初ハジメモノ物ガタリ語   作:北松文庫

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第4話

   005

 後日、私は掲示板の前で立ち尽くしていた。

 立ち尽くしていたということは、それだけの意味であって、それ以上でも以下でもない。

 立つことに尽くしているだけであった私の頭は、本来機能するべき思考回路すら正常に働かせてはいなかった。

 今の私が受けている衝撃を言葉に表すのなら、今から語るべきであった物語を全て止め、それと同等の長さ位は語らねば表すことは出来ないだろう。

 しかし、私は阿良々木のように無駄話はしたくない。

 スムーズに語り、スマートに語り終えて、スプレンディドな人間であることを世に知らしめたい。

 人間、目が重要ではないんだよ。

 そう言いたい。

 外面的な情報ばかりに左右され、本当に見極めなければならない内面のことを疎かにしていれば、そこような選択ばかりを取り続ければ。

 私のような。昔の私のように愚かな人間となってしまう。

 大人な私は、自分の話が脱線していることにも気付ける。

 ついついコンプレックスの話に飛んでしまったが、私としてはそこまで的外れという訳でもない。

 コンプレックス。

 強迫観念としてまとわりついて離れないあの男を憎む気持ち。その気持ちを思い出したのだ。

 コンプレックスについて思い出すのも無理はない。

 なぜ思い出したのかというと、まあそれは私の視線の先に答えがあるわけだし。

 目の前の光景について語ればすむ話で。

 数学の妖精である私としては、正しい解を素早く導き出したい訳でもあるけれど。

 ・・・・・・こればかりは。

 「見てみて、こよみ。あなたの名前がのってるわ。へー数学二位だって」

 「おお・・・。なにがさて、僕が一番びっくりだよ。二位? 数学は確かに他の教科に比べると得意な部類だけど。この大学で二位が取れるとは」

 「なにそれ、嫌味? ないわー。阿良々木ないわー。この際別れちゃおっかな。こういう男が料理に文句言うんだもんなー」

 「謙遜したら別れ話だと!? 地雷が多すぎやしないか、ひたぎ」

 「ああ、わざわざ名字で呼んでまで距離を取ったのに」

 「最近はな、お前が離れようとしたら、近づくのも手だと思っているのさ」

 阿良々木。お前。――――ん、ああ。老倉。ちょうど結果を見ていたところだよ。お前はどうだったんだ? ――――それは・・・それこそ嫌味か? 阿良々木。良いご身分だこと。順位の良い。序列二位の男の余裕は素晴らしいわね。

 脱帽とは、文字通り、意味通り出来ないけれど。この私のツインテールを捧げてあげなくもないわよ。――――いや僕は別に。

 「いいの」

 いいのよ、別に。あなたもさぞかし頑張ったのでしょうね。良かったわね、苦労が報われて。それにもとから何も言えないわよ。ここで私があなたを落とし入れても私が惨めなだけだから。 でもね、阿良々木。あなたが今数学が得意なのは・・・。

 「育。昔のようになっているわ。あなたはもう大人なんでしょう」

 ――――育。

 「え、ええ。私はだもん」

 だもん?

 私はなにを言っているの? 戦場ヶ原さんが急に名前で呼ぶから。急に馴れ馴れしくするから!

 暑くなる、赤くなる顔を隠しながら、もう一度私は二人の方へ視線を向けた。

 「私はだもん? お前はゴットガンダムのパイロットか? 色々言葉足らずな気がするんだが」

 「煩い! ガンダムファイトを始めるつもり!? 良いわよ。望む所よ! お前のモビルスーツの性能とやらを見せてもらうわ!」

 「おお、ノリ良いな。お前、本当に変わったよ。・・・いや、良い意味で」

 しまった――――取り乱した。

 引きこもり生活中に食事をしながら適当にチャンネル回してたらやってた番組で得た知識が、こんなとこで発揮されるとは。

 不覚。

 不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚不覚。

 「おい」

 ・・・はっ。

 既に私の顔は隠しても隠しきれない程に赤くなっていた。

 「だって。これは――――」

 私はその場から走って逃げた。

 私は残念ながら三位という結果で、やはりあの男を憎んでしまった。

 頭の中が落ち着いて、気持ちを切り換えたのは、昼休みになってのことだった。

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