異世界にて最強問題児を監視するそうですよ!?   作:問題児愛

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十二章 返還式と訪問者

 ゲームが終わり、〝フォレス・ガロ〟の解散令が出たのは間もなくのことだった。

 居住区から避難していた人間は鬼化した木々が消えたのを知り門前に集まっていた。

 

「そうですか………ガルドは貴方たちが」

 

「はい。人質の件に関しては〝階層支配者(フロアマスター)〟にも連絡してあります。〝六百六十六の獣〟が沽券を理由に元〝フォレス・ガロ〟のメンバーを襲う事もないでしょう」

 

 ざわざわと衆人に声が広がる。しかし歓声のようなものは少なく、不安がある者や、人質が殺されたと知った者達はその場で泣き崩れている。

 代表者の男はその原因を恐る恐るジンに切り出す。

 

「一つ、とても重要な事をお聞きしたい」

 

「何ですか?お困りなら多少の相談には」

 

「いえ、その………まさか俺達は、貴方たちのコミュニティ―――〝ノーネーム〟の傘下に?」

 

「え?」

 

 ジンの表情が強張った。それは感謝でも、解放された喜びの言葉でもなく、〝ノーネーム〟を背負わされるのかという失意だ。

 

「(やっぱり………〝ノーネーム〟では信頼されないのかな………)」

 

 ジンが返答に詰まっていると、そんな彼の肩を十六夜が後ろから抱き寄せ、衆人に対して高らかに宣告する。

 

「今より〝フォレス・ガロ〟に奪われた誇りをジン=ラッセルが返還する!代表者は前へ!」

 

 え?っと衆人は一斉に十六夜とジンを見つめた。十六夜はジンの背中を叩いて前に出させると、らしくない尊大な物言いで衆人へ叫んだ。

 

「聞こえなかったのか?お前達が奪われた誇り―――〝名〟と〝旗印〟を返還すると言ったのだ!コミュニティの代表者は早く前へ来い!〝フォレス・ガロ〟を打倒したジン=ラッセルが、その手でお前達に返還していく!」

 

「ま、まさか」

 

「俺達の旗印が返ってくるのか………!?」

 

 衆人は身内同士で顔を見合わせながら、ジンの前に一斉に雪崩れ込む。幼いジンを押し潰してしまいそうな人の群れを、十六夜は大一喝と大地を砕く足踏みで押し返す。

 

「列を作れ戯け!統率の取れない人の群れなど、〝フォレス・ガロ〟の獣にも劣るぞ!」

 

「ひ、ひぃ」

 

 十六夜は年齢からは想像できない口ぶりと威圧感で衆人に列を作らせる。〝階層支配者〟から預かったリストをジンが取り出すと、十六夜は語調を戻して耳打ちする。

 

「流れは作った。手渡す時に、しっかり自己主張するんだぜ?」

 

「わ、分かりました」

 

 先程の迫力とは一転した悪戯っぽい口調の十六夜。脇で見ていた飛鳥も二人の企みを察し、笑いながら十六夜に耳打ちした。

 

「面白いことを考えているようね?」

 

「さて、何の事かなお嬢様」

 

 悪戯が成功したかのような子供っぽい笑顔を交わす二人。その様子に士道は苦笑し、万由里は恐らく昨夜の作戦が決行されるのだろう、と思いながら十六夜とジンを見守る。

 

「〝ルル・リエー〟のコミュニティ―――そしてこれが旗印です」

 

 渡された代表者の男は、返還された旗印を抱き締めてその場に泣き崩れる。

 

「もう〝ルル・リエー〟とは二度と………二度と、名乗れないと………掲げられないと思っていたのに………!」

 

「その旗と名前、二度と手放さずにいてくださいね」

 

「ああ………!俺達は〝ルル・リエー〟の名と旗印を、誇りを二度と無くさない!この恩は俺達の旗が掲げられる限り忘れねえよジン坊っちゃん!」

 

 次々と返還されていく名と旗印。狂喜して踊り回る者、旗を掲げて走り回る者、失った仲間の名前を叫びながら泣き崩れる者などがいた。

 その光景を見て十六夜は、この〝箱庭の世界〟に於いて、コミュニティの名と旗印は何物にも代えられない大切な物なのだと確信する。

 

「(効果は予想以上だな。しっかし旗印ってのはそんなに大事なもんなのかねえ)」

 

 最後のコミュニティに旗印を返還したジンと十六夜は、全員の前に立ち、

 

「名前と旗印を返還する代わりに、幾つか頼みたい事がある。お前達の旗を取り戻した、このジン=ラッセルの事を今後も心に留めておいて欲しいというのが一つ。そしてジン=ラッセルの率いるコミュニティが、〝打倒魔王〟を掲げたコミュニティである事を覚えていて欲しい」

 

 衆人が一斉にざわめき、昨夜の侵入者達から話を聞いていた者は、信じられないという顔でジンに目を向ける。

 

「まさか………あの話は本気なのか………?」

 

「相手は魔王だぞ?あんな子供達で」

 

「しかし彼らのコミュニティは神格を倒したそうじゃないか」

 

 ざわざわと波紋が広がるなか、十六夜は話を続けた。

 

「知っているだろうが、俺達のコミュニティは〝ノーネーム〟だ。魔王に奪われた名と旗印、それを自らの力で奪い返すため今後も魔王とその傘下と戦う事はあるだろう。しかし組織として周囲に認められないと、コミュニティは存続出来ない。だから覚えていて欲しい。俺達は、〝ジン=ラッセルの率いるノーネーム〟だと。そして名と旗印を取り戻すその日まで、彼を応援して欲しい」

 

「(随分と饒舌だこと)」

 

 十六夜の演説を聞いて笑いを噛み殺す飛鳥。ジンも複雑な表情で立っていたが、十六夜に背中を叩かれてハッとする。

 

「ジン=ラッセルです。今日を境に聞く事も多くなると思いますが、よろしくお願いします」

 

 ジンが一礼すると、衆人から歓声が上がる。激励の言葉を贈られた彼らの作戦は、ひとまず成功を収めるのだった。

 

――――――――――――――――――――

 

 その後、本拠に戻った五人は耀の容体を確認しに向かう。耀の見舞いを終えると、その場に飛鳥と士道が残った。

 

「春日部さん、思っていたのよりは安定していて良かったわ。治療に尽力してくれた黒ウサギには感謝しなければならないわね」

 

「そうだな」

 

 飛鳥の言葉に頷く士道。黒ウサギの咄嗟の判断力と治療技術のお陰だと、二人は彼女に感謝した。

 飛鳥はふと士道が耀の手を握っている事に疑問を持ち訊ねた。

 

「………士道君は何で春日部さんの手を握っているのかしら?」

 

「ん?ああ。こうして手を握ってあげれば耀も安心出来るかなと思ってさ」

 

「そ、そう。………じゃあ私も」

 

 そう言って飛鳥は耀の空いている左手を握る。すると、耀の表情が穏やかになったような気がした。

 

「あら、今春日部さんが笑ったような気がしたわ!」

 

「ああ。俺もそう見えた気がするよ」

 

 顔を見合わせて笑みを交わす二人。だが急に恥ずかしくなったのか、士道は頬を掻きながら呟く。

 

「………なんかこうしてみると、子供を安心して寝かしつけてるために手を握っている夫婦みたいだよな」

 

「………士道君?春日部さんを子供扱いしたら許さ―――え?夫婦!?」

 

 士道の何気無い発言に飛鳥は顔を真っ赤にさせて俯く。それに士道は慌てて手を振った。

 

「ち、違えよ!さっきのはあくまで例え話だって!悪い飛鳥。………嫌な思いをさせたよな」

 

「………別に、嫌じゃないわ」

 

「え?」

 

「―――っ!!何でもないわ!」

 

 プイッと真っ赤になっている顔を隠すように背ける飛鳥。士道は疑問符を頭上に浮かべながらも、「お、おう」と返した。

 飛鳥はチラッと士道を見て、苦笑した。

 

「(十香さんが士道君の事を好きな気持ち、分かる気がするわ。勘違いさせるような発言もそうだけど………ちゃんと相手の気持ちを考えて行動してくれるものね)」

 

 飛鳥は十香から聞いた話によると、

 

『士道は自分の命も顧みない、お人好しだ』

 

 と言っていた。実際、彼は自分を気にかけて来てくれたし、励ましてもくれた。一緒になって考えてくれると言ってくれた時は凄く嬉しかった。

 

「(………十香さんには悪いけど、私―――士道君の事、好きになりそうだわ)」

 

 飛鳥はそう心中で呟き、〝士道が好き〟という気持ちが芽生え始めたのだった。

 

――――――――――――――――――――

 

 一方、飛鳥達と別れた十六夜・万由里・黒ウサギは談話室に集まっていた。

 十六夜はソファーで寛ぎながら呆れたように黒ウサギに呟く。

 

「春日部の傷、二、三日もあれば治るんだって?流石は神様の箱庭ってことか」

 

「YES♪ただ出血が激しいので、増血を施しました。輸血となると専門のコミュニティに依頼しなければならないですし」

 

「金がかからない方法があるならそっちでいいだろ。それで、例のゲームはどうなった?」

 

 え?っと黒ウサギが瞳を見開き驚くと、勢いよく立ち上がった。

 

「十六夜さんが出てくれるのですか!?」

 

「おう。ついでに万由里も出場することになってるけどな」

 

「ついでって何よ、ついでって」

 

 ムッと少し不機嫌そうな顔で十六夜を睨みつける万由里。十六夜は肩を竦ませると、黒ウサギは苦笑しながらも、仲間が景品に出されるゲームに二人が参加してくれることを知り舞い上がる。

 

「では申請しに行ってきます♪」

 

「あいよ」

 

 嬉々として申請に向かった黒ウサギを見送った十六夜は、スッと瞳を細めて万由里を見つめた。

 

「そういや良かったな、オマエ」

 

「………?何がよ?」

 

「何がって、そりゃあ………俺がコミュニティを抜けることにならなくて、だ」

 

「………!そ……ね」

 

 十六夜の言葉に頷く万由里。もしジン達が敗北していたら、本当に十六夜はコミュニティから抜けていたかもしれない。

 そうなっていたら、自分は彼をどうしていただろう。いや、どうもしないだろう。あくまで彼の監視をすることであり、彼を始末しろとは伝えられていないのだから。

 それから二人の会話はなく、静寂が訪れて数分後に、申請から戻ってきた黒ウサギは一転して泣きそうな顔になっていた。

 

「ゲームが延期?」

 

「はい………申請に行った先で知りました。このまま中止の線もあるそうです」

 

 黒ウサギはウサ耳を萎れさせて口惜しそうに顔を歪めて落ち込み、十六夜は肩透かしを食らったようにソファーに寝そべった。

 

「なんてつまらない事をしてくれるんだ。白夜叉に言ってどうにかならないのか?」

 

「どうにもならないでしょう。どうやら巨額の買い手がついてしまったそうですから」

 

 それを聞いた十六夜の表情が目に見えて不快そうに変わり、盛大に舌打ちした。

 

「チッ。所詮は売買組織ってことかよ。エンターテイナーとしちゃ五流もいいところだ。〝サウザンドアイズ〟は巨大なコミュニティじゃなかったのか?プライドはねえのかよ」

 

「仕方がないですよ。〝サウザンドアイズ〟は群体コミュニティです。白夜叉様のように直轄の幹部が半分、傘下のコミュニティの幹部が半分です。今回の主催は〝サウザンドアイズ〟の傘下コミュニティの幹部、〝ペルセウス〟。双女神の看板に傷がつく事も気にならないほどのお金やギフトを得れば、ゲームの撤回ぐらいやるでしょう」

 

 達観したような物言いの黒ウサギだが、悔しさでいえば十六夜の何倍も感じている。

 それでも冷静でいられたのは、箱庭に於いてギフトゲームは絶対の法律であり、敗者として奪われ、所有されてしまった仲間達を集めるのは容易ではないからだ。

 しかし取り戻せるのもギフトゲームでしかないと、黒ウサギは承知していたため、今回は純粋に運がなかったと諦めるしかない。

 

「まあ、次回を期待するか。ところでその仲間ってのはどんな奴なんだ?」

 

「そうですね………一言でいえば、スーパープラチナブロンドの超美人さんです。指を通すと絹糸みたいに肌触りがよくて、湯浴みの時に濡れた髪が星の光でキラキラするのです」

 

「へえ?よくわからんが見応えはありそうだな」

 

「それはもう!加えて思慮深く、黒ウサギより先輩でとても可愛がってくれました。近くにいるのならせめて一度お話ししたかったのですけど………」

 

「なら、話せばいいじゃない」

 

 万由里の唐突な発言に、え?っと黒ウサギが驚き瞳を瞬かせる。そんな黒ウサギを万由里は無視して窓の方へ歩み寄り、

 

「あんたの言っていた子に近い人物が―――ソコで盗み見ているから、ね?」

 

 ガラッと窓を勢いよく開けるとそこには―――

 

「………バレてしまったか」

 

 苦笑いを浮かべた金髪の少女が、開けられた窓から中へ入って来た。




士道のハーレム要員に飛鳥が加わりそうです←

万由里は監視者だから会話少なくしてますが、もっと増やした方がいいのかね。
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