「ふん!他愛の無い…」
結果から言えば、ホウセンの一喝で城兵達は萎縮し、事を構える事無く、その儘 退散していった。
「うおん!ついでだから、特別席で、アイツ等の戦い、見る!」
ギィイ…
扉を開け、コロシアム内に入ると、その場に座り込むホウセンとベロリンマン。
一部の観客が2人に気づき、どよめくが、直ぐに場内の『主役』であるフィーグとゼヴィウスに視線を戻す。
「でや!無双三段!カッコミカンセイ!!」
自身が前から頭の中で構築しており、先の戦いでホウセンが己に魅せた、斬叩払の基本を突き詰めた『技』を放とうとするフィーグ。
「甘いわ!」
ガシャッ…
しかし、ホウセンの其れとはスピードが遥かに及ばず、単なる基礎攻撃の連撃でしかない其の三段攻撃は、ゼヴィウスに あっさりと受け止められる。
しかし、フィーグも それは想定の内。
三段攻撃の第3戟、下方向から振り上げる払い斬りを、燃える大剣でガッシリと胸元でガードするゼヴィウスに、
「足元が お留守になってますよ?」
…からの水面蹴りで、足を刈る。
この試合、フィーグが初めて、相手にマトモに技をヒットさせたのだった。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「凄いです!バルログさんの言った通り、本当に格闘の技が突破口になりました!!」
「いえ、まだよ、今のは単発の技が決まったに過ぎないわ。」
「ええ、いつものフィーグさんなら、あれから飛び膝蹴りに繋ぐのに…」
「臆したな、フィーグ…ゼヴィウス氏の殺気に気圧されたか…」
水面蹴りの後に攻撃を繋がなかったフィーグ。
いや、本当は、そこからの飛び膝蹴りを繰り出す心算だったのだが、その時に目に映ったゼヴィウスの顔を見た瞬間、反撃のカウンターを喰らうビジョンが見え、攻めを躊躇してしまったのだった。
バルログの発言通り、長年、特訓の名の下にボコボコにされてきた苦手意識からか、攻撃を仕掛けようとした時に視界に入るゼヴィウスの眼の前に、どうしても肝心な時に攻め倦んでしまう。
「どーしたフィーグよ!来ないなら此方から行くぞ!」
そして それに気づかない程、ゼヴィウスは甘くはない。
試合が始まった時に附加させたベキラマの炎が徐々に消えていく刀身を頭上に大きく掲げ、縦一文字に振り下ろすゼヴィウス。
「爆砕剣!」
ドガァアッ!
元々のモーションが大きい その技自体はフィーグも躱すが、この技の真価は刀身での斬撃に非ず。
「くはっ!?」
爆砕剣…最初から刃は躱され、地を叩き付けるのが前提の技。
その衝撃から成る土塊や石の破片を敵にぶつける攻撃である。
しかし、ゼヴィウスも この程度の技で、フィーグが まともにダメージを負うとは考えていない。
この技の本命の目的、それは同時に生じた土埃で敵の目から己の姿を隠した上で、
「Rush de Rhinoceros!!」
ダッ…
大剣を脇の高さで水平に向けた構えから繰り出される、特攻による刺突剣であった。
ガチィッ!
「く…!」「残念…!!」
しかし その突撃は、大剣の切っ先を槍の穂先をぶつける事で、フィーグに止められてしまう。
切っ先に対して寸分狂わず、正確に真っ直ぐに穂先をぶつける事の出来る集中力。
そして其の儘、技のパワーに弾かれる事なく、その突進を止める技量と力量。
更には視界が土煙で閉ざされた中で、其れを実行出来る度胸と勘の鋭さ。
幼い頃より、やれ最強だの最凶だの最恐だのという、チートな肩書きを持つ祖父や父、そして彼等が所属している王城兵団や傭兵団の猛者達に鍛えられてきたのは伊達ではなかった。
「覇極流千峰塵!!」
そして、間髪入れず、反撃に転ずるフィーグ。
本音は牙突の強烈な一撃をお見舞いしたかったのだが、敢えて質(正確さ)より量(手数)、下手な鉄砲も数撃ちゃあの選択がベターとばかり、高速の連続突きを繰り出していく。
「ぐぬぅっ?!」
この攻撃に、堪らず身を固めてガードするゼヴィウス。
ドンッ
その隙を突き、槍の柄尻を地面に縦に突くと、其れを軸に身体を旋回させ、
「うおーりやあっ!!」
バシィッ!!
相手の側頭部に上段の回し蹴りをフィーグは炸裂させる。
そして、身体をぐらつかせながら、それでも倒れないゼヴィウスの正面でジャンプ一番、両脚で頭部を挟む様にキャッチすると
「どっせぃ!!」
先程のホウセンとの試合で決め技となった、バク転から脚での投げを繰り出す。
「ところが ぎっちょん!!」
ガシィッ
「!!しまっ…」
しかしゼヴィウスは回転を赦さず、フィーグの腹部を両腕でがっしりとキャッチすると、逆に その回転の勢いに自身のパワーを上乗せさせ、
ドォオン!!
闘技場の地面に、自身の両脚をフィーグの脇の上に乗せる形で、肩口、そして後頭部を思い切り叩き付けたのだった。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「うぉっ?!俺の時の、逆パターン!」
場内の壁に背中を預けて座り込んでいた着ぐるみ男が、思わず立ち上がり叫ぶ。
「ぐ…」
逆転を狙った技を捌かれ、逆にダメージを受けながらも、立ち上がるフィーグ。
「おお!?アレを喰って、普通 立つかぁ?」
「あ…生憎、受け身は得意なんで…ね!!」
これには、必殺の心算だったゼヴィウスも吃驚…と云うか、自分の息子のタフさ加減に呆れてしまう。
「ならば…イオ!」
「!!」
少し距離を空け、大剣に爆裂(イオ)の呪文を附加させて、
「真・爆砕剣!!」
自分の足元に、何か標的が在るかの如く、地面を叩き付けた。
ドッオオオオオン!!
本来なら至近距離で繰り出す その技は、呪文効果による爆発爆風と共に、土塊や石礫をフィーグに浴びせる。
そしてゼヴィウスは、それと同時に またも土煙に紛れ、そして大剣の切っ先を地に着けて突進、
「ベギラマ!」
その最中に刃に炎の帯を纏わせると、
「Lion de Furea!!」
試合開始時に見せた、自身最大の必殺剣を仕掛けてきた。
それを やはり試合開始の時と同様に、槍を両手で横に構え、受け止めようとするフィーグだが、
バッキィッ!
「な…!?」
下方から振り上げられるアッパースイングは痛恨の一撃となり、朱紅の槍…ルージュ・オブ・ケイジの柄を両断し、その儘、フィーグの胸元を斬りつけた。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「嗚呼…う…う~ん…」
パタ…
「ね、姉さん?!」
控え室の水晶玉(モニター)で、その光景を見ていたマーニャが卒倒、慌ててミネアが支える。
「まさか、あの槍を断ち斬るとは…」
「ええ、技のダメージなんかより、かなり精神的にキてるんじゃ…」
「これは、決まった…かな…?
…フランベルジュ…やはり強過ぎる!」
「フィーグさん…」
ソロ達が そう呟く中、フィーグは起き上がり、サウスポーのボクサースタイルの構えを見せる。
「ほぉ?まだ続けるのか?」
「へっ…しつこいのが売りでね…
とある太った先生も仰られたよ…。
『諦めたら そこで試合終了ですよ』ってね…!!」
「上等!!」
未だに眼が死んでない目の前の敵に、一切の手加減無く、紅蓮の大剣を振りかざすゼヴィウスに対し、
タンタンタンタターン…
フィーグは独特のステップを踏んでリズムを取り、その攻撃を躱す。
左腕は胸元から顔をガードする様に構え、そして肘を90゚に曲げた右腕は腹の上、
シュシュシュ…
振り子の様に左右に振ったかと思えば、
「でぃや!」
バチィ!
その右腕を鞭の様に撓らせ、顔面に手刀の一撃をヒットさせると、透かさず大剣の間合いの外に移動する。
しかし、ゼヴィウスは この機を逃す心算は無く即座に追撃。
反撃の隙を全く与えない、連続攻撃に打って出る。
フィーグも その怒涛の攻めを避けている最中に、先程折られた槍…穂先の付いた方の部位を拾い、それを短剣の様に扱って攻撃を凌ぐ。
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
…ちぃいっ!!
ぶっちゃけジリ貧だな!
「はっははー!どうした?
もう、終いか?諦めて試合終了か?」
「るっせー!今、作戦考え中だよ!!」
…とは言ってみたが、本当に どうする?
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ!既にルールは度外視なんだ、多少不様でも良いんだ…何か策が…
「爆砕剣!!」
ドッオオオオオン!!
うっわ!?危な!
…てか、この技、飛んでくる土や石が、地味に痛いんだよな!
しかし、これをやってきたって事は…
「でえいりゃあっ!!」
斬!
「うわっとぉ?」
やっぱりかよ!
土煙で姿を隠し眩ませてからの急襲…
手段を選ばない、傭兵らしい戦術…
別に それを卑怯とかセコいとかは思わないけど…
『来る』と分かっているから、辛うじて避けていられるが、あの目眩ましからの見えない状況からの一撃は、マジ厄介だよな…
…!!
有った!策が有った!
しかし、まだ完璧じゃない…
それを実行して、それで確実に仕留める様に煮詰め練らないと…
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
リーチが半分以上に短くなった得物(やり)で、ゼヴィウスの大剣を何とか捌くフィーグだが、防戦一方なのは一目瞭然。
「…………………………!!」
両者に声援を送っていた観客席も、徐々に決着が近付くのを予感し始める中、苛立ちを隠せない、いや隠そうとしない男が1人。
「えぇい!フィーグよ、貴様は何をやっているのだ!
仮にも、このホウセンから勝利を奪ったのだ、その儘 不様に散るのは赦さんぞ!!」
「…!?」「ほぅ…?」
武器を交えていた2人も手を止め、その咆哮を上がった先に目を向ける。
その視線の先…闘技場の壁に背を預けて腰を降ろしていた男は、徐に立ち上がると、
ぶぅうん…
手に持っていた己の槍を、天高く放ると、それはフィーグの目の前、足下に突き刺さった。
「これは…」
「我が方天画戟、使いこなしてみせろ!」
「…じゃ、遠慮無く…!」
ガシッ
ホウセンの言葉にフィーグは惑う事無く、槍の柄を握り締めると、地に刺さった穂先を引き抜き、
ブゥンブゥン…
頭上で大きく、槍を数回転させて、
「行くぜ!文句は無いよな?クソ親父!」
「ハッ!その程度のハンデくらい、認めてやるわ!バカ息子!!」
必勝のポーズを構えるのだった。
「ハッ…!フィーグ?」
「あ、気が付いた?姉さん!」
その時そのタイミングで、選手控え室、倒れていたマーニャが目を覚ましたのは、偶然か それとも必然なのか…いずれにしても それは別の話である。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
うっしゃ!この槍は正直、有り難ぇぜ!
俺は この槍の持ち主みたいに、意地を張って、拾うのを拒む様な真似は しないもんね!
方天画戟か…
ケイジとリーチは変わらないが、少しだけ、こっちのが重量があるな…
しかし、この程度の違和なら、意識していれば問題無い!
そして、これで策は成った!
これなら…勝てる!
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「でりゃ!」
ぶぉん…
水を得た魚の様に、ホウセンの愛槍・方天画戟を時には細かく丁寧に、そして時には大胆に風切り音を唸らせながら、振り回すフィーグ。
しかし、ゼヴィウスに その穂先は届かない。
「どうした?お前は空(くう)を相手にしているのか?」
「しゃあらぁーっぷ!」
ドガッx2!
「「!?」」
互いに繰り出した攻撃は浅くはあるが、互いの身体にヒットする。
たまらずバックステップで距離を開ける両者。
ダッ…
直後、ゼヴィウスはダッシュを仕掛ける。
「Rush de Rhinoceros!!」
刀身を水平にしての突撃。
しかしフィーグは、それに対して正面から迎える構えで、集中力を高めると同時に、突き出した己の右手に魔力を込めると、その大剣が自分の身体に届く前、刹那の瞬間で、
「照光(レミーラ)!!」
「な…!?」
本来は光の届かない洞窟内で、広範囲を見渡す灯りとして使用する呪文。
それをフィーグはゼヴィウスの顔の前で、眩い光を放った。
目の前に不意に現れた光の眩しさに、一瞬 怯むゼヴィウス。
そしてフィーグが策として狙っていたのは、まさしく この瞬間。
「雷光流転槍ー!!」
ドゴォォォォン!
神速の5連突き。
「~か~ら~のぉ!」
そこから間髪入れずに繋ぐのは、準決勝の時から、いや、それ以前から何度となく、実戦挑戦していた技、槍術の斬叩払の基礎を、技として昇華させた…
「無双三段!!」
ズシャアァッ!!
「…出来…た…!?」
如何に標的が照光(レミーラ)の目眩ましによって、殆ど無防備状態だったとは云え、フィーグが放った三連撃は、速さ重さ正確さ、その全てが基礎の域を超え、その次に在る『技』の位置に上り詰め、完璧に決める事が出来た。
以前から脳内でイメージを描いており、実践してきた技が、初めて技として完成したのだった。
しかし その直後、
バキイィッ!
「~んが…っ?!」
炎の大剣が地を抉りながら、下から突き上げられ、フィーグの顎にヒット。
装備していた真夜の仮面が、縦真っ二つに割れてしまい、素顔を露わにしてしまう。
そしてフィーグは その大剣のパワーで、またも吹き飛ばされてダウンする。
新技の完成と、それが見事に決まった事により、自身の勝利と思い込んだ事による油断である。
だがゼヴィウスも、決してダメージが小さい訳ではなく追撃しようにも身体が謂う事を聞いてくれず、その隙にフィーグが大勢を整える時間を許してしまう。
「くはぁ…まさか、レミーラを戦闘中に、しかも あんな風に使ってくる者が居るとは、思いもしなかったぞ!!」
「応!俺も まさか、実戦模擬戦問わず、生まれて初めて戦闘中に使う呪文が、アレだったとは想定外だよ!」
ハァハァ…ゼィゼィ…
肩で息をする2人は、どちらともなく、互いに得意とする、突撃系の技を繰り出す為の間合いを取るが如く、歩を進めて距離を開ける。
ゼヴィウスは燃える刀身の切っ先を地に着け、フィーグは右手を大きく前に出し、親指と人差し指の合間から見える敵を見据え、左手で槍を構える。
「「次が…最期だ!」」
決して示し合わせた訳ではない、2人の言葉が重なると同時に、先に動いたのはゼヴィウス。
それに対してフィーグは動かない。
斬りつけた地に、炎の軌跡を描きながら突進するゼヴィウスが自身の間合いに入り、
「Lion de Furea!!」
そこからの地を抉る、炎のアッパースイングを放つと同時に、それまで不動の構えを見せていたフィーグは大きく一歩を踏み出すと、
「牙突!ジョルトカウンター!!」
ズッガァアッ!!
「「ぐおぉっ?!」」
トーナメント初戦で見せた、カウンター式の牙突を放つのだった。
………………………………………………。
静まり返る闘技場の観客席。
この両者の必殺技の激突は、端から見たら相打ちの如く、互いに後方に吹き飛ばされた。
…!
静寂の闘技場の中、先に立ち上がったのはゼヴィウス。
フィーグも やや遅れて立ち上がる。
「「………………………………」」
「…今の踏み込みは見事だ…やりゃ、出来るじゃねーか…!」
ガタッ…
数秒の睨み合いの後、ニヤリと笑って、その一言だけ言うと、ゼヴィウスは再び崩れ落ちる。
「へっ…ざ…っまぁ…!!」
バタッ…
そしてフィーグも、続けて その場に うつ伏せに倒れ込んだ。
「むっ!」「うおん!」
直後、特等席で試合を観ていたホウセンとベロリンマンが、2人の元に駆け寄り、抱きかかえて起きあがらせると同時に、
ドオォォォォォォォォォン…!!
闘技場に銅鑼の音が、大きく鳴り響いた。
トーナメント編、次回で締めます。