほがポツリと呟いたのが聞こえた。

 倉庫に入り、その奥――ひとつの大きな影が倉庫にあった。

 

 

「……随分と古びてんな」

 

 

 そしてその影――一両の戦車を見た俺が、思わず言った。

 装甲が一目見てわかるほど錆びており、履帯も壊れてはいないが錆びが張り付いている。

 きっとかなり長い期間、この場所に放置されていたのだろう。それぐらいしないと、こんな古びた姿にならないはずだ。

 皆が倉庫に鎮座するⅣ号戦車を見つめるなか――みほがソレに近づく。

 

 

「うん……かずくんの言う通り、かなり古びてる」

 

 

 そっとⅣ号戦車に触れ、みほは呟いた。

 そしてみほは何を思ったのか、Ⅳ号戦車に慣れたように身を乗り上げると、戦車の上部にあるキューポラもとい司令塔のハッチを開けて中を覗き込んだ。

 中を覗き込んだみほが「うっ……」と鼻を押さえる。

 

 

「おい馬鹿! みほ! 無理に車両内を覗くな! 酷い匂いだろ!」

「あっ……ごめん!」

 

 

 そんなみほを見た途端、俺はつい叫んでいた。

 装甲があれほど錆びているなら、中ももっと酷いことになっているはずだ。

 錆びと汚れ、それが生み出す空間は酷い有様に違いない。

 鼻が曲がるような感覚に襲われているに違いないだろう。

 

 

「ったく……! おい、二人とも離せ。もう逃げない」

 

 

 しかし俺の制止を聞いても車両の状態の確認を止めず車両内に入り込んだみほに、耐えられなくなった俺は両脇にいる女に少し強めの口調で告げる。

 そんな俺に驚いた表情を見せて二人が俺から手を離すと、俺は「すまない」と言ってみほの居るⅣ号戦車に向かった。

 

 

「おい! みほ! まったく……なんでお前は戦車となると周りが見えなくなるんだ!」

 

 

 車両確認をするみほに俺が愚痴をこぼす。

 そして俺もⅣ号戦車に乗ると、ハッチから見える車両内にいるみほの頭を軽く叩いた。

 

 

「あたっ……!」

 

 

 みほが頭を押さえる。俺はそれを確認すると、車両内にいる彼女の身体の両脇を掴み勢い良く引き抜いた。

 相変わらず軽いな……と、そんなことは良いとして俺は引き抜いたみほの顔を自分に向けるとすかさずデコピンを放った。

 

 

「いたっ!」

 

 

 頭を押さえていたみほが今度は額を押さえる。

 そして少し涙目になったみほが俺に膨れた表情を見せていた。

 

 

「うぅ……かずくん酷い」

 

 

 ふて腐れるみほだったが、俺は「当たり前だ」と言って目を細めた。

 

 

「無理に錆びだらけの車内に入る奴がいるか! 怪我するぞ! まったく……良いからお前はそこにいろ!」

 

 

 車両に乗っているみほに俺が言い付ける。

 そしてすぐに俺は、みほの返事を聞くより先にⅣ号戦車の車両内に入り込んだ。

 

 

「えっ⁉︎ かずくん⁉︎」

 

 

 外でみほが何か言っているが、俺は無視する。

 そして鼻に感じる不快な匂いを我慢しながら、俺は内部の点検を始めた。

 

 

「……こりゃ酷い。随分と錆びてんな」

 

 

 ざっと内部を見渡して、俺は顔を引き攣らせる。

 しかし俺はそこから内部にある器具の確認を始めることにした。

 操縦席――椅子も錆びてる。ギアを変えるシフトレバーも錆びて、クラッチも固まっている。おそらくサスペンションやらエンジンもダメになってるに違いない。

 通信席――通信機器も内部は分からないが、これも整備しないと無理だろう。

 主砲――内部から確認するが、砲弾を入れる部分も錆びと汚れで固まっていた。これも同様に整備しないと使用できない。

 

 

「……いや、でもこれは?」

 

 

 全体を通して確認して、俺が呟く。

 かなり錆びで酷いことになっているが、整備でなんとかなる内容だったからだ。

 フル整備……レストアをすれば動くとは、正直意外と言えた。

 点検を終えた俺が車両内から外に出る。

 外の空気が心地良い。はっきり言って車両内の中は堪ったものではなかった。

 

 

「かずくん……大丈夫?」

 

 

 戦車内から出てきた俺の顔を見るなり、みほが心配そうな顔を見せる。

 多分、中に入っていたせいで酷い顔をしているのだろう。

 俺は頷くと、みほに向けて中の状態を話すことにした。

 

 

「軽く見たが、かなりガタが来てる。錆びが特に酷い……多分エンジンとかもやられてるだろう」

「動く……?」

 

 

 みほがそう訊いてくる。俺は渋々頷いた。

 

 

「これは流石にレストアしないとダメだけどな。見ての通り装甲も履帯も錆びを取れば大丈夫そうだ……多分、数日あればコイツ、動くぞ」

 

 

 みほが「良かった〜」と安堵の表情を見せた。

 そんなみほの表情に俺が苦笑いする。

 そしてその瞬間――俺は「あ……」と固まった。

 

 

「…………なにやってんだよ、俺」

 

 

 思わず、俺は頭を抱えてしまった。

 今になって、ようやく俺はさっきまでの自分の行動を振り返った。

 なにを俺は馬鹿真面目に車両点検をしてるんだ……

 焼きが回ったのだろう。みほの危なっかしい行動に、思わずやってしまった。

 しかし後の祭り。周りを見ると、他の生徒達が呆気に取られた顔をして俺とみほを見ていた。

 

 

「え……百式君。戦車分かるの?」

「あの先輩、すごい手慣れてたよ?」

「みほさんと百式さん、仲が良いですね〜」

 

 

 みんながそれぞれ思い思いの言葉を告げる。

 俺は参ったと顔を強張らせると、さっとⅣ号戦車から降りた。みほも俺に追うように戦車から降りる。

 

 

「やぁやぁ〜! 流石百式ちゃん、整備士志望なだけあるねぇ〜」

 

 

 近くにいた生徒会長が俺に微笑む。

 整備士志望。その言葉を聞いた途端、周りの何人か驚いた顔を見せていた。

 俺は堪らず生徒会長を睨むと「うるさい」と言い張った。

 

 

「みほが危なっかしいのが悪いんだよ」

「うぅ……酷い」

 

 

 みほか嘆いているのを横目に、俺が不機嫌にボヤく。

 しかし生徒会長はそんな俺を楽しげに見ていた。

 

 

「確か西住ちゃんと百式ちゃんって知り合いだったんだよねぇー」

 

 

 そして次に生徒会長が言った言葉に、俺は眉を寄せた。

 あからさまに周りに聞こえるように言っているのが本当にわざとらしい。

 

 

「みほって百式君と知り合いだったの⁉︎」

 

 

 生徒会長の話を聞いた武部が騒ぐ。

 そんな武部に、みほは「うん」と頷いた。

 

 

「かずくんと私は、幼馴染なの」

 

 

 みほの言葉に周りが目を大きくしていた。

 そして武部が俺を見ると、俺に指を指して騒ぎ出した。

 

 

「百式君! どうしてみほが転校してきた時にそれ言ってくれなかったの⁉︎」

 

 

 続けて武部が「それなら私達と一緒にお昼とか食べれば良かったじゃーん!」と叫ぶ。

 

 

「みほもどうして百式君と友達だって話してくれなかったの⁉︎」

 

 

 今度はみほへ武部が不満を告げる。

 みほは「あはは……」と乾いた笑いを見せると、俺をチラリと見て話した。

 

 

「なんか言い出しにくくて……かずくん、なんか近寄りがたくなってたから……」

「え⁉︎ 百式君って昔からこんな感じじゃなかったの⁉︎」

 

 

 俺を指差す武部。何か馬鹿にされている気がしたが、今は言わないことにした。

 みほが武部に頷く。そしてみほか「昔は……」と切り出した瞬間、俺は彼女を制止した。

 

 

「みほ、その話はしなくていい」

「え……うん、わかった……」

 

 

 多分、いやおそらくみほは俺の聖グロリアーナ時代のことを知っているだろう。

 変に話がややこしくなるのは、今の俺には迷惑だった。

 俺はそれに面倒と言いたげに雑に頭を掻くと、ちらりとみほを見て言った。

 

 

「……みほとは、話す機会がなかったんだよ。それに俺と知り合いって言うのも、この学校じゃ面倒な話だろ?」

 

 

 呆れた表情で俺が武部に答える。

 しかし武部は頬を膨らませて俺を不満そうに見つめていた。

 

 

「授業出ない百式君が悪いじゃん! それに百式君の評判も全部百式君が悪いんだからね!」

 

 

 実に武部の言うとおりだった。と言っても、俺には直す気など微塵もないのだが。

 

 

「かずくん、この学校で評判悪いの?」

「……あぁー、まぁな」

 

 

 意外そうな表情でみほが訊いてくる。

 俺は言葉を濁しながら、頷いた。

 

 

「この人、サボリ魔の変人なんて言われてるんだよ! みほ知ってた⁉︎」

 

 

 俺を指しながら武部がみほへ告げる。

 この女、余計なことを……と言っても、どの道知られることだったので、俺は僅かに溜息を漏らした。

 武部の言葉を聞いたみほが目を大きくした。

 

 

「……えっ? そんなこと言われてるの?」

「否定はしない」

 

 

 事実である。元々、どう言われても気にしない俺だったので事実を否定する気もなかった。

 

 

「女子校に何故か在籍してる眼帯が奇妙なサボリ魔の変人。それが百式ちゃんのこの学校での評判だよ〜」

 

 

 そうして俺とみほ、武部の話が進むと、ここぞとばかりに生徒会長が割り込んできた。

 生徒会長の発言に、妙な悪巧みを感じた俺だった。

 故に俺が生徒会長を制止しようとするが、その前に彼女は大きな声でこう言った。

 

 

「ではではー! 改めて自己紹介と行こうか〜!」

 

 

 干し芋を掲げ、生徒会長が掲げた干し芋を俺へ向ける。

 一体この女、何を言い出すつもりだ……?

 そう俺が思うなか、生徒会長が口を開く。

 そして生徒会長が言い出した内容に、俺は目を吊り上げた。

 

 

「みんなの知っての通り、この人は百式和麻君〜! 半年前にこの学校に転校して来た学園唯一の男子生徒〜! 何を隠そう、この人は〜! 日本中高戦車道において、戦車の操縦の腕でその名を馳せた男の名操縦手〜! もし彼が女だったら、戦車道の頂に辿り着く一人とまで言われた人だよ〜!」

 

 

 生徒会長の言葉に、周りがざわついた。

 心底俺を変な目で見ていたのだろう。意外だと言いたげな視線が俺に向けられていた。

 

 

「どれぐらい上手なんですか?」

 

 

 誰かが生徒会長に質問する。

 生徒会長はその質問に少し思い出すように悩むと、すぐに答えた。

 

 

「聞いたことある話だと……十対十の試合で戦車一両で九両撃破したとか? しかもマシントラブルで退場だったから、実質撃破されてないって」

「化け物ぜよ……」

 

 

 生徒会長の話に周りが驚く声をあげる。

 そして俺は生徒会長を止めるよりも、彼女が言った内容に目を大きくした。

 この女……どうして俺が聖グロリアーナに居た時代の練習試合の話を知ってるんだ?

 その話は聖グロリアーナの戦車道メンバーと知波単学園の戦車道メンバーしか知らないはずだ。

 どこから流れたか知らないが、この場で俺のことを話すのはやめて欲しい。

 

 

「百式先輩! それ本当ですか!」

 

 

 小さな女子。おそらく一年生だろう。俺に向かうと、キラキラした目で聞いてきた。

 隠すのは、無理そうだ……俺は苦虫を潰したような表情で仕方なく答えた。

 

 

「昔の話だ……足の速い戦車使えば、誰でも出来る」

「いや、出来ないよ。かずくん」

 

 

 隣でみほが言ってるが俺は無視した。

 不味い、俺のことを知られるのは……しかもここに居るメンバーは戦車道の選択科目の受講者。

 なら経験者が目の前にいるとなれば、その後の行動も大体予想出来た。

 

 

「しかし残念なことに〜もう百式ちゃんは戦車道を辞めちゃったんだよねぇ〜」

 

 

 そんな俺のことを知ってか知らずか、生徒会長がわざとらしく言った。

 

 

「もしまた始めてくれたら、みんなに戦車道のこと教えてくれるかもしれないのになぁ〜!

 操縦とかもすごーく上手くなれるかもしれないのになぁ〜!」

 

 

 そしてトドメと言わんばかりに言った言葉に、俺は目を吊り上げて生徒会長を睨んだ。

 

 

「今、ここでその話をするか……お前……ッ‼︎」

「ここまでやれば、百式ちゃんも少しは戦車道する気になった?」

 

 

 睨む俺に、生徒会長が飄々と笑う。

 何が何でも俺に戦車道をやらせようとしている生徒会長の魂胆に、俺はキッパリと告げた。

 

 

「――俺は戦車道はやらないッ!」

「あ〜、やっぱりまだ折れないか〜」

 

 

 ハッキリと俺が言ったことに、生徒会長は気だるく干し芋を頬張る。

 その態度に、俺は堪らず頭に血が昇るような錯覚を覚えた。




ひとまずはここまで

生徒会長vs主人公
みほみたいに、簡単に頷くことをしない和麻君
彼が戦車に乗る日はもう少し先?

暖かい目で見守ってください(>人<;)

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頂ければ、作者はモチベを上げられます(=゚ω゚)ノ
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