前作を読んでいると分かりやすいです。
読んでいない人たちのために必要な情報をまとめると、
・ISコアの複製に成功した勢力がある。
・そのコアは逆に男性にしか反応しない。
これだけを踏まえていただければ大丈夫だと思います。
1 楽園ーいほうー
「この役立たずが」
そう言われ続けた。
織斑マドカは狭い船倉に押し込まれていずこかへと運ばれていた。
それも別段、珍しいことではない。
もう二度、三度繰り返したことだった。
『世界最強』と比較され、失望されては役立たずだと罵られ、そして捨てられる。
「私なんて……いなくなればいいのに……」
膝を抱えてマドカは呟く。
呟きながらも心は逆に自分の存在を証明したいと叫んでいる。
「力が欲しい……力があれば……」
Dランクという低いISの適性を覆すためにはそれこそ自分を強くするしかない。
「私は……」
「おう、お前が織斑マドカか」
唐突に船倉の扉が開かれた。
マドカは無感情に顔を動かして、入って来たガラの悪そうな女を見る。
「は……本当にあのブリュンヒルデとそっくりだな」
その名を出されてマドカの心が荒立つ。
そして、その気持ちのままマドカは駆けていた。
身を低くして一気に女に接近する。が、その一歩手前で大きな機械の腕で上から床にマドカは叩きつけられた。
「手癖の早さもあの女並みか」
「うるさい……私を織斑千冬と比べるな」
痛みに耐えて搾り出した言葉は一笑される。
「血気盛んなのはいいがここではその手癖の早さは抑えてもらうぜ」
「それは……どういう意味だ?」
その言葉に彼女は笑い、告げた。
「ようこそ、アルヴィスへ。織斑マドカ」
それが織斑マドカの始まりだった。
*
周囲からの視線に織斑マドカは居心地の悪さを感じずにはいられなかった。
――動物園のパンダとはこんな感じなのか……
そんなことを考えつつも、視線が集中する理由を考えて、マドカはため息を吐いた。
別にここが男子校で、女子が自分一人だけだという理由ではない。
この学校は島にある唯一の学校のため、総人数が少なく大半が顔見知りだから島外からの転入生であるマドカが物珍しいのだろう。
何にしても学校という空気に、場違いな気がしてひどく落ち着かなかった。
「――らっ! 織斑っ!」
「――っ!?」
呼ばれる声に反応を忘れていると頭に衝撃が走る。
「つぅ……何をするオータムッ!?」
声を上げて抗議すると今度は額に拳を受けて、マドカは仰け反り倒れた。
「ここでは巻紙先生だ。それよりいつまでも突っ立ってないで自己紹介をしろ」
改めて、クラスメイトたちと向き合ってマドカは戸惑う。
学園に通えと言われた時は、軍学校のようなものを想像していたがこれは違った。
並ぶ生徒達はどれも戦いとは無縁にしか見えない子供たちだった。
「お……織斑マドカです……」
「それだけか?」
「それだけって…………」
視線が集中する。その視線にたじろぎながらも、マドカは何とか言葉を作る。
「以上だ」
その言葉にオータム、巻紙は深々とため息を吐いた。
「お前はまともに挨拶もできないのか?」
「う、うるさい。私はこんなことをするために――」
「はい。この新入生は織斑マドカちゃんです。どこかの有名人に顔は似てるけどみんな差別しないで仲良くしてあげてね」
「「「はーいっ!」」」
巻紙の猫を被った言葉に元気のいい返事が声をそろえて返ってくる。
思わず、マドカは慄いて途方に暮れた。
――私はこんなところでやっていけるのか……
それはISに乗る以上に困難なミッションだと思えてならなかった。
*
その学園には当然、ISの授業だけではなく一般教養の授業も存在していた。
「ぜんぜん分からない」
一時限目が終わってマドカは机に突っ伏して弱音を吐いた。
これまでずっとISのことにしか使っていなかった頭に一般教養の語学の知識はまったく未知の存在だった。
「何で私はこんなことしているんだ?」
それはここの支部の方針だからであり、マドカに選択の自由はない。
「とはいうが、自分の名前を漢字で書けないのは恥ずかしいことだぞ、ジャパニーズ。というか、何で織斑が書けてマドカは書けないんだ?」
「うるさいオータム。お前こそ、猫を被り――」
「巻紙先生だって言っただろ?」
「くっ……」
拳骨を落とされた頭を押さえてマドカは巻紙を睨む。
「それよりも移動だ。二時限目は第一種任務に関しての授業だ。お前の場合は操縦者だな」
「私は…………まだISに乗れるのか?」
マドカは巻紙の後について歩き出す。
「あいにくとここにいる連中は他の部隊と違って戦い気のない腰抜け共だ。お前の仕事はシステムのテスト操縦者ってところだ」
事実上、戦力外通知としてここに送られたと理解しているマドカは特に反論せず質問を重ねる。
「そもそもこの島は何なんだ? 組織の中の一部署だとは聞いたが随分と平和ボケした空気だな」
「何だ、何の説明も受けてないのか?」
巻紙はマドカに振り返って苦笑する。
「まあ、お前が戸惑うのも無理もねえが、ここはISの社会に適合できなかった奴らの受け入れ先だ」
「……社会不適合者か」
「言い方が悪いな。ま、事実だからなんとも言えねえが……
ISが現れて割りを食ったのは何も男だけじゃねえ。
軍に関わる生産ラインや、それまで真っ当に宇宙工学をしてきた奴らはISが出てきてお払い箱にされちまった。
それに今では軍用や競技用にしか目を向けられていないISを医療や宇宙工学に役立てようって指針でこの島は作られたんだ」
「意外だな」
「何がだ?」
「組織は単なるテロリストだと思っていたが、そんな慈善事業にも手を出していたのか?」
「当然、旨みがあっての話でもあるぜ。宇宙には未だに手付かずの資源が多くある。それをいち早く確保したいっていうことさ」
「あの子供たちは?」
「親の連れ子だ。男女差別が酷い世の中で歪んで生きて欲しくないって理由とか、まあ事情はそれぞれだ。それよりも、到着だ」
「……シミュレーションルーム」
案内された地下の扉の前に設置されたプレートをマドカは読み上げる。
「揃っているわね」
そんな声を上げながら巻紙は部屋に入った。
そこには数人の子供たちが整列して彼女を待っていた。
「…………男?」
てっきり女だけかと思っていたが、整列して子供達の中には何故か男も混ざっていた。
ISは男には使えない。それが不文律なはずなのに何故。
マドカが首を傾げている間に巻紙が話を進める。
「さて今日のカリキュラムは将陵君、織斑さんと組んでちょうだい」
「はい」
巻紙の指示に答えたのはやはり男だった。第一印象は年上、しかしひ弱。そんな少年だった。
「よろしく織斑さん。俺は将陵僚、僚って呼んでくれてかまわない」
「ああ……私もマドカでいい」
戸惑いながらマドカは差し出された手と握手を交わす。
「さ、授業を始めるわよ」
「あの先生。織斑さんはスーツに着替えなくていいんですか?」
巻紙の言葉を止めて、僚が指摘する。
見れば男はグレーのISスーツに身を包み、女子はピンクのISスーツをまとっていた。
「ああ、そうだったわね。将陵、織斑を更衣室まで案内してあげて。スーツは織斑のロッカーに用意してあるからすぐに分かるわ」
「分かりました」
「待てオータム。私にあんな色のISスーツを着ろと言うのか?」
女子のピンクの派手なスーツを指差してマドカは抗議の声を上げた。
「あれが共通規格だから文句を言うな。それと巻紙先生だ」
拳骨が落とされたマドカは引きづられるようにしてその場を後にした。
*
「くそ……何で私がこんな目に……」
悪態を吐きながらマドカはピンクのスーツを着込んでいく。
大きな姿見で見る自分の全身像に言いようのない気恥ずかしさを感じてしまう。
「おーい、まだか?」
「……すぐ行く」
急かす僚の声にマドカは気持ちを入れ替えて、更衣室から出た。
マドカを待っていた将陵僚はマドカの格好におかしなところはないかを確認して、
「それじゃあ行こうか」
「……ああ」
頷き、彼の背後を歩きながらマドカは観察する。
色違いのグレーのスーツを着込んだ年上の華奢な少年。やはり何度見ても男にしか見えなかった。
「お前は男だよな?」
「そうだけど。女に見える?」
「女に見えないから聞いているんだ。ISは女にしか動かせない機械だ。なのに何故、男がその訓練に参加している?」
「あれ? 巻紙先生に何も聞いてないの?」
「何をだ?」
「ISのコアの解析に成功して、今は男用のISコアがあるんだぜ」
「そうか……男用のISコアか……そんなものがあるなら納得だ」
頷いて、マドカたちはシミュレーションルームに戻って来た。
「って納得できるか! どういうことだオータムッ! 男用のコアとはどういうことだ!?」
「授業中に騒ぐな。それから巻紙先生だ。何度も言わせるな!」
掴みかかろうとした巻紙にマドカはアイアンクローで反撃された。
*
「ぐぬぬぬ……あの猫かぶりが……」
「大丈夫かマドカ?」
「そこ笑うなっ!」
二時限目が終わりマドカはシミュレーション室の前で水の入ったバケツを持って立たされていた。そこに笑みを作って僚が話しかけてくる。
「いや、マドカはおもしろいな」
人の文句を軽くスルーして僚は笑みを深くする。
「私は面白くなどない。だいたい私はこんなことをするためにここにいるんじゃない」
二時限目のシミュレーションを使った訓練もマドカにとっては物足りないものだった。
戦闘訓練ではない、ただの作業訓練だった。
宇宙空間を想定した無重力状態での機体制御作業は新鮮だったが、マドカが求めていたものとは違っていた。
「そうは言っても、俺らの歳じゃ実働部隊に入ることなんてできないぞ」
「そんなことは知らん。私はもっと強くなるんだ……強くなって、私は……」
自分がそこにいることとを証明する。
ここは確かに自分に力を求めない。
だが、まだ半日も経っていないが、ここは自分がいるべき場所ではないことを痛感した。
「こんなことやっていられるかっ!」
バケツを床に下ろしてマドカは叫び、その足で歩き出す。
「おい、どこに行くんだよ? 三時間目が始まるぞ」
「うるさい! 私は強くならなければいけないんだ! お前達と遊んでいる暇なんてないっ!」
「へえ……随分と言うわね織斑」
巻紙の声にマドカは素早く反応し、身構える。
その姿を見ていた僚はまるで毛を逆立てて威嚇する猫のようだと思った。
しかし、IS『アラクネ』を展開した巻紙にマドカはあっさりと捕まって説教が追加されるのだった。
マドカとオータムってこんな感じで大丈夫でしょうか?
マドカはまだ憎しみを肥大化させてないので割りと大人しくしています。イメージは人に懐かない猫。
Lにするかδにするかはまだ未定です。