1.球磨型5番艦木曾、ただいま着艦
……1944年、11月13日。
俺は木曾に乗艦して輸送任務に向かっていた。そこには隼鷹や第30駆逐隊も同行していた。
俺らは佐世保からブルネイへ向けて輸送していたのだが、一緒に同行していた秋風が突如、存在していた米国の潜水艦の雷撃によって轟沈されてしまった。
それに危機感を感じた俺らはブルネイにて重巡艦の利根と共にマニラ湾へ入港した。
その後、隼鷹輸送隊はレイテ沖海戦から生還してきた時雨を編入し、俺のいる木曾を置いて帰投していった。それが昨日の話。
そして俺は今木曾と共にマニラ湾にて停泊中だ。
正直、帰れるかどうかはわからない……。
周りのみんなの様子はそんな不安の表情を浮かべて頭をうなだれている奴もいれば、まだ希望を捨てずに張り切っている奴もいる。では俺はどっちなのかというと、実際のところどっちでもない。
確かに帰れるかどうかは分からない、でも不安になる必要はない。かといって希望を持つ必要もない。
何故かというと、俺はもうこれで終わってもいいとすら思ってるからだ。
俺と木曾は幾多の戦を共にしてきた。柔らかく言うと幼馴染的なものだ。まぁ、木曾の方からは何もしゃべることなく俺が勝手に木曾に触れながらしゃべりかけてたっていうだけだけどな。……決して俺は変態ではないぞ。
木曾は1921年に竣工された。竣工された後にシベリア撤兵や日中戦争に参戦した。その時、つまり竣工されてからずっと俺は木曾と行動を共にしていた。太平洋戦争でも第5艦隊として参加したし、ミッドウェー作戦ではアッツ島、キスカ島攻略作戦にも参加した。さらには球磨型の艦の中でも艦橋構造物が大型化された。
俺にとって木曾は誇りそのものだ。
俺が木曾の甲板に寄りかかりながら思いふけっているとそこに同じ乗組員の仲間がやってくる。
「なぁ、俺ら……まだ30代後半だぞ?こんな若さで死んじまうのかな……?」
「分からない、でも別にここまで生き延びれただけでもありがたく思おうぜ?俺はもう死んでもかまわないさ……」
「お前のその精神の強さにはまったく脱帽ものだよ……そうだな、俺らがまだ二十歳にもなってない頃からお国のために乗員されたってのにここまで生き延びれたのは奇跡も同然だよな……」
「あぁ、奇跡だよ」
目を細めながら小さく微笑み、頭を上げたその時だった。
外で耳を劈くほどの耳鳴りと共に爆発音が聞こえてきた。それと同時に艦内は爆発により激しく揺さぶられた。
「なんだ!?爆撃か!?」
「そうかもしれないっ!みんな、このままいくと艦は沈む……今のうちに早く避難だ!」
耳を澄ましてみると爆撃音のほかにキーンと戦闘機が飛んでいるような音が聞こえてくる。おそらく空母の艦載機だろう。
俺は艦の出口へ仲間を案内し、用意していた小型のボートに続々と仲間を乗せていく。早めの行動をとったのが功をなしたのか、乗組員はほとんど避難することができた……しかし、一つ問題が生じた。
「おい、これじゃお前が乗れないぞ!?どうするんだ!?」
「……俺は、木曾に残る……だから、俺を置いて行ってくれ」
「何言ってるんだよバカ!まさかさっきのもう死んでもかまわないってことか……だったらやめてくれ!俺たちと一緒に生き延びてくれ!」
さっきの乗員の仲間はボートの上で未だ木曾に乗っている俺に向かって手を差し伸べてきている。
確かに今無理やり乗ることも可能なのかもしれない。でも、俺のせいで生き延びれたはずの命が失われるのは惜しい。だったら俺は一人の俺という犠牲を選ぶ。
俺は彼の差し伸ばした手を握り、握手のように強く握ると全力でそれを引き離した。
突如手を離された彼は呆気にとられた表情を浮かべているが、それに俺は握手をした手をピンと伸ばしてその手を額に添えて敬礼をする。
「……っ!」
彼は俺の敬礼姿を見ると俺の意を察してくれたようで目尻にうるうると涙を溜めながら俺と同じように敬礼をしてくれた。
それと同時に彼と仲間を乗せたボートは避難をはじめ、木曾から……つまり俺から遠ざかっていく。
幸い、爆撃があれだけで彼らが避難した後には行われなかった。俺はさっきのように木曾の甲板に寄りかかる。やっぱり、この寄りかかりの心地よさは変わらない。たださっきと違う場所を挙げるとするなら爆撃のせいで甲板に穴が開いてしまったことと、それが引き金で徐々に浸水して沈んできていることだ。
これでいいんだ……そう、これで。
今更後悔なんてしていない、後悔をしていたら敬礼をしてくれた彼に示しがつかない、そしてなにより木曾にも悪い。
浸水してきて濡れた手で木曾の甲板にそっと触れてみる。とても甲板だから冷たいに決まっているのだが、なぜか俺にはにわかに暖かく感じた。もしかしたら水が冷たすぎてるのかもしれない。
でも俺にはそれが本当の木曾の姿に見えた。
こんな最期まで木曾は俺と共にいることをうれしく思ってくれている。それはもちろん俺だって最期の沈む時まで一緒にいられることがうれしい。
そろそろ意識が薄れてきた。俺は本当に最期に木曾に向かって一言ささやいた。
……ありがとう……
しばらく意識が飛んでいた俺は目を開けることは出来なかったが何やらガチャガチャと機械音のような音が俺の耳に響いてきた。
……何をしているのだろうか、それに俺は生きているのか?いや、でも確かにあの時俺は木曾と共に海の底へ沈んだはず……
しばらくして俺のもとに光が差し込んできた。それと同時に俺の目も開けれるようになった。
俺は突然の光に眩しそうに目を少しずつ開けた……そして俺の目の前の視界に映ったのは一人の男性。
男性の表情は険しい表情をしていたが、俺の姿を見ると険しい表情は一気に吹っ飛んで俺に向かってうれしそうに微笑みながらこう言った。
「……ようこそ、よく来てくれたな……木曾……」
この度は本作品を読んでいただきありがとうございます。
本作品は私が艦隊これくしょんの球磨型の軽巡艦である木曾の一人称が「俺」だということに観点を置いてこう作ったらいいのではないかという意外と軽薄な考えのもとで達筆しました。
なので、いろいろと文でもそうであり設定的にも至らないところが多々見受けられると思いますがそれでも許容できそうなら応援してくださると非常に助かります。
それではさようなら。