異世界にて最強問題児を監視するそうですよ!?   作:問題児愛

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原作とさほど変わらないので流し読み推奨。


十章 侵入者と作戦

 黒ウサギ達がお風呂に入っているなか、十六夜と万由里は館を出てコミュニティの子供達が眠る別館の前に来ていた。

 十六夜がその前で仁王立ちするかの如く腕を組んで立ち尽くし、それを十六夜の傍で見守る万由里。

 

「おーい………そろそろ決めてくれねえと、俺らが風呂に入れねえだろうが」

 

 ザァ、と風が木々を揺らす。十六夜は面倒くさそうな顔をしながら誰かに話しかけるように独り言を続ける。

 

「ここを襲うのか?襲わねえのか?やるならいい加減に覚悟決めてかかってこいよ」

 

 ザザァ、ともう一度だけ風が木々を揺らす。呆れたように石を幾つか拾った十六夜は、木陰に向かって軽く投石した。

 

「よっ!」

 

 ズドガァン!とデタラメな爆発音が辺り一帯の木々を吹き飛ばし、同時に現れた人影を空中高く蹴散らせ、別館の窓ガラスに振動を奔らせる。

 万由里がそのデタラメ加減を呆れ顔で見つめていると、別館から何事かと慌ててジンが出てきた。

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

「侵入者っぽいぞ。例の〝フォレス・ガロ〟の連中じゃねえか?」

 

「その侵入者はあんたの一撃で吹き飛んだけどね」

 

「出てこない方が悪い」

 

 万由里の指摘にしれっと返す十六夜。そんななか、空中からドサドサと黒い影と瓦礫が落ちてくる。

 意識のある者は辛うじて立ち上がり、十六夜達三人を見つめる。

 

「な、なんというデタラメな力………!蛇神を倒したというのは本当の話だったのか」

 

「ああ………これならガルドの奴とのゲームに勝てるかもしれない………!」

 

 侵入者に敵意はなく、それに気づいた十六夜は侵入者に歩み寄って声をかける。

 

「おお?なんだお前ら、人間じゃねえのか?」

 

 十六夜の言うように、侵入者は人間と呼べる者ではなかった。

 犬の耳を持つ者、長い体毛と爪を持つ者、爬虫類のような瞳を持つ者。

 十六夜は物色するように彼らを興味深く見つめる。

 

「我々は人をベースに様々な〝獣〟のギフトを持つ者。しかしギフトの格が低いため、このような半端な変幻しか出来ないのだ」

 

「へえ………で、何か話をしたくて襲わなかったんだろ?ほれ、さっさと話せ」

 

 十六夜はにこやかに話しかける。しかし侵入者は全員、沈鬱そうに黙り込む。

 互いに目配せをした後、意を決したように頭を下げて、

 

「恥を忍んで頼む!我々の………いえ、魔王の傘下であるコミュニティ〝フォレス・ガロ〟を、完膚無きまでに叩き潰してはいただけないでしょうか!!」

 

「嫌だね」

 

 決死の言葉をサラリと一蹴する十六夜。侵入者は絶句して固まり、万由里の隣で様子を窺っていたジンも呆気に取られたように半口を開けている。

 万由里も微かに眉根を寄せて十六夜を見つめる。十六夜は一転してつまらない顔になり、背を向けた。

 

「どうせお前らもガルドって奴に人質を取られている連中だろ?命令されてガキを拉致しに来たってところか?」

 

「は、はい。まさかそこまでお見通しだとは露知らず失礼な真似を………我々も人質を取られている身分、ガルドには逆らうこともできず」

 

「ああ、その人質な。もうこの世にいねえから。はいこの話題終了」

 

「―――――………なっ」

 

「十六夜さん!!」

 

 ジンが慌てて割って入る。しかし十六夜はジンにも冷たい声音で接する。

 

「隠す必要あるのかよ。お前らが明日のギフトゲームに勝ったら全部知れ渡る事だろ?」

 

「そ、それにしたって言い方というものがあるでしょう!!」

 

「ハッ、気を使えって事か?冗談キツいぞ御チビ様。よく考えてみろよ。殺された人質を攫ってきたのは誰だ?他でもないコイツらだろうが」

 

 はっとジンは振り返る。十六夜の言い分はもっともだ。人質救出のために新たな人質を攫っている可能性があるとすれば、彼らが殺したと言っても過言ではない。

 

「悪党狩りってのはカッコいいけどな。同じ穴の狢に頼まれてまでやらねえよ、俺は」

 

「そ、それでは、本当に人質は」

 

「………はい。ガルドは人質を攫ったその日に殺していたそうです」

 

「そんな………!」

 

 侵入者は全員、その場で項垂れる。

 万由里が静かに傍観しているなか、十六夜はふっと閃いたように振り返り、まるで新しい悪戯を思いついた子供のような笑顔で侵入者の肩を叩き、

 

「お前達、〝フォレス・ガロ〟とガルドが憎いか?叩き潰されて欲しいか?」

 

「あ、当たり前だ!俺達がアイツのせいでどんな目にあってきたか………!」

 

「そうかそうか。でもお前達にはそれをするだけの力はないと?」

 

 ぐっと唇を噛み締める男達。

 

「ア、アイツはあれでも魔王の配下。ギフトの格も遥かに上だ。俺達がゲームを挑んでも勝てるはずがない!いや、万が一勝てても魔王に目をつけられたら」

 

「その〝魔王〟を倒すためのコミュニティがあるとしたら?」

 

 え?と万由里が声を漏らし、侵入者全員が顔を上げる。十六夜はジンの肩を抱き寄せると、

 

「このジン坊っちゃんが、魔王を倒すためのコミュニティを作ると言っているんだ」

 

「なっ!?」

 

 これには侵入者全員含め、ジンと静観していた万由里でさえ驚愕した。

 侵入者は困惑して聞き直す。

 

「魔王を倒すためのコミュニティ………?そ、それは一体」

 

「言葉の通りさ。俺達は魔王のコミュニティ、その傘下も含め全てのコミュニティを魔王の脅威から守る。そして守られるコミュニティは口を揃えてこう言ってくれ。〝押し売り・勧誘・魔王関係お断り。まずはジン=ラッセルのもとに問い合わせてください〟」

 

「じょ、」

 

 冗談でしょう!?と言いたかったジンの口を塞ぐ十六夜。彼は何処までも本気だ。

 十六夜は勢いよく立ち上がり、まるで強風を受け止めるように腕を広げ、

 

「人質の事は残念だった。だけど安心していい。明日ジン=ラッセル率いるメンバーがお前達の仇を取ってくれる!その後の心配もしなくていいぞ!なぜなら俺達のジン=ラッセルが〝魔王〟を倒すために立ち上がったのだから!」

 

「おお………!」

 

 大仰な口調で語る十六夜。それに希望を見る侵入者一同。

 ジンは必死に腕の中でもがくが、十六夜の馬鹿力に押さえつけられ声も出ない。

 

「さあ、コミュニティに帰るんだ!そして仲間のコミュニティに言いふらせ!俺達のジン=ラッセルが〝魔王〟を倒してくれると!」

 

「わ、わかった!明日は頑張ってくれジン坊っちゃん!」

 

「ま………待っ………!」

 

 ジンの叫びも届かず、あっという間に走り去る侵入者一同。

 腕を解かれたジンは茫然自失になって膝を折る。万由里も痛い頭を抱えるのだった。

 

――――――――――――――――――――

 

 場所は替わり、本拠の最上階・大広間。十六夜を引き摺って連れてきたジンは、堪りかねて大声で叫んだ。

 

「どういうつもりですか!?」

 

「〝打倒魔王〟が〝打倒全ての魔王とその関係者〟になっただけだろ。〝魔王にお困りの方、ジン=ラッセルまでご連絡ください〟―――キャッチフレーズはこんなところか?」

 

「全然笑えませんし笑い事じゃありません!魔王の力はこのコミュニティの入口を見て理解できたでしょう!?」

 

「勿論。あんな面白そうな力を持った奴とゲームで戦えるなんて最高じゃねえか」

 

 魔王との戦いを希望する十六夜。ジンは絶句し、十六夜の行動を問いただす。

 

「お………面白そう?では十六夜さんは自分の趣味のためにコミュニティを滅亡に追いやるつもりですか?」

 

 ジンの口調も厳しい。十六夜の監視のためについてきた万由里も、彼の身勝手な発言には頭を抱えていた。

 だがそんな彼でも、徒にコミュニティを破滅に追い込むような真似はしないと思っているがために、万由里は口出しをしない。

 十六夜は軽薄な笑いを浮かべたまま、

 

「いいや。これはコミュニティの発展に必要不可欠な作戦だ」

 

「作戦?………どういうことです?」

 

「先に確認したいんだがな。御チビは俺達を呼び出して、どうやって魔王と戦うつもりだったんだ?あの廃墟を作った奴や、白夜叉みたいな力を持つのが〝魔王〟なんだろ?」

 

 ぐっとジンは黙り込む。万由里もその方針には多少なりとも興味があった。旗印や仲間を取り戻すためなのだから、ただ呼び出しただけの無計画というわけではないはずだ。

 ジンは幼い知恵を駆使して答える。

 

「まず………水源を確保するつもりでした。新しい人材と作戦を的確に組めば、水神クラスは無理でも水を確保する方法はありましたから。けどそれに関しては十六夜さんが想像以上の成果を上げてくれたので素直に感謝しています」

 

「おう、感謝しつくせ」

 

 ケラケラ笑う十六夜を無視してジンは続ける。

 

「ギフトゲームを堅実にクリアしていけばコミュニティは必ず強くなります。たとえ力のない同士が呼び出されたとしても、力を合わせればコミュニティは大きくできます。ましてやこれだけ才ある方々が揃えば………どんなギフトゲームにも対抗できたはず」

 

「期待一杯、胸一杯だったわけか」

 

 十六夜は全く悪びれた様子はない。ジンは我慢できずに口調を崩して叫んだ。

 

「それなのに………それなのに、十六夜さんは自分の娯楽のためだけにコミュニティを危機に晒し陥れるような真似をした!!魔王を倒すためのコミュニティなんて馬鹿げた宣誓が流布されたら最後、魔王とのゲームは不可避になるんですよ!?そのことを本当に貴方は分かっているのですか!?」

 

「ちょっと待って」

 

 ジンは叫ぶと同時に大広間の壁を強く叩いた。それに今まで静観していた万由里が待ったをかけた。

 

「え?万由里さん………?」

 

「たしかにその男は魔王と戦いたがっているどうしようもない人だけど………作戦って言うからには何かあるんじゃない?」

 

「………何か、ですか?」

 

「ん」

 

 万由里は頷く。すると十六夜がへえ?と意外そうな顔で万由里を見つめた。

 

「オマエがそう言うとは思わなかったぜ。一体どういう風の吹き回しだ?」

 

「別に。深い意味はないわ」

 

「そうか。………しかし、御チビには失望したぜ。そんな机上の空論で再建がどうの、誇りがどうのと言っていたのかよ」

 

「な、」

 

「ギフトゲームに参加して力をつける?そんなもんは大前提だ。俺が聞いているのは魔王にどうやって勝つかだ」

 

「だ、だからギフトゲームに参加して力をつけて」

 

「じゃあ前のコミュニティはギフトゲームに参加して、力をつけていなかったのか?」

 

「そ………それは」

 

 ジンは言葉に詰まる。十六夜は間を置かず畳み掛ける。

 

「加えて聞くが、前のコミュニティが大きくなったのはギフトゲームだけだったのか?」

 

「………。いえ」

 

「俺達には名前も旗印もない。コミュニティを象徴できる物が何一つないわけだ。これじゃコミュニティの存在は口コミでも広まりようがない。だからこそ俺達を呼んだんだろ?」

 

「……………」

 

「今のままじゃ物を売買するときに、無記名でサインするのと大して変わらねえ。〝サウザンドアイズ〟が〝ノーネーム〟を客として扱わなかったのは当然だろうよ。〝ノーネーム〟ってのは所詮、名前のないその他大勢でしかない。だから信用すると危険なんだ。そのハンディキャップを背負ったまま、お前は先代のコミュニティを越えなきゃいけないんだぜ?」

 

「先代を……超える………!?」

 

 ジンはその事実に、金槌で頭を叩かれたような気がした。

 言い返す事も出来ないジンに、呆れたように追い打ちをかける。

 

「その様子だと、ホントに何も考えてなかったんだなオマエ」

 

「……………っ」

 

 ジンは悔しさと、言葉にした責任の大きさで顔を上げられなかった。

 しかし十六夜はジンの肩を力強く握り締め、悪戯っぽく笑い、

 

「名も旗もないとなると―――他にはもう、リーダーの名前を売り込むしかないよな?」

 

 ハッとジンは顔を上げた。彼は十六夜の意図に気づき、

 

「僕を担ぎ上げて………コミュニティの存在をアピールするということですか?」

 

「ああ。悪くない手だろ?」

 

 自慢げに笑う十六夜。彼の言葉を脳内で何度も反芻したジンは、その作戦について真剣に考え始める。

 

「た、確かに………それは有効な手段です。リーダーがコミュニティの顔役になってコミュニティの存在をアピールすれば………名と旗に匹敵する信用を得られるかも」

 

「けどそれだけじゃ足りねえ。噂を大きく広めるにはインパクトが足りない。だからジン=ラッセルという少年が〝打倒魔王〟を掲げ、一味に一度でも勝利したという事実があれば―――それは必ず波紋になって広がるはず。そしてそれに反応するのは魔王だけじゃない」

 

「そ、それは誰に?」

 

「同じく〝打倒魔王〟を胸に秘めた奴らに、だ」

 

 魔王によってコミュニティを崩壊させられた者達が、〝ノーネーム〟と同じように打倒魔王を胸に秘めている可能性は高い。

 ジンは想像もしていなかった具体的な作戦に、胸を高鳴らせていた。

 

「僕の名前でコミュニティの存在を広める………」

 

「そう。今回の一件はチャンスだ。相手は魔王の傘下、しかも勝てるゲーム。被害者は数多のコミュニティ。ここでしっかり御チビの名前を売れば………ま、御チビ様が懸念するように他の魔王を引き寄せる可能性は大きいだろうよ。けど魔王を倒した前例もあるはずだ。そうだろ?」

 

「今のコミュニティに足りないのはまず人材だ。俺並みとは贅沢言わないが、俺の足並みは欲しい。けど伸るか反るかは御チビ次第。他にカッコいい作戦があるなら、協力は惜しまんぜ?」

 

 ニヤニヤと笑う十六夜の顔をジンは見つめ直す。怒りはないが、まだ大きな不安要素が残っていた。それを踏まえた上で、ジンは条件を出す。

 

「一つだけ条件があります。今度開かれる〝サウザンドアイズ〟のギフトゲームに、十六夜さんと万由里さんの二人で参加してもらってもいいですか?」

 

「なんだ?俺と万由里の力を見せろってことか?」

 

「ちょっと待って。参加するのは構わないけど、私の役目はあくまでも十六夜の監視よ。援護射撃くらいしか出来ないんだけど」

 

「え?そうなんですか!?」

 

 ジンが驚きの表情で万由里を見つめる。それに十六夜はヤハハと笑い、

 

「問題ねえよ。俺一人でも平気だが監視の必要があるならオマエも出場していいぜ」

 

「そ。ならあんたの邪魔にならない程度に援護してあげるわね」

 

「おう」

 

 十六夜の相変わらずの傲慢さに呆れる万由里。ジンは苦笑を零しつつも、話を続けた。

 

「お二人の力もそうですが、理由はもう一つあります。このゲームには僕らが取り戻さなければならない、もう一つの大事な物が出品される」

 

「まさか………昔の仲間か?」

 

「はい。それもただの仲間ではありません。元・魔王だった仲間です」

 

 元・魔王というフレーズに万由里が驚き、十六夜も瞳を光らせる。

 

「へぇ?元・魔王様が昔の仲間か。コレの意味する事は多いぜ?」

 

「はい。お察しの通り、先代のコミュニティは魔王と戦って勝利した経験があります」

 

「そして魔王を隷属させたコミュニティでさえ滅ぼせる―――仮称・超魔王とも呼べる超素敵ネーミングな奴も存在している、と」

 

「そ、そんなネーミングで呼ばれてはいません。魔王にも力関係はありますし、十人十色です。白夜叉様も〝主催者権限〟を持っていますが、今はもう魔王とは呼ばれていません。魔王とはあくまで〝主催者権限〟を悪用する者達の事ですから」

 

「ゲームの主催はその〝サウザンドアイズ〟の幹部の一人です。僕らを倒した魔王と何らかの取引をして仲間の所有権を手に入れたのでしょう。相手は商業コミュニティですし、金品で手を打てればよかったのですが………」

 

「貧乏は辛いってことか。とにかく俺達はその元・魔王様の仲間を取り戻せばいいんだな?」

 

「はい。それが出来れば対魔王の準備も可能になりますし、僕も十六夜さんの作戦を支持します。ですから黒ウサギにはまだ内密に………」

 

「あいよ」

 

「ん、わかった」

 

 十六夜が席を立ち、自室に戻る時、ふと閃いたようにジンに声をかけた。

 

「明日のゲーム、負けるなよ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「負けたら俺、コミュニティを抜けるから」

 

「はい。………え?」

 

「え?」

 

 驚くジンと万由里。そして万由里はジンの肩に手を置き、

 

「ジン。絶対に勝って」

 

「え?あ、はい!」

 

 どういう意図かは分からないが力強く返事をするジン。万由里はそれを確認して自室に戻ろうとしたら、十六夜が待ったをかけた。

 

「待ちな」

 

「………なに?」

 

「御チビに言った〝絶対に勝て〟ってのはどういう意味だ?」

 

「……………」

 

 万由里は一瞬躊躇ったが、コレぐらいは教えても問題ないだろう、と思い答えた。

 

「それは………あんたにこのコミュニティから抜けられると困るからよ」

 

「誰が困るんだ?」

 

「………私が、ね」

 

「………ふうん」

 

 万由里はそれだけを言い残すと、さっさと自室に戻っていった。

 廊下で一人、残った十六夜はニヤリと笑い呟く。

 

「なるほどな。詳しい事情は不明だが―――アイツが俺を監視する理由はそれか。………なら、コイツはいいネタになりそうだ」

 

 万由里をからかうネタを得た十六夜は、くっくっと喉を鳴らして笑うのだった。

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