一悶着あったその翌日。十六夜・万由里・士道の三人は〝サウザンドアイズ〟支店に訪れた。
店前で掃除をしていた女性店員に挨拶した後、店に上がり込んだ三人は、白夜叉の私室へ向かう。
一言断って中に入ると、白夜叉が三人の姿を確認し、ニヤリと笑う。
「うむ。来たようだの。まあ、お茶でも出してやるから上がっておれ」
「ああ、邪魔するぜ」
「ん」
「お邪魔します」
十六夜・万由里・士道の順に部屋の中へ入り、用意されていた座布団の上に正座して座る。
中庭にある鹿威しを見つめたり、適当に部屋の周りを見回して時間を潰していると、白夜叉が緑茶の入った容器が四つ乗ったお盆を持って現れた。
その光景を見た三人は瞳を丸くした。その反応に白夜叉がむっと眉を顰めた。
「なんだおんしら。私がお茶を淹れてきたことがそんなに変だったかの?」
「「「うん」」」
「口を揃えて肯定するでないわ!」
三人に怒る白夜叉。だが万由里達がそういう反応をするのは無理もない。白夜叉のことだから、部下にお茶を淹れさせると思ったのだ。
白夜叉は唇を尖らせながらお茶を三人の前に置き、自分が座る右隣に残りのお茶とお盆を置く。
そして自分用の座布団の上に正座して座ると、スッと真剣な表情になり、問いただした。
「して、おんしらは何用でこの私に会いに来たかの?」
「ハッ、分かってるくせにわざわざ聞くんじゃねえよ白夜叉。アンタに会いに来た理由なんざ、一つしかねえだろ」
十六夜は軽薄な笑みで言うが、瞳は真剣だった。それに白夜叉はふむ、と少し考え込み、
「………では、おんしらはレティシアを〝ペルセウス〟から奪還する為に、決闘に持ち込ませる方法が知りたいんだな?」
「ああ。俺達はその方法を聞きに来た。肝心のその子がどんな奴かは俺は知らない。………けど困ってるなら、苦しんでるなら、助けてあげたいんだ!」
士道が頷いて答える。彼がレティシアを見たのは、万由里を助けた時のあの一瞬だけだ。
そしてレティシアが救いを求めていることは、万由里から聞いた話であり、レティシアのことで黒ウサギ達が喧嘩をし〝ノーネーム〟がバラバラになりかけているのが現状だった。
そんな現状を打破する為にも、レティシアを救い出す必要があった。まあ、彼の場合なら、助けるのに理由などいらないだろうが。
白夜叉はじっと三人を見据えて、うむ、と頷いた。
「よかろう。おんしらの瞳に嘘偽りはなしと見た。〝ペルセウス〟が決闘をせざるを得ない、逆転の一手を提示しよう」
「本当か白夜叉!」
「うむ。この私に二言はない。ただし、
チラッ、と万由里を見てニヤリと笑う白夜叉。万由里の頬に冷や汗が伝う。
「なんだろう………凄く嫌な予感がする」
「万由里?」
士道が万由里の呟きに反応して右隣の彼女を見た瞬間―――白夜叉が万由里を指差して告げた。
「精霊の小娘。おんしが私の
「却下」
速攻で断じる万由里。白夜叉は唇を尖らせながら拗ねる。
「何故だ!私の着せ替え人形になるのはそんなに嫌か!?」
「当たり前でしょ。だってあんた、変態だし」
「ぐぬぬ………」
万由里は断固拒否、と白夜叉の提案を飲もうとしない。
十六夜はニヤニヤと笑いながら割って入る。
「まあ、別にいいじゃねえか。着せ替え人形になってやれよ万由里。減るもんじゃねえんだしよ」
「減るわよ。物理的には減らなくても、少なくとも精神的な何かが」
半眼を作り冷めた目で十六夜を見る万由里。十六夜が肩を竦ませると、士道が万由里に土下座した。
「………え?士道?」
「頼む万由里!俺はどうしても助けてあげたいんだ!それを成し遂げるには、万由里の力が必要なんだ!勝手なことだって分かってる。それが万由里に辛い思いをさせてしまうことも。でも、それでも俺は―――!」
「………ずるい」
士道の言葉を遮るように呟く万由里。「え?」っと顔を上げる士道に、ハァと溜め息を吐いて言う。
「ずるい、って言ったのよ。だって、あんたにそこまでされたら、断れないじゃない」
「………万由里。すまん、恩に着る」
「ん」
頭を下げて礼を示す士道に短く返す万由里。一方、十六夜はニヤニヤと笑いながら万由里を見つめ、
「俺とソイツとでは、随分と温度差が違うな?やっぱり好きだからか?」
「うん」
「即答かよ」
チッ、とつまらなそうに舌打ちする十六夜。彼からしてみれば、恥ずかしがりながら返してくれる方に期待していたのだろう。
士道が苦笑いしながらも、照れくさそうに頬を掻いた。
話が終わったのを見計らって、白夜叉がニヤリと笑い―――一瞬で万由里の背後に移動した。
「ふふ。取引成立だの。さて、おんしには早速―――私の着せ替え人形になってもらおうかの!」
「先に断っておくけど、別にあんたのためなんかじゃない。あと、変なことしたら<
「ほう?この私を相手にギフトカードを取り出せると思っておるのか?くく………まあ、取り出した瞬間に掠め取ってやるがの」
ニコォリと笑う白夜叉に、ゾクリと背筋を凍らせる万由里。どうやら彼女は、こういうことには遠慮なく本気を出すつもりらしい。
「(………あ、これ………駄目かも)」
万由里は直感で勝てる気がしない、と悟った。諦めた万由里に、白夜叉は思い出したように呟く。
「ああ、そうだ。折角だから小僧共にも評価してもらおうかの♪」
「―――え?」
「………は!?」
白夜叉のとんでもない発言を聞いた万由里と士道は、思わず素っ頓狂な声を上げた。
十六夜だけは「へえ」と瞳に怪しい光を宿して悪乗りした。
「ハハ、いいなそれ。白夜叉だけいい思いするのは
「なっ、」
冗談でしょ、と言おうとした万由里を、白夜叉はうむ、と頷いて脇に抱え込む。
「ふふ、よかろう!では楽しみに待っておれ!」
「ちょっと待って、白夜叉。話が違う。着せ替えだけのはずじゃ、」
「はてさて、どうだったかな?」
「な………っ!………っ、士道!!」
「万由里!?」
助けを求める万由里。士道は堪らず彼女を助けようと手を伸ばすが、
「おっと。させねえよ、キス魔」
十六夜がさせまいと士道を羽交い締めにする。抜け出そうと必死にもがくがビクともしない。
「くっ、離せ十六夜!クソ!………万由里ぃぃぃーーーーっ!!!」
絶叫を上げる士道。しかし叫んだところで十六夜が離すわけもなく、万由里は白夜叉に別室に連れていかれ―――
「いやぁぁぁぁぁぁぁ―――――っ!!!」
万由里の悲鳴が〝サウザンドアイズ〟支店に響き渡った。
――――――――――――――――――――
数時間後、白夜叉から解放された万由里は絶望したような顔でガクリと項垂れていた。
「………穢された。もう死にたい」
「「ごちそうさま」」
「……………っ」
ニヤニヤと笑みを浮かべる白夜叉と十六夜。士道だけは顔を真っ赤にして万由里から視線を逸らす。
士道が万由里をまともに見ることが出来ないのは、いやらしい服の数々を着せられた彼女を見てしまったからだ。
それとは対照的に、十六夜は顔色一つも変えずに軽薄な笑みを浮かべて万由里を見つめている。
白夜叉は満足したように笑い、
「うむ。やはり生まれたては反応が初でいいのう!小僧の監視などやめて私の専属メイドになってもらいたいものだ!」
「……………っ!」
キッ、と白夜叉を睨みつける万由里。あんな思いは二度と御免だ、と無言で訴える。
一方、生まれたてと聞いて十六夜が瞳を丸くして万由里を見た。
「は?生まれたて、だと?どう考えても高校生ぐらいにしか見えねえんだが?」
「ん。士道と初めて会話した日は八日目だから………今日で十日目ぐらいかな」
「マジか」
十日目。つまり万由里は生まれたてから二週間も経過していないことを意味する。
十六夜は生まれたての割には全体的に育ちすぎだ、と思いながらも、人間じゃないから関係ないか、と結論付けた。
士道はハッと重大なことを思い出して、白夜叉に問う。
「それで白夜叉。〝ペルセウス〟と決闘する方法はなんだ?」
「ん?………ああ、そうだったの。おんしらは〝ペルセウス〟と決闘する為に、その方法を知りたかったんだったな」
「ああ。取引まで一週間しか猶予がない。手短に頼む」
士道がそう言うと、白夜叉はうむ、と頷き、真剣な顔で話し始めた。
「ところでおんしらは、ゴーゴン退治の伝説を知っておるか?」
「ごーごん?何だそれ?万由里は知ってるか?」
「ううん、知らない」
「俺は知ってるぜ。ゴーゴン退治の伝説は、ペルセウスがギリシャの神々から四つの武具を借りて成し遂げたっていうあれだろ?」
知らない万由里と士道。十六夜が答えると、うむ、と頷いて白夜叉は続ける。
「そうだ。そして〝ペルセウス〟は下層のコミュニティの向上心を育てる為に、挑戦権を与えておる」
「へえ。それで?」
「うむ。その挑戦権というものを手にするには―――
「くらーけん?ぐらいあい?」
ちんぷんかんぷんな二人は顔を見合わせ、首を傾げて頭上に疑問符を浮かべる。
一方、十六夜だけは理解したのか立ち上がり、拳を叩いて笑う。
「なるほど。つまりソイツらを叩き潰せば〝ペルセウス〟と決闘が出来るんだな?」
「ああ。二つのギフトゲームを制覇し、挑戦権の証である〝ゴーゴンの首〟が刻まれた紅い宝玉と蒼い宝玉の二つを手に入れれば可能だ。………いけるな?」
「ハッ、俺達を舐めるなよ白夜叉。サクッとクリアしてやるさ」
白夜叉の説明を聞き終えた十六夜は不敵に笑って答える。
その後、場所を白夜叉に聞いた十六夜は、首を傾げていた二人を脇に抱え込み、この場を後にした。
万由里の着せ替え会は読者のご想像にお任せしマス。
次回はクラーケンとグライアイ編を予定。すぐ終わるかも。
原作ではカットされてるから上手く書ける自信ないけど。
一巻は二十章で完結予定デス。