GIRLS und PANZER〜少年は戦車道になにを望むか〜   作:紅葉久

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お待たせしました。
今回は少し難産でした。
次の話の繋ぎみたいな回です。



4.サボることは、決して良いことではない

 

 

 

 最近、ふと妙な視線を感じることが多くなった。

 それは昔、俺が戦車道をしていた頃に感じたことがある嫌な視線ではなく、ただ見られているだけの感覚だった。

 別に特別不快ではない。しかしただ見られていると言うのは、どうしてか気分が悪いと思うのは仕方のないことだと思う。

 そんな妙な視線を感じて数日経つ。最初は誰か全くわからなかったが、ようやく今日で誰か見当がついた。

 

 

「おい、武部。お前、俺に何か言いたいことでもあるのか?」

 

 

 その視線の主である一人。学校の教室で隣の席に座る武部沙織に、俺は朝のホームルームが始まる前の時間にそう問い掛けた。

 

 

「へ……? な、なんのこと?」

 

 

 きょとんとした表情で、武部がたどたどしく返した。

 武部、お前もう少しまともに嘘を付けないのかよ……

 分かりやすい女だった。とりあえず俺は眉を寄せると、武部に溜息混じりに言った。

 

 

「何を聞いたか知らないが、言いたいことあるならはっきりと言ってくれ。ずっと見られてるだけってのは意外と気分が悪い」

 

 

 本当は俺から武部に話し掛ける気などなかった。しかしただ見られていると言うのは思いのほか、気分が良いものではない。

 俺はどうせ以前に学内の倉庫で生徒会と揉めた一件のことだろうと見当をつける。

 生徒会長辺りが何か言ったのだろう。俺にはそれぐらいしか思い当たる節がなかった。

 

 

「ベ、別に百式君のことなんて見てないもん!」

 

 

 頬を膨らませる武部だったが、俺は頬杖を突きながら小さな溜息を漏らす。

 

 

「……生徒会長から何か聞いたのか? それに俺は答える気は全くないが」

 

 

 武部が何について聞いたかは大体察することが出来る。多分、俺の昔の話でも聞いたのだろう。

 戦車道受講が何人もいる倉庫で生徒会長は“あんなこと”をワザとらしく言ったのだ。俺のことを平然と話しても何もおかしくはない。

 

 

「一昨日の倉庫のこと? 生徒会長からは何も聞いてないよ?」

「生徒会長からは……ねぇ」

 

 

 俺の返しに、武部は「あ……」と声を出した。

 この女……絶対に嘘とかつけないタイプの人間だ。俺は確信を持ってそう思った。

 生徒会長からは何も聞いてない。なら、俺のことを知ってるような人間は……

 

 

「……みほか?」

 

 

 思いついた心当たりの名を俺は武部に言った。

 消去法で出てきた人間は、一人しか居なかった。

 しかしあのみほが簡単に人の過去を話すような女でもないのは、長い付き合いだから知っている。

 

 

「ち、違うよ! みほは何も言ってないよ!」

「語るに落ちるって言葉、お前知ってるか?」

 

 

 武部の分かりやすい反応に、俺は苦笑する。

 しかしみほが言った、と言うのも妙だった。彼女は俺が知る限り、人の嫌がることを極力避ける人間だ。

 他に考えられることがあるとすれば、みほ以外に俺のことを知っている人が学園艦内にいる。それもあり得る話だ。

 戦車道にかなり精通している人間なら、一応“あの話が広まらないようにしていた”としても知っていてもおかしくない。

 例えば、みほの母である西住流の西住しほさん。または日本の自衛官である蝶野亜美さんなどが挙げられる。

 戦車道の顔とも言われる人達ならば、知っていてもおかしくない。しかしこの大洗学園艦にそんなに戦車道に精通している人間がいるのかというのは、正直なところ怪しいと思えた。

 

 

「俺の昔のことを聞いてるなら別に良い。誰に聞いたかは聞かない……だけどな。ただ見るくらいならハッキリと言え。その方が楽だ」

 

 

 武部にハッキリと俺は告げる。言いたいことがあるなら言えと。

 武部はそんな俺に、目を伏せる。そして彼女は何か考えるように顎に指を添えた。

 そして数秒して、武部は俺を恐る恐るチラリと見ると、彼女は言った。

 

 

「ねぇ、百式君。百式君って……昔は戦車、好きだった?」

 

 

 その言葉に、俺は眉を寄せた。

 なんで戦車に乗らないの。でもなく、なんで戦車が嫌いなのか。でもなく……昔は好きだったと聞いてきたか。

 俺は一瞬、口を(つぐ)んだ。しかし俺は口を開くと、思ったことを正直に告げていた。

 

 

「さぁな……分からなくなった。それだけだ」

 

 

 俺が昔に戦車道をしていたことを、既に武部は知っている。だから特別隠すことはなかった。

 嫌い、そう言えば良いはずだったのに。どうしてかそれが出ず、俺は曖昧な返事を出していた。

 

 

「そっか……じゃあそれって、また百式君が戦車に乗れるかもしれないってことで良いの?」

「ないな。俺は、もう戦車に乗らない」

 

 

 しかしこの答えは、すんなりと出てきた。

 俺は、戦車にもう乗らない。正しくは、もう戦車道をする為に戦車には乗らないと言えば正しいだろう。

 俺は戦車道をするべきではない。その答えを既に得ている俺は、ただそう答えた。

 

 

「どうして?」

 

 

 俺の答えに、武部が訊いてくる。

 その質問に俺が「別にお前には関係ない」と答えようとした。

 

 

「別に――」

 

 

 武部が質問してきた瞬間に、俺は呆れながらその答えを返そうと口を開いたところで――言葉に詰まった。

 

 

「どうして、百式君は戦車に乗りたくないの?」

 

 

 武部の目を見た途端、俺は言葉に詰まっていた。

 どうしてこの女は……そんな目を俺に向けるのかと、俺は素直に戸惑ったからだ。

 興味本位でなく、哀れみでもなく、ただ真剣に俺を見つめる武部の目に、俺は口を噤んだ。

 いつも見る気の抜けた表情でなく、ただ真剣に俺に問いかけている武部が俺には理解できなかった。

 

 

「…………」

 

 

 この目を向ける人間を、俺はしばらく見たことはなかった。

 脳裏に浮かぶのは、金髪の淑女。しかし俺はそれは脳裏から追い出すと、武部の視線から目を逸らしていた。

 言葉を返さない俺に、武部が黙って俺の返事を待つ。

 俺に、武部の質問に答える言葉はない。そんな答えなど、持ち合わせていない。

 いや、答えはある。しかしその言葉を俺は、口に出来ずにいた。

 

 嫌い。たった一言言うだけで良いのに、何故俺はその言葉を出すことを躊躇っているのか?

 

 多分、俺は分かっているのだろう。認めようとしてないだけで、分かろうとしてない。

 

 

「……男が戦車に乗るもんじゃない、ただそれだけの話なんだよ」

 

 

 気がつくと、そう言っていた。

 それに気がついた俺が反射的に席を立つ。そして武部の反応を見ることなく、俺は教室から出て行った。

 武部がどんな顔をしていたかなど、見たくもなかった。

 

 

「……調子が狂う」

 

 

 ホームルームのチャイムが鳴るなか、俺はポツリと呟いた。

 誰もいない廊下を一人で歩く。目的地は、いつも通りに校舎の適当な芝生。

 午後のホームルームに顔を出せば良いだろう。先生には小言を言われるが、別に良い。

 戦車の話は、もう勘弁してほしい。どうしても戦車の話をしていると調子が狂うから。

 何故か苛立つ。ぶつける場のない苛立ちが、無性に腹が立つ。

 

 

「寝よう。寝れば少しは忘れられる」

 

 

 モヤモヤとする感覚が苛立ちを増す。惰眠を貪れば多少は解消されると願いながら、俺は目的の場所へと向かうことにした。

 

 

 

 

「かずくん……どこ行くの?」

「…………あ?」

 

 

 

 声を掛けられたことへ反応するのに、少し時間が掛かった。

 誰もいないはずの廊下で、まさか声を掛けられるとは思ってもいなかった。

 俺が声の方に振り向くと、そこには学生鞄を肩に掛けたみほが居た。

 

 

「……遅刻かよ」

 

 

 素っ気なく、俺はそう言った。

 そんな俺に、みほは「あはは……」と乾いた笑いをすると居心地が悪そうに頬を掻いた。

 

 

「ちょっとね。眠たそうな人が居て、心配だから一緒に登校して来たらこんな時間になったの」

「なんだそれ……?」

 

 

 訳のわからないことを言い出したみほに、俺は顔を(しか)めた。

 とりあえずはみほは遅刻した。それだけは確かということだけ、俺は理解することにした。

 

 

「まぁ良い、さっさと教室に行ってこい。もうホームルーム始まってるぞ」

「あっ……うん」

 

 

 顎で教室の方を指して、俺がみほに告げる。

 そして俺は当初の目的だった校舎の外へ向かおうと、みほの横を通り過ぎていく。

 みほがチラリと俺を見つめてくる。しかし俺は特別気にすることなく、彼女に背を向けて歩き出した。

 

 

「みほが遅刻ねぇ、珍しいこともあるもんだ」

 

 

 みほと分かれて、俺は二階から階段で一階に降りる。そして昇降口で上靴から外靴に履き替えて外へ出て、少し歩けばいつもの場所に到着だ。

 しかし俺が靴を履き替えたところで、俺は思わず言っていた。

 

 

「みほ……お前、いつまでついてくるつもりだ?」

 

 

 俺の後ろにいるみほに、俺は思わず言っていた。

 何故かみほも上靴から外靴に履き替えている。彼女の靴を見て、俺は眉を寄せていた。

 

 

「……なんとなく、かな?」

 

 

 どうして疑問系なのかは、聞かないことにした。

 俺は溜息を吐くと、みほに呆れた視線を向けた。

 

 

「ついてくるな。さっさと教室に行け」

「……私も、今日はサボろうかな?」

「……はぁ?」

 

 

 みほから出てきた言葉に、俺は耳を疑った。

 まさかみほからサボるなんて言葉が出てきるとは、夢にも思ってなかった。

 

 

「どういう風の吹き回しだ? お前がサボるなんて?」

 

 

 思わず、俺はみほにそう訊いていた。

 みほは「えへへ……」と小さな笑みを見せると、俺の隣に立っていた。

 

 

「かずくんと話す機会、あんまりなかったから……良い機会かなって」

 

 

 頭を抱えたくなった。そんなしょうもない理由で、この女は授業をサボろうとしていることに。

 

 

「俺と一緒に居ても良いことないぞ。さっさと戻れって」

「ううん、決めたから。私もサボるよ」

「お前な……戻れって」

「ううん、戻らないよ」

 

 

 首を横に振るみほに、俺は呆れ果てた。

 昔の付き合いから分かる。一度こうなると、みほはまず折れないことを。

 みほの頑固なところは、本当に姉妹揃って似ている。いや、家族揃ってか?

 俺は呆れ果てて溜息を吐き出すと「好きにしろ」と言って、先に歩き出した。

 

 

「あ! かずくん! 待ってよ!」

「うるさい、勝手にしろ」

 

 

 慌てて追いかけてくるみほに、俺は淡白な返事を返す。

 昼寝、出来そうにないな……これは。

 隣を歩くみほをチラリと見ながら、俺は肩を落とす。

 一年振りに会った幼馴染と授業をサボる、か。

 まさかみほと授業をサボる日が来るとは思ってもみなかった。

 

 

「かずくん、久しぶりにお話ししようよ」

 

 

 みほが楽しげに言ってくる。何をこの女は楽しげにサボろうとしてるんだ?

 みほの切り替えの早さに、俺は引き攣った笑いを浮かべる。

 

 

「気が向いたらな」

「えぇーダメ?」

「気分が良かったらしてやる。黙ってついて来い」

「むぅ、かずくんの意地悪」

「はいはい」

 

 

 みほに軽口を返して、俺は目的地へと向かう。

 まぁ、互いに聞くことは色々とあるだろう。

 俺がこの学校にいる理由。みほがこの学校にいる理由。

 多分、みほも何か抱えているかもしれない。そんな気がする。

 そんな予感を感じながら、俺は隣を歩くみほに一言だけ訊いた。

 

 

「みほ、お前の戦車道は見つかったか?」

 

 

 俺の質問に、みほが少しだけ息を飲んだのが聞こえた。

 歩く歩幅を変えずに淡々と訊いた俺に、みほは首を横に振った。

 

 

「ううん、まだ見つかってないよ」

「そっか……」

 

 

 みほの悲しげな表情に、俺は素っ気なく返す。

 なんとなく今のみほに、俺と同じ雰囲気を感じたのは……どうしてだろうか?

 妙に印象的だったみほの表情に、俺はそんな疑問を感じた。

 

 しかし俺は、なんでみほにあんな質問をしたのか?

 

 そのこと自体に疑問を感じながら、俺はただ目的地へと向かった。




感想、評価を下さった方々へ感謝を。
筆が遅い作者ですが、ご容赦を。

次回、みほと和麻のちゃんとした対面です。
今までみほと話すことを避けていた和麻が、彼女と話す回になる……予定?

みほが言っていた眠たそうな人、一体誰ですかね?

少し本編と違う構成ですが、気にしないで頂けると幸いです。
感想、評価等はお気軽にどうぞ。頂ければ、作者はより一層頑張れます!(>人<;)

それと作者はTwitterしてます。
@akaba_hisa
取り留めのないこと、執筆に関することやら作品の執筆状況など呟いてます。
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