お久しぶりです。
この度、ISのファフナー外伝第二部を投稿させていただきます。
完全な見切り発進で、とりあえず筆を動かせと思って書いた作品です。
前作や本編を意識していますが、矛盾したところがあるかもしれませんが極力整合性を取ってやっていくつもりです。
楽しんでいただけたら幸いです。
よろしくお願いします。
01 終わる平和
――これは夢だ……
その時何が起きているのか真ははっきりと理解できていなかった。
まだ幼稚園に通っていた真は初めて乗った船に言葉を覚え始めた妹の真由と一緒にはしゃいでいた。
それが日本に撃たれたミサイルから逃げ出すためのものだと知ったのは、全てが終わった後だった。
空に咲く無数の花火。
その間を縦横無尽に飛ぶ白亜の騎士。
まるでアニメのヒーローが現実に現れたかのような光景に真は目を奪われた。
花火が終わり、今度は飛行機が現れて白い騎士に攻撃を始めた。
白い騎士はビームで飛行機の翼を撃ち抜く。
たくさんの飛行機を落としていく騎士の姿はまさに無敵のヒーローだった。
しかし、それは起こった。
翼を壊され、制御不能となった飛行機の内の一機が真たちが乗っていた船に激突した。
手すりに身を乗り出していた真はその衝撃に海に投げ出され、真が最後に見たのは紅い爆発の炎に飲み込まれていく家族の姿だった。
*
織斑一夏がISを起動した。
そのニュースが世界に報じられて一週間。
戸高真は全国で実施されることになった男性IS適性検査の会場へのバスに揺らされていた。
「はぁ……」
真は憂鬱なため息を吐いて流れる外の景色を眺めた。
バスの内部では真のクラスメイト達が期待を秘めた雑談が行われていた。
「なあなあ、やっぱりISを動かせたらIS学園に通えるんだよな?」
「いいなぁ織斑一夏は、俺もIS動かしてぇ」
「そうか? IS学園って言ったら偉そうな女達の巣窟だぞ。絶対に奴隷みたいにこき使われたり、理由もなしに殴られたりするんだぜ」
学校にいる時と大して変わらないやり取り。
そのやり取りにずっと以前から真は馴染む気になれず、クラスから孤立していた。
現に二人掛けの席の隣には誰も座っていない。
「ISか……」
正式名称インフィニット・ストラトス。
十年前、天才篠ノ之束が発明した宇宙空間での活動するためのマルチフォーム・スーツ。
当初は見向きもされなかったが、その時に起きた事件によってISは世界に認知されることになった。
白騎士事件。
軍事基地のコンピュータが一斉にハッキングされ、2341発以上のミサイルが日本に向けて発射された。
絶体絶命の日本の危機を救ったのは突如として現れたIS『白騎士』だった。
白騎士はミサイルのほとんどを撃墜し、さらにはそれを捕獲、撃破に動いた各国の軍の戦闘機と戦艦を無力化した。
日本の滅びが一転、死傷者皆無の奇跡として今も白騎士は伝説として語り継がれている。
しかし、そこに墜落した戦闘機に激突して沈んだ船の被害、およそ千人の犠牲はなかったことにされていた。
不幸な海難事故。
それが政府が行った情報操作であり、その隠蔽された事実を真が知ったのは小学校の高学年の歴史の授業によってだった。
「なあ、真。お前はISを動かせたらどの機体を使いたい?」
不意に前の座席に座っていたクラスメイトがIS全集という雑誌を開いて真に声をかけた。
真は外を見たまま応える。
「俺は別に興味ないよ。それにそんなことを考えても意味はないし、ISは女にしか反応しないんだから」
「だけど織斑一夏が動かしたんだから俺達にだってチャンスはあるはずだろ?」
「織斑一夏が動かしたISはたぶんファ――」
「おい、やめろよ」
真に話しかけた少年を隣の席の少年が嗜める。
「真にISの話はまずいだろ」
「あ……」
隣の少年に言われて、背もたれから身を乗り出していた少年はバツが悪そうにそそくさと座り直す。
そんな対応に真はため息を吐いた。
初めて知った世間での白騎士に対する扱い。
それを知った時、真は激昂し、そんな真に白騎士を擁護するクラスメイト達と喧嘩になった。
ISを至上とし、女尊男卑と変わり始めていた世界で真のその行動は周りから孤立するには十分過ぎるものだった。
そして、それは中学になってからも変わらない。
そんな真を守ってくれたのは二つ上の近所に住んでいた先輩達だった。
「そういえば、先輩達の検査も今日だって言ってたな……」
ふと思い出したことを呟き、真はできれば会いたくないと祈った。
*
会場に到着してバスから降りた真はクラスメイト達の最後尾を係員に案内されるままに歩いていた。
検査のために来ているのは真の学校だけではなく、他の中学や高校の男子達も真と同じように列をつくって同じ方向に歩いている。
「夏と冬のイベントでもここまで男一色にはならないだろうな」
女好きというわけではないが、男しかいない空間に真はげんなりしながら空を仰ぐ。
『トリィ』
不意に聞き覚えのある鳴声が聞こえたかと思うと、見覚えのある緑色の鳥が真の肩にとまって、かわいらしく小首を傾げた。
『トリィ』
もう一度、メカメカしい鳥型ペットロボが鳴く。
「すいません。通してくださいっ!」
それを追う様に聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「こっちに緑色をした鳥のって……やっぱり真か……」
一人の青年が真達の前で足を止める。
「吉良……それにアスラン」
青年とその後ろから駆け足で近付いてきたもう一人の青年の名前を真は呟く。
大和吉良とアスラン・ザラ。
二つ上の近所に住んでいる真の先輩だった。
「お前は……年上を呼び捨てにするなといつも言っているだろ」
「いいじゃん。吉良も他のみんなもそれでいいって言ってくれてるんだから」
「そういう問題じゃない。いいか、そういう癖は社会に出た時にお前の評価を下げることになるんだぞ」
「アスランは細かすぎると思うけど」
「ですよね」
辟易として肩をすくめる吉良に真は同調する。
自分以上の幼なじみなだけあって、アスランから小言を受けるのは真よりも吉良の方が遥かに多い。
「お前達が大雑把過ぎるんだ。そんなんじゃあ本当に人間関係で苦労することになるぞ」
「そういうアンタはちゃんと四角関係は整理できたのかよ?」
「綺麗な星が着いたり消えたり、彗星かな?」
アスランに向けて言った真の切り返しに、何故か吉良は空を見上げてうわ言を語り出す。
「しっかりしろ吉良っ! 真、お前も不用意なことを言うなっ!」
突然の吉良の豹変。真はアスランに怒られて首を傾げる。
「え……? でも、このくらいいつものことだったはずじゃ?」
「言いにくいことなんだが、そのな……
吉良はゼミの友人の彼女といろいろあってだな。それであいつはあいつで吉良への気持ちを自覚し始めて大変なことになっているんだ」
「うわ……」
慕っていた年上の幼なじみの修羅場に真は顔を引きつらせた。
「かくいう俺も去年入って来た後輩に迫られて大変なんだ」
徹が羨ましいと呟くアスランに真は何も言えなくなる。
「んんっ! それはともかく真もうちの高校に合格したんだってな。おめでとう」
あからさまに話を逸らしてきたが、追求しても仕方がないので真は頷いた。
「あ……その……ありがとうございます」
突然、面と向かって祝福されて真は気恥ずかしくなってそっぽを向く。
「勉強を見た甲斐があったが、合格したのはお前が頑張ったからだ。恥ずかしがることじゃないだろ」
「いつまでも子供扱いするなっ!」
頭を撫でようと伸ばされた手を弾いて拒む。
が、アスランは苦笑を浮かべる。
「これが終わったら合格のお祝いにパーティーをしよう。今日は好きなものを奢ってやる」
「アスランの奢り? やったっ!」
アスランの言葉に精神崩壊を起こしていた吉良が復活して歓声を上げる。
「何でそうなる!? お前も祝う側だろ」
「えーいいじゃん。こないだアスランが作ったペットロボを商品化したいって企業から臨時収入があったんでしょ?」
「お前どこでそれを……だが、それを言うならお前だってプログラムの高額なバイトをしたと聞いてるぞ……
何でも第三世代型ISのプログラムを組んだとか」
「教授に押し付けられたんだよ。いきなり48発のミサイル・マルチロックオンシステムを作れってさ、大変だったんだよ」
「まあ、いい。その話は後だ。ともかく俺達のブースに戻るぞ。トリィ」
『トリィ』
アスランの呼声に反応して真の肩にとまっていたトリィは彼が差し出した手に移る。
そのままアスランは真に顔を寄せ、周囲に聞こえないように声を潜めて言う。
「お前の生い立ちは理解している。ISに触れるのも嫌かもしれないがこんなところで問題を起こしても何の意味もない。早まった真似だけはするなよ」
「それくらいちゃんと分かってますよ」
「そうか、ならいい」
アスランは身体を離して安堵する。
「それじゃあ、帰ったら五時にいつもの喫茶店で、遅れるなよ」
そう言ってアスランは吉良にトリィを返し、彼の手を引いて戻っていく。
その背中を真はやれやれと肩を竦めて見送ろうとして、ふと思い出す。
「あ、そうだアスラン、吉良」
「ん……? どうした?」
「アルヴィスって知っていますか?」
「アルヴィス……初めて聞く言葉だが、吉良は知っているか?」
「ううん。僕も聞いたことはないかな」
「そうですか、知らないなら良いです」
今度こそ二人を見送って、真は周囲を見回して顔を引きつらせた。
「あれ……?」
そこには真の見知ったクラスメイト達の姿は一人もいなかった。
「まずい」
置いていかれた。
薄情なクラスメイトを呪いながら、真は駆け出そうとして――誰かとぶつかった。
「きゃっ!?」
「おっと、悪い……って、きゃあ?」
真は謝ってから聞こえた声に首を傾げる。
まるで女の子の声のように聞こえたが、それはおかしい。
ISの検査会場だがその対象は男だけ。
しかし、真の目の前でしりもちをついているのはどこからどう見ても女の子にしか見えなかった。
「えっと……ごめん。クラスのみんなとはぐれて慌てていて前を見てなかった。立てる?」
疑問があるが、とりあえず真は謝って手を差し出す。
やわらかく波打つ金髪に大きなすみれ色の瞳。
きょとんとした表情が印象的で、やはり声の通り男には見えなかった。
しかし、服装は詰襟の学生服。
――これが男の娘ってやつか……実在してたんだな……
などと内心で感心していると、彼は真の手を取ることなく一人で立ち上がり。落とした帽子を深く被って歩き出した。
「…………感じ悪いな」
確かに突き飛ばしてしまった自分は悪者かもしれないが、謝っているのだから無視するしなくてもいいのではないかと思う。
「まあ、いいか」
どうせ二度と会うことのないだから。
それよりも早く自分達の学校の奴らを見つけなければ、真は今度は走らずに早足で歩き始めた。
*
何とか自分の学校を見つけた真はほっと胸を撫で下ろした。
会場には四機のISが鎮座され、そこに学校単位で組み分けされて検査をする方式だった。
「はい、次の人」
女性のスタッフが緊張する男子を促す。
男子達は期待に胸を膨らませる猶予も与えられず、五秒だけISに触れて次の人へと交代する。
「はい、次の人」
たったこれだけ。
検査と言うのはあまりにも簡単すぎる流れ作業。
「やっぱりダメかぁ」
そんなことを言いながら落胆している男子達だが、作業している女性スタッフ達も期待はしていないのか淡々と作業を進めていく。
「はぁ……大変だな。あんたも」
「え……?」
真のさらに後ろについて列を区切っている少女に真は声をかけた。
水色の髪に眼鏡。
気の弱そうな印象を感じる真と同じくらいの歳の少女。彼女の二の腕にはスタッフを示す腕章が飾られている。
「いや、退屈そうだなって。これって今日で何日目なの?」
「今日で三日目です」
疲れた表情を浮かべて少女は真の言葉に答えてくれた。
誰一人反応しない変化のない検査を一日中、それが三日目、どんな拷問だと真は戦慄する。
「貴方は……他の男子と違うね」
「そうか?」
「うん、他の男子は私に目を合わせないか、アドレス教えてって言って来るかのどっちかだったから」
「後者は分かるけど、目を合わせないって……どうして?」
見たところ線の細い、見るからにか弱そうな少女だった。
それに偉そうにして男子を蔑ろにする悪女のような雰囲気もない。
彼女に怯える要素を真は感じなかった。
「私、これでも日本の代表候補生なんだ」
腰に両手を当てて、えへんと胸を張る少女を真はまじまじと見つめる。
「それ本当?」
「本当だよ。雑誌のインタビューに出たこともあるし、来期に入学するIS学園では第三世代型ISだってもらえることになってるんだから」
「へえ……」
気のない返事を返すと、少女は苦笑する。
「ISのことに興味ない?」
「ま、正直に言えばあまり興味はない。でも――」
真は自分の胸に手を当てて考える。
ISは自分から家族を奪った仇。
その事実は変わらないはずだが、十年という歳月はあまりにも長く、そしてその時の真はあまりにも幼かった。
胸の奥には燻った熱があることは自覚している。
だが、どこか他人事のようで復讐がしたいという気持ちは湧いてこない。
「でも……?」
「いや、何でもない」
適当に誤魔化して、真はふと思い出したことを口にする。
「そういえば俺の先輩が第三世代ISのプログラムを組むバイトをしているって言ってたな」
「え……それ本当? 高校生に組ませるって……」
「本当だよ。俺と二つしか違わないんだけど、その先輩ってプログラムを作るのがめちゃくちゃうまくてさ」
振った話題に食いついてきた少女に気をよくして真は自分の順番が来るまで、彼女と他愛のない会話を交した。
「はい、日出中学は貴方が最後ね」
真が受付のチェックを済ませると、少女が最後に声を掛けて来た。
「それじゃあ、こんなことを言うのもおかしいけど、頑張ってね」
「ああ、暇潰しに付き合ってくれてありがとな」
互いに名乗らないまま別れを告げて、少女は新しいグループを案内するために離れていく。
「ISに関わっている女でもまともな奴はちゃんといるんだな」
離れていく彼女の背中を見送りながら、真はそんな感想を呟く。
真のクラスにもISに関わりもない女が偉ぶっている奴は多い。この会場のスタッフにもそんなクラスメイトと同じ目をしている者もいるが、彼女のようにそうでない者もいた。
「ああくそっ! やっぱりダメかっ!」
真の前の男子がISに触れて落胆する。
が、そんな余韻に浸らせることもせずにその男子は奥の出口に押しやられる。
「次の人、どうぞ」
真の番が来る。
「っ……」
家族を奪った白騎士と同じISを前にして真は思わず固まり、胸の奥の熱がわずかに上がる。
「早くしてください」
不自然に固まった真を、他の男子と同じように無駄に期待を膨らませて気合を入れていると思ったスタッフが急かす。
「…………はい」
脳裏に浮かぶ白騎士の姿を振り払い、真はISに触れる。
――あなたはそこにいますか?――
「え……? っ!?」
綺麗な声が聞こえたかと思うと、真の手はバチッという静電気の音を大きくした音を上げて弾かれた。
「まさか二人目!? …………いや、起動はしていない……でも、この数値は?」
何だか面倒なことになった。
それが真が最初に思った感想だった。
「あの……もう行っていいですか?」
「いえ……もう一度触ってもらえますか?」
そう言われて仕方なく真は手をラファールに手を伸ばして――
「ISが起動したっ!?」
その声に真は思わず手を引っ込める。
まだ触れていない。ましてやラファールは変わらず真の目の前に鎮座している。
声の発生源は隣の四番ブースだった。
「そんな……ISに男は――」
ありえない光景に真は驚くが、周囲の驚愕を置いてきぼりにして目深に帽子を被った誰かはラファールの腕を勢い良く横に薙ぎ払った。
「え……?」
女性スタッフがその腕に吹き飛ばされて宙を舞い、それにともなって彼女が被っていた帽子が落ちた。
「あいつ……さっきの……」
それは真が先程ぶつかった女かと勘違いした男の娘だった。
「こっちも動いたぞっ!」
四番ブースで起きた凶行に気付かず、離れた一番ブースからも歓声が上がった。
そして――
「止まりなさいっ!」
突然、真の横にいた女性スタッフが声を上げて警棒を取り出した。
「え……?」
訳が分からず、真は彼女の視線を追うと詰襟の学生服を着た誰かが人を掻き分けて突撃してきた。
「くっ……」
警告を無視した襲撃者に警棒が振り下ろされるが、襲撃者は難なくスタッフの手を取り受け流し、すれ違い様に彼女の身体に膝を叩き込む。
くの字に身体を折って餌付くスタッフを横に投げ捨て襲撃者はスタッフから奪った警棒を真に向けた。
「そこを退けお前に用は…………僚?」
驚きに目を大きく見開いた黒髪の襲撃者は真に聞き覚えのある名前を呟いた。
「いや……違う。似ているがお前は僚じゃない」
一人で自己完結した少女は戸惑いの目を改めて鋭くし、真を押し退けて少女はISに手を伸ばす。その手を真は掴んだ。
「ちょっと待て! お前今僚って言ったよな!? それじゃあお前は――」
「邪魔だ」
「ぐっ」
文字通り真は少女に一蹴されて地面に投げ出される。
身体を起こした時には、少女は真が触れようとしていたラファールをその身にまとっていた。
「女……?」
学ランを脱ぎ捨てたその下にはISスーツが着込まれており、その体躯は――
「女だよな?」
胸の部分を見て真は今一つ核心を持てなかった。
「何か文句があるのか?」
ISの大きな腕で頭を掴まれて少女の目の前にまで吊り上げられた真はドスの効いた声を眼差しに射竦められる。
「い、いえ文句なんてありません」
「ふん、死にたくなかったら大人しくしていろ」
少女は真を投げ捨てて踵を返す。
「ちっ……やはり武装は全て解除されているか。まあいい」
少女はそんなことを呟くと、おもむろに何かのスイッチを取り出して、押した。
次の瞬間、爆発音と激しい衝撃に地面が揺れた。
「今のはまさか……爆弾!?」
「目的は達成した。これより撤収するぞ」
少女がISに乗っている者たちに向かって声を上げる。
「うん、分かった」
邪気のない声で少女に応えたのは、真がぶつかった金髪の男の娘――ではなく男装した少女だった。
彼女達はパニックを起こす男達を軽々飛び越えて出口へと向かっている。
「くそっ……何なんだよいったいっ!?」
予想もしなかった突然の出来事に真は悪態を吐きながら、気が付けば逃げた四機のISを追い駆けていた。
会場の外に出た真が見たのは、奪われた四機のISと警備部隊のISとの戦闘だった。
テロリスト側はトラックで持ち込んでいた銃火器で武装していた。
その中の一機、黒髪の少女が銃弾が飛び交う中一本のブレードを持って警備隊に特攻する。
「っ……」
色も姿形も全く違うにも関わらず、真はその姿に白騎士を思い出す。
「そんなわけないだろっ!」
脳裏に浮かべた姿を振り払っていると、警備隊に接近した少女は瞬く間に二体のISを斬り伏せるが、斬られながらもその内の一人が少女に銃を向ける。
が、少女はあっさりとその腕を弾き、撃ち出された弾丸は会場の壁に無数の弾痕を刻んだ。
「あ……」
遠目で見ていた真はその銃弾によって壁のパネルが弾き飛ばされるのを見た。
そして放物線を描き飛んでいくパネルのその先には――
「慌てないで! 姿勢を低くして、誘導にしたがって逃げてくださいっ!」
先程真が話をしていた水色の髪に眼鏡をした少女が一生懸命に声を上げて避難誘導をしていた。
当然、自分に向かって落ちてくるパネルに気付いていない。
「おいっ! アンタッ!」
名前を知らない少女に向かって真は叫び、駆け出していた。
しかし、真と彼女の距離はあまりにも遠かった。
あと数秒もしない内に、少女はパネルに潰される。
――くそくそくそっ! またなのかよっ!
脳裏に浮かぶ家族の最後の姿。
戦場の流れ弾に運悪く巻き込まれて、いなくなってしまった父さん、母さん、そして真由。
あの時と同じ様に真は何も出来ず、ただ誰かが死んでいくのを見ていることしかできない。
「そんなことっ……認められるかっ!」
目の前の光景を真は拒絶して、懐から赤一色のカードを取り出し、掲げた。
「来いっ!」
その声に伴って、量子変換の光が真を包み込み、そして真の身体に電流を流す衝撃が走った。
*
その戦場で戦っていた者達は突然現れた未知のISに戦いの手を止めていた。
そのISは異様な姿をしていた。
元は全身装甲型のISだったのだろうが、抉られた頭部の傷の隙間から、ぎらついた紅い瞳が除いている。
左半身を覆い隠すボロマント。
身体中の装甲には亀裂が走っており、動いただけで今にも自壊してしまいそうなほどにボロボロの姿だった。
そのISはテロリスト、警備隊どちらに味方をせず、在らぬ方向へ走り、右腕に展開したルガーランスで逃げ遅れた少女の上に落ちてきたパネルを切り払った。
「そんな……あれは……」
誰もが新たなISの登場に驚き、警戒する中で黒髪の少女だけは別の意味で言葉を失って固まっていた。
「ファフナー……マーク・ツヴァイ…………お前なのか……りょ――」
「何でこんなことを……」
そのファフナーから男の声が響き渡った。
それが混乱に拍車を掛ける。
しかし、少女にとっては期待した声ではなかった。
「またそうやって人を殺すのかっ!? あんたたちはっ!?」
胸に秘めたはずの怒りをむき出しにして、彼は咆えた。
この話の最後の瞬間までは戸高真君の目は黒色でした。
まとめ
戸高真
白騎士事件の際に両親と妹を失った少年。
養子として引き取られた際に名字は改名されている。本名は……
近所に歳の離れた幼なじみを兄のように慕っている。