私は安東玲子。今年越してきたばかりの保健室の先生である。毎日保健室に居座り多くの生徒や、迷える子羊を手当てしてきた。今日も朝早く出勤し、コーヒーを飲みながら怪我の人数を書類にまとめていた。
はぁ…とため息を漏らす。実は、ここ最近怪我人が多いのだ。毎日並みのように押し寄せてくる生徒は私にとっては蚊に近い存在になりうる。言っても言っても同じ怪我を繰り返す、仕事なんだから仕方ないと言い聞かすが体は嘘をつけず、ある時は泣き、ある時は生徒に対して怒鳴ってしまっていた。しまいには治療道具を渡し、セルフサービス化することもあった。何故私はこのような仕事をしているのだろうか。それすらわからなくなってきていた。
ある日、いつも通り学校に出勤し朝礼を終え保健室での仕事を始めようとしていた。また生徒が押し寄せてくることを考えると地獄でしかない。気だるい気持ちを押し殺し、コーヒーをすすっていた。
私がコーヒーカップと二度目の口づけを交わす前に事は起こった。保健室のドアがよろよろ開き始めたのである。そこまではまだいつも通りで、ドアの方を向くことなく注意した。
「まだ保健室は空いてないわよ。隠れて入ろうとしても無駄だから…大体最近の学せ…」
と、不意にドアを向いてみるとドアの付近には血黙りができていたのである。白いドアには全くついておらず、ドア周辺の床から広がっている。恐る恐る右手にコーヒーカップ、左につっかえ棒を持ちドア付近に向かう。すると目に入ってきた光景に、口に含んだコーヒーを噴き出してしまった。
そこにはナイフで刺された男子生徒が倒れていた。様子からして深々突き刺さっている様子。白い制服の半分は赤く染まりきっており、紺色で見えないがズボンにも血が付いている。とりあえず生徒は誰もいなさそうなので、少々乱暴かもしれないが脇を持ち引きずる形で保健室に入れた。そのあと、傷口付近にガーゼを当て寝かせようとしたが、本人は拒否をし壁に倒れて行ったので、座らせる形で壁に下ろした。いてて…と声を出したようでどうやらまだ生きれそうなことはわかった。私は携帯で救急車を要請し、生徒の様子を観察した。周りに生徒はおらず、まだ登校時間でもないことから、どうやら一人でここまで来たようだ。廊下には血の道が開拓されている。ここから見る限りかなり長い。一応、職員室に連絡を入れる。どうやら学校に不審者がいるかもしれない、と。すぐに保健室の戸を閉めてカーテン、ブラインドを閉め安全を確保した。
「…もう、連絡、しちゃいましたか…?」
きれぎれの声で、男子生徒が呟く。何故こんな時にそんな質問を…思わず私は、
「えぇしたわよ。早く来るといいわね。」
と、怒鳴り声で言ってしまった。あっと思い何か言い返そうとするがその前に生徒が喋る。
「そりゃ…残念。日本ってさ、6分ぐらいで救急車…来るらしいから、先生とあまり話せなくて。」
少しドキッとした。が、決して惚れたというわけではない。が、どんな意味でドキッっとしたのか分からない。こいつは少々めんどくさい相手になりそうだ。早く救急車が来ることを願い椅子に座って報告書を書き始めた。
何も話さず一分。生徒はうずうず何か話したそうにこちらを見ている。私はここに来たばかりで、まだこの子がどんな名前でどんな性格なのかも全くわからない。が、少々のってあげてもいいだろう。本当は安静にさせておいた方がいいだろうけど、このまま見つめられているとこちらが耐えられないし、むしろ数分と考えるだけで頭が痛くなり胃がむかむかする。自分のおなかをさすりながら意を決し声をかけてみた。
「救急車来るまでなら話聞いてもいいけど?」
すると、生徒の目がきらきら光りだした。ほんとにいいの?と顔に書いてあるが、頷いてやる。これも作戦だと重い我慢して聞いてやる。
「俺の家ってここから自転車で10分くらい先にあるんだけど…実はさ、俺家でて五分ぐらいのところで刺されちゃって…ここまで来たんだけど…すごくない?」
嘘だろう。一言目に飛び出した言葉はこれだった。そして、言葉の前にパソコンの画面にコーヒーを噴出したぶちまけてしまう。
「そんなの…あんたどんな精神力してんのよ…」
「さぁ、火事場の馬鹿力とかその辺の類のやつじゃない?つーか、先生コーヒー噴き出すとか汚えし…」
「うっさいわよ!朝から保健室に血だらけで入ってきたりされたら誰だって噴き出すわよ!」
変なところを突っ込まれ怒鳴り返す。生徒はハハッと軽く笑った。なぜか私にはここに何故か怒りの感情というものはなかった。
なぜか楽しい。
何故楽しいのだろう。心がなぜか踊るのだ。いままで、保健室にいてここまで心がウキウキしたことはない。私はパソコンを拭いた後資料を置き生徒の近くまで椅子ごとよってやった。そう、この少年と話すことに少々興味がわいたのだ。決して、好きではないが。
「どうしたのさ先生、まさか俺のこと好きになった?」
「なるわけないでしょう。セクハラって言うのよ、その行動。第一、教師が生徒のことなんて好きになるわけないでしょ?」
「へぇ…まぁ、俺彼女いるし先生を彼女にはできないな。割と好きなんだけど残念。」
「バッカじゃないの…あなたが私に敬語を使うなら考えても?」
「うわぁ、先生の冗談キッツー…驚きで血があふれてしまいそうだ。」
お互いくすくす笑う。このほかにも少ない会話であったが、彼の学校であった奇想天外な話を聞かせてもらう。何故、ただ話を聞いてるだけなのにここまで楽しいのだろうか。私だけではなく、聞いてもらっている生徒もとても楽しそうだ。それなら、私もここに来るまでどんな話があったか話そう。きっとバカにするんだろうが、それでもいい。話すことがこの生徒の楽しみなんだろう。私は彼が刺されたことなんてとっくに忘れて、ただ、この残されている時間を有効に有意義な時間にしようと試みた。
とその時、外で救急車のサイレンが近づき、やがて担架が降ろされる音が聞こえる。これは私と彼の時間の終わりを告げる瞬間であった。保健室に向かって担架を転がす音、救急隊の荒い息、来るなと心の中で唱えてしまう。でも、よく考えたらこの子は患者だ。しかも重症。なのになぜ、助けないといけないのになぜ離れてほしくないのか。そして、これは言うべきなのだろうか。私は教務だ、しかも保健教務。自分でセクハラとか言っておいて何をやっているんだ私。生徒は救急隊に担ぎ上げられた後、担架に寝かされた。その寝かされる瞬間、彼は親指を立てこちらにサムズアップしてきた。その行動にどうも返せず、ただ、彼が担架で運ばれていくのを眺めているしかなかった。
結局なんだったのだろうか。生徒たちが授業をしている間に私は廊下に敷かれた赤い液体をふき取った。もちろん、警察が捜査した後なので問題はなく、完全に消えるまで拭いた。彼は一体なんだったのだろう。刺されたのになぜあそこまでペラペラ会話できるのか。まさか、あの腹に刺さっていたのはパーティナイフではなかったのでは。が、もうそのことを知る権利はただの保健教師の私にはない。
だが、私は彼と話していて一つ分かったことがあった。あの生徒は楽しそうな雰囲気で去って行った。保健教師なんてこんなことが本業でもない気がするが。ここに来る生徒たちは何か目的があってやってくる。今日の生徒は私に助けを求めてたのではないか。勝手な考察だがほかの生徒だって、怪我をしたから、気持ちを落ち着けるためにといった目的があった。今日、私はその目的に寄り添って達成した。すべての人の目的は達成できないかもしれない、自分のためでなくて人の助けになりたくてこの仕事を始めたのだった。もしかしたら、あの少年は私にヒントを与えるために来た何かなのかもしれない。廊下を拭き終り、保健室に戻る。そこには彼がすがっていた跡、血が垂れていた。
おぉ!なんてこった!!あいつはとんでもないものを残していきやがった!!
少しイラッときながら、再び手袋をつけ雑巾で拭き始める。と、そんなことをしていると学校のチャイムがなる、休憩時間だ。早く終わらせないと、患者に不快な思いをさせてしまう。こんなことを思うのもなんでだろうな。
「今日はどんな人が来るのかしら…」
何だったか忘れた曲の鼻歌を歌いながら、作業を始めた。こんな人が来たら、あんな人が来たらどうシテヤロウカ妄想が止まらない。自然に口角が上がっていた。
私は忘れない。この6分間にあった、私を思い出させてくれた出来事を。
久しぶりの作品投稿です!えさかです!!忙しくなってきた中、ふいに思いついてもやもやしていたので書いてみました!自分、保健教務でもないし、もしかしたらいろいろ間違っているのかもしれません…が、できる限り調べたので大目に見ていただきたいですが…我慢が出来なかったばあい、何か言いたいときは感想をください。普通に艦背負うくだs…
さて、艦これは四月中に一度完結させたいです!ではでは!!