場所は変わり、〝サウザンドアイズ〟支店のとある家屋。
十六夜・万由里(及び石像と化した士道)・飛鳥・黒ウサギ・レティシアの五人は白夜叉と、ルイオスという男が待っていると女性店員から聞き、彼らのいる家屋へ向かった。
中に入ると、白夜叉と亜麻色の髪の男がいた。恐らくこの男がルイオスだろう。
そのルイオスが黒ウサギを見て、
「うわお、ウサギじゃん!うわー実物初めて見た!………つーかミニスカにガーターソックスって随分エロいな!ねー君、うちのコミュニティに来いよ。三食首輪付きで毎晩可愛がるぜ?」
いやらしい目つきで黒ウサギの全身を舐め回わすように見つめ、はしゃいだ。
黒ウサギは嫌悪感でさっと脚を両手で隠すと、飛鳥がまるでゴミを見るような目でルイオスを見下した。
「これはまた………分かりやすい外道ね。言っとくけど黒ウサギの勧誘はお断りよ。そんなことより、貴女が〝ペルセウス〟のリーダーで合ってるかしら?」
「うん?僕が〝ペルセウス〟のリーダー、ルイオスだけど?何?」
ルイオスが認めると、飛鳥は怒りの籠った瞳で彼を睨みつけ、声を上げた。
「貴方の部下達のせいで士道君がこんな状態になってるのよ!どう責任取ってくれるの!?」
「は?」
唐突な飛鳥の発言に、ルイオスは疑問の声を洩らす。
飛鳥が指差す方向に視線を向け、万由里が大事そうに胸に抱きかかえる、石像と化した士道を見つけ、チッと舌打ちした。
「あの無能共が。余計な手間をかけさせやがって」
そう悪態をついたルイオスは、飛鳥達を見回し、レティシアを発見して再度舌打ちした。
だが、ルイオスはすぐにニコリと笑みを浮かべて、飛鳥に言った。
「そうだね。ソイツの石化、解いてあげようか?」
「!!それは本当なの!?」
ルイオスの言葉を聞いた飛鳥が食いつく。これを聞いて万由里達も安堵し、
「ああ。ただし―――その吸血鬼を僕に返してくれたらね?」
「………っ!?」
ルイオスが石化を解く条件を言うと、飛鳥は、飛鳥達は返答を躊躇った。
見ると、ルイオスはいやらしい笑みを浮かべていた。
そう。彼が優しく声をかけたのは、最初からレティシアを取り戻すことが狙いだったのだ。
やられたと、飛鳥は爪を噛んで悔しそうな表情をした。ルイオスの取引に応じなければ、士道の石化は解いてもらえない。
かといって力ずくで彼を従わせる、という行為は白夜叉がさせないだろう。下手に動けば、〝サウザンドアイズ〟を敵に回しかねない。
飛鳥達は打つ手なしと、中々返答出来ずにいると、レティシアが苦渋の決断を告げた。
「………もういい。これ以上お前達に迷惑をかけられない。大人しく〝ペルセウス〟に帰るよ」
「レティシア様………!」
ルイオスの下へ向かおうとするレティシアの手首を掴んで引き止める黒ウサギ。
これにレティシアは振り返り、黒ウサギの手を振り払おうとするがしっかりと掴まれていて振り払えない。レティシアは中々離してくれない黒ウサギに怒鳴った。
「いい加減にしろ黒ウサギ!もう私に―――構わないでくれ………!」
「―――っ!?」
怒鳴られて、ハッとした黒ウサギは、レティシアの手首を離してしまった。レティシアは怒りの表情で黒ウサギを一瞥した後、ルイオスの下へ歩み寄る。
急に態度を変えたレティシアに、飛鳥は激怒した。
「あ、貴女ねえ!そんな言い方ないんじゃない!?黒ウサギは貴女のことを想って―――!」
「も、もういいのです飛鳥さん!」
「良くないわ!あの子は貴女の気持ちを踏みにじ、」
「飛鳥さんッ!!」
「―――ッ!」
ハッ、と我に返り、飛鳥はぐっ、と黙り込む。黒ウサギの辛そうな顔を見て何か思うことがあったのだろう。
一方、黒ウサギはレティシアが何故あんな態度を取ったのか、分かっていた。
長年の付き合いだからこそ分かる、彼女の本当の気持ちを、想いを、理解できる。
レティシアがあのような態度を取ったのは、敢えて突き放すことで、黒ウサギ達に迷惑がかからないようにした。
そのことが分かっているからこそ、黒ウサギはレティシアに嫌な役目をやらせてしまって、胸が苦しいのだ。
「……………」
万由里はその光景をただ静かに見つめ、状況を分析していた。それは十六夜も同じだった。
レティシアはルイオスを睨みつけ、威圧的に言う。
「お前の望み通り、大人しく戻ってやったぞ。だから今度はお前が約束を守る番だ!」
「あぁ?お前は僕ら〝ペルセウス〟の所有物だから当たり前だろ。………んー、そうだねえ。勿論約束は守るさ。だけど、」
ルイオスはレティシアを睨み返した後、少し考える素振りを見せ―――
「あ、そうだ!ねえ黒ウサギさん」
「………何ですか?」
「僕は君にチャンスをあげるよ。この吸血鬼を手に入れるチャンスをさ」
「!!そ、それは本当ですか!?」
ルイオスの言葉を聞いた黒ウサギは希望を見出だす。だが、次の瞬間、ルイオスは口元を三日月形に歪ませて提案した。
「吸血鬼は〝ノーネーム〟に返してやる。代わりに黒ウサギさん―――君が僕に一生隷属するんだ!」
「なっ………!?」
黒ウサギは絶句した。それは飛鳥とレティシアも同様だ。
ルイオスの提案。それはレティシアを返す代わりに、黒ウサギが彼の奴隷になれというものだった。
黒ウサギは瞳を見開いたまま、驚愕したまま固まる。ルイオスの提案に、飛鳥とレティシアが激昂した。
「ふ、ふざけないで!外道とは思っていたけれど、此処までとは思わなかったわ!早く行きましょうッ!」
「黒ウサギ!この男の提案に乗るな!今すぐ私なんか見捨てて帰ってくれッ!!」
「ま、待ってください飛鳥さん!レティシア様!」
黒ウサギは二人の意見を飲まずにその場に留まる。
ルイオスはニヤリと笑って捲し立てた。
「ほらほら、君は〝月の兎〟だろ?仲間の為、煉獄の炎に焼かれるのが本望だろ?君達にとって自己犠牲って奴は本能だもんなあ?」
「………っ」
「ねえ、どうしたの?ウサギは義理とか人情とかそういうのが好きなんだろ?安っぽい命を安っぽい自己犠牲ヨロシクで帝釈天に売り込んだんだろ!?箱庭に招かれた理由が献身なら、種の本能に従って安い喧嘩を安く買っちまうのが筋だよな!?ホラどうなんだよ黒ウサギ―――」
「
飛鳥が堪えかねて、ルイオスの口を〝威光〟で塞ぎ、
「っ………!?……………!!?」
「貴方は不快だわ。そのまま
混乱するように口を押さえたルイオスに、さらに〝威光〟で座敷にひれ伏せさせる。
だが彼は飛鳥の命令に逆らい、強引に身体を起こし、閉ざされた口も強引に開き言葉を紡いだ。
「おい、おんな。そんなのが、つうじるのは―――格下だけだ、馬鹿が!!」
「……………っ!!?」
絶句した飛鳥に向けて、激怒したルイオスはギフトカードを取り出し、そこから顕現させた鎌を容赦なく振り下ろす。
しかし、ルイオスの振り下ろした鎌は、万由里の隣に控えていた十六夜が人差し指のみで受け止めた。
「な、なんだお前………!」
「十六夜様だよ色男。喧嘩なら利子つけても買うぜ?勿論トイチだけどな」
軽薄そうに笑う十六夜。ルイオスは怒りの表情のまま彼を睨み返すと、
「それ以上、黒ウサギのことを侮辱してみろ。この私が許さんぞッ!!」
ルイオスの斜め後ろから、レティシアがギフトカードから取り出した長柄の槍の先端を彼の首筋に突きつけた。
その彼女の瞳は憤怒の色に染まり、現主であるルイオスを躊躇いなく殺しかねないほどのものだった。
ルイオスはチッ、と舌打ちしてレティシアにも怒りの表情で睨みつける。
その場に居合わせていた白夜叉が、遂に堪え切れなくなり激怒した。
「ええい、やめんか戯け共!このまま暴れるというのなら、纏めて門前に放り出すぞ!」
「………ちっ。けどその女が先に手を出したんだけどね?」
尚も殺気立つルイオスだったが、十六夜や飛鳥は兎も角、レティシアは大事な取引材料だ。
万が一、彼女を殺してしまってはまずいと、そう思ったルイオスは鎌をギフトカードに仕舞った。
それを確認したレティシアも、槍をギフトカードに仕舞うが、ルイオスを睨みつけたままだった。
ルイオスはハァ、と溜め息を吐くと、黒ウサギに視線を向けて言う。
「まあ、こっちの取引はまだ、一週間の猶予がある。僕の提案に伸るか反るかは全て君次第さ」
「……………」
「後、この吸血鬼を売り飛ばす場所は箱庭の外なんだよね。だからさ、もし君が僕の提案に乗らなかった場合は―――最悪、もう
「……………っ!!!?」
黒ウサギの顔面が蒼白した。〝箱庭の騎士〟と謳われるレティシアを含めた吸血鬼達は、箱庭の天幕外で直接日光を浴びてしまえば死は免れない。
もし、取引相手の不注意で、うっかり彼女を日光に晒してしまったら?と、そう考えただけで嫌な汗が全身から噴き出して止まらない。
これを聞かされては否が応でも、首を縦に振りたくなってしまう衝動に駆られてしまう黒ウサギ。
だが、まずはコミュニティのリーダーであるジンや、怪我で眠っている耀、石化してしまった士道などにも、要相談してから決めねばと思い、即決断は出来なかった。
去り際に、ルイオスは思い出したようにギフトカードからあるものを取り出し、飛鳥に投げた。
「吸血鬼は返してもらったし、それは約束のモノ―――石化を解くギフトだよ」
「………!!」
飛鳥は、ルイオスが投げて寄越したものが、士道の石化を解くものだと知り、安堵する。
ルイオスは最後に黒ウサギを見つめ、ニヤリと笑った。
「じゃあね、黒ウサギさん。いい返事を期待してるよ」
「……………」
ルイオスの言葉に、黒ウサギは力なく頷き、レティシアに儚げな笑みを向けた後、座敷を退出した。
その後を慌てて追いかける飛鳥。十六夜は無言でルイオスを一瞥し、興味なさげな顔を見せると、そのまま黒ウサギ達の後を追った。
最後に残った万由里は、レティシアを、瞳を細めて見つめ、告げた。
「………大丈夫。あんたのことは私達が救ってみせる。少なくとも士道だけは―――
「……………っ!」
レティシアの瞳が揺らいだ。そして彼女は視線を、石像と化した士道に向ける。
そう。何時だって、どんなときだって、彼は自分の命さえ顧みずに、六人の精霊達を救ってきた。
そして万由里自身も、彼に救われた。消える宿命は覆せなかったけれど、彼女の心を救ってみせた。
システムでしかない私を。一人の少女として、彼は救いの手を差し伸べてくれた。たったそれだけで、彼女の心は救われたのだ。
ゆえに万由里は、士道ならばレティシアを救ってくれる。そう信じて疑わない。
レティシアはフッ、と儚い笑顔で返した。
「そうか。なら、私を―――
「ん、わかった」
万由里は頷いて踵を返し、レティシアに背を向けた。
救ってみせると、かつて救われた方だった万由里が、そう決意する。
レティシアは
そう。彼女は消える宿命を背負って生まれた、