僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence023

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第41話『一夜を経て』

「明日向かうのですか?」

 

 特別に通された王女の部屋にて、彼女の驚いた顔を見た隼人は護衛らしいメイドと女性騎士に注意を向けつつ頷いた。

 

「ええ、急である事は承知です。しかし、我々の任務を進める上で残された時間はあまりない事も事実です」

 

「昼間の、オークの件ですね」

 

「はい。奴らがこの城下町を闊歩できた事。経緯は不明にしろその事実はかなり重大だと思っております。王女自身の身の安全の為にもどうか、承諾を頂きたく」

 

「分かりました。支度を急ぎましょう。それに合わせて、私からもお願いがあるのです」

 

「ええ、何でしょうか」

 

「二つありまして。差し支えなければ私付きの護衛として何名かを城に置いていただきたいのです。あ、いえ、性別は問いません。女性でも、男性でも、4名お願いしたいのです。

それと、もう一つ。護身用に、銃を調達していただきたいのです」

 

「前者については了承しました。しかし、後者については宜しいので?」

 

「鍛え抜かれた剣と魔法を誉とするエルフランドの王女として、銃を手にする事は誇りを捨てる事であると分かっています。ですが、私は外の世界に出ていかにその誇りが脆い物かを知りました。

だから、銃を手にする事を、私はためらいません。ですから、お願いします」

 

「分かりました。明日、予備の銃を持ってきます。それを使用してください」

 

 そう言って内容を記したIMを部隊員に送った隼人は、シルフィに一礼すると了承を送り返してきたシュウのIMを見て俊とシグレを止めた。

 

「何だよ」

 

「お前とシグレは残れ。追加でアキホと香美が来る」

 

「は? まさか」

 

「ああ、お前等が護衛だ。拳銃の弾薬には余裕があるだろう? 一応香美が追加武器を持ってくるらしいが」

 

「はぁ……。了解だ。IM見たけど、シュウが言ってんだったら仕方ねえ。従うか」

 

 後頭部を掻きつつ、手に持っていた槍を縮めて背中に回した俊は、マウントアームに固定させると太ももに配置していたホルスターから拳銃を引き抜いて装弾を確認する。

 

 予備マグも併せて確認し、問題ない事を隼人に伝えるとシグレにも確認を取らせる。

 

「ガンは予備、プリセット共に問題無し。ナイフとファンも異常無し。十分に使えます」

 

 通常マガジンを装填したG18Cのスライドを少し引き、チャンバーへの装弾を確認したシグレは、腰のホルスターへ納める。

 

「よし、了解だ。じゃあ二人は香美達が来るまで待機だ。俺とレンカはシュウ達と基地へ戻る。何かあれば、連絡を」

 

「了解だ。小隊長」

 

 レンカを連れて退室していく隼人達に、軽く手を上げて見送った俊は、不機嫌な顔をしているシグレともじもじしているシルフィードの方を振り返ってため息を吐いた。

 

 シルフィードを窓から離れさせ、シグレを付けた俊はどたどたとうるさい足音にホルスターに手を伸ばしながらドアの方を見た。

 

「おっはー! 来たよ俊兄! シグ姉も!」

 

「んだよ。お前かよ、びっくりさせやがって……」

 

「え? 何の事?」

 

「足音だよ。ったく、緊張感ねえなぁ。昼間襲撃されたってのに」

 

「えっ、マジ?」

 

 キョトンとしているアキホにため息をつきながら頭を掻いた俊は、そそくさと戻ってくるシグレに二度目のため息を吐いた。

 

「マジだよ。そう言えば香美は?」

 

「あれ? 置いて来ちゃったかな」

 

「何してんだ……まあ良い、迎えに行ってくるから待ってろ」

 

「へいほー」

 

「ったく、世話の焼ける……」

 

 そう言いながらドアから外へ出た俊は、腰から拳銃を引き抜いて周囲を見回す。

 

 探すとは言っても当てがない事に今更気付いた俊は、怪しまれない程度に探りつつ、香美の姿を探す。

 

「いたか?」

 

「いや、逃げられた。見た目によらず、すばしっこい」

 

「有翼の分際で我々から逃れられると思っているとはな」

 

 曲がり角でそんな会話を聞いた俊は、拳銃から槍に持ち替えると香美へ秘匿通信を飛ばした。

 

「ランサーよりスティル。応答しろ、今どこだ」

 

『ひっ、え、えっと中庭です。でも、何故か追われてて……」

 

「分かってる。多分お前を人質に取ろうとしてたんだろ。大丈夫、俺が助ける。そこを動くなよ」

 

『りょ、了解』

 

「……隼人の気持ちがよく分かるぜ」

 

 そう言いながら様子を窺っていた俊は、かけていたバイザーセンサーで周囲を精査し、大方の人数を算出すると二階から庭へ飛び降りる。

 

 フレームの強度で着地の衝撃を緩和し、その音で周囲の目を引いた俊は武器を手に近づいてくるエルフの服装を見て所属を予想した。

 

(この感じ親衛隊か? 誰の命令で動いてる……?)

 

 剣を手に近寄ってくるエルフ達を前に槍を握り締めた俊は、警告無しに斬りかかって来た彼らにスラスターの噴射で目くらましを食らわせる。

 

 噴射跳躍からの振り下ろしで正面のエルフの脳天を殴ると前ロール着地から振り返る。

 

「随分な挨拶だな。一体、何のつもりだ」

 

 そう言って槍を回して牽制した俊は、周囲を囲むエルフを見回す。

 

「貴様に語る口などない。外様め、あの有翼の雌共々貴様も連れて行ってくれる!」

 

 そう言って剣を振るい、命令を出した隊長格に、迫ってくる左側の敵へ牽制の一突きを繰り出した俊は、背後に迫る相手へ石突を打ち込む。

 

 絞られた様な声を出して崩れ落ちるエルフを蹴り飛ばした俊は、槍を薙ぎ払って三人牽制。

 

 中央の一人に狙いを定めると左右に槍を振って二人を追い散らし、一人へまっすぐ突き込む。

 

「ぐッ!」

 

 腱を狙って肩に穂先を打ち込んだ俊は、捻り切って抜き取るとブーストタックルで吹き飛ばす。

 

 振り返りざま、ブレードワイヤーを射出し、一人を牽制。

 

「無駄だ!」

 

 刃先を弾いたエルフは、瞬間ワイヤーを収めながら飛び込んできた俊に驚愕し、タックルを食らって吹き飛ぶ。

 

「動きが止まったな!」

 

 言い様斬りかかって来た相手に槍で受け止めた俊はフレームの膂力で跳ね上げると、掌底で弾き飛ばす。

 

 その隙を狙う相手に姿勢を落とし、ベクタリングを併用しての高速ターンで足を刈った俊は、柄で打ち据えてエルフの左足を折ると、そのまま脇へ打ち下ろした。

 

「まだやるか? 俺はまだ誰も殺してないぜ?」

 

 起き上がりつつ、槍を構えた俊は、このタイミングで見つかった香美に背後を振り返る。

 

「動くな! 動けばこの雌の首が落ちるぞ!」

 

 そう言って長剣を首筋に付きつけたエルフに歯噛みした俊は、舌打ちを一度して拳銃を引き抜いて発砲した。

 

 威嚇射撃で驚かせた俊は、中庭に響き渡る銃声に紛れて槍を投擲し、手首ごと剣を弾き飛ばした。

 

「逃げろ香美!」

 

 そう叫んだ俊は、背後から迫るエルフの足を連続で撃ち抜く。

 

 一応射撃の腕はある彼は、格闘と射撃を織り交ぜてエルフを無力化していく。

 

「ッ!」

 

 殺さない様に利き腕を撃ち抜き、無力化してその場に引き倒した俊は人が集まってくる気配を感じ、槍を回収しつつ香美がいる地点まで走っていく。

 

 泣きそうな彼女の頭を雑に撫でた俊は、近寄ってきたエルフの足を撃ち抜くと剣の範囲から逃れつつ、上へ上がる道を走る。

 

「香美、武器無いのか!?」

 

「ふぇ?」

 

「あ、いや。悪い、何でもない」

 

 内心自分に悪態をつきつつ階段を上がる俊は、涙でぐしゃぐしゃの香美の手を引いて逃げる。

 

 階段を上がった先、騒ぎを聞きつけて出てきた王女と侍女、そしてアキホとシグレと合流すると王女を庇いつつ、拳銃を構えた。

 

「止まりなさい! 誰の許可を得てこの様な行為をしているのです!」

 

「お、王女殿下」

 

「客人に手を出すな、とお父様もおっしゃっておりました。聞いておりませんか?」

 

 戸惑うエルフを睨む王女は、顔を見合わせる彼らが立ち去っていくのに安堵の息を吐く。

 

 ホルスターに拳銃を収めた俊は、殿から押しつつ、四人を部屋に戻していく。

 

「香美ちゃん大丈夫?」

 

「ひっく、う、うん」

 

 苦笑するアキホは、泣いている香美を慰めながら彼女が持っていた銃火器の入ったカバンを俊に渡す。

 

 そこそこ大きいカバンの中にはバックアップの超小型拳銃(サブコンパクトハンドガン)、『スプリングフィールド・XD-S』四丁と

グロックとXD用の9㎜パラ通常マガジン、XD-S用のナイロンホルスターが収められていた。

 

「ほれ、シグ。グロックの予備マグ」

 

「ありがとう、俊君」

 

「あとこれも付けとけ。XD-S」

 

「うん」

 

「着けれるか?」

 

 そう言って立ち上がった俊は、シグレのスカートのベルトを緩ませてベルクロ式のループを止めた。

 

 スカートを止め、シグレの腰を軽く叩いた俊は、むすっとしている彼女の顔を見て呆れ気味の驚愕を浮かべた。

 

「どうしたシグ」

 

「何で女の子の腰を触って何もないんですか……」

 

「いや、別に何かあるって訳じゃないだろ。十年くらいこんな感じだし」

 

「それは……そうですが……もっと何かありません?」

 

「何かって言われてもなぁ……体細いなってくらいしか」

 

 そう言い、カバンの中を探ってマガジンを補給していた俊は、不機嫌なシグレに誤魔化し笑いを浮かべる。

 

 補給を終え、XD-S二丁をアキホとシグレに渡した俊は、残った一丁をシルフィに手渡す。

 

「単身で何かあれば」

 

「分かりました」

 

「じゃあ、お付きの侍女さんには、俺のを」

 

「いえ、それは不要です」

 

「え、何故?」

 

 ホルスターをユニバーサル仕様のアダプターに付け替えて渡そうとした俊は、装填を確認しながらそれを制止したシルフィに呆然とした。

 

「彼女はすでに拳銃とナイフを装備しております。私付きの侍女隊は皆そうです。とは言え、秘匿性や補給の観点から回転式拳銃や自動拳銃がせいぜいですが」

 

 そう言って、ホルスターに拳銃を収めたシルフィは、太ももの拳銃を見せる様にスカートをまくり上げていた侍女に気付き、顔を赤くした。

 

「メイ、何をしているのです!」

 

「殿方ですが、どこに武器を持っているかくらいはお見せしてもよろしいと思いまして」

 

「だとしてもはしたないと思いませんか!?」

 

 そう言って真っ赤になって怒るシルフィに苦笑した俊は、フレーム経由で時刻を確認するとその場にいる全員へ寝る準備をする様に促す。

 

 侍女の案内でシルフィと共に風呂へ通されたシグレ達は脱衣場で侵入者を監視しているであろう俊を意識していた。

 

「俊兄って、お風呂覗かないよね?」

 

「ええ。よっぽどの事が無い限りは」

 

「信頼してるねぇ」

 

 そう言ってニマニマ笑うアキホは、からかわれていると自覚してむすっとしたシグレに抱き付く。

 

 突然の事に暴れたシグレは、湯船を波打たせながらアキホの抱き着きを振りほどこうとする。

 

「いや~ん、抱き着いても良いじゃんシグ姉。ケチケチしないでぇ」

 

「なっ、何どさくさ紛れに胸を触っているんですか!」

 

「こう言うつつまし~い貧乳も私好きだよ~ん?」

 

 そう言って胸をまさぐるアキホが頬を舐めるのに寒気がしたシグレは、こうなるなら俊と入ればよかったと今更後悔していた。

 

「アキホさんは女の子がお好きなんですね」

 

「そうですよー。そしてそこにいる香美ちゃんは彼女!」

 

「あら、そうなんですね。大分イラついてらっしゃいますけど……」

 

 若干表情を引きつらせているシルフィが、アキホと共に見ている先では香美が青筋と笑みを浮かべていた。

 

 嫉妬しているのだろう、と苦笑したシルフィは香美を抱き締めると優しく撫でた。

 

「私に甘えても良いのですよ」

 

「え、あう……」

 

「ふふっ、私に妹がいればこんな感じでしょうか」

 

 そう言いながら微笑むシルフィは、恥ずかしそうな香美に体を預けつつ湯船に浸かった。

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