ポケットモンスターSPECIAL 光示す者   作:ワークス

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第十三話 VSニドキング 対極する者たち

「ロンド“ハイドロポンプ”!」

「ギャロップ“だいもんじ”!」

 

両者の大技が激突する。

双方に強烈な風が襲い掛かり、視界を奪ってしまう。

それは大きな隙を生む。

 

「“つのドリル”」

「っ、“ひかりのかべ”!」

 

ロンドの急所であるコアを的確に狙い打った攻撃は薄く輝く障壁に阻まれた。

しかしトレーナーはそれを何とも思わず、恍惚な笑みを浮かべたままだった。

 

その姿はまるで、

 

「あ、悪魔…」

 

物陰から見ているエリカは知らずうちに呟いた。

 

そう、まるで悪魔のような奴だと。

こんな人間が存在していようとは、いくらエリカとて思わない。

そしてそれは、ヒカルだって。

 

「どうして…お前はそんなに変わったんだ」

 

敵―――アギトを睨みながら唇をかむ。

その顔はアギトとは反対に苦痛に耐えるように歪んでいた。

 

「どうしてだァ…? テメェが俺をコケにしやがったからに決まってんじゃねぇか! テメェが!! トキワの森でェ!!」

「あれはお前がアートを狙ったからじゃないか! あの森で、あの場所でアートを狙わなかったら、こうして争うこともなかった!!」

「黙れェ!! テメェの存在全てを否定する! この世から、消してやるゥウッ!!」

 

アギトの叫び声がビルの町に木霊する。

そこには言い表せぬほどの狂気を纏わせていて、戦っているヒカルですら足がすくんでしまうほどだった。

 

だが、ヒカルにだって引くことは出来ない。

自分の後ろにはエリカがいるから。

ロケット団を倒すと決めたから。

何より―――共に戦う仲間を守るため、ルドラたちの想いを守るため。

 

 

「お前を、倒す!!」

 

 

激闘は始まったばかり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんな戦い、見たことない。

戦う者の、心も。

 

エリカの胸に巡るのは恐怖。

ヒカルが戦う相手の狂気は、これから戦う相手よりも遥かに強大で脅威だと感じた。

そんな相手とヒカルは戦っている。

 

(わたくしに出来ることは、ないのでしょうか…)

 

しかしすぐに頭を横に振る。

 

(いいえ、ここで出て行けば返ってヒカルの動きを制限してしまいかねません。わたくしの意地であの戦いをうやむやにしてしまってはいけない)

 

だがエリカはまだ煮え切らなかった。

ただ見ていることしか出来ないのがとても悔しいと思った。

隣に立って励まし、一緒に戦いたいと強く思った。

しかしそれをすれば、二人きりだからこそ成り立っている戦いを崩してしまいかねない。ヒカルの足を引っ張ってしまう。

それだけは嫌だった。

 

不意に、エリカの耳に細々と声が聞こえた。

 

「……つら、こんなとこで暴れ……」

「逃げ……それとも、不意打ちを……」

 

途切れ途切れに聞こえてきた声を頭の中で整理して、ふうっと息を吐いた。

 

 

やれることは、まだある。

 

 

ジムリーダーの本気を持ってヒカルの道を切り開く。

それが今のエリカに出来ることだった。

 

 

 

 

 

 

 

「つぅ、ロンド!」

 

ヒカルの声に意図を汲み取り、ロンドが即座に“ひかりのかべ”を展開した。

トレーナーまで巻き込んできた“ほのおのうず”をギリギリで遮り、ダメージを限りなく減らす。

 

(反撃のチャンスが…ない)

 

焦りから守りに入ってしまっていることもヒカルは自覚していた。

それほどまでにこの男の気迫が凄まじいということだ。

いつまでもこうしていられる訳はないが、まだ動くことが出来ない。

一方のアギトは攻撃の手を緩めることはなく次々と技を繰り出してきた。

 

「オラオラァ! “だいもんじ”だ!!」

「くっ!」

 

攻撃が遮られていることも気にせずひたすらヒカルを‘潰そうと’してくる。

それが何より恐怖を感じさせた。

燃え盛る炎がヒカルの横を掠めていった。

 

ピコーンピコーン! とロンドのコアが点滅しだした。ロンドのHPが減ってきているのだ。

いくら防御に秀でているとしてもロンドにだって限界はある。

むしろここまでよく耐えてくれたと褒めるべきだ。

 

「もう守りはきっついか…! なら一発決めてから!」

 

辺りの炎が収まる一瞬を狙って、叫ぶ。

 

「“サイコキネシス”!」

 

強力な念波が放たれ、真正面からギャロップを捉えた。

ギャロップは足や首を動かそうともがくが、ロンドの“サイコキネシス”はそれを拒んだ。勢いをつけてビルの壁に叩き付ける。打ち付けられた壁にはひびが生まれ、ギャロップの動きを更に止めた。

 

「“ハイドロポンプ”!!」

 

その一瞬を逃さず追撃を出す。

効果抜群の技を食らわせギャロップを戦闘不能にまで持ち込んだ。

そこまでで精一杯だったのだろう、ロンドがその場に崩れた。

 

よくやってくれた、とボディを撫でて労ってやりたいところだが今はその隙すらも許されない。

ボールに戻し手元に帰って来た時に小さく声をかけるだけに留め、アギトの次の出方を窺った。

 

「エスパー技に掴まるとは使えないな。突進してくしか脳のないやつめ」

 

アギトが吐き捨てた言葉にヒカルは一瞬怒りで我を忘れ突っ込みそうになった。

ギリギリのところで冷静を保ち、しかしあからさまな怒りの視線をアギトに送った。

 

「――へへっ、その目だ。もっと俺が満足するほど怒れ、ヒカルゥ!!」

 

ギャロップをボールに戻すことすらせず次のボールを手に取る。

繰り出されたポケモンは、その後行う攻撃の音をビルに突入したグリーンにまで届かせるほど暴れることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(右に二人)、モンちゃん“つるのムチ”!」

 

逃げ惑う団員二人をモンジャラのツルが締め上げ、動きと戦意を喪失させた。

 

(数はだいぶ減りましたが、いささか厄介ですね)

 

本拠地ビルの襲撃、その周囲での乱闘。それだけでも気弱な団員たちにとっては脅威だろう。

そこに正義のジムリーダーまで現れ団員たちを次々狩り出した。

図鑑所有者やジムリーダーほどの実力を持ち合わせていない一般団員たちは、その一方的な排除に恐怖を感じていた。

 

「くそっ、やられっぱなしってのは」

「“はっぱカッター”!」

「うぎゃああああ!」

 

歯向かってくる者もいたが喋り終わる前に倒されていた。

 

「くそっ、ビルではガキが暴れまわってやがるし、あっちじゃなんか変な奴らが変な戦いしてやがるし、こっちじゃジムリーダーが無双してやがる!」

「どうなってんだこの町は!」

 

そもそも町を変えてしまった連中が叫びながら逃げ惑う。

そんな奴らも速攻で叩きのめす。

 

「ここから先へは行かせません。そして、この町から逃がしもしませんわ!!」

 

群がる団員を前にエリカは宣言した。

 

(そして、ヒカルの助けになります!)

 

一人の女性が熱い闘志を燃やした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、あああああっ!?」

 

ヒカルから思わず悲鳴が漏れた。

対抗するララも回避しきれず共に吹き飛ばされる。

 

「ぐうっ…!」

 

起き上がりながら、攻撃の主を睨む。

 

「俺のニドキングには勝てっこねぇよ。テメェにはな」

 

ニドキングの“あばれる”が再開される。

 

 

 

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

 

 

 

強い、強すぎる。

 

ヒカルの中でそんな感情が沸き立ってきた。

勝てないのではないか、そう思いかけることが何より怖いと感じた。

 

「へへっ……!」

 

両目が怪しく光る。不気味に口から笑いが零れる。

 

恐らく、このアギトはトキワの森で遭遇してから強くなろうとしたのだ。

どんな方法を使っても、どんな風になってしまったとしても。

―――俺を倒すために。

 

(変な形だけど、答えないわけにはいかない。勝ってアギトの正気を取り戻せないか考えるくらいは出来る)

 

救う、なんてことは一切考えていない。

ただこんな形で人が壊れてしまうのが嫌だった。

 

だから全力で戦う。

シルフカンパニー突入に備えて温存しておきたかった戦力を使ってでも、勝ってみせる。

 

「俺たちは絶対に勝つ。そこまでの道を俺が‘示して’やる!!」

 

恐らく、‘こいつ’もそれを望んでいるから。

 

「出てこい、ルドラ!!」

 

本当の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりじゃねぇの、《ヒトカゲ》。随分とでかくなりやがって」

 

アギトが皮肉たっぷりに言葉を吐く。

正面からそれをしっかり受け止め、それでなお闘志の叫びを上げた。

周囲の熱気が跳ね上がる。

 

「生意気叩くようになったじゃねぇか」

「生意気じゃない。俺たちの意志だ」

 

ヒカルはアギトの言葉を否定する。

 

「意志だァ? そんなもんで、俺を倒せると思うなよなァ!!」

「“だいもんじ”!」

 

灼熱の炎がニドキング目掛けて放たれた。

対してニドキングは“きあいパンチ”でそれを相殺した。

 

「あばれろォ!」

「かわせ!」

 

再び辺り構わず暴れ出したニドキングを紙一重でかわす。そのまま上空へと飛んだ。

重量のある体からは想像も出来ないほどのジャンプ力を見せつけながら、ニドキングは空中に逃げようとしたルドラを追随してくる。

これほどの執念はもう筆舌出来ない。

一瞬でも隙を作れば負ける。

 

「反撃だ!」

 

ジャンプしたニドキングが両の手を大きく振りかぶった。

そのときがら空きになった体に尻尾を叩き付けた。

上昇力と反発し合い、盛大な土煙を上げながら地面へと落とすことに成功した。

 

だがまだ終わりではない。

 

「“かえんほうしゃ”!」

「“はかいこうせん”!」

 

両者の攻撃がぶつかり合った。

足を取られるほどの衝撃が生まれ、耐え切れず空中に投げ出されそうになるが何とか堪える。

 

「もう一度!」

 

煙で互いの姿は見えないがそれでも指示を出した。

遮るものを貫くように“かえんほうしゃ”が放たれ、ポケモンの悲鳴が聞こえた。

 

「舐めるなァ!」

 

アギトの叫びが届くと同時に下から“はかいこうせん”が放たれた。

それをかわし切ることが出来ずルドラの右翼に命中した。

 

「ルドラっ!!」

 

翼を撃たれ落下しかけていたルドラはその声に反応した。

何とか落下は免れたが上空からという優勢が使えなくなってしまった。

それでもルドラは戦意を喪失しているようには見えなかった。ヒカルはそれを信じて戦うしかない。

隣に降り立ったルドラの肩を軽く叩き鼓舞する。

 

「ヒカルゥ……ヒカルゥ…!」

 

煙の晴れた中からアギトが姿を見せる。

もうどうしようもなく狂ってしまった男。

 

ヒカルはどうしても知りたかった。

 

「お前、何で俺をそんなに倒そうとするんだ」

 

戦いの最中にそんなことを聞くなんて、この場においては自殺行為かも知れない。

でも知っておきたかったのだ。

 

「決まってんだろ。テメェをぶっ潰して俺の雪辱を晴らし、この地方を、この世界を俺が征服してやる!!」

 

しかし、返ってきた答えはそれだった。

 

「…そうか」

 

その答えを聞いてヒカルの中で意志が固まった。

 

「お前は、もうどうしようもなく《悪》なんだな」

 

悪は倒すべき存在。

ヒカルにとっての、明確な敵対する存在。

何より仲間を傷付けた《悪》という敵をヒカルは許すことは出来ない。

 

そういう性分なのだ。

 

「次で決めるぞ、ルドラ」

 

仲間からの声にルドラも小さく「クルゥ」と答えた。

出会った頃によく聞いた声。

いよいよ、決着の時が来たのだ。

 

「面白れぇ、テメェのその意志砕いてやるよ!!」

 

野生的な叫びが辺りに広がった。

 

「“だいもんじ”!!」

「“はかいこうせん”!!」

 

ぶつかり合った攻撃はまた余波を生んだ。

だが煽られるようなことにはならず、互いの技を削り合っていた。

全力と全力。

気を抜けば競り負ける勝負の中で、ヒカルは叫ぶ。

 

「お前のしてきたことは、この世界に生きる者全てに対しての《悪》でしかない。俺は――――俺たちは、お前を許しはしない!!」

 

ルドラの炎が勢いを増した。

激しくぶつかり合う技に劣勢が生まれていく。

 

 

負けられない。

負けたくない。

 

 

 

 

――――――みんなのために!!

 

 

 

「ヒカルウウウゥゥゥゥウウ!!」

「うおおおおおぉぉぉぉおお!!」

 

均衡が崩れ、ルドラの炎がニドキングもろともアギトに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……はぁっ!」

 

ヒカルは激しく息を切らしながら、戦いの爪痕を見た。

きれいに整備されていたであろうビル前の一帯は大きくひび割れ、崩れていた。

瓦礫が辺りに散乱し最早見る影もない。

そんなことを自分がやってしまったと思うと罪悪感が遅れてやってきた。

 

(でもこうするしかなかったんだ。ヤマブキの人、ごめんなさい!)

 

内心で全力で謝る。

許されるかは五分五分だろうが。

 

そこで、ようやく男が体を起こした。

 

「動くなよ」

 

アギトの動きが止まる。

その視界には、ヒカルが出したララが“れいとうビーム”の構えを取っているのが映った。

威嚇などではなく、本当に何かすれば撃つ、と言っていることは誰が見ても判断できた。

アギトはようやく悟る。

 

「俺が………負けただと?」

 

愕然とした表情を浮かべる。

肩を震わせ怒りを露わにしながらアギトがヒカルを睨む。

遠くで逃げ出したロケット団員の悲鳴が聞こえてきた。それほど静寂だった空間で。

アギトはお構いなしに叫び出した。

 

「テメェらのせいで狂っちまったってのに、まだ俺を貶めんのか!? テメェらなんかのせいで、俺は一生負け続けるってのか!?」

「…負け続けるってことはよく分からないけど、でも、それは俺たちのせいじゃない」

「うるせぇ!! テメェらのせいだ!!」

 

何を言っても無駄だ。

そう思い、ともかくアギトの身動きを封じるためにララに指示を出そうとした。

 

その時。

 

 

 

 

「―――――――テメェが消えればいいんだ」

 

 

 

 

一瞬の出来事だった。

 

辺りにあった瓦礫を無造作に掴み取り、そのままヒカル目掛けて突っ込んできた。

全身から滲む殺気に気付いた時はもう遅く。

鋭く尖った瓦礫がヒカルに突き刺さろうと服に触れた。

そして、

 

「―――“ソーラービーム”!!」

 

アギト目掛けて放たれた極太の光線が、スローモーションのようだったヒカルの思考を加速させた。

 

「“れいとうビーム”!!」

 

今度こそ指示を出し吹き飛ばされたアギトの身体を見事に凍らせた。

生身の人間にそれがどうこう出来るわけもなく、動きを完全に封じた。

 

「はぁ…はぁ…、危なかったですわね」

「え、いや、そうなんだけど…エリカ、どうして」

 

突然のことにヒカルは頭がついていけていない。

激しい戦いの後ということもあって空回りしているような感じである。

対するエリカは完全ではないにせよすまし顔で、

 

「言いましたでしょ? 怪我でもされたら堪らないって」

 

見事に言ってのけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つの戦いが終わった。

 

しかしまだ戦いは始まったばかり。

 

そして決戦の地で始まろうとしている新たな戦い。

 

 

 

 

「じゃあ、アギトのこと頼んだよ。エリカ」

「…本当に大丈夫ですの? あなた一人では」

「一人じゃないよ、ルドラもライも、みんないる。さすがに傷ついたみんなに無理はさせられないけど」

 

戦いの跡地で二人は言葉を交わしていた。アギトは氷漬けのまま口を封じられ、傷ついた彼のポケモンたちはエリカに預けた。

 

自らの役割を果たすため、ヒカルは別行動を選んだ。

本拠地への突入と退路の断絶。

ヒカルにはヒカルの、エリカにはエリカのやるべきことがあるのだ。

そしてそれはエリカも理解している。むしろこれはエリカたちから頼んだことなのだ。

なのにそれがどうしてもいけないことのように感じてしまう。

 

 

しかしヒカルはにっこり笑って返した。

 

 

「大丈夫だよ、きっと戻るから」

 

 

その笑顔にエリカは何も言えなくなった。

だから精一杯の気持ちを込めて、

 

「………お待ちしてます」

 

戦いが始まってから、ようやくヒカルに心からの笑顔が生まれた。

 

 

最大級の信頼を胸に、ヒカルはシルフカンパニーへと向かっていった。

 

 





頑張ればバトルも凝れるもんですね。てか凝りたい。

もうちょい長くなるかと思ってたんですが、6000字ちょいか…。
欲を言えば1万字超えるぐらい書きたいなって思ってます。

これからそういうのが出てくるかもしれません。
…お楽しみに。

P.S. 活動報告を更新しますorしました。
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