艦隊これくしょん -Outside the Wall-   作:蒼穹ウミスズメ

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 最後がもう思いつかないという有様で雑になっちゃいましたが、楽しんでいたたければ幸いです。


01

 夜の帳が霞んで朝日が明色に染め出した頃、沈んでいた意識が自然と浮上し自身の覚醒を促す。それに誘われるがまま俺は起床し、ベッド隅のタオルを持って未だに眠り続ける暁を起こさないよう、静かな足取りで隣の部屋に向かう。

 

 

「おはよう、くそったれな今日」

 

 

 小声で、誰にともなく虚空に悪態を含んだ挨拶を吐く。勿論それに答えてくれる唯一の相手は未だ睡眠中。もし起きていたら「朝から下品な挨拶はやめてよね。レディーに付き添う紳士として相応しい言葉遣いじゃないわ」てな具合の呆れた声が返ってくる事もあるが、今回はそんな気配は無い。

 

 部屋間を遮るドア代わりのボロ布ののれんをくぐり、雑然と置かれた荷物と色あせた家具達の横を素通りしてその端の隣室の遮光カーテンで遮られた小部屋に入る。

 

 そこにはこれまでの探索で見つけた食料や水が保管してあり、そこに羅列してあるポリタンク内の水で顔を軽く洗うと、その一角の……発泡スチロールの容器が複数並べられた棚……に向かい、そこで栽培してる食べ頃なモヤシ達をザルに摘み、一杯になると保存食を詰めたダンボールの中からチョコレート味の保存パンの缶詰を1つ手に取ると、先程の部屋に戻る。

 

 ザルからモヤシが零れ落ちないように背中で遮光カーテンを開き、部屋に入る。

 

 

「よっこらせ……っと」

 

 

 ゆったりとした足取りで無事に遮光カーテンをくぐり終えるときびすを返して、外出して探索時に荷物を放り込む2つの大きさが異なるリュックサック、食器とロウソクの入った食器棚、退屈紛らわしの道具やら本一式を放り込んだダンボール、それらとは正反対の位置にある小さな調理スペースに足を運び、就寝前に準備しておいた調理油を少量フライパンの上に引いた後、すぐにモヤシを放り込んで携帯式ガスコンロで加熱する。

 

 

「こんな生活になる前までは全然知らなかったが、今ではすっかりモヤシ様様だ」

 

 

 食品の定期的な供給元が絶たれた今日の環境下に於いて、モヤシは水と豆、暗所さえあれば簡単に栽培が可能という事を知ってからは大いに助かっている。注意事項として細菌が増殖しやすい為生食は推奨されず、食すには加熱が必須という欠点があるも、この住処には火を起こすのに必要な道具一式が揃っているので懸念すべき食中毒の心配はない。

 

 そして材料が限定されている環境下の手前、調理内容は非常に簡単、フライ返しでフライパン内のモヤシをかき混ぜ充分に火を通し、後は幸運にも廃墟化したスーパーマーケットで仕入れた醤油で味付けし、更に白ゴマをまぶしてかき混ぜるだけというの代物だ。

 

 勿論、これだけでは素っ気ないし腹を満たすには物足りないので、保存パン缶詰の封を切ってテーブルの中央に置く。

 

 

「ハル、おはよー。今日もお日柄はよくてですわー……」

 

 

 鼻腔をくすぐる香ばし匂いが充満した頃合いで、コンロの火を消して食器棚から皿を2枚取り出して、出来上がったモヤシ炒めを皿に盛っていると、匂いに誘われたのか、ゆらゆらと、おぼつかない足取りで暁が部屋に現れた。

 

 目覚めた直後か微睡んでおっとりとした口調に半ば閉じたまぶた、跳ね上がった寝癖、そして成人にも及ばない小さな背丈……、知らない者が一見すればただの年齢相応のあどけない少女だ。

 

 しかしその正体は見てくれは人間の少女であるが、人間の概念から離れた改造人間こと艦娘……らしいが、俺には依然彼女がだいそれた存在には見えないというのが本音だ。無論この事を知ったら暁の性格だ、「お子様扱いするな!」と憤慨することは確実なので絶対言わないようにしている。

 

 

「おはようございますお嬢様、今日のご朝食はモヤシのゴマまぶし醤油炒めとチョコレート味の保存パンでございます」

「うーん、よきかなよきかな。まあ、レディーの朝食としては非常に物足りないけど……」

 

「チョコレート味の保存パンがあるだけでも贅沢なんだがな。それはさておき、顔洗って来い。それと水も頼む」

「はぁーい……」

 

 

 今にも倒れかねない歩調で、暁は俺が通った小部屋へと向かう。その姿を見送り、モヤシ炒めとフォークをテーブルの上に揃える。後は暁を待つだけだ。

 

 

「……お待たせ。水を持ってきてあげたわ。レディーとしてはこれくらい気遣いしてあげないとね」

「ありがとよ。さすがレディー候補」

 

 

 椅子に腰掛ける時に合わせて、顔を洗い終え、水を満たしたプラスチック製のコップを持った暁が部屋に戻ってきた。そのはっきりとした声音としっかりと開いたまぶたと表情から、眠気に占領された意識は完全に飛び去ったようだ。

 

 なお、髪に関しては最低限の寝癖を直してはいるものの、一箇所だけ大きくはね上がったままの寝癖が残っていたのが目に留まる。

 

 ……口振りからして、暁本人は残った寝癖に全く気付いてない様子だ。

 

 

「候補じゃないわ、立派なレディーよっ」

「だったらもう少しレディーらしく、身だしなみを整えることだな」

 

 

 自分の扱いに憮然とする暁に苦笑いの笑みを浮かべて言葉を返し、頭を指してやると、彼女は最初は怪訝に首をかしげるも気になって自身の髪に手を伸ばし、その指先が直ってない寝癖に触れるや全てを察したのか、瞬時に頬を朱色に染めた。

 

 

「こ、この程度の寝癖知ってたわよっ!」

「その割には今はっとした顔色だったぞ?」

 

「そんな事ないもん! あえて気付かなかったフリをしてただけってば!」

「……まあ、そういう事にしておくよ。朝食が冷めるから早く食べよう」

 

「ぷんすか! いただきまーすっ」

 

 

 議論が白熱する前に話題を切り上げるや、頬を羞恥の朱に染めた暁はコップをテーブルの上に置き、向かい側の椅子に乱暴に腰掛けて挨拶も早々にモヤシを頬張り始める。

 

 

「はいよ、いただきます」

 

 

 それをきっかけに、俺もからかい過ぎたかなと肩を竦めて質素な朝食を食べ始めた。

 

 

     /

 

 

 朝食を終えたらさっさと皿を洗い終えて、食器を元の場所に戻したら身支度を整える。今日は海に向かうので念入りに準備する必要がある。

 

 とは言うものの、普段通りの格好にいつものリュックサック、護身用の鉄パイプを背中に抱えて歩いて行くだけで、せいぜい異なる点は海産物を運ぶために釣り用の折りたたみバケツを持って行くということだけだ。

 

 この拠点から最寄りの砂浜までの距離は、時間に換算して約40分前後を要する。その道中で新しい水……正確には水源……も発見出来れば御の字──というのが、今回の探索の目的だ。

 

 

「じゃーん! どうかしら?」

 

 

 リュックを背負うと、寝室から暁が現れてつま先を軸に身を翻す。その姿は上着に白地に黒のライン入りのフード付きスウェットパーカーを羽織り、ズボンはデニム生地のジーンズ、靴は運動靴という装い。

 

 どれもが所々汚れており、格好にしたって女性が着るには全く似つかわしくない。しかしこうでもしないと女ということが一目瞭然でバレてしまうから、この場所で暮らすには必然的な変装だ。

 

 

「舞踏会に行くにはみすぼらしいぞ"灰かぶり姫"」

「レディーは着こなしてこそ一人前よ! この衣装だって充分に着こなしてるわ」

 

 

 長い髪をなびかせて、ふんす! と、腰に手を当ててふんぞり返る暁。だが彼女の言う通り、以前身に着けていた衣装より今の格好の方が随分と馴染んできている事は間違いない。

 

 

「それはともかく、フードはきちんと被っておけよ」

「わかってるわ」

 

 

 俺の言葉に従い、暁は髪をまとめるとフードを被る。こうする事で近付いたり、声を上げたり、目敏い奴、じっくりと観察する方法以外、どちらの性別なのかを見分けることは困難になる。

 

 

「よし、そこの折りたたみバケツを持って玄関で待ってろ、俺はいつも通りワイヤーを仕掛けてから行く。……それと、カボチャの馬車は無いからな」

「馬車より、装甲車の方が頼もしいかな。それじゃあ先に行ってるわね」

 

 

 自分のリュックサックを担いで折りたたみバケツを抱えると、暁は小走りで部屋を飛び出す。

 

 そして静寂に包まれた部屋に残されたのは、俺1人のみとなった。

 

 

「……カボチャは馬車にするよか、腹の足しにするべきだな。……さて、忘れ物は無いから行くとするか」

 

 

 足となる乗り物にするより食欲を優先したい感情を呟いた後、鉄パイプを肩にかけて忘れ物がないかの確認を終えて、部屋の入り口に侵入者対策のワイヤーを張る。

 

 そして廊下に出て突き当りの施錠付きドアをくぐって鍵をしめたら足早に階段をおりて、そこにもワイヤーを二重三重にも張り巡らす。

 

 それをあと2回ほど同じ工程を繰り返しながら、玄関へと続く通路を進む。

 

 

「相変わらず厳重ね」

 

 

 侵入者対策の罠を全て仕掛け終えて、玄関に向かうと暁が壁にもたれ掛かりながら呆れた口調で呟く。

 

 

「拠点だから当然の措置だ、こうでもしないと安心しきれん。……それじゃあ行くか」

 

 

 玄関口から静かに周囲を見回して誰の気配も無い事を確認すると、暁の持つ折りたたみバケツを1つ手に持って足早に歩き出す。

 

 

「あ、ちょっと待ってってば!?」

 

 

 暁が慌てて俺の傍に追いつき、隣に並んで歩き出す。

 

 

「もうハルったら、相変わらず私をおいてけぼりにしたり、せっかちでエスコートも下手で、紳士としてデリカシー皆無ね」

「この前『歩くの疲れたー!』って駄々をこねて、帰り道におぶってやった紳士は誰だったかな」

 

「そっ! それは荷物が私に釣り合わなかったからよっ!」

「いんや、忠告してやったのに『この位の荷物へっちゃらよ』とか息巻いてたのに、その結果があの有様だろうが」

 

 

 傍から見れば口ゲンカ。しかしそこには怒気なんてものは含まれておらず、お互いからかうような口調。現に暁は憮然としながらも小さく笑みを零し、俺も似たような表情をしているだろう。

 

 娯楽なんてものは殆ど皆無なこの環境下では、これこそが俺達にとっての数少ない娯楽だ。勿論本当にケンカに発展なんてした日には気まずくなるのは必定なので、何事もほどほどにしている。

 

 そんな風に言葉──俺が一方的に暁をからかい半分、遊び半分──を交わしながら、俺達は周囲に気を配るのを忘れずに海へと向かうのだった。




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