異世界にて最強問題児を監視するそうですよ!?   作:問題児愛

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十四章 襲撃者と怒り

「あの光………ゴーゴンの威光!?まずい、見つかった!」

 

 四人に射し込んだ褐色の光の正体に気がついたレティシアは、焦ったような声を上げて万由里を助けに向かおうとした。

 だが、それを黒ウサギが慌ててレティシアの手首を掴み、阻止した。

 

「だ、駄目ですレティシア様!あの光は!」

 

「そんなことは分かっている!………くっ、逃げろ万由里ッ!!」

 

 助けに向かえないならせめて、危険を知らせようと叫ぶレティシア。

 叫ぶが、万由里の眼前にはもう褐色の光が高速で迫り―――

 

 

「―――万由里ぃぃぃーーーーッ!!」

 

 

「………え?」

 

 異変に気がついたのか、絶叫と共に全力疾走してきた士道が間一髪で万由里を突き飛ばした。

 

「きゃあ!」

 

 士道に突き飛ばされて尻餅をつく万由里。そして先ほど彼女がいた場所を褐色の光が呑み込み、

 

「……………ぁ」

 

 彼女を庇って突き飛ばした士道がその光に呑み込まれ、みるみるうちに彼は石像となっていった。

 微かな声を洩らし、瞳をいっぱいに見開いたまま硬直する万由里。

 その光景を見ていた黒ウサギとレティシアも同様な表情で固まる。

 そして、彼の後を追ってきた飛鳥は一瞬立ち止まり、顔面を蒼白させながら石像と化した士道の下へ駆け寄る。

 

「う、嘘………しっかりして!士道君!」

 

 泣きそうな顔になりながら石像と化した士道を抱き起こして、揺すりながら必死に呼びかける飛鳥。

 しかし、そんなことをしても無意味だということくらい、彼女にも分かっていた。

 分かっていた、けど信じたくなかったのだ。自分が片想いした相手が、動かない石像となり果ててしまったことを。

 そんな重苦しい空気だというのに、褐色の光を放った者は盛大に舌打ちした。

 

「チッ、別の奴に当たったか!」

 

「逃げられる前に吸血鬼を捕らえるぞ!」

 

「例の〝ノーネーム〟もいるようだがどうする!?」

 

「邪魔するようなら構わん、斬り捨てろ!」

 

 空気が読めないというのは、まさに彼らのことをいうだろう。

 翼の生えた空駆ける靴を装着した騎士風の男達が、レティシアを捕獲せんと襲いかかってきた。

 

「―――ッ!!レティシア様!下がって!」

 

「………っ!」

 

 黒ウサギがレティシアを背に庇って男達を睨みつける。十六夜もオマケ扱いされて、カチンときたのか凶悪な笑みを浮かべて拳を構える。

 そして泣きそうだった飛鳥は、男達を睨め上げて、

 

「全員、()()()()()()()!!」

 

 最大級の怒りをもって、男達に怒鳴りつけた。

 その命令を聞いた男達は、目標のレティシアを捕らえる前に、

 

「ぐわっ………!?」

 

「ぎゃあ!」

 

「ぬおっ―――!?」

 

 地面に吸い寄せられるような錯覚を起こしながら―――叩きつけられた。

 何が起こったのか理解不能な男達は顔を上げようと必死にもがくが、一向に上を向けない。

 石像と化した士道をそっ、と地面に置いた飛鳥は立ち上がると、壮絶な怒りを籠めた瞳で地にひれ伏した男達を見下した。

 

「貴方達が、士道君をこんな目に遭わせたのね!絶対に許さないッ!!」

 

「ひぃ………!」

 

 顔を上げられないから飛鳥の顔を見ることは出来ないが、怒気を孕んだ声音と威圧を感じ取って思わず竦み上がる男達。

 だが、次の瞬間―――事態はさらに悪化した。

 それは、

 

「―――あんたたちが、士道をやったの?」

 

「!?」

 

 先ほどまでショックのあまり固まっていた万由里が、冷たい声音で男達に問いかけた。

 ゾッと、寒気がするような冷たい声には、明確な怒りの感情が込められている。

 この瞬間、飛鳥達は初めて万由里の喜怒哀楽の〝怒〟に触れた。

 しかもその〝怒〟は―――

 

「許さない………あんたたちは私が―――()()()()()()()()()()()!!!」

 

 ―――とてつもないものだった。

 珍しく語調を荒げた万由里は、黒の霊装を纏ったかと思ったら、怒りに任せて思いっきり地面を踏み抜いた。

 ズドォオンッ!!という轟音と共に〝ノーネーム〟の土地一帯を震撼させる。

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

 屋敷が揺れたことに驚いて飛び出してきたジン。その彼はレティシアを見つけて驚愕したが、それ以上に、万由里を見て息が詰まった。

 万由里の全身から迸る霊力の渦を間近で目の当たりにした飛鳥達は、息を呑む。

 精霊の力を遥かに凌駕する十六夜でさえ、万由里の全身から溢れ出る力に言葉を失う。

 飛鳥が万由里に釘つけになったことで〝威光〟から解放された男達は顔を上げて、絶望した。

 

「―――<雷霆聖堂(ケルビエル)>!!」

 

 万由里はギフトカードを取り出し、掲げて天使を喚んだ。

 眩い光と共に現れた漆黒の球体を中心に展開される人工的な二対の翼、鎖の尾、四つの車輪、二対の翼がついた鳥籠。

 万由里の巨大な天使―――<雷霆聖堂(ケルビエル)>が〝ノーネーム〟の上空に顕現した。

 それを目撃した男達の表情が劇的に変化する。

 

「なっ、天使だと!?」

 

「馬鹿な!〝名無し〟風情が天使を持っているなどありえん!」

 

「ど、どうせ我々と同じでレプリカに決まってる!」

 

 口々にそう叫ぶが、あれほどに圧倒的な存在感を放っているアレが、偽物(レプリカ)とは到底思えなかった。

 怒りで冷静さを欠いた万由里は、今にでも<雷霆聖堂(ケルビエル)>を動かして、男達を殲滅しかねない。

 そんなことをしてしまえば、〝ノーネーム〟の土地も無事では済まないだろう。

 黒ウサギが止めに入ろうとしたところ、一足先に行動に移した十六夜が、怒りで周りが見えていない万由里の背後に忍び寄り、彼女の翼を鷲掴み、

 

()()

 

「痛っ!?」

 

 思いっきり引き抜きにかかった。

 唖然とする一同。十六夜は周りの反応など知ったことないと、万由里の翼を引き抜きにかかる。

 あまりの痛さに万由里は涙目で振り返り、文句を言おうと口を開いて、

 

「ちょ、ちょっとあんた何を」

 

()()

 

 ゴッ!と万由里の前頭部にヘッドバットを喰らわす十六夜。

 

「~~~~~っ!!?」

 

 軽い脳震盪を起こした万由里は、涙目で、痛い頭を両手で押さえてしゃがみ込む。

 もし、今のヘッドバットを普通の人間が受けていたのなら、頭蓋骨陥没で死んでいただろう。それほど強烈な一撃だった。

 ポカーンと口を開けて呆気に取られた飛鳥達。十六夜はしゃがみ込んだ万由里に言う。

 

「そいつが酷い目に遭わされて怒る気持ちは分かる。けどもう少し弁えろよ。オマエの天使が暴れれば〝ノーネーム〟はヤバイことになるんだぜ?」

 

「う………それは、そうだけど」

 

「つか俺が我慢してるのに、一人でお楽しみとはどういう了見だオイ」

 

「へ?―――って怒るところそこなんですか!?」

 

「……………」

 

 十六夜の呑気な発言にツッコミを入れる黒ウサギ。苦笑いを浮かべる飛鳥達。

 それを聞いて一気に怒りの感情が引いた万由里は、霊装を解いて天使をギフトカードに仕舞うと、呆れたような顔で十六夜を見た。

 苦笑していた飛鳥は、ハッとして振り返るが、先ほどまでいた男達は一人残らず消えていた。

 

「………あら?あの人達は?」

 

「あん?万由里の天使にビビって尻尾巻いて逃げたんだろ」

 

 十六夜がそう言うと、黒ウサギは首を横に振って答えた。

 

「いえ、恐らく不可視のギフトで身を隠しているのでしょう。皆さん!気を抜かないでください!」

 

「〝ペルセウス〟ってコミュニティが俺の知るモノと同じなら、間違いなくそうだろうよ。………しかし、箱庭は広いな。空飛ぶ靴や透明になる兜が実在してるんだもんな」

 

 感慨深く頷く十六夜。しかし黒ウサギの危惧とは裏腹に、男達が襲ってくる気配はない。

 本当に十六夜の言う通り、万由里の天使に恐怖して逃げ出したのだろう。

 ジンはレティシアに歩み寄って挨拶した。

 

「久しぶり、レティシアさん。こっちに来てたんですね」

 

「ああ。そうだな、久しぶり………ジン」

 

 レティシアと再会できて嬉しいジンに対し、気まずそうな表情で返すレティシア。

 ガルドの件で仕掛けたのは彼女なのだから、そういう態度をとってしまうのは無理もないことだろう。

 飛鳥はそんなレティシアを一瞥した後、石像と化した士道を抱きかかえようとしたが、彼女の力では無理だった。

 それに気づいた万由里が石像と化した士道をひょいと、軽々と持ち上げると、そのまま大事そうに胸に抱きかかえた。

 

「私が士道を運ぶからあんたは持たなくていいわ」

 

「そう。………精霊って力持ちなのね。羨ましいわ」

 

 羨望な眼差しで万由里を見つめる飛鳥。「そう?」と首を傾げた万由里は、スッと瞳を細めて、真剣な顔で問いかけた。

 

「………あんたって、もしかして―――士道のことが好きなの?」

 

「ブフッ!」

 

 万由里の唐突な、変な質問に吹き出す飛鳥。しかし顔を真っ赤に染めた飛鳥が驚いたような顔で聞き返した。

 

「………万由里さん。私が士道君を好きになったことを何時から知っていたのかしら?」

 

「ん。あんたが士道のことで凄く怒ってたから。あれだけ感情を剥き出しにすれば誰だって分かるわよ」

 

「う、」と言葉を詰まらせる飛鳥。そんなに分かりやすかったのかと、恥ずかしそうに顔を朱に染めた。

 万由里は、士道のことを好きになってくれた飛鳥を、嬉しそうに瞳を細めながら見つめる。

 

「………士道が好きな精霊は沢山いるから頑張って。私もその中の一人だから」

 

「そう。万由里さんも士道君のことが好きなのね。だからあんなに怒ってたのね」

 

「ん。………けど、私は十六夜の監視をする役目があるから。士道のことは愛してるけど、恋愛にかまけている暇はないの」

 

「わ、分かったわ。十香さん達には負けないもの。やってやるわ!―――ってライバル沢山いるの!?」

 

 ライバル多数と聞いてガクリと項垂れる飛鳥。十香だけでなく、万由里を含めてまだ六人も恋敵がいるのかと、急に自信をなくす。

 だが、万由里の前で宣言したからにはやってやるわ!と、決意した飛鳥だった。

 一方、飛鳥が士道に恋してると知ったジン以外の十六夜達は、これは面白くなってきたと、笑みを浮かべていた。

 まあ、その話は置いといて。十六夜が万由里達を見回して提案した。

 

「とりあえず、そこの吸血鬼ロリを連れて〝サウザンドアイズ〟に向かおうと思ってるが、異論ある奴はいるか?」

 

 十六夜が確認すると、万由里達五人は誰一人として異議を唱える者はいなかった。

〝ペルセウス〟の所有物であるはずの彼女が、どういった経緯を経て此処へ辿り着いたのか、それを知るには白夜叉が一番有効的だろう。

 ジンだけは一人、耀の看病に残り、十六夜・万由里(及び石像と化した士道)・飛鳥・黒ウサギ・レティシアの五人は、〝サウザンドアイズ〟支店へと向かうのだった。

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