真・恋姫†無双 一刀立身伝(改定版)   作:DICEK

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第032話 反菫卓連合軍 合流編⑥

 

 

 反董卓連合の集合地に到着した孫堅軍はせっせと陣地の構築を始めた。諸将の中では到着したのは最も遅かったが、指定された日時よりも二日も早い到着である。道中、募兵と訓練をしながらの道行きなのだから孫呉軍が如何に速足だったのかが解るというものだ。

 

 最後の孫堅が来たのであればすぐに会議……とはならないらしい。上の人たちの言う『諸将』というのは主だった有力者のみを指しており、それに従う細かな所がまだ到着していないとのことだ。自分の所のボスよりも遅く到着するとは良い身分であると一刀でさえ思うものの、インフラの整備されている現代とは異なることは彼自身が嫌という程思い知っている。この国この時代では距離と時間は思うようにならないものの代表だ。

 

 どうにもならないものが相手では、如何に血気盛んでもなるようになるしかない。しかも自分は出席しない、決まったことだけを聞く会議のことなど下っ端の人間たちには全く興味のないものだった。一刀団の軍師たちを加えた面々で今後の方針を決める会議を始める上層部を横目に見ながらも、陣地構築の手は緩めない。

 

 陣地の構築が終われば、後は自由時間だ。これまでのスケジュールであればこの後に訓練が待っているが、今は他の軍の目もある。近く戦をする気配ありという所で無駄に疲れる訳にもいかない。

 

 という訳でドッジボールである。訓練もなく自由時間となれば後はもう遊ぶしかない。コートの描ける地面があり、ボールの数さえ揃えば集団でも遊ぶことができ、チーム分けまで済んでいれば後はもう総当たりするだけだ。勝率とか何処がトップかなど誰も気にしない。自分たち以外を皆ぶちのめせば勝ちという、数が数えられなくても理解できる単純明快な一刀ルールは血の気の多い兵たちには大好評である。

 

 だが、そろそろ始めるかという段になり間の悪いことに甘寧たちが帰ってきた。

 

 自由時間なのだから自由にしていて構わないはずなのだが、この決まりの悪さは頂けない。一刀は場の仕切りを廖化に任せると集まりから抜け、甘寧に駆け寄っていく。

 

 和気あいあいとドッジボールの準備をする面々を甘寧は遠目に眺めていた。無表情を装っているがその横顔には僅かな羨望が見て取れる。軍人などを好んでやる人間は総じて身体を動かすことが好きな連中だ。甘寧もその例に漏れず、実力差がありすぎるからという理由でドッジボールに混ぜてもらえないことを不満に思っているという情報を小耳に挟んでいた。

 

 いつかは実力の揃う連中でチームを組み対戦させてあげたいものだが、それは今ではない遠い未来の話だ。今の孫呉軍で甘寧のボールを受け止めることのできる人間は一刀団を含めても両手の指に収まる程度。しかもそれは孫堅や黄蓋など全力でボールを投げるには抵抗のある人間を含めての話だ。

 

 やはりスポーツとは気心の知れた連中だけでやるべきものである。そう考えるとやはり、人員はどうしても足りなくなるのだった。

 

「お疲れさま」

 

 てて、と小走りで駆け寄ってくる雛里に目線を合わせ、帽子を取って頭を撫でる。ご満悦の雛里を見て郭嘉と程立はあきれ顔であるが、文句を言ったりはしてこない。一刀団の幹部は一刀を除くと軍師三人に武官が二人。その内年若い三人が団長である一刀にひっつきたがるために、一定の距離を取るのは少数派なのだ。

 

 特に郭嘉は殊更意識して口を噤んでいる有様である。それなりに程立と付き合いのある彼女は、実は程立が機を伺っているだけなのをよく理解している。少数派であればまだ良いが、下手に突いて精神的に孤立してしまうのは困るのだった。

 

 そうなると異端であることを解消するためには、自分も前に倣えをしなければならなくなる。一刀のことは別に嫌いではないが、年若い面々のようにべたべたするのにはまだ抵抗があった。このまま順調に立身出世を続けていけば、いずれそういう関係になることは目に見えているが……今はその時ではないというのが、郭嘉の弁である。

 

 程立からすればそれは自己弁護の形にもなっていないものだったが、それを言うなら機を伺っている自分も立場は同じである。攻め入るには秋があるというのは年上の軍師二人の共通する見解だった。

 

「それで孫堅様はどういう計画を?」

「挨拶回りに行かれるそうですよ。ご本人は黄蓋様を伴って袁術の所に。孫策様は周瑜様と共に袁紹の所に。幹部の皆さんはそれぞれ有力な諸将の所に先触れとして顔を出しに行きます。陸遜殿が曹操軍、周泰殿が馬超軍と言った具合ですね」

「それで我らが甘寧将軍はどちらに?」

「公孫賛軍だがお前には他人事ではないぞ? 聞けばあちらの客将である美髪公と昵懇だそうではないか」

「昵懇という程では……」

 

 一度共に賊軍と戦ったことがあるだけで、その後は文でのやり取りが二度三度あっただけだ。以降、直接顔は合わせていない。世間一般で言われる所の『昵懇』とは大分差があるのではと思うのだが、甘寧はそうではないと思っているらしい。一刀の反応が渋いことに甘寧は小さく首を傾げた。

 

「美髪公が犬だとすれば、忠犬と言っても差し支えないくらいの懐きっぷりであるとお前の軍師たちは口を揃えていたが……」

 

 一刀が視線を向けると軍師たちは揃って視線を逸らした。郭嘉と程立は知らん顔という体だが、雛里は挙動不審だ。その慌てっぷりが面白くて正面に回って顔を覗き込むようにすると、慌てて身体ごと視線を逸らす――雛里をまた面白がって追いかける。

 

 延々とそれを繰り返す一刀を見て、甘寧は深々と溜息を吐いた。軍師たちの言う関羽との関係は、当たらずとも遠からずだと判断したためだ。

 

「そういう訳で私とお前は確定だ。後二人までなら連れて行って構わない。お前が自分の所から選ぶと良い」

「将軍の部隊からは選ばないので?」

「どうせ連れていくならば綺麗所にしておけ、というのが炎蓮様からのお達しだ」

 

 それについては同意見である。こちらも相手も女性なのに、さらに女性を連れていくというのも妙な話であるが、実力者が女性ばかりという環境だとそういう慣習にも違いがあるのだろう。聞いた話では会議に出席する代表者は全て女性であるという。現代日本ではそう考えられない環境だ。

 

「それではまず雛里を。あちらには学院の同級生がいるので話も弾むでしょう」

「一刀さん……」

 

 追いかけ回されているのも忘れて配慮に感動し動きが止まったのを見逃さず、脇の下に手を入れて抱え上げる。あわわと悲鳴を挙げるが時は既に遅い。抱っこしたまま郭嘉に視線を向けると呆れかえっているのが見えたが、その口からは愚痴も忠告も出てこない。何だかんだで雛里がまんざらでもないことを把握しているためだ。

 

 お互い同意の上であれば、触れ合いも福利厚生の一環だ。時と場合を考えてくれというのもあるが、周囲にいるのがそれを受け入れてくれる相手ばかりであればどうということもない。

 

「他は誰が良いかな?」

「私か風でも良かったのですが、シャンにしておきましょう。貴殿と出会う前に共に旅をしていた者が、公孫賛殿の所に流れ着いたとかで先頃文が届きました」

「趙雲殿だったかな……どんな人だ?」

 

 この国に来てからの情報では、その趙雲については名前を知っているという程度の認識だ。郭嘉たち本人から聞いた情報も元旅仲間で鑓の使い手くらいである。

 

「風が言うのも何ですが、変わった人ですねー。メンマとお酒をこよなく愛する良い人ですよ」

 

 ふむ、と一刀は声に出さずに困った。顔を合わせた時に会話を円滑にする追加の情報が欲しかったのだが、ここで分かったのはメンマとお酒好きの変人ということだけだ。

 

 時間があればおみやげの用意もするが、まさか都合よくおいしいお酒とメンマが用意してあるはずもない。これでどうしろというのだろうと程立を見ると、彼女はいつも通りぐるぐる飴を咥えてふふふーとほほ笑むだけである。言葉で煙に巻いて一刀を困らせるのは程立の性分だ。

 

 何も解らないに等しいが、郭嘉たちとつるんでいたのならば悪い人ではないだろう。おまけに強い人でもあるようだし、顔をつないでおいて損はない。

 

「そんな訳だからさっさと身支度を整えろ。お前の準備ができ次第出発するぞ」

 

 言うが早いか、甘寧は自分用の幕舎に足を向けた。既に準備万端と言った風ではあるが、余所行きともなると甘寧にも準備があるらしい。ならばその間に準備を済ませねばなるまいが、女性である甘寧と異なり、一刀にはそれほど準備に必要なものはない。

 

 一張羅もあるにはあるが、あれはこういう場所で使うには向かないぴっかぴかのものだ。それを除くとなると一刀の手持ちの服には大したものは存在しない。精々髪を整え今の身なりに気を遣う程度であり、それも数分もあれば終わってしまう。

 

 さっと身づくろいを終えることもできたが、終了する一歩手前の状態でしばらく待つ。甘寧が幕舎から出てくるのを待ち、今終わりましたという体で背筋を伸ばす。下手な気の回し方に、甘寧は深々と溜息を漏らした。

 

「…………行くぞ」

 

 それについてコメントはしない。下手と言っても配慮は配慮だ。形の上で待たされた人間が、待たせたなとも言えない。甘寧は実直で気の回せる人間であるが決して弁が立つ方ではない。それは行動にも表れており、感情を上手く言葉にできない時は褐色の肌が僅かに朱に染まるのである。

 

 要するに照れているのだ。手が早く荒っぽい上官の、こういう女性っぽい面を眺めるのが一刀は堪らなく好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中央に共有スペースがあり、それをぐるりと囲むように各勢力が並んでいる。これが円卓であれば上座下座がありそうなものだが、単純に到着した順番であるらしい。汜水関に向かって一番近い場所に曹操軍がおり、そこからぐるりと到着した順番に布陣している。子飼いの連中は親分の後ろに配置されるが、唯一、孫堅軍は袁術軍の隣に布陣されている。立場上は子飼いと言っても良いはずであるが、それだけ周囲から一目置かれているということでもあり、それを袁術軍も無視できないということである。

 

 自分が一時的にとは言え仕えている人間が凄い人というのは一刀の自尊心をくすぐったが、今この時に限って言えばあまり慰めにはならなかった。他勢力への移動は少数であれば中央の共有地を通って移動する。目的地の公孫賛軍は共有地を挟んで反対側にあるために結構な距離を歩くのだ。

 

 仲間と共に車座になるのとは訳が違う。形が一緒でも規模が段違いだ。合計すれば50万人に近い人間が集まっているのだがら、それを収容するだけのスペースとなれば広大である。

 

「こういう時、広さの基準になる施設があると便利だと思いませんか?」

「具体的に言え」

「この陣地洛陽百個分です、と表現できれば広さの想像もし易いんじゃないかと」

「洛陽に行ったことのない人間は置き去りだな」

 

 尤もな指摘に一刀も苦笑を浮かべるばかりだった。一刀自身、大きさの表現によく使われた東京ドームには行ったことはない。

 

「そもそも広さを想像し易くしてどういう得があるのだ?」

「行く前に広さが解るというのは良いことだと思うんですが……」

「主だった場所であれば把握していてしかるべきであるし、初めて行く場所であっても斥候くらい出す。お前の説明だとそういう情報を知らない人間に、どれくらいの広さであるかという情報を共有させるための表現だとは思うが、例えば末端の兵にこの集合地が洛陽百個分程だと説明して、奴らは喜ぶと思うか?」

「……思いませんね」

 

 気にするのは精々、狭いか広いかちょうどいいかくらいだろう。それも大抵は現地についてから考えることでどの程度広いかというのはあまり意味がない。そもそも読み書き計算すら浸透していないというのは珍しいことでもない。指の数しか物を数えられない人間に、洛陽十一個分と言っても伝わらない可能性もある。

 

「お前の献策は悪くないが、どうも兵の質を過大評価している所があるな。お前の団のように全ての兵が読み書き計算ができる訳ではないということは、よく覚えておくと良い」

「肝に銘じておきます」

 

 一刀団の識字率は非常に高く、最初期からいる二百人に限って言えば100%である。後から合流した面々も短時間ではあるが毎日の勉強が義務付けられているため、勉強した時間に応じての能力が身についている。これは軍の中では珍しいことであり、荒っぽいことで知られる孫呉兵の中でも特に荒っぽい甘寧隊の中では若干浮いていた。

 

 これは孫呉軍の上層部でも意見が分かれる所だった。周瑜や黄蓋などは命令の伝達がやりやすいと好評だが、孫堅や孫策からはそんな暇があるなら調練をするか休めという反応が返ってきている。平素であればそういう文句も出なかったのだろうが、今は出先であり、彼女らにとっては家としての今後もかかっている状況だ。

 

 兵の識字率や計算は彼らの人生に直結する問題ではあるものの、直近に大きな戦がある以上、使う彼女らにとって他のことをせよ、と思うのも無理からぬことではある。それでもあの短気な孫堅をして好きにしろという言質を引き出すことができたことは、一刀にとっては嬉しい誤算だった。

 

 そんな他愛もない話をしながら歩いていると、公孫賛の陣地が見えてくる。歩兵が中心の孫呉異なり騎馬が中心の公孫賛軍はその馬を収容するスペースを確保するため、人数の割に陣地が広いのだ。

 

 ここから公孫賛軍ですよという明確な仕切りがある訳ではないが、各陣営は共通して共有地に面した部分を陣地の『正門』として扱うことで合意している。隣接していても『正門』の方に回ってから訪いを立てなければならず、それ以外の訪いは敵対行為と見做す。聊か攻撃的な決まり事ではあるものの、各々野望を持った人間が共通の目的のためだけに集まったのだ。無駄なトラブルは避けねばならず、それは末端の兵にも簡単に浸透させるものでなければならない。

 

 陣地から出るな。他軍の兵と関わるな。伝達行為さえ限られた人間が行うことにすれば、末端のトラブルは少なくなる。故にこれだけの人数が集まったにしてはトラブルは少なく、ほどほどの平和な時間が続いているが、それは緊張感の上に成り立ったものだ。

 

 公孫賛軍の陣地、その正門に立っていた歩哨は近づいてきた他所の軍の人間を見て、身体を強張らせた。武器に手こそかけなかったものの、何かあればすぐに動ける様に身構えたのだ。訪ねてきた人間にしては随分と離れた位置で足を止めた甘寧は、その場で伺いを立てた。

 

 それでようやく、歩哨の緊張は解ける。しばし待たれよ、五名いた歩哨の一人が陣地の中に駆けていく。戻ってきた時、彼は馬に乗っていた。息を切らせた彼に案内され、案内された幕舎は周囲の物と比べてもそう目立ったものではなかった。少し大きく歩哨がついている以外は、特筆することもない。孫呉軍は幹部の使う幕舎はそれなりに豪華なのに比べると、実に対象的だ。

 

 こういう所にも性格はでるのだな、と感心している一刀を他所に、一刀たちは幕舎の中に案内された。

 

 中央には軍議用のテーブル。その向こう側に、目的の人物が勢ぞろいしていた。その内一人、最も小柄な少女と視線が交錯する。水鏡女学院の制服にベレー帽。金色の髪をおかっぱにした美少女――朱里は一刀に対して遠慮がちに小さく手を振った。

 

 それに手を振り返そうとして一刀は寸前で止めた。あれは朱里のような美少女だから似合う仕草なのだ。男がやっても痛いだけである。とは言え無視するのも憚られる。悩んだ一刀は結局現代日本人らしく曖昧に微笑むことにした。

 

 それが正解なのか不安ではあったものの、朱里は満足そうに微笑んでくれる。これはこれで正解だったのだろうと安堵する一刀の横で、雛里がじっとりとした目を朱里に向けていた。朱里が自分を差し置き、真っ先に一刀に手を振ったのが不満だったのである。

 

 一刀の笑顔を受け止めた朱里は、ようやく視線を雛里に向けた。親友の視線が自分に向くのを待って、雛里は心中でえい、と声をあげて一刀の腕を取った。手ではなく腕である。身長差があるために腕を抱くというよりはしがみつくという風になっているが、それにどういう意図があるのかは女性であれば誰でも理解できるだろう。

 

 正面から親友の態度を見た朱里は、笑顔を強張らせた。ちり、とその場に緊張が走るのを一刀が肌で感じたのはこの時ようやくだ。仲良しなのにたまに反目することがある。この年代の少女ならそんなものだろうと男性らしく軽く考えるだけに無理やり留めることにした一刀は、朱里の横に立つ女性に視線を向けた。

 

 朱里や雛里と同じ上着を着た、背の高い女だ。飾り気のない髪は本人の気質を表すようにまっすぐで、首の後ろで無造作にまとめられている。目が悪いのだろう。大きなメガネの奥の目は整い切れ長ではあるが神経質に細められている。疲れた時に郭嘉がよくやる表情を常にやっているような人相の悪さだ。

 

 間違いなく美人ではあるが、お近づきになりたいと思うかは男性でも評価が分かれる所だろう。事実、やぶにらみの視線を向けられた一刀は思わず一歩後退ってしまったが、直後、彼女は口の端を上げて小さく笑った。朱里から何を吹き込まれているのか知らないものの、評価そのものはそれ程悪いものでもないらしい。

 

 安堵した一刀が次に視線を向けたのは白い装束の女だった。肩を出し、胸元の大胆に開いた丈を詰めた着物のような装いである。猫を思わせる微笑の浮かんだ顔は興味深そうに一刀を見つめている。これまた美人であるが、武人を前にした時特有の、研ぎ澄まされた気配をその佇まいに感じた。

 

 おそらく彼女が趙雲だろうと当たりをつける。事実、今度はシャンが彼女に向けて小さく手を振っていた。それに気づいた趙雲は、小さくウィンクをする。様になった洒落た仕草に、一刀は世の理不尽を感じた。

 

 そして、もう一人。こちらは明らかに自分よりは年下と思われる少女である。柿色の服に短いスカート。茶色の髪がサイドで結われており、くりくりとした目と凛々しい眉が印象的だ。根拠はないが何となくこの集団とは毛色が違うことを一刀は察していた。彼女もおそらく客だろう。どこからの客かは知れないが、孫堅の使いであると解っている甘寧を相手に、その場に留まることを許されているのだ。ただの友達ということはあるまい。

 

「主、孫堅の使いで参りました。甘寧と申します」

 

 いつになく丁寧な甘寧の名乗りに、公孫賛は小さく頷いてみせた。本人は鷹揚に頷いたつもりだったのだろうがその様はどこか頼りない。それ故に一刀は会ったばかりの彼女に親しみを覚えていた。強そうだ。デキる人間にも見えるし、実際に大軍団を指揮している。それなのに初めて会う五百人程度の部下しか持たない自分に『頼りない』と思われるのはきっと彼女の人間性に依るものなのだろう。

 

 この人を放っておいてはいけない。他人をそういう気持ちにさせるのは何も悪いことではない。世の人間などは彼女のことを『普通』と揶揄するのだが、我らが筆頭軍師の意見は異なる。貴殿の目指すべきところは彼女ですよと、何度言われたか知れない。

 

 反董卓連合軍、諸将の一人。『白馬義従』の公孫賛。一刀が会うのを楽しみにしていた人間、これがその一人との最初の出会いだった。

 

 

 

 


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