僕らと世界の終末戦争《ラグナロク》   作:Sence

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第43話『混沌の始まり』

 そう言い合う二人の声を聞いた俊は、振り返りかけてシグレに引っ張られた。

 

「あ、お、おいおいあぶねえって」

 

「早く行きましょう。外は危ないそうなので!」

 

「いや、急ぐ方があぶねえって!」

 

 慌てる俊を城門まで引っ張るシグレは、兄から受けた外回りの任務に内心うきうきしていた。

 

 前線基地とは言え、実質歩き回ってセンサーを置くだけで済む任務で俊と二人きりになれるとあればワクワクしない訳が無かった。

 

 城門の外に出た俊とシグレは、まるでファンタジー小説の世界の様な世界を見回しながら城壁周辺を回っていた。

 

「さて、最初はっと」

 

 フレーム越しにリュックサックを背負い、携帯端末からの地図情報をARに表示させた俊は目を輝かせているシグレを頭を叩いて興奮を諫める。

 

「城壁周辺って言ったって散発的に襲ってくるんだ。用心しろよ」

 

「はい……」

 

「ま、そうそう無いとは思うけどな」

 

 そう言って、歩き出した俊は興奮がにじみ出ているシグレを見下ろしつつ第一ポイントにセンサーを敷設する。

 

 端末操作で起動させた俊は、カズヒサ達から聞いていた任務の目的を思い出していた。

 

(エルフ共の動きが怪しいって兄貴は言ってたな……)

 

 事後承認で隼人達には詳細を送ると言っていたが、それ以上にこの行動そのものが意味する事を考えた俊は二つ目を地面に置いた。

 

「しかし、兄さん達は何でこんな事をさせるのでしょうか」

 

「さぁな……でも、何か気にしてるのは間違いない」

 

 センサーを置きながらそう呟くシグレに、若干はぐらかすような答え方でそう言った俊は森の方で見えた人影に腰の拳銃に手をかけた。

 

 張り詰めた空気に顔を上げたシグレを抑え、応戦できる様に拳銃を引き抜きながら森の方へ歩み寄っていく。

 

「誰かいるのか!?」

 

 そう言って木の裏へ飛び込んだ俊は、何もないそこに表情を歪ませると一歩ずつ引きながら元の進路へ戻っていく。

 

 引き返す俊は、センサーを起動させると木が合った位置へ出てきた反応にやはりな、と拳銃をホルスターに納める。

 

(誰か知らねえけど、ここを見ている奴がいる。目的は国連軍(俺達)か? それとも……)

 

 そう言って城壁をちらと見た俊は、残りポイントを確認しつつ、前線に面する北側へ差し掛かる。

 

 散発的な襲撃を警戒してか、警備は厳重で任務票を見せ、敷設している間も二人の様子は監視されていた。

 

「北はだいたい敷けたかな」

 

 そう言って立ち上がった俊は、おもむろに立ち上がっているシグレに気付き、彼女が北道を見つめているのに立ち上がる。

 

「どうかしたのか?」

 

 HK416を下げた警備兵が歩み寄ってくるのを止めた俊は、僅かに聞こえてくる甲高い音に眉をひそめた。

 

「この音……」

 

「銃声……」

 

「AKの銃声か?」

 

 

「近づいて……近づいてます!」

 

「クソッこんな時にか!?」

 

 悪態をつきながら拳銃を引き抜いた俊は、シグレと共に仮設のバリケードに隠れ、警備兵共々周囲に銃口を巡らせる。

 

 数十秒後、地面にライフル弾が着弾し、土の瀑布をぶち上げる。

 

 迸る弾幕の中をウサギ系の幼い獣人二人とその母親らしき女獣人が走り抜け、それを見た警備兵がチームメンバーと共に姿を現したオーク達へ射撃を開始する。

 

「こっちに来い!」

 

 三人を呼び寄せた俊は、シグレに子どもの先導を任せ、自分はふくらはぎに擦過の傷がある母親を担ぎ、拳銃を乱射しながら門まで連れていく。

 

 その間に警備兵の一人が本部に襲撃を連絡し、前線基地は騒然となった。

 

「何があったんです!? どうして撃たれて」

 

「村が……村が奴らに襲われて……前線基地にするとか、そう言って。ここから北西の村なんです! 前まではこんな事、無かったのに」

 

「……事情は分かりました。避難施設へ連れていきますので、あなたはそこで手当てを受けてください」

 

 そう言って、慌ただしくなるキャメロット市街を抜け、避難所へ連れて行った俊は、各軍に割り当てられたブリーフィングルームのうちの国連軍用に入った。

 

「俊、シグ、何があった?」

 

「詳しくは分からねえ。女性から聞いた話だと何でもオークとゴブの群れが村を襲ったって」

 

「俺らで何とか出来るっちゃできるが後を考えるとめんどくせえな。ま、良いか。立花の令嬢、アーマチュラを用意させてくれ。おい、ケリュケイオン、ユニウス。全ユニット集合だ。

めんどくせえが、奪還作戦を組む。ブリーフィングルームに今から15分後、装備を持って集合」

 

「え、ちょっと待ってくれ兄貴。俺達で村を取り返しに行くのか!?」

 

「あ? 初動を俺らでやるだけだよ。軍の連中には後から来てもらう」

 

「えぇ……大丈夫なのかよ」

 

「正直大丈夫じゃねえけどな。こんな早くから戦闘に関わるなんか思ってなかったし」

 

 そう言って煙草を咥えたカズヒサは、表情を曇らせる俊を前にライターを点火して先端に近づける。

 

「あ、ちょっと、カズ君。ここ禁煙!」

 

「え? あ、そうだった。いけねえいけねえ」

 

 三笠からの指摘で口から煙草を離し、苦笑しながら無煙アダプターを付けてタバコを吸ったカズヒサは、天板にタッチパネルを配した机の地図データを確認する。

 

「北西っつってたな……。あ、ここか結構近いな」

 

 タバコを吸い、メントール臭を吐き出すカズヒサは、咳込むシグレに一瞬視線をやると手持ちのタッチペンで書き込む。

 

 彼につられて北西400mの辺りにある村の地図を見た俊は、頭の片隅に残る王女が狙われている、と言う事を思い出して表情を曇らせる。

 

「俊君?」

 

 顔を見上げ、声をかけたシグレは、不意打ち気味のそれに肩を竦ませた俊へ逆に驚かされた。

 

(何か、怪しい)

 

 そう呟き、半目になったシグレはそのままブリーフィングに参加し、作戦へと従事した。


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