僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence023

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第9話『深い溝』

 三人を連れて渡り廊下を歩いていた隼人は、懐に保証書を収め、申し訳なさそうに俯くシュウを慰めていた。

 

「すまない、隼人。こんな事になるなんて」

 

「良いさ、お前らがトラブルに巻き込まれるよりはいい。それに、年間雇用は初めての大口の仕事なんだ。こんな事で不意にしたくない」

 

「仕事熱心だな、お前は」

 

 そう言って苦笑したシュウに微笑を返した隼人は、やけにおとなしいレンカに気付き、背後を振り返る。

 

 見ればハナに支えられてうとうとしているレンカが、千鳥足で廊下を歩いており、当然かなり離れた位置で、隼人達の後を追っていた。

 

「シュウくぅーん、助けてぇええ。重いよぉ」

 

 半泣きのハナが寝入ったレンカに押し倒されたのを見て、シュウと共に慌てて引き返した隼人は、身長とは不釣り合いに大きいハナの胸を揉みながら、寝ているレンカを担ぎ上げた。

 

 一方、生まれて初めて胸を揉まれたらしいハナを慰めていたシュウは、泣いている彼女の胸元が乱れているのに気付き、慰めながら直していた。

 

「ふぇえええ」

 

「大丈夫か、ハナ。何も泣く事じゃないだろう?」

 

「だって、だって……。初めてで、びっくりして」

 

 そう言って泣きじゃくるハナにため息を吐いたシュウは、元箱入り娘の彼女を抱え上げると、丸太感覚でレンカを運ぶ隼人の後につく。

 

 顔を赤くしてシュウに抱く着いたハナを見て苦笑する隼人は、担いでいるド変態も、ああであればな、と思い余計に悲しくなっていた。

 

「どうした、そんな遠い目をして」

 

「いや、お前がうらやましいなって」

 

「どう言う事だ」

 

「そのままの意味さ」

 

「?」

 

 首を傾げ、胸元に顔を寄せるハナをそのままに歩くシュウは、哀愁漂う顔の隼人を、横目に見てそれ以上言えなくなった。

 

「話は変わるが、今日、お前らどうするんだ?」

 

「どうするんだ、とは?」

 

「寝床だよ。ホテルに泊まるのか?」

 

「いや、何も。恐らく安いホテルに泊まらされるだろうな」

 

「だったらウチに来い。寝床も飯もタダで用意してやる。狭いけど安くてちんけなホテルより幾分かマシだろ。まあ、嫌がる奴もいるとは思うが」

 

 そう言って皮肉る様に笑った隼人に苦笑したシュウは、違いない、と返すと、ずり落ちそうになったハナを抱え直した。

 

 軽く跳ねる様な動きで持ち上げたシュウは、その動きに連動して跳ね上がったハナの豊満な胸に頬を打たれ、一瞬の幸せと衝撃でバランスを崩し、壁に激突した。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

 壁に寄りかかるシュウから咄嗟に飛び降りたハナと共に、駆け寄った隼人は、若干頬が赤い彼に苦笑すると、レンカから離した手を差し伸べた。

 

「すまん」

 

 そう言って手を取ったシュウは、太い腕とは裏腹の弱い力で引っ張られた事に少し驚き、その表情を見て訝しんだ隼人へ誤魔化す様に笑った。

 

 と、そのタイミングで隼人の携帯端末が鳴り、ロック調の着メロを受けた隼人は、展開式補助バイザー付きのインカムの視線選択で、通話開始を選択。

 

 そのまま、発信主も確認せず、通話に出た。

 

「もしもし」

 

『あ、もしもし兄ちゃん?』

 

「誰かと思えばお前か、アキホ。で? どうした」

 

 インカムのずれを修正しながら通話主の義妹、アキホ・イチジョウへ応答した隼人は、シュウとハナを先に行かせると、ゆっくり歩きながら話を続ける。

 

『んー、一週間泊まっていいかなって聞きに』

 

「何?! 一週間?!」

 

 そう言って少し大きな声を出した隼人は、何事かと見てくる周囲の生徒に気まずくなり声の大きさを抑えて、話を続ける。

 

「まあ、いい。一週間泊まるのは良いが、今日は結構な人数が泊まるからそっちに人数いるならきついぞ」

 

『大丈夫大丈夫。泊まるの私とカミちゃんとアハトだけだから』

 

「親父やおふくろは……。そうか、今日の夜から新アメリカ行きか」

 

 そう言ってそう言えば、とカズヒサの事を思い出した隼人は、交渉について後で連絡しようと思い、頭の片隅で覚えて置いてアキホとの会話を続ける。

 

『そーだよ、ひどくない?! パパとママってば春休み中の私を置いて行っちゃうんだよ!?』

 

「ほう。お前、新関東高校に合格したからって随分と余裕だな。学校から出てる宿題はどうした?」

 

『うげっ、それは向こうでやろうかなって』

 

「観光気分で行くのに宿題出来る訳ねえだろうが馬鹿が。だから連れてってくれなかったんだよアホが」

 

『なんか兄ちゃん一言余計! まーいいや。偉大なる兄姉ズに教えてもーらお』

 

 そう言って、ルンルンと鼻歌を通話に乗せるアキホに、ため息を吐いた隼人は、アホ臭く思いながら話を続ける。

 

「何が偉大な兄姉ズだ、自力でやれ自力で。大体あの宿題そこまで難しくないだろうが」

 

『え、代行してもらおうかなって』

 

「お前、うちに来たとき覚えてろよ。じゃあ、何時に来るんだ?」

 

『んー? そっちもう学校終わるっしょ? だから今から三十分後に家出て先に入ってるね』

 

「ああ、わかった。くれぐれも家具家電を壊すなよ。特に、ゲーム機とか趣味の物はな」

 

 そう釘を刺して通話を切った隼人は、その流れで名刺のバーコード経由で、カズヒサに通話を繋いだ。

 

 三コールした後にようやく出たカズヒサは、何だか気だるげな声色であり、通話を繋いだ隼人は、少し不安になりながら話を切り出した。

 

「お疲れ様です、カズヒサさん」

 

 開口一番そう言った隼人は、イヤホンに流れるカズヒサの気怠いあくびに、若干半目になった。

 

『お、おー、誰かと思やぁイチジョウか。お疲れちゃん。で、どうしたよ』

 

「いえ、少しほどお話したい事がありまして。今お時間大丈夫ですか?」

 

『ん? ああ、大丈夫大丈夫。今しがたホテルに着いて寝ててな。シュウ達に勝手に部屋取れって連絡しようとしてたんだが』

 

「じゃあちょうど良かった。カズヒサさん、今日うちの寮にシュウ達を泊めます。良いですよね?」

 

『んー、おう。良いぞ、大歓迎だ。その分、他に予算を回せるしな』

 

 そう言って薄い笑い声を漏らしたカズヒサの側から遠い話し声が響き、やれ飲みだのタバコだのと、女性2人と騒ぐ彼の声を待ちぼうけを食らいながら聞いていた隼人は、無性に通話を切りたくなっていた。

 

(会社にいる連中と変わんねえ……!)

 

 二十歳過ぎれば皆こうか、と落胆しつつ次の話を切り出した。

 

「カズヒサさん、次の話なんですが。年間雇用の件、どうなりましたか?」

 

『あー、あれか。お前さんとこの社長さん、俺らが付く直前に新アメリカのショットショーに出ちまったみたいでな。秘書の人に話を付けて、明日ビデオ通話で話をする事にした。お前も来い』

 

「分かりました、うちの副隊長……岬浩太郎も連れていきます」

 

『おう、了解だ。んで? 何だってお前んとこの社長さんはショットショーなんぞに勇んで行っちまってんだよ」

 

「ああ、それは……。うちの共用装備の更新が近いんで。どうせなら次世代の銃を導入したいって言ってショットショーに」

 

 そう言って歩く隼人は、すれ違う知り合いに笑みを返しつつ、カズヒサとの会話を続ける。

 

「正直今の銃でも十分なんですけどね、俺達は」

 

『そりゃお前さん方、自前の武装使うからだろ? 組織じゃそうはいかねえよ』

 

 そう言ってケラケラ笑うカズヒサに微妙な返答を返した隼人は、現在進行形で担いでいるレンカの腰に下がった『ベレッタ・Px4』9㎜自動拳銃を横目に見る。

 

 硝煙嫌いの彼女が下げているその拳銃は、会社から共用装備として貸与されているもので、バレル、マガジン、スライドの交換で9㎜、40口径(10㎜)、45口径(11㎜)の三つの弾薬を使用できる。

 

 内、PSCイチジョウでは所属する女性隊員でも持ちやすい様に、小口径の9㎜弾対応型が選択されており、レンカが下げているのがそれだった。

 

『で? 話は終わりか?』

 

「え、ええ。はい。以上です」

 

『じゃ、俺らはのんびり新横須賀観光に乗り出すわ。じゃ、また明日な』

 

「はい。また明日」

 

『じゃあな』

 

 そう言って通話を切ったカズヒサにどっと疲れを感じた隼人は、器用に肩を落とすと、先行しているシュウ達に笑われた。

 

 笑い顔に引き攣った表情で答えた隼人は、同じ寮で暮らす仲間に連絡を入れようと、通話を繋ごうとして武からの連絡が入り、即座に繋いだ。

 

「どうした武、お前から連絡入れて来るなんて」

 

『だってよぉさっきのえーっと俊だっけかが浩太郎と武器ぶん回しての喧嘩してんだから連絡ぐれぇ入れるだろ』

 

「何?! 喧嘩!?」

 

『おー、何かなぁ、カナともう一人女の子も参戦して大変だぜ、室内』

 

「……分かった、今から行く」

 

 もう何度目かもわからないため息を落とした隼人は、首を傾げるシュウとハナに事情を話すと、理解した彼らはなるほどと首肯し、腰に下げていたライフルを手に取る。

 

 レンカを落とさないように担ぎ、臨戦態勢の彼らと共に部室へと急ぐ隼人は、部室の騒ぎに気付いて出てきているサービス事業課の面々に、ドアから離れる様に指示する。

 

「ちょ、ちょっと後輩君創部初日から何なのさ!」

 

「良いからそこから離れて元の部屋に戻れ先輩! 死にたいのか!」

 

「わ、分かってるけどさぁ!」

 

 そう言って叫ぶ隼人に慌てて引っ込んだ課長の生徒と、その仲間達を他所にライフルを入り口に向けたシュウとハナは、中から聞こえる物凄い物音に眉をひそめていた。

 

 直後、ドアを突き破ってきた俊がショートに変更した槍を巻き込む様にして転がると、その隣に叩き付けられたシグレが一回転し、苦悶を漏らす。

 

「くっそォ、強ぇ……!」

 

 そう言って膝立ちになる俊を追う様に引き戸を破壊された部室の入口から、『HK・Mk23』45口径大型拳銃を覗かせながら出てきた浩太郎は、ククリナイフ二振りを構えるカナと共に、彼らを見下ろす。

 

「まだやるかい?」

 

 そう言って『C.A.R.System』と呼ばれる構え方でMk23を構えた浩太郎は、斜め45度に傾けた銃の照準に、槍を右手に握る俊の頭を捉えていた。

 

 歯を噛む俊が飛び出そうになるより、前に両者の間に割り入った隼人は、視線で浩太郎を押さえると、俊の槍を足で抑えつけた。

 

「止めろお前ら、何が原因でこんなことを」

 

 そう言って槍を弾き、拳銃を下ろさせた隼人は、そっぽを向いた俊から視線を逸らし、冷静を装っている浩太郎を睨むと、彼はため息交じりに理由を話す。

 

「そこの彼が、挑発してきたからさ」

 

 そう言って拳銃で指さした浩太郎へ同調する様に頷くカナを見て、その言葉を信じた隼人は、ねぎらう様に肩を叩くと俊の方へ視線を変える。

 

 シュウにたしなめられて不機嫌な俊は、八つ当たり気味に地団太を踏むと、ため息を吐く隼人を睨むと、手にした槍の穂先を突きつける。

 

「俺はただ、コイツの事を認めねえって言っただけじゃねえか! そしたらこいつが斬りかかってきて!」

 

「うちの部隊長を侮辱しておいてその言い方は無いんじゃないかな。それに、君だってやる気だったじゃないか。負けたけどさ」

 

「テメエ!」

 

 そう言って突きかかろうとする俊と浩太郎との間に割り込んだ隼人は、迫る穂先から右側のレンカを守ろうと、左腕を盾に突き出す。

 

 それを見てあっとなった全員は、その瞬間鳴り響いた金属音の後、動く筈の無い隼人の左腕が、手刀の形で振り上げられているのに気付く。

 

 直後、天井に激突して落下した俊の槍が重々しい音を上げて床を砕きながら落下、呆気に取られる彼の喉目がけて手刀が伸びる。

 

「あんた何してんの!」

 

 刹那、隼人の首を絞めたレンカは、俊の喉元数センチの所で止まった手刀に、安堵の息を漏らす。

 

 一方の隼人は自分が何をしたのか理解できずに困惑し、そんな彼を嘲笑う様に、ゆら、とワインレッドの魔力が左腕から揺らめいて、彼の耳元に流れる。

 

『殺しちゃえばよかったのに』

 

 魔力はそう言って宙に消え、忌々しい表情を浮かべた隼人は、手刀を拳に戻った左手が力を無くした様に落ちたのに驚いて一歩退く。

 

 それを見て肩から飛び降りたレンカは、突然左目を抑えてよろけ、ドアに体を叩き付けた隼人に気付き、慌てて支えに行く。

 

「くそっ」

 

 物音を立てながらずるずると寄りかかり、しゃがんでいく隼人に担いだ所から引っ張られたレンカは、怯えている俊達に気付き、そちらへ視線を動かした。

 

 レンカの視線の先、危うく喉を突き抜かれかけた俊が未だに首を押さえ、はぁはぁと荒く息を吐いて隼人を見る。

 

「何なんだよ、そいつは……」

 

 粘る汗を掻き、槍を拾い上げる手を震わせる俊は、恐怖で浮ついた目を隼人に向ける。

 

「何で、人を殺すのに何も思わねえんだよ! どうして、そんなに、事務的に人が殺せるんだよ!」

 

 ハナやシグレ、シュウが心配そうに見るのも忘れ、ただただ恐怖を喚く様に吐き出し、言葉を刃にして俊は隼人を罵る。

 

 目の前に立つ隼人が見せた一瞬だけの技、人を殺せると示しながらも、その技に殺意の一切が無かった。

 

 その恐怖に、生まれて初めて、俊は晒された。

 

「落ち着け俊! 恐怖に呑まれるな!」

 

 慌てて抑えにかかるシュウが暴れる俊を羽交い絞めにし、ハナとシグレが足を押さえる。

 

 それを見てレンカに腰から注射を引き抜かせた隼人は、壁を支えに右手に取ると、それをシュウに投げ渡した。

 

「俊に、それを打て。余程薬物に弱くなければ、依存性は無い筈だ」

 

「分かった」

 

 荒く息を吐く隼人にそう言ったシュウは、暴れる俊の首筋に注射を指すと、ガスで自動的に薬物が送り込まれ、半ば強制的に鎮静化させられた俊が、落ち着きを取り戻し始める。

 

 かしゅ、と音を立て、ガス圧を排出した注射を引き抜いたシュウは、使い捨てであるそれの針を折って懐に収めると、力を失い膝を突いた俊を抱え上げる。

 

 それを見て気まずそうにしながら、浩太郎の方を振り返った隼人は、無表情の彼へこう言う。

 

「今日、アイツら泊めるから」

 

 そう言って立ち上がった隼人は、案の定嫌そうな浩太郎とカナに、憂鬱そうな顔でため息を落とし、それを見ていたレンカに頬を舐められ慰められた。

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