GIRLS und PANZER〜少年は戦車道になにを望むか〜   作:紅葉久

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感想、評価をくださった方々に心からの感謝を。
長めではないですが、今回はみほパートみたいな感じです。

それでは、どうぞ!


3.みほの葛藤、和麻の戦車道

 

 

「我が校の戦車道に西住と百式の腕は必要不可欠だ。百式、我が校のために戦車道をしろ」

 

 

 俺が生徒会長に本気で苛立ちを感じた時、メガネを掛けた女が俺に告げた。

 確かこの女……前に俺を生徒会へ無理矢理連れて行った女だったはずだ。

 妙に強気な発言が多いことから、はっきりと覚えているくらい印象的で腹立たしいと俺は感じていた。

 今の彼女の発言に、生徒会長の先程の言葉でイラついていた俺は彼女へ吊り上げた目を向けると、思わず舌打ちをしていた。

 

 

「うるさい、あんたに言われる筋合いはない」

 

 

 思っていたことを隠すことなく俺が告げる。

 俺の態度が癪に障ったのか、メガネの女はムッと表情を歪めた。

 

 

「貴様っ! 先程から会長と私の先輩に向かって失礼な態度だな! 歳下なら先輩に敬語ぐらい使え!」

 

 

 そして俺に指を指して指摘する彼女だったが、俺は思わず失笑していた。

 どうして俺が尊敬出来ない歳上の人間に敬語なんて使わないといけないのか?

 ただでさえ腹立たしいのに、これ以上ストレスを溜める気すらない俺は、つい馬鹿にしたような笑いをしていた。

 

 

「はっ! あんた達に敬語を使うくらいなら学校やめてやるよ! それともアレか? もし大洗で戦車道をしないなら退学か? それこそ、どうぞご自由に。俺はそれでも一向に構わない」

 

 

 この生徒会ならそんなことを平然と言うという自信が俺にはあった。

 生徒会長があんな態度なのだ。全員の前で俺の過去を本人の意思問わずに話すなら、戦車道をしないなら学校に居られなくするなどと言い出すことは容易に想像出来た。

 メガネを掛けた女の表情が俺の言葉で一変する。

 目を吊り上げ、顔を赤くして苛立ちを見せた彼女は俺を鋭く睨んだ。

 

 

「なんだとぉ!」

「まあまあ、桃ちゃん。落ち着いて……」

 

 

 激怒し罵声をあげて俺に向かってくるメガネの女だったが、隣にいた女に制止される。

 それでも我慢出来ない様子だったメガネの女が「離せっ! あの男は礼儀がなってないっ!」と叫んでいた。

 こちらの台詞である。俺は鼻でメガネの女を笑ってやった。

 

 

「ふん、権限を私用で行使する相手に遠慮なんてしない。それが俺の――」

 

 

 ふと、俺は言葉に詰まった。いや、そこで俺は無意識に言葉を止めていた。

 俺は……一体、何を言おうとした?

 感情的になり過ぎて、我を忘れていたらしい。思わず、言いたくもないことを言おうとしていた自分を、俺は叱咤したかった。

 

 それが俺の――戦車道。そんな言葉を、俺はどうして言おうとしたのか?

 

 久しぶりに戦車の中に入った所為かもしれない。昔の感覚が自然と蘇っているのだろう。

 百式家の戦車道。と言うより、俺の戦車道の掲げる信条なんて、今更掲げたところで何もない筈なのに。

 

 

「ちっ……もう良い」

 

 

 このままこの場に居ると、調子が狂う。そう思うと、俺は今居る倉庫から立ち去ろうとした。

 

 

「あっ、かずくん」

 

 

 離れた俺に、みほが心配そうな声を掛ける。

 俺はみほに顔だけ向けると、ぶっきらぼうに返した。

 

 

「近いうち、ちゃんとお前とは話すよ。だから今はほっといてくれ」

 

 

 そう言い残して、俺はみんなが見つめるなか倉庫から立ち去った。

 しかしその間、俺は生徒会長の目が気に食わなかった。

 俺が立ち去るまで、生徒会長は退屈そうに干し芋を頬張っていた。しかしその目は、表情とは違い……真摯な目をしていたことが、俺には無性に不快だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、みほ。百式君と幼馴染って言ってたけど、百式君って昔はどんな人だったの?」

 

 

 私の隣を歩いていた武部さんが、そんなことを唐突に訊いてきた。

 かずくんがⅣ号戦車があった倉庫から居なくなって、その後に生徒会の皆さんが倉庫にあったⅣ号戦車以外にもこの学園艦に見つかっていない戦車があるって話をしました。

 要するに私達の戦車道受講者の人数では、一両の戦車では足りなくて、他にも戦車が必要という話です。

 なので、倉庫に居た私達みんなで学園艦内に“あるはず”の戦車を各人で探すことになったのです。

 

 

「……かずくんのこと?」

「うん。さっきみほが昔は違ったってちらっと言ってたから、ちょっと気になって」

 

 

 武部さんの話に、私はなんて返そうか悩みました。

 先程、かずくんが私に昔の話をしないでくれと言っていたので、私は軽々しくかずくんのことを話す気もあまり起きませんでした。

 

 

「うーん……言ったけど……」

「あー、やっぱり言いにくい話だったりする?」

 

 

 私の話し方で、武部さんはなんとなく私が言いづらいことを察してくれました。

 それに私は頷くと、たどたどしく答えました。

 

 

「色々あったんだよ、かずくんにも。かずくんも私も同じような感じなんだけどね」

「みほって、確かこの学校に戦車道やりたくないから来たんだよね? てことは……百式君も?」

 

 

 私とかずくんの理由はかなり違うかもしれないけど、戦車道をやりたくないということは同じでした。

 倉庫で生徒会の皆さんとかずくんの言い争いで、武部さんもその点はなんとなく分かっているのだと思う。

 

 

「そう、だね……かずくんも昔は戦車道をやってたから」

 

 

 私が思わず乾いた笑みを浮かべる。昔の面影が全くなくなったかずくんのことが脳裏に浮かぶ。

 しかし倉庫のⅣ号戦車の私との一件で、かずくんはやっぱり“かずくん”なんだと分かりました。

 子供の頃。戦車のことになると周りが見えなくなる私を、いつもかずくんは呆れて怒ることがあったりしました。

 懐かしい感覚でした。昔はよくかずくんにおでこにデコピンをされたことがあったから……

 やっぱり変わってないんだな。まっすぐで、素直で、優しいところは本当に変わってない。

 どれだけ変わっても、かずくんの内面が変わっていないことが私は嬉しかったから。

 

 

「百式さんはいつも悲しそうな顔をされてます……みほさんのように百式さんにも何かあったんですか? 私達で良ければお力になれるかもしれませんので……」

 

 

 私と武部さんがそんなことを話していると、五十鈴さんが心配そうな顔でそう言いました。

 きっと五十鈴さんの言う通り、かずくんはずっとこの学校でそんな風に過ごしていたんだ。

 逃げる。と言うより、かずくんは自分から“手放した”んだと思う。私とは違って、かずくんはそうすることが一番なんだと思ったに違いない。

 認めてくれなかった。どんなに頑張っても、どれだけ上手くなっても、一部の人達は認めてくれなかったんだ。

 沢山の非難を受けてもまっすぐに前に進んで、ようやく沢山の人に認めてもらったのに……かずくんは“あの事件”で心が折れたんだと思う。

 私がかずくんと同じ立場だったら絶対に立ち直れない。私は間違いなくそう言えた。

 

 

「ありがとう、五十鈴さん。でも、私達でなんとか出来る話でもない気がするんだ」

 

 

 五十鈴さんに、私は心の中でごめんなさいと思いながらそう返す。

 私も、今は武部さんと五十鈴さんとなら――私の戦車道を見つけられそうな気がする。だから私は逃げた戦車道に、またもう一度少しだけ向き合うことにしたんだ。

 

 だけど、かずくんの場合は……そんな簡単な話ではない。

 

 かずくんの居た学校で彼の周りに居た人達が、かずくんを認めてくれなかった。だからあんなことが起きたんだと思うから。

 男の人が戦車道をする。それを認められる人は、きっとそんなに多くないと思うから。

 

 

「……そうですか。残念です……私達がお力になれれば良かったのですが」

「ありがとう、五十鈴さん。まだわからないけど、きっと私達がかずくんの力になれる時が来るかもしれないから、その時は協力してほしいな」

 

 

 五十鈴さんの優しさに、私は頬を緩める。自然と出てきた笑顔を、私は止めなかった。

 

 

「うーん、百式君って結構難しいんだね〜」

「色々あるのですよ、やっぱり」

 

 

 私の横を武部さんと五十鈴さんがそう話しながら通り過ぎていく。

 かずくんを二人が心配してくれていることに、私は胸が痛くなる。

 しかし今の私にはどうすることも出来ないことに、私自身も悔しいと思っていた。

 

 

「――西住殿」

 

 

 そんな時、後ろから誰かが私にそっと声を掛けてきました。

 私が振り向くと、そこには先程一緒に戦車を探すことになった同じ戦車道の選択科目の受講者――秋山優花里さんがいた。

 

 

「秋山さん? どうしたの?」

 

 

 私が小首を傾げて、秋山さんに問い掛ける。

 そんな私に、秋山さんは少し言いづらそうな表情を見せた。

 しかし秋山さんは私をじっと見つめると、はっきりと口を開いた。

 

 

「西住殿。自分、百式殿の話……知ってますよ」

「えっ……⁉︎ 秋山さん、知ってるの?」

 

 

 言葉を返すより、私は思わず目を大きくしていた。

 そして私が訊き返すと、秋山さんは「はい」と頷いた。

 

 

「百式殿の名前は西住殿がご存知の通り、戦車道界ではかなり有名です。私も勿論知っていましたし、あの話は一部ではかなり有名になってます」

 

 

 確かに秋山さんの言う通り、かずくんの名前は中高戦車道の世界では有名だ。もともと百式と言う名字ですら有名で、そして男で戦車道をしているということから知らずと名が広まったのだと思う。

 私はかずくんの入学した聖グロリアーナ女学院でのことは、お母さんから聞いた。お母さんが知っていたということは、つまり一部では知られている話なんだということに違いない。

 

 

「秋山さん……それ、誰かに話したりしたの?」

 

 

 思わず、私は秋山さんにすぐに訊いていた。

 しかし秋山さんはゆっくりと首を横に振りました。

 

 

「……流石に話せませんよ。内容が内容ですし、戦車道を実際にしたことがなかった私でさえかなり驚かされた話でしたから」

 

 

 顔を強張らせながら秋山さんが話す。その表情は心から不満な表情だということは、なんとなくわかった。

 

 

「正直な話、あの一件は百式殿の居た学校で戦車道のチームが解体されてもおかしくない話です。もちろん、その話は実際にあったみたいですが」

「……そうなんだ」

 

 

 その話は、私は初耳でした。

 私がお母さんから聞いたのは、かずくんが前に居た学校で事故に遭い、そして学校から姿を消したということだけだった。

 確かに、考えればあれだけのことが起きたのだからチームが解散になってもおかしくない事件だった。

 しかし私が前に居た黒森峰女学院で、かずくんが居た聖グロリアーナ女学院とは全国大会の時に試合をしたことがある。

 と言うことは、実際に戦車道チームは解散にならなかったんだ。

 

 

「噂では、百式殿が色々と抗議したみたいです」

 

 

 秋山さんの話に、私は内心で納得した。

 多分、かずくんが何かしたんだと思う。そうじゃないと聖グロリアーナはもう戦車道をすることはできなくなったはずだから。

 

 

「私も百式殿とお話をしてみたい所存だったのですが、あの話を知ってるだけで話しかけにくかったです」

 

 

 言葉の声色から心から残念だということが感じられました。

 先程、初めて秋山さんと会って今まで何度か話をしてわかったことですが……私はこの人は本当に戦車が好きなんだなと感じた。

 言葉の端々から、戦車のことを話しているのが楽しいのだと分かる。

 あの戦車がカッコいい。あの戦車が好き。どこの国の戦車がすごいなど沢山のことを先程に秋山さんは話していた。

 まるで……昔のかずくんを見ているみたいな感じだった。

 そう言えば、かずくんもお姉ちゃんとよく戦車の話をしていた気がする。

 少しだけ、戦車のこと以外無頓着な私のお姉ちゃん。戦車に全てを捧げてきたお姉ちゃんと同じく戦車が大好きなかずくんの話は絶えることはなかったです。

 脳裏に浮かぶ光景が懐かしく私は、秋山さんのそんな姿にほんの少しだけほっこりとしてしまいました。

 

 私も、またかずくんと戦車の話とか……してみたい、かも?

 

 少しだけ苦手意識があるけど、かずくんとまたお話しできるのなら……私はそれでも良いかもと思ったりしました。

 

 

「……え、秋山さんも百式君のこと知ってるの?」

 

 

 私と秋山さんが話していると、先を歩いていた武部さんが目を大きくして私達を見つめていました。

 先を歩いているから聞いてないかと思っていたけど、意外と聞こえていたみたいです。

 

 

「西住殿……どうします?」

 

 

 秋山さんが、ポツリと私に訊いてきました。

 多分、武部さんと五十鈴さんに話すの? と言う意味だと思います。

 

 

「…………」

 

 

 私は、言葉に詰まりました。話して良いのか、やはり悩んでしまいました。

 生徒会の皆さんみたいに、無理強いをすることは絶対にない。でも……かずくんが本当に心で戦車道をしたいなら、私は背中を押してあげたいと思った。

 倉庫でⅣ号戦車の一件の時、かずくんは少し生き生きとした表情をしていた気がするから。

 私と少しだけお話ししていたかずくんは、教室にいる時の暗い表情ではなくて……昔の頃の表情が見えた気がしたから。

 だけど、私は悩みます。私も同じことをされたら、どんな気持ちになるのかなと。

 かずくんの気持ちは、私にはわかりません。だから、私はどうするか悩みました。

 

 

『みほ、お前はきっと自分の道を見つける日が来る。西住家の戦車道じゃなくて……お前の戦車道を見つけられる日が来たら、それを大事にするんだぞ』

 

 

 ふと、そんな言葉を思い出しました。

 随分と前に、中学生の頃に私がお母さんに叱られた時に、地元の公園で泣いていた私に言ったかずくんの言葉でした。

 あの頃は、よく言っている意味が分からなかった。

 だけど、今ならわかる気がする。今、まさに私は自分の戦車道を見つけようとしているから。

 

 なら、かずくんは……?

 かずくんは、まだ戦車道をやりたいの?

 先程のⅣ号戦車の時のかずくんは、どんな気持ちだったの?

 

 私は考えますが、はっきりとした答えは出なかったです。

 しかし私は、あの時のかずくんの表情が嘘ではないと思いたかった。

 本当に、かずくんが戦車道を心から嫌いになっていないのなら……私は、彼の背中を押してあげたい。

 

 私は心の中でそう思い、納得すると一度だけ一人で頷きました。

 そして私を見ていた武部さんと五十鈴さんに、私はまっすぐに向き合うと、一度だけ頭を下げて言いました。

 

 

「――武部さん、五十鈴さん。良かったら聞いてもらえますか? かずくんの話を……かずくんが本当に戦車道をやりたいなら、背中を押してあげたいんです!」

 

 

 武部さんと五十鈴さんが二人で顔を見合わせる。そして二人が頷くと、私に笑みを見せました。

 

 

「もちろん!」

「私達がお力になれるなら、喜んで」

 

 

 頷いて私にそう話してくれた二人に、私は「ありがとう」と返しました。

 本当に、かずくんが戦車道をしたくないなら私はそれでも良い。

 でも、まだ戦車道をしたいと思っているのなら……私はかずくんを支えてあげたいと思ったから。




筆が遅い作者で申し訳ないです。
時間がある時に書かせては頂いているので、ご了承ください。

さて、この時点でそれぞれの考えが交差してます。
和麻の戦車道に対する考え、どうして自分はまだ戦車道のことを考えているのか?
みほの和麻に対する考え、和麻は本当に戦車道が嫌いになっているのか?

和麻が実際にどんな反応をするのか、今後にお待ちを


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