「………それで、話って何?」
「うむ。まずおんしがこの箱庭に呼ばれた理由は、あの小僧―――逆廻十六夜の監視役というのは分かっておるな?」
「ええ。それはあの手紙に書いてあったからとっくに知ってる」
白夜叉の質問に是と答える万由里。白夜叉は頷き、先程のギフトネームの話をした。
「それで、おんしの〝 の監視者〟というギフトネームなのだが………其処には『
「………『原典』?」
初めて聞く言葉に首を傾げる万由里。白夜叉はうむ、と頷き説明した。
「『原典』とは〝起源〟という意味でな、そして原典候補者とは、誕生が円環状になっている人間と神様の関係に対して『どちらが本当の原典であるか』を問うための代表者を意味する」
「………ふうん。つまりその原典候補者というのは、始まりがどっちなのかを決める為に用意された駒、って解釈でいいの?」
「うむ。詳しく説明すると、『神霊は人類の信仰によって発生する』、『人類は神々の恩恵を受けて進化する』。つまりは
「………何かよく分からない単語が沢山出てきたけど、要するに私の役目は―――逆廻十六夜という
「ふふ、理解が早くて助かるの。つまりそういう事だ。………ついでにパラドックスゲームについても話しておくか?」
「いい。私の役目はあくまで監視で、裁定者ではないんでしょ?」
「ああ。流石に箱庭もおんしに決めてもらうということはないから安心しろ」
白夜叉の言葉にそ、っと返す万由里。だがふと気になって万由里は白夜叉に問いただした。
「私は人間の原典候補者の監視役なのは分かったけど、神様の原典候補者も誰か決まってるの?」
「いや。そっちはまだだの。神様の原典候補者にも監視者がつくのかも不明だ」
「………そ」
万由里は確認が済むと立ち上がる。それを白夜叉が待ったをかけた。
「待て。まだ話は終わっとらんぞ」
「え?………わかった」
万由里はもう一度畳の上に正座して聞く姿勢を取る。白夜叉はコホンと咳き込み、話し始めた。
「原典候補者は起点だけでなく、終点を決める必要がある。そして、その終点を決める方法が―――終末論を乗り越えること。即ち、〝
「終末論?………〝人類最終試練〟?」
新たな単語に頭上に疑問符を浮かべる万由里。白夜叉はスッと瞳を細めて説明した。
「まず〝人類最終試練〟とは、『人類全てを滅ぼす要因a』。即ち、人類に降りかかる最後の試練のことだ。
そして〝終末論〟というのは、北欧ではラグナロク、インドではカリ=ユガと呼ばれ、遥か古代の文明から神々が警鐘を鳴らし続けたその
「……………それを倒すのが原典候補者の使命ってことなの?」
「ああ。原典候補者は起点だけでなく、終点も。つまり両者の起源を決める必要があるということだ」
「……………そ。十六夜ってとんでもない役目を背負わされているのね。知らない間に」
同情の瞳で遠くを見つめる万由里。これを知ったら十六夜はなんて言うのだろうか。
万由里は深い溜め息を吐く。白夜叉はフッと悲し気な表情を見せると、万由里に遠慮がちに告げた。
「それと万由里。残念だが………この箱庭でも監視の任が解かれればおんしは―――消えるそうだ」
「………そっか。でも仕方ないわよね。………私は人間でも精霊でもない、『システム』なんだから」
「………『システム』か。だが希望は残っておるよ」
「………え?」
白夜叉の言葉にキョトンとする万由里。白夜叉はニヤリと笑い、
「原典候補者は起点と終点の二つを決めねばならん。だから―――おんしの役目は一度きりではないかも知れぬということだ」
「………片方が決まっても、もう片方が残ってるから、原典候補者は新たに選出されて、もう一度私が誰かの監視役として呼び出されるってこと?」
「うむ。あくまで可能性だが………もしそうならば、再び会えるであろ?」
白夜叉の言い分に、万由里は頬を掻き苦笑を零した。
「それは嬉しいような、悲しいような………なんか複雑かな。だけど私は存在を回帰しちゃうから、皆の事を忘れてるかもしれないわよ?」
「ふふん。此処を何処だと思うておる。修羅神仏が蔓延る箱庭だぞ?失った記憶くらい思い出させてみせるわい!」
小さい胸を張って言う白夜叉。そんな頼もしい白夜叉を驚きの表情で万由里は見つめ、
「………あんたって頼もしい上に優しいのね。ただの変態だと思ってたな」
「くく、見縊られては困るぞ小娘。私は星霊の端くれにして最強の〝主催者〟だぞ!お礼はおんしの胸を数回生揉みで手を打とう」
「前言撤回。やっぱあんたはただの変態よ」
万由里は胸元を隠して後ずさる。白夜叉は呵々と哄笑を上げて、
「冗談だ」
「あんたの場合は冗談に聞こえないわ。それに私と<
「何!?生まれたてじゃと!………うむ。穢したい」
「変態な上に最低ね、あんた」
万由里は冷えきった瞳で白夜叉を睨む。ケラケラと笑う白夜叉。
店を出た万由里は白夜叉に見送られて〝サウザンドアイズ〟を後にしたのだった。
――――――――――――――――――――
―――一方、万由里を除いた十六夜達六人は半刻ほど歩いた後、〝ノーネーム〟の居住区画の門前に着く。門を見上げた十六夜はポツリと呟く。
「………それにしても万由里遅いな。俺を監視するんじゃなかったのかよ」
「そ、そうは言ってもですよ十六夜さん。白夜叉様が万由里さんにお話があると仰ったから〝サウザンドアイズ〟に残っているのですよ?」
「まあ、そりゃそうだけどさ。てか何で俺を帰したんだ?監視云々なら俺も残った方がよかったと思うんだが」
十六夜が不可解だと言うと、士道が口を挟んだ。
「聞かれちゃまずい事………だったりしてな」
「おいおい、聞かれちゃまずい事ってなんだよキス魔」
「そのあだ名は止めろよ!?外歩けなくなるだろ!?」
「ヤハハ。嫌だね」
絶叫を上げる士道。ヤハハとからかう十六夜。士道をキス魔というネタで弄る気満々である。
十六夜の言葉を聞いて思い出した飛鳥・耀・黒ウサギの女性陣三人は、冷ややかな視線を士道に突き刺す。
士道が気まずい顔で視線を逸らした―――瞬間。
「何門の前で突っ立ってるのよ、あんたたち」
「―――――ッ!!?」
突然声がして振り向くと、十六夜達の視線の先に続く闇から万由里が姿を現した。
万由里の早すぎる登場に十六夜達は瞳を見開いた。
「………おいおい、戻るの早くねえか?」
「ん。私はあんたの監視者よ?あんたの下へ瞬間移動することくらい造作もないわ」
「へえ?そいつは便利なギフトだな」
十六夜はキラリと瞳を光らせる。士道は思い出したように呟いた。
「そういやあの時も万由里は神出鬼没だったな………いきなり現れたものだから正直ビビったよ」
「ふうん。そいつは災難だったな―――キス魔」
「だからそのあだ名止めてくれよ!?」
「………ぷっ、」
士道につけられたあだ名を聞いて、万由里は思わず小さく吹き出した。
士道はムッとした顔で万由里を睨み、
「万由里まで笑うなよ!」
「………ごめん。でもキス魔って、ある意味的を射てるかな」
「そう言われても全然嬉しくねぇぇぇぇぇぇ!!」
士道は頭を抱えながら絶叫を上げる。万由里は口元を押さえながら笑いを堪える。
あまり表情を変えない万由里が笑いを堪えている姿を見て、十六夜・飛鳥・耀・黒ウサギの四人はニヤニヤと笑った。
十香も微笑ましそうに士道と万由里を見つめて頬を緩ませた。
黒ウサギはハッと思い出したように門の前に立ち、
「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口からさらに歩かねばならないのでご容赦ください。この近辺はまだ戦いの名残がありますので………」
「戦いの名残?噂の魔王って素敵ネーミングな奴との戦いか?」
「は、はい」
「ちょうどいいわ。箱庭最悪の天災が残した傷跡、見せてもらおうかしら」
虫のような扱いをされたことを思い出して不機嫌に呟く飛鳥。
黒ウサギは躊躇いつつ門を開ける。すると門の向こうから乾ききった風が吹き抜けた。
砂塵から顔を庇うようにする六人。視界には一面の廃墟が広がっていた。
「っ、これは………!?」
街並みに刻まれた傷跡を見た飛鳥・耀・万由里・士道・十香の五人は息を呑み、十六夜はスッと瞳を細める。
十六夜は木造の廃墟に歩み寄って囲いの残骸を手に取る。少し握ると、木材は乾いた音を立てて崩れていった。
「………おい、黒ウサギ。魔王のギフトゲームがあったのは―――今から何百年前の話だ?」
「僅か三年前でございます」
「ハッ、そりゃ面白いな。いやマジで面白いぞ。この風化しきった街並みが三年前だと?」
そう。まるで何百年という長い時間をかけて滅んだように崩れ去っていたのだ。
美しく整備されていたはずの白地の街路は砂に埋もれ、木造の建築物は軒並み腐って倒れ落ちている。要所で使われていた鉄筋や針金は錆に蝕まれて折れ曲がり、街路樹は石碑のように薄白く枯れて放置されていた。
とてもではないが三年前まで人が住み賑わっていたとは思えない有り様に、十六夜・飛鳥・耀の三人は息を呑んで散策、万由里・士道・十香の三人はその場で立ち尽くした。
「………断言するぜ。どんな力がぶつかっても、こんな壊れ方は有り得ない。この木造の崩れ方なんて、膨大な時間をかけて自然崩壊したようにしか思えない」
十六夜は有り得ないと結論づけながらも、目の前の廃墟に心地いい冷や汗を流している。
飛鳥と耀も廃屋を見て複雑そうな感想を述べた。
「ベランダのテーブルにティーセットがそのまま出ているわ。これじゃまるで、生活していた人間がふっと消えたみたいじゃない」
「………生き物の気配も全くない。整備されなくなった人家なのに獣が寄ってこないなんて」
「「「……………」」」
無言で廃墟を見つめる万由里・士道・十香の三人。黒ウサギは廃墟から目を逸らし、朽ちた街路を進む。
「………魔王とのゲームはそれほどの未知の戦いだったのでございます。彼らがこの土地を取り上げなかったのは魔王としての力の誇示と、一種の見せしめでしょう。彼らは力を持つ人間が現れると遊び心でゲームを挑み、二度と逆らえないよう屈服させます。僅かに残った仲間達もみんな心を折られ………コミュニティから、箱庭から去って行きました」
黒ウサギは感情を殺した瞳で風化した街を進む。飛鳥も、耀も、複雑な表情で続く。
士道はギュッと拳を固く握り締めて、
「………ふざけるな。魔王だからってこんな真似、許されると思うなよッ!!」
「シドー………」
「………士道」
怒りに震えた士道を十香と万由里が見つめ、
「………絶対に、魔王とやらを倒そうな、シドー!」
「ああ。こんなことが二度と繰り返されないように、俺達の手で魔王を絶対に倒す………ッ!!」
十香の言葉に頷いた士道は、強い眼差しと固い決意をして黒ウサギ達の後を続く。
万由里がそんな彼らの背中を見つめていると、十六夜だけは瞳を爛々と輝かせ、不敵に笑って呟いた。
「魔王―――か。ハッ、いいぜいいぜいいなオイ。想像以上に面白そうじゃねえか………!」
皆とは違った感想を述べる十六夜を見て、万由里は半分呆れ、半分感心した。
「(そんなことを口にするのは不謹慎だけど………原典候補者としてはその物怖じしない強い心は買い、かな)」
万由里はそんな風に十六夜を評価したのだった。
指摘・意見・感想等お待ちしております。
万由里
〝原典の監視者〟
原典候補者を監視する者を示す。
今回の場合は人間の原典候補者―――逆廻十六夜の監視者を意味する。
監視対象者の下へ場所・距離を問わず瞬時に移動可能。
『監視者の掟』
Ⅰ 監視する以外での用途(対象者の庇護目的など)で瞬間移動した場合、監視者は強制消滅する。
Ⅱ ギフトゲームは対象者の監視を優先しなければならないため、積極的に参加するのではなく、援護射撃程度で押さえること。
Ⅲ 〝人類最終試練〟戦の参加は不可であり、かつ原典候補者以外に認識されない存在となる。(箱庭のシステムにより、全能領域の者であっても認識出来ない)