綾瀬絵里は改造人間である。17歳の誕生日に世界征服を目論む秘密結社「ショッカー」に拉致され、バッタの能力を持つための肉体改造を施され、ともに世界征服の手助けをさせられるところになる。しかし、脳改造の寸前でショッカーに離反した科学者の手助けにより、研究所から脱出。それ以降、改造人間としてショッカーの怪人と戦うことを決意する。
元の身体には戻れない、誰にも理解されず、孤独に戦う悲しみを仮面に隠し、「仮面ライダー」として人間の自由と正義のために戦い続ける。

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孤高の戦士

時計の針が真上を指す頃、あたりは暗く、人気は全くない廃工場で肉を殴る音が響く。

ドクロのようなタイツを着た数人の男を、黒いタイツと銀色の手袋、そして赤いマフラーをたなびかせた戦士が次々と叩きのめしていた。

倒された男達は泡となってその場から消えて亡くなる。

 

「流石だな、ホッパー。」

 

ホッパーと呼ばれる戦士の前に、今まで傍観していたコブラが立ちはだかる。

 

「……」

 

ホッパーは何も言わず、仮面の奥の瞳で睨みつけていた。

 

「つれないなぁ。遺言くらいは言わせてやろうと思ったんだけどなぁ。まぁいい、死ね。裏切り者には死あるのみだ。」

 

コブラは後頭部から伸びる尻尾を切り落とし、鞭にして、ホッパーに攻撃する。ホッパーは軽々と避け、少しだけ距離を詰める。

 

「ええい!ちょこまかと‼︎」

 

怒りを鞭に乗せ、叩きつけるも左手で簡単に止められる。

 

「かかったな。」

 

クイっと鞭の手元を引くと、ホッパーの左腕に巻きつけられる。

 

「バカめ!これで貴様の動きは制限したぞ!」

 

コブラは鞭を大きく左右に振り、ホッパーを壁に叩きつける。何回も、何十回も。

 

「これで終わりだぁ‼︎」

 

鞭を手前に引き寄せ、コブラの元に無理矢理近づけさせる。コブラは近づいてきたホッパーに毒ガスを浴びせ、止めを刺そうと考えていた。

しかし、引き寄せたのが間違えだった。ホッパーは引き寄せられた勢いを使い、コブラの腹に強力なパンチを叩き込む。

 

「何⁉︎」

 

コブラは鞭を離してしまい、ホッパーは自由の身となる。すぐさまホッパーはジャンプし、コブラに目掛け、跳び蹴り、ライダーキックを喰らわせる。

 

「ぐぁぁぁぁぁ‼︎」

 

断末魔の叫びとともにコブラは爆発した。爆炎を背景にホッパーは仮面を外し、その美しい顔を露わにする。

綿糸のように綺麗な金髪に青目の綾瀬絵里はしばらくの間、息を整えながらその場で佇んでいた。

そして、充分休んだことを確認し、傍に置いてあったバイク、サイクロン号を駆り、闇の中に消えていった。

 

♢♢♢

「エリチ、終わったよ〜」

 

「ありがとう、希。」

 

夕陽が差し込む生徒会室で絵里は親友の東條希とともに書類をまとめていた。

 

「あれ?意外やね。ウチのほうが早く終わるなんて。」

 

「え、ええ。ちょっとやる気がね。」

 

あながち間違いではないよねと自分に問う。ただ希をずっと見つめていたせいで仕事がはかどらなかったなんて言えなかったので、こう軽く濁した。

 

「へぇ〜。エリチもそういう時があるんやね。」

 

そう言って、希はバックの中を探る。その後ろ姿でさえ愛おしいと絵里は思う。

いつからだろうか。希の全てが魅力的に見えたのは。入学当時、絵里はあまり馴染めず、1人になることが多かった。1人で寂しいと思っていた矢先、希に話しかけられ、それ以来何をするにも一緒になることが多くなった。そして、日が進むことに希に対して、様々な思いを抱いき始め。友情、信頼、そして愛。

絵里にとって希は親友以上の存在であった。しかし、お互い女性同士。この思いは抱いてはいけないものだった。バレれば周りからは白い目で見られ、希からも距離を遠ざけられるだろうと考えた。

さらにそんななかでショッカーに捕らわれたことにより、改造人間にされたことにより、自分は怪物、普通の人間とは違うという背得感。

そんな考えと思いが希への思いを封じさせ、そして苦しませた。

 

「エーリチ♪」

 

気がつくと希はチョコレートを差し出していた。

 

「これ食べて元気出してな。」

 

希の優しさに絵里は嬉しさが込み上げる。

 

「ありがとう、希。」

 

「ふふ、どういたしまして。」

 

あどけない笑顔を振りまく姿を見て、絵里はよからぬ思いが込み上げる。抱きつきたい、あの手を握って、希を感じたい。だが、そんな些細なことでさえ許されない。もし手を握ったりしてしまえばたちまち希の手は粉々になるだろう。

改造人間として強化された身体能力はダンプカーを止めたり、ビル10階から跳んでも何もないほど。しかし、コントロールすることが難しく、ちょっとでも力を加えれば簡単な物ならすぐに壊せる。

 

「それじゃあ私は少し残って作業するわ。希は先に帰っていいわよ。」

 

「ウチも手伝うけど。」

 

「自分の仕事だから、自分で片付けたいの。」

 

絵里は嘘をつく。このままでは希を襲ってしまうかねないと思い、遠ざけたかったのだ。

 

「……わかった。無理はせんでね。」

 

「心配しないで。私は大丈夫だから。」

 

希は哀しそうな表情を浮かべなら、別れの挨拶をして生徒会室から出て行った。

山場は超えた。大きく深呼吸し、残りの資料を見る。自分に気持ちを引き締めるように頬を叩き、作業を再開する。

それから2時間後、外が暗くなった頃に作業が終わり、帰る準備をする。すると、携帯電話が鳴り始める。

 

「こんな時間に誰かしら?」

 

画面を見ると、発信先は東條希と映し出されていた。

 

「何か忘れ物でもしたのね。」

 

軽い気持ちで電話に出る。しかし、聞こえて来たのは知らない誰かであった。

 

『もしもし〜、綾瀬さんですか?』

 

「あなたは?」

 

『そうねぇ、わかりやすく言えば……ワスプね。』

 

背筋が凍りつく。頭の中に最悪の事態が想定される。

 

「希は⁉︎何をしたの‼︎」

 

『希?あぁ、その子はまだ無事よ。』

 

「まだ……」

 

『今日の0時までに東京湾のとある港に来なさい。来ないと……ね。』

 

「待ちなさい!」

 

急に電話が切られ、絵里は電話を叩きつける。電話は粉々になるが目も触れず、急いで外に出る。そしてサイクロン号にエンジンをかけ、フルスロットルで目的の場所へと向かった。

 

♢♢♢

絵里はサイクロン号を駆り、指定された海岸の倉庫へと向かった。

 

「よく来たわね、綾瀬絵里。」

 

「希‼︎」

 

そこに到着すると手錠とワスプに拘束されている希がいた。絵里は急いで希のもとに駆け寄ろうとするが戦闘員達が立ちはだかり、進めなくなる。

 

「待ってて、希!今助けるから!」

 

らしくもなく大声をあげると、希からは彼女らしい返事がくる。

 

「エリチ!何で来たの!ウチのためにこんな危険冒さなくても‼︎」

 

 

心配からくる怒りに絵里は戸惑いを隠せない。だって、あなたを助けに来たのなんてそれは私が仮面ライダーでそしてあなたのことが……。

だから、希には死んで欲しくない。例え嫌われても、どう思われても……私は希を助ける‼︎

 

「あらあら〜、助けに来た相手にそれはかわいそうよ。何だって彼女は「そう私は…」

 

ウァスプの言葉に割って入る。そして、制服のブレザーのボタンを外し、腹に巻かれている、中央に赤い風車のついたベルトを見せる。

 

「仮面ライダーですもの。」

 

その瞬間、見慣れた制服姿から強化スーツ姿へと変わる。

 

「ふん、やりなさい‼︎」

 

「イーッ!」

 

奇妙な掛け声とともに戦闘員達が絵里に襲いかかる。絵里は仮面を被り、戦闘態勢に入る。

 

「はあっ!」

 

いきり立っていた戦闘員達は完膚なきまでに叩きのめされ、あっという間に倒された。

 

「さぁ、あなたの番よ。」

 

「まぁまぁ、そう焦らず。まだ前菜なんだから。デザートは少し待ちなさい。」

 

煽るように話すウァスプは合図を送るように指先を鳴らす。

 

「何……これ……」

 

「ショッカーライダーよ。戦闘スペックだけならあの娘とも引けを取らないわ。」

 

希はその光景に絶句する。合図とともに鳴り響くバイクのエンジン音。そして、現れたのは仮面ライダー。数は6体。ただ、全く絵里のとは似ているわけではなく、マフラーの色と手袋の色が黄色という点が違っている。

 

「に、偽者……」

 

「失礼ね。本来。仮面ライダーはショッカーの一員なのよ。本当はあの娘が偽者なの。」

 

「エリチが……」

 

衝撃の事実を聞き、希は騒然とする。

 

「ホッパー!今あなたの大事なものを奪ってあげたわ!信頼というものをね。」

 

勝ち誇ったように高笑いをするワスプ。一方、絵里は動じることなく、ショッカーライダー達を見回す。

 

「そして、もう一つだけ奪ってあげる。あなたの命をね。」

 

ワスプは再度指先を鳴らし、それを合図にショッカーライダー達はバイクに乗ったまま絵里を襲う。

 

「くっ!」

 

バイクの猛攻に絵里も手出しが出来ない。

 

「エリチ……」

 

「さぁ、その眼に焼き付けなさい!あなたの心を踏みにじった醜い人間の最後を!」

 

「だ、騙した⁉︎」

 

「そうでしょ?あの娘は改造人間というのを隠してあなたと関わっていたのでしょ?少なくともそんなことを言えるほどあなたのことを信用してなかったってことじゃない。」

 

希はワスプの言葉を受け止めてしまう。じゃあ、今まで一緒にいた時間はなんだったのか?あれほど抱いていた思いは全部無駄だったのか?エリチにとってのウチって……。疑心が思考を支配する。

 

「セィ‼︎」

 

その間にも絵里は何とかショッカーライダーをバイクから引きずり下ろし、対等の立ち位置となる。しかし、既に疲労のピークに達しており、不利な状況に変わりにはない。

 

「ハァハア……」

 

肩を激しく上下させながら、取り囲んでいるショッカーライダーを見回す。すると、1人が絵里に目掛け、拳を振るいに接近する。それを絵里は紙一重で避けるも他のショッカーライダーが言わんとばかりに絵里に襲いかかり、ダメージを受けてしまう。

 

「エリチ……」

 

傷つきながらも戦う姿を見て、希はさらに疑問が強まる。何でエリチは逃げないんだろう。あんなになるまで戦って。というか何で戦うのか。すると希はあることに気づく。

 

「違う……」

 

「何?」

 

「踏みにじってたのはエリチじゃない。ウチや。」

 

「はぁ?」

 

「むしろ、エリチはウチを突き放していたエリチの気持ちに気づきもしないで、ウチの気持ちばっかり優先して……」

 

感情的になり、大粒の涙を流しながら紡ぐ。絵里は希の様子に気付き、一瞥する。

 

「ごめんな……エリチ……ウチがこんなに迷惑かけて……」

 

希の反省に絵里は黙って耳を傾ける。仮面のせいで表情はうまく読み取れない。

 

 

「だから、最後にワガママを言わせて。……エリチ、助けて‼︎」

 

この言葉を聞いた瞬間、絵里の雰囲気が一気に変わる。そして、ショッカーライダーの1人にチョップを決め、頭をかち割る。

 

「な、何⁉︎えぇい。さっさと殺しなさい!」

 

ワスプの叱咤に後押しされ、ショッカーライダー達は束となって絵里に襲いかかる。

 

「ふん‼︎」

 

絵里はショッカーライダー達を完膚なきまで叩きのめす。1体目は顔面を殴り、頭がが反対の方向を向く。2体目は背中を蹴られたことにより、背骨が折れ、そのまま絶命。

 

「クソゥ‼︎ならばこいつを殺すと脅せば!」

 

危機感を覚えたワスプは希を手にかけようとする。その瞬間、ショッカーライダーがワスプのもとに投げ飛ばされ、巻き込まれてしまう。

 

「ホッパーァ!」

 

全関節が反対に折れ曲がったショッカーライダーを捨て、絵里を睨みつける。

その絵里はショッカーライダーを片腕ずつ串刺ししていた。

 

「う、ウワアァ⁉︎」

 

その姿に恐怖を覚えるもワスプはサーベルを取り出す我武者羅に振り回す。向かってくるワスプを絵里は一思いに右脚で蹴り、ワスプの左脚を吹っ飛ばす。

 

「グワァァア!」

 

右脚がなくなり、バランスが取れなくなっとところにワスプの右肩に左ストレートを決め、関節を外す。さらにサーベルを奪い、ワスプに左脚に刺す。

 

「痛い痛い痛い痛い痛い‼︎」

 

うつ伏せに倒れながらワスプの悲痛の叫びがこだまする。しかし、絵里は容赦せず、ワスプの右手を踏みつぶす。そして、右脚をワスプの頭の上に乗せる。

 

「わかった。今回は見逃すから!だから、だから!」

 

情けない声で助けを乞う哀れなワスプ。それを見下ろすを絵里。仮面で表情が見えないため、より一層恐怖を感じる。

 

「……あなたが見逃したくても、私は見逃さない。」

 

頭を踏みながら静かに怒りを表す絵里。そしてタイフーンの歯車が回転し始める。

 

「ま、待って!話せばわかる!」

 

「あなたは希を危険な目に遭わせた。それだけで充分よ。」

 

命乞いをバッサリと切り捨て、一層踏む力を強める。

 

「あぁぁぁ!悪魔!この悪魔!さっさと殺せばいいのにこんなに焦らして!この悪魔!死神!ぐわっ……」

 

「あなたが最初に言ったじゃない。自分のことをデザートって。私はデザートをゆっくりと味わいたいタイプなの」

 

すると、耐えきれなくなったワスプのマスクが割れ、ワスプの本来の顔が現れる。だが、その顔は恐怖でひどい有様。なおかつ、舌は垂れ、目が少し飛び出ていた。そして、顔が段々と縦に長くなっていく。

 

「い……いわよ。どうせ……あなたは首領に倒れて……後悔するのだから!私が死んでも……わ」

 

ワスプの頭を踏み潰され、辺りに血が散乱する。踏み潰した絵里の足下にも血がベットリとつく。

 

「え⁉︎」

 

目の前の光景に希は目を見張る。首のない死体に、関節が奇妙な方向を向く死体。体の一部がない死体。そんな中に呆然と立ち尽くす戦士。

突然、強く風が吹き、目を閉じてしまう。次に開けた時、そこには戦士はいなく、代わりに見慣れた人、絵里がいた。

 

「エリチ……」

 

絵里は黙って振り向き、希のもとへ行く。そして希を拘束する物全てを素手壊す。

 

「あ、ありがとう。」

 

絵里は何も反応せず、希から離れる。

 

「ねぇエリ「来ないで!」

 

絵里は背中を向けたまま強く拒絶する。

 

「私は怪物よ。普通の人間じゃないの。だからこんなことだって出来る。」

 

自分の所業を皮肉るように絵里は喋る。

 

「だから希は私に関わらないほうがいい。だってあなたは……」

 

絵里は急に背中に温もりを感じた。後ろを一瞥すると、希が背中に抱きついていたのが見えた。

 

「エリチ、ごめんな。ウチが何も気づいてあげられなくて……。」

 

「離れなさい!希もああなるわよ!」

 

「だったら何でウチを助けに来たん!」

 

「そ、それは……」

 

希の言葉に絵里は戸惑う。それと同時に騙せない嘘を何でついたのだろうと後悔した。

 

「エリチは優しいからウチを傷つけたりしない。」

 

「何でそんなこと……」

 

「ウチら何年一緒にいると思うん。と言っても肝心なところで気づけないんやけどね。」

 

少しおどけながら希は語りかける。絵里は心の中で考える。あなたに対していけない思いを抱いてる。だから私は嫌でも離れないといけない。

しかし、そう考えていたがそれはすぐに改めさせられる。

 

「それにウチはエリチのことが好きやから。何者でもない綾瀬絵里が好き。……エリチはウチのことどう思ってる。」

 

突然の告白に目が泳ぐ。

 

「それは……」

 

言っていいものなのか。ただでさえ私はこう異端の存在だ。この思いを告げることは果たして良いことなのか。絵里は腰に取り巻く希の腕を一旦離し、希の目を見る。希は真っ直ぐ、曇りのない瞳で絵里を見つめる。それを見て、絵里は覚悟を決めた。

 

「好き。いや愛してるわ。あなたのことを。」

 

この言葉を聞いた希は嬉しそうな表情を浮かべながら涙を流す。

 

「でも、ごめんなさい。私はあなたに抱きつくことも手を取ることもできない。それでも傍に居てくれる?」

 

「当たり前やん。傍にいれるだけでウチは充分よ。」

 

快く希は返事をする。

 

「ありがとう、希。」

 

すると、2人は空が青んでることに気づく。

 

「朝やね。」

 

「そうね。」

 

日の出の太陽が優しく2人を照らす。そして、2人のいるべき場所へと歩み始めた。


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