「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている〝サウザンドアイズ〟幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」
「はいはい、お世話になっております本当に」
投げやりな言葉で受け流す黒ウサギ。
その隣で耀が小首を傾げて問う。
「その外門、って何?」
「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」
黒ウサギが描く図を見た万由里以外の三人は口を揃えて、
「………超巨大タマネギ?」
「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」
「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」
「うん」と頷き合う三人。
身も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。
たしかにバームクーヘンに見えるわね、と声には出さないものの十六夜達に同意する万由里。
白夜叉は呵々と哄笑を上げて二度三度と頷いた。
「ふふ、うまいこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は〝世界の果て〟と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持った者達が棲んでおるぞ―――その水樹の持ち主などな」
白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。
「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」
「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」
自慢げに黒ウサギが言う。
白夜叉は声を上げて驚いた。
「なんと!?クリアではなく直接的に倒したとな!?ではその童は神格持ちの神童か?」
「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見ればわかるはずですし」
「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族に余程崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族の力でいうなら蛇と人ではドングリの背比べだぞ」
「うーむ」と考え込む白夜叉。
十六夜の隣にいた万由里は首を傾げて問う。
「ねえ白夜叉。〝神格〟というのは何?」
「ん?ああ、〝神格〟と言うのはな、生来の神様そのものではなく、種の最高のランクに体を変幻させるギフトの事だ。詳しくは―――黒ウサギ」
「はいな。蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。
人に神格を与えれば現人神や神童に。
鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化します。
更に神格を持つことで他のギフトも強化されます。箱庭にあるコミュニティの多くは各々の目的のため神格を手に入れる事を第一目標とし、彼らは上層を目指して力をつけているのですよ」
「そ。教えてくれてありがと」
「ふふ、お安いご用だよ」
「いえいえ」
白夜叉と黒ウサギの説明を聞いた万由里は頷きお礼を言う。
白夜叉と黒ウサギは笑みで返した。
だがふと黒ウサギは白夜叉が言った言葉が気になり問いただした。
「そういえば、白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」
「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前の話だがの」
小さな胸を張り、呵々と豪快に笑う白夜叉。
だがそれを聞いた十六夜は物騒に瞳を光らせて問いただす。
「へえ?じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」
「ふふん、当然だ。私は東側の〝
〝最強の主催者〟。その言葉に、十六夜・飛鳥・耀の三人は一斉に瞳を輝かせた。
「そう………ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」
「無論、そうなるのう」
「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」
三人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。
白夜叉はそれに気づいたように高らかと笑い声を上げた。
「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」
「え?ちょ、ちょっとお三人様!?」
慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。
「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」
「ノリがいいわね。そういうの好きよ」
「ふふ、そうか。―――だがおんしは乗り気じゃなさそうだの、万由里よ」
白夜叉はやる気満々の十六夜達三人に比べて乗り気じゃない万由里に尋ねた。
万由里は冷や汗を頬に感じ取りながら返した。
「ええ。だって白夜叉は明らかに私とは格が違いすぎる。………そんな感じがするからね」
「ほう?おんしには分かるのか」
「………うん。なんとなく、だけど分かるかな」
白夜叉の問いに頷く万由里。
白夜叉はニヤリと笑い、
「とはいえ他の童達はやる気満々だし、ここは引き受けぬ訳にはいかないというものだ」
「ああ。そう思うなら早くしてくれると助かるんだが」
「くく、そう急くな小僧。―――しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」
「なんだ?」
白夜叉は着物の裾から〝サウザンドアイズ〟の旗印―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、壮絶な笑みで一言、
「おんしらが望むのは〝挑戦〟か―――――もしくは、〝決闘〟か?」
刹那、四人の視界に爆発的な変化が起きた。
脳裏を掠めたのは、黄金色の穂波が揺れる草原。
白い地平線を覗く丘。
森林の湖畔。
四人が投げ出されたのは、白い雪原と凍る湖畔―――そして、水平に太陽が廻る世界だった。
「……なっ………!?」
「すご………なに、あれ」
余りの異常さに、十六夜達は同時に息を呑んだ。
万由里もこの初めて目にした光景に衝撃を受けて呆然と立ち尽くす。
遠く薄明の空にある星は一つ。
緩やかに世界を水平に廻る、白い太陽のみ。
まるで星を一つ、世界を一つ創り出したかのような奇跡の顕現。
唖然と立ち竦む三人に、今一度、白夜叉は問いかける。
「今一度名乗り直し、問おうかの。私は〝白き夜の魔王〟―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への〝挑戦〟か?それとも対等な〝決闘〟か?」
白夜叉の少女と思えぬ凄味に、再度息を呑む三人。
万由里は首を傾げて黒ウサギに問う。
「ねえ黒ウサギ。星霊って何なの?」
「はいな。〝星霊〟とは、惑星級以上の星に存在する主精霊のことです。妖精や鬼・悪魔などの概念の最上級種であり、同時にギフトを〝与える側〟の存在でもありますよ」
「うわ………凄いなんてものじゃないわね」
「ですです」
万由里の驚嘆と共に口にした感想に、黒ウサギは同意する。
十六夜は背中に心地いい冷や汗を感じ取りながら、白夜叉を睨んで笑う。
「水平に廻る太陽と………そうか、白夜と夜叉。あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現してるってことか」
「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」
白夜叉が両手を広げると、地平線の彼方の雲海が瞬く間に裂け、薄明の太陽が晒される。
万由里は今度は十六夜に問う。
「ねえ十六夜。その白夜とか、夜叉って何?」
「ん?ああ。〝白夜〟ってのはフィンランドやノルウェーといった特定の経緯に位置する北欧諸国などで見られる、太陽が沈まない現象のことだ。
〝極夜〟っていう白夜の対極に位置する太陽が昇らない現象もあるが、今はどうでもいい情報だな。
んで、〝夜叉〟ってのは水と大地の神霊を指し示すと同時に、悪神としての側面を持つ鬼神のことだ。
その夜叉を眷属に持つ毘沙門天、またの名を多聞天っていう仏教の神様がいるが、これも今はどうでもいいな」
「………そ。あんたって本当に博識ね」
「ヤハハ。そいつはどうも」
驚きを通り越して呆れる万由里。
ヤハハと笑って返す十六夜。
この時、極夜と聞いてギクリとした白夜叉だったが、運よく十六夜の視線は万由里に向いていたためバレずに済んだ。
それにしても賢い童だの、と白夜叉は博識な十六夜に感心した。
一方、飛鳥は白夜叉の言葉に驚愕した。
「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤………!?」
「如何にも。して、おんしらの返答は?〝挑戦〟であるならば、手慰み程度に遊んでやる。―――だがしかし〝決闘〟を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」
「……………っ」
飛鳥と耀、そして自信家の十六夜でさえ即答出来ずに返事を躊躇った。
暫しの静寂の後―――諦めたように笑う十六夜が、ゆっくりと挙手し、
「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」
「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」
「ああ。これだけのゲーム盤を用意出来るんだからな。アンタには資格がある。―――いいぜ。今回は黙って試されてやるよ、魔王様」
苦笑と共に吐き捨てるような物言いをした十六夜。
それに白夜叉は堪え切れず高らかと笑い飛ばした。
『試されてやる』とは随分可愛らしい意地の張り方があったものだと、白夜叉は腹を抱えて哄笑を上げた。
一頻り笑った白夜叉は笑いを噛み殺して他の二人にも問う。
「く、くく………して、他の童達も同じか?」
「………ええ。私も、試されてあげてもいいわ」
「右に同じ」
苦虫を噛み潰したような表情で返事をする飛鳥と耀。
白夜叉は「うむ」と頷き万由里を見つめ、
「おんしは〝挑戦〟と〝決闘〟。どっちを選ぶかの?」
「え?私は―――って何で私までやる羽目になってるの?」
「ふふ。他の童達は〝挑戦〟を選んだというのに、おんしだけやらぬというのはのう?」
「……………、」
それを言われてしまっては断ることが出来ない万由里。
はぁ、と溜め息を吐いて万由里は観念したように答えた。
「………わかったわよ。私も〝挑戦〟を受けるから。これでいいでしょ?」
「うむ、よろしい!」
満足そうに声を上げる白夜叉。
ガクリと肩を落とす万由里。
一連の流れをヒヤヒヤしながら見ていた黒ウサギは、ホッと胸を撫で下ろす。
「も、もう!お互いにもう少し相手を選んでください!〝階層支配者〟に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う〝階層支配者〟なんて、冗談にしても寒すぎます!お三人は喧嘩を売らなかった万由里さんを見倣ってください!―――って、なに万由里さんも巻き込んでるんですか白夜叉様!?………それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」
「何?じゃあ元・魔王様ってことか?」
「はてさて、どうだったかな?」
ケラケラと悪戯っぽく笑う白夜叉。
ガクリと肩を落とす黒ウサギと三人。
万由里だけは白夜叉が『元・魔王』という事を知って安堵した。
その時、彼方にある山脈から甲高い叫び声が聞こえた。
獣とも、野鳥とも思えるその叫び声に逸早く反応したのは、耀だった。
「何、今の鳴き声。初めて聞いた」
「ふむ………あやつか。おんしら二人を試すには打ってつけかもしれんの」
「………え?
万由里は嫌な予感がした。
だが白夜叉は万由里のその呟きを無視して湖畔を挟んだ向こう岸にある山脈に、チョイチョイと手招きをする。
すると体長5mはあろうかという巨大な獣が翼を広げて空を滑空し、風の如く三人の下に現れた。
鷲の翼と獅子の下半身を持つ獣を見て、耀は驚愕と歓喜の籠った声を上げた。
「グリフォン………嘘、本物!?」
「あの子、グリフォンっていうの?………へえ」
万由里も興味深そうに鷲獅子を見つめる。
その様子を十六夜・飛鳥・黒ウサギの三人はニヤニヤと笑って見つめた。
しかし耀と一緒でグリフォンに夢中だった万由里はそのことに気づかないでいた。
白夜叉は自慢げに笑って説明した。
「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。〝力〟〝知恵〟〝勇気〟の全てを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」
白夜叉が手招きする。
グリフォンは彼女の下に降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。
「さて、肝心の試練だがの。おんしら二人とこのグリフォンで〝力〟〝知恵〟〝勇気〟の何れかを比べ合い、背に跨がって湖畔を舞う事が出来ればクリア、という事にしようか」
白夜叉が双女神の紋が入ったカードを取り出す。
すると虚空から〝
白夜叉は白い指を奔らせて羊皮紙に記述する。
『ギフトゲーム名〝鷲獅子の手綱〟
・プレイヤー一覧
久遠 飛鳥
春日部 耀
・クリア条件
グリフォンの背に跨がり、湖畔を舞う。
・クリア方法
〝力〟〝知恵〟〝勇気〟の何れかでグリフォンに認められる。
・敗北条件
降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
〝サウザンドアイズ〟印』
「おい、白夜叉。俺と万由里の名前がないんだが」
「ああ。おんしらには別の試練を用意するから暫し待っておれ」
十六夜の質問に答える白夜叉。
万由里の嫌な予感は見事的中してしまった。
しかし、これは十六夜と共闘することで彼の力を見定めるチャンスになるため、拒否することを躊躇い、結局は承諾したのだった。
その後、グリフォンの試練を耀がやることになり、結果は―――見事クリアした。
また、耀の持っていた木彫りを鑑定した白夜叉は、コレが〝生命の目録〟だと分かり興奮し、欲しいとせがんだところ耀に断られてしょんぼりしたのは別の話である。
指摘・意見・感想等お待ちしております。
次回は前の後書きで書いた十六夜と万由里が共闘して白夜叉に挑む戦闘描写です。
雷霆聖堂をどう動かそうかな。
あと十六夜と白夜叉の激戦。試練だし白夜叉の動きを緩和させないと。
………まあ、相手は十六夜だし白夜叉も手加減する余地があるかどうかですが(苦笑)