ポケットモンスターSPECIAL 光示す者   作:ワークス

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トレーナー自身も動くのがポケスペのバトルです。

……難しいです。



第十四話 VSサンダー 再び出会う者

「はあ・・・はあ・・・」

 

息を切らしながら階段を上る。

先の戦いの余波で中にいた団員たちは減っているものの、気は抜けない。

息を潜めながら足を運ぶが、まだ体が万全ではないため、どうしてもこうなってしまう。

 

(でも、早くレッドたちに追いつかないと・・・!)

 

足を速めると、ようやく二階が見えてきた。

そのまま飛び出すようなことはせず、慎重に中を窺う。

すると、

 

「っ!」

 

荒かった呼吸が一気に鋭くなった。

理由は一つ。

 

(あれは・・・グリーン!? 捕まってるのか!?)

 

忍者風の出で立ちの男と、側でグリーンを締め上げているベトベトンが視線の先に止まった。

男はグリーンに対して何か話をしているようだがこの距離では聞こえない。

 

(どうやってフォローしたらいいんだ…)

 

グリーンの側でベトベトンに捕まっているストライクがちらりとトレーナーを見上げている。恐らく何らかの意図があるのだろう。

バリアーの内部を念力で探るという考えが浮かぶようなやつだ。少なくともヒカルよりグリーンの方が頭の回転が速いだろう。下手に手を出して作戦を失敗させるわけにいかない。

かと言って何もしないというのはヒカルの意志に反するものだ。

 

(……ん? あの腕についてるのって、アーボか?)

 

不意に気付き目を凝らす。

よく見てみると男の両腕にポケモンが張り付いていた。

右腕にはゴルバット。左手にはアーボ。

更には頭から肩にかけてベトベターが乗っかているようだ。

 

「まるで鎧だな…」

 

自分にしか聞こえない声で呟いた。これでは余計に手出しできない。

だが、武装ポケモンたちも皆グリーンに視線を取られているようだ。これなら、ほんの僅かな隙を作ることが出来るかもしれない。

短く深呼吸し、気持ちを整えて。

 

「いち、にの……さんっ!!」

 

一気に飛び出した。

ボールに手を掛けつつ生身で敵に突っ込んでいく。

相手が忍びだと言うこともありなるべく足音を立てないようにしたが、完全に殺すことは出来ず僅か数メートルで気付かれてしまった。

 

「何者っ」

「ッ!!」

 

敵が振り向き攻撃を仕掛けてくる。

右腕に張り付くゴルバットが翼を尖らせこちらに向かってくる、それがスローモーションに見えていた。

しかし攻撃は空を切る。

 

「うわっ!?」

 

ヒカルが落とし穴によって姿を消したからだ。

 

「ばっ、てめぇ! 何しにきやがったんだぁー・・・・・・!」

 

落ちながらそんな罵声が降ってきたが、どうすることもできず。

 

「いて、って痺れる!?」

 

よく分からない悲鳴を上げることとなった。

 

「っ、ヒカル!?」

 

その耳に叫ぶ声が聞こえてきた。

それに反応向き直る。

 

「what・・・こんなとこまでくるとはな」

 

コイルに両手を塞がれたレッドと、

 

 

「―――――マチス」

 

新たな過去がそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ、てめえとまた会うことになるとはな。運命ってのは本当に気まぐれだぜ!」

「そんな運命いらないんだけどな」

 

ヒカルは実に嫌そうな顔をする。

まさかこのタイミングで遭遇してしまうなんて思ってもみなかった。

だが、出会ってしまったからにはやるしかない。

 

「アート“でんこうせっか”!」

 

すぐさまボールに手をかけ、飛び出したアートがレッドを拘束するコイルを攻撃した。

見事にクリーンヒットし、拘束を解くことに成功する。

 

「レッド! 早く上に戻れ!」

「な、助けてもらっておいてそんなこと出来るかよ!?」

「グリーンが劣勢だって言っても?」

「何ぃ!? そういうことは早く言えよヒカル!」

 

名残惜しそうなんてことは全然なく、傷ついたポケモンたちを素早く戻し風のように去っていった。

 

「ちっ、オレ様にとってレッドとも因縁はかなーりあるはずなんだがなあ・・・But、おまえとも因縁ってのはあるからな!」

 

マチスがパチンと指を鳴らす。側に控えていたエレブーがそれだけで反応し、拳に電気を集中させ始めた。

ヒカルもすぐさま応対する。

 

「アート、“でんこうせっか”!」

 

助走なしでマックススピードに達したアートは、部屋全体を駆け回る。

ヒカルの指示は攻撃ではなく‘攪乱’である。アートもそれを理解している。

しかしただの攪乱なのに辛そうな顔をしていることに気付いた。

そして思い出す。

 

(そういえば、落ちてきたときビリビリした。あれってまさか・・・!)

 

必要以上の電気が流れているこの部屋で、目の前のエレブー以外の強力な電気ポケモンがいる。

その事実に気付いたときには、もう遅かった。

 

「エレブーに電気をもっと送ってやれ! 《サンダー》!!」

 

部屋の陰から現れた伝説、でんげきポケモンのサンダーがマチスのポケモンの力を底上げした。

 

「まずい、逃げろ!!」

「無駄だ、やれ、エレブー!!」

 

“でんこうせっか”で加速していたアートに、数十倍の“かみなりパンチ”が襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「みなさん、お待たせ致しました!」

「おおエリカ様!」

「ご無事でしたか!」

 

ロケット団で溢れかえった町からようやく抜け出し、エリカは自分の持ち場に戻ってきた。

早速目の前に一般団員が現れたので締め上げる。

 

「中ではすでに激戦地と化しています。ここで残党を一人残らず押さえてください!」

『とか言っておきながら遅れてくるってどういうことよ! エリカ!!』

 

ポケットに入っていた通信機から突っ込みと怒声が入り交じったような声が飛んできた。

 

「カスミ! そちらの状況は」

『問題なしよ、当たり前でしょ。タケシの方も大丈夫らしいわ』

『あー、一応オレもいるんだがな』

「そうですか。では順調なんですね」

『エリカー!』

 

どこかの黄色スカーフさんを連想させるようなスルー会話に思わずタケシがツッコんだ。

 

「持ち場を離れてしまっていてすみません、ヒカルと共に中にいましたので」

『な、中って!? てかヒカルと!? ヒカルってばあん中に突っ込んじゃったの!? どうして止めなかったのよ! エリカいたんでしょ!?』

「止めても聞いてくださいませんわ。それよりもレッドたちの助けになるのならいいと思ったのです」

 

それに、あんなヒカルを見てしまっては。

エリカには止めろと言えるはずもなかった。

そんな心中を僅かにでも察したのか、

 

『……分かったわ。せめて相談くらいしてほしかったけどね』

「そうですわね、申し訳ありませんカスミ」

『いいわよ、もう』

『おーい、二人共ぉ……』

 

二人が敵と戦う黄色いスカーフの持ち主を連想する中、タケシが弱々しい声を上げた。

タケシと違い全力で彼と戦っているカスミとエリカは、その性格の影響をしっかりと受けていたのだが気付くはずもなく。

珍しくツッコみキャラとなったタケシもその影響をちゃっかり受けていたりする。

 

激しい戦いが起きている中、そんな場違いなズレ具合が三人の間に生まれていた。

 

 

(ですが、戦いはもうすぐ終わるはず――――ヒカル、どうか無事に…)

 

残党たちは確実に捕縛しつつある。

未だ戦地で戦うトレーナーを想い、エリカは一人空を見上げた。

薄闇に浮かぶ小さな星が一つ、黄色く瞬いた。

 

 

 

 

 

 

 

シルフカンパニー一階。

再びまみえた二人は、戦いをさらに激化させていた。

 

「“10まんボルト”と“こうそくいどう”!」

 

アートの素早い動きで動きを封じつつ、新たに出したライが攻撃を命中させる。

しかし相手も電気タイプ、効果はいまひとつでありむしろエネルギーを与えてしまう。

 

「ハハハ! “かみなり”!」

 

エレブーが大量の雷を振り落とす。

サンダーによって生み出された雷雲が天井を所狭しと埋め尽くし、逆にヒカルたちの逃げ場をなくしていた。

視線で追える限りのものや、はたまたカンだけで雷をかわし続ける。雷は容赦なくヒカル自身も襲ってくるため常に移動していなければならなかった。

 

「アート、スピー…ッ!?」

 

雷がヒカルの脇腹を掠める。

通常の数十倍の威力を秘めたそれから電気が容赦なく迫り、動きを拘束する。

奥歯を強く噛みしめそれに何とか抗いながら指示を続ける。

 

「“スピードスター”!!」

 

ヒカルの声を聞きアートが幾つもの星を放つ。帯電しているせいでその星にも電気が纏わりつき、火花を散らしていく。

 

「んなもん効くかよォ!!」

 

だが必中の攻撃もこの場においては効果がない。

電気を含むものはすべて奴らの力となってしまうのだ。

 

「くそっ!」

 

大きく悪態をつく。

互いに電気タイプを出しての攻防だが分が悪すぎる。

ライにとっても内容量以上の電気が漂うこの空間で戦うのは辛いだろう。そしてアートも。

 

(何とか打開策を練らないと…。ロンドは戦闘不能だし、ルドラやララだと相性が悪すぎる!)

 

おまけにヒカル自身も危険な状態にある。

数ボルトの電気が常に体を這い回っているのだ。

そこでようやく気が付く。

 

「…じゃあ何でマチスは、痺れてないんだ…!?」

 

それを聞いてハハハ! と大声で笑った。

 

「ロケット団特製のアンダースーツ! 電気なんかオレ様にゃあ効かねぇよ」

 

電気で対抗することは出来ない。

マチスの宣言が頭の中で木霊する。

 

(でも、それじゃあ…!)

 

あのとき誓ったことを果たせない。

 

 

 

 

 

「――――倒してみせる」

 

笑うマチスの耳に言葉が届く。

 

 

「俺が電気タイプでお前に勝ってやる! それが俺の答えだ! ほかのどのタイプでもなく、お前のエキスパートで、お前を超えてみせる!!」

 

 

初めてマチスと戦ったとき。

あのときも最後はライとアートで決着をつけた。

 

あのときの気持ちを二人もきっと分かっている。持っている。

強くなりたい。

強く。

もっと、守れる力を―――!!

 

 

 

ヒカルの意志は道を示す。

己自身にも、ポケモンたちにも。

 

今一つの意志が示された。

 

ずっと一緒に過ごしてきた相棒(パートナー)たちは、大きく光を纏い、やがて収束させ――――

 

 

 

「行くぞ、ライ、アート!!」

「グルゥ!!」

「サンッ!!」

 

 

 

 

 

新たな姿―――――《ルクシオ》と《サンダース》へと進化した。

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

 

「イーブイが石も使わずに進化だと!?」

 

マチスに初めて驚愕が浮かぶ。

 

「別に不思議じゃないさ。進化させるための‘かみなりのいし’ってのはそもそも‘大量の電気を閉じ込めた石’なんだから」

 

進化できるほどの膨大な電気、サンダーによってその条件が整ったのだ。

 

「それに何だ、そのポケモンは!?」

 

ヒカルは図鑑を開く。

 

「こいつは‘ルクシオ’。新しいライだ!」

 

この時のマチスには知る由もない、シンオウのポケモン。

コリンクのときは気にも留めなかったのかもしれないが、進化を果たし体が二回りも大きくなった。

その姿からは燃え盛るような闘志を感じさせた。

 

(新しい技も覚えてる。俺の気持ちに答えてくれた二人とで、勝って見せる!)

 

 

 

「クソがあああああっ!!」

 

マチスが叫んだ。

エレブーの“かみなりパンチ”がヒカルたちに飛んでくる。

それに対抗するは、

 

「アート、“ミサイルばり”だ!」

 

アートは首元の毛を鋭く尖らせると勢いよく飛ばしまくった。

弾幕のようにミサイルばりが押し寄せ、エレブーの動きを鈍くしてしまう。

その隙を逃さず指示を飛ばす。

 

「ライ“とっしん”!」

 

ミサイルの弾幕の僅か逸れたところから姿を見せ、助走なしで懐に潜り込み吹き飛ばした。

 

「chi! レアコイル“トライアタック”!」

 

今まで指示を出されていなかったレアコイルが動き、死角からライに攻撃を命中させた。

 

「方向を見失うな! アート“にどげり”!」

 

すかさず反撃の指示を出す。素早さで優るアートがに連撃を見事にヒットさせる。それだけでレアコイルの体力をほとんど削った。

 

「急所に当たった! いいぞアート!」

 

褒められたアートは嬉しそうに鳴きこちらをちらっと見る。

ライに視線を変えると、次は決めてやるという意志をひしひしと感じた。

 

二人ともやる気に満ちており、ヒカル自身も言い表せぬ高揚感を感じていた。

因縁の相手と戦っているというのに、何だかとても楽しいのだ。

まるで、エリカと戦っている時のような。

 

 

 

「舐めんじゃねぇッ!!」

 

しかし、事はそう上手く運ばない。

部屋の脇に置いていたランチャーを無造作に掴み取り、ヒカル目掛けて撃ち出した。

ものすごいスピードで飛び出したのはビリリダマ。

突然のことに反応出来ず、その攻撃をモロに食らってしまった。

 

「があああぁぁッ!!?」

 

勢いのまま壁まで吹き飛ばされ、同時に背中に衝撃が走る。

途端に息が詰まり、一瞬目の前が真っ白になった。そのまま床に崩れ落ちる。

 

「っツ…ぐうッ…!」

 

ライとアートが同時にヒカルに駆け寄ろうとする。が、無慈悲にもエレブーたちがそれを遮って来る。

結果攻撃の的となってしまったヒカルに容赦なくビリリダマやマルマインの砲撃を浴びせてくる。

 

「ぐうぁ…ッ、ああッ!」

 

ビリリダマがぶつかる度に数十倍の電気が体中を駆け巡る。それは電気に耐性を持たないヒカルにかなりのダメージを与えていた。

 

「オレが、テメェなんかに負けるわけねえだろうが!!」

 

薄れる視線の先で、マチスが叫んでいる。

狂気が入り混じったその目が、さっき戦ったあいつを連想させて。

 

(俺は…何も出来ないのか…また…何も―――)

 

諦めという感情が渦巻き、その瞼を閉じてしまおうとしたとき。

 

 

 

『――――お待ちしています』

 

 

 

一人の女性の言葉が反復した。

 

 

 

 

同時に。

 

「グルゥウ!」

 

マチスの放ったマルマインをライの‘みがわり’が受け止めた。

 

「何っ」

 

マチスに隙が生まれる。

 

ヒカルの中にさっきまであった感情は消えていた。

 

「まだ、負けないんだああああッ!!!」

 

 

ヒカルの絶叫と共にライがマチスに向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 

「つあッ!?」

 

幾度目かの電撃がヒカルを襲う。

意識をその度に失いそうになるが堪え、もはや意地だけで保っている状態だった。

ただ決して諦めることなく立ち上がる。

それが今、ヒカルをこの場所に奮い立たせている理由だった。

 

だがマチスにとっては神経を逆撫でするものでしかない。

 

「かみつけぇっ!!」

「蹴散らせェ!!」

 

エレブーが腕を振るい、ライがその腕に噛みつき、逆に攻撃の起点とする。

そのまま全身を使ってエレブーを投げ飛ばした。

すかさずアートが“でんこうせっか”を決め、体力を確実に削る。

 

「サンダーァ!!」

 

マチスの声にサンダーが反応し幾つもの雷を落とす。

ヒカルは素早く指示を出し思いついたままの対抗策を実行する。

 

「“みがわり”!」

 

ライの体力を削って生み出された身代わりは、ヒカルたちに直撃せんとしていた雷撃を見事に防ぎ切った。身代わりはまだ消えていない。

 

「“10まんボルト”!!」

 

二体のライが繰り出す電撃が竜のように唸りマチスを襲う。

しかしそれでもまだ効かない。

電撃を全て遮ってしまうロケット団の技術によって、ヒカルの攻撃は全く効いていなかった。

だが、ヒカルはさっきから隙あらば同じ攻撃を繰り返している。

きっと勝機があると信じ、またトレーナーを信じるポケモンたちもそれを信じていた。

 

「効かねぇって言ってんのが分かんねぇのか!?」

「そんなことない! お前に絶対勝つ!」

 

ライを前線から少し下げアートで対抗する。“みがわり”の使用で減ってしまった体力を回復させるための時間を少しでも稼ぐのだ。

 

「“ミサイルばり”を拡散させるんだ!」

 

初めて出した指示にアートは惑うことなく挑戦する。

ヒカルの考えた通り、ミサイルが‘壁のように’撃ち出された。

今のアートにそこまでの技術はないが、極限の状態における火事場の馬鹿力というべきものでそれをこなしていた。ヒカルの思考も同様で、普段より遥かに頭を回転させその場を乗り切り反撃する術を探し出す。

奇跡が重なった攻撃によって僅かな隙が生まれ、ライが回復する時間を得る。

 

「おおおおおああっ!!」

 

しかし長くは持たない。

サンダーの咆哮でミサイルの壁はあっという間に崩されてしまった。

 

「“でんきショック”!!」

 

崩れた壁の隙間から細い電撃がアートを襲う。たとえ“でんきショック”と言えど、伝説のポケモンが放つ技だ、威力は桁違いである。

 

「アート、大丈夫か!?」

 

ヒカルの声に遅れながらも返事をし、まだ戦えるとアピールしてきた。

ライも数瞬の回復を完了させ前線に戻る。

 

二人ともまだまだ戦える、闘志の火は消えていない。

ヒカルも気持ちを切り替え再び対峙する。

 

 

 

そんな光景を目の前で見せられて。

 

マチスはギリっと歯を軋ませた。

 

 

「……気に食わねぇ」

 

何度も挫こうとしているのに。

 

力で優っているのに。

 

「どうしてテメェは折れない!?」

 

力を前にしてなお、正義(ヒカル)は消えなかった。

 

 

 

 

「――――消えないよ。俺は戦うって決めたから、仲間たちの声に応えるって決めたから!」

 

何より、自分を信じてくれる友達がいるから。

 

輝きは一層強くなり、《悪》との激闘は続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

バリバリバリッ! と電撃が床を這う。

下で行われている戦いがそれほど激しいものなのだろう。

だが助力に行くことは最早できない。

 

「ぐ、ううう…!」

「ハ、苦しいだろう?」

「くっ…そぉ!!」

 

レッドは下での戦いをヒカルに任せ苦戦しているというグリーンの手助けに向かった。

辿り着くとグリーンは床に倒れており、何とかしようと突撃した。しかし、マチスと同じ三幹部の一人キョウによって逆に拘束され身動きが取れなくなってしまった。

レッドを締め上げるベトベターの力が増す。

 

「ククク、マチスのやつがここまで熱くなってしまうとは、あの子供もなかなかにやるようだな」

 

だが、と突きつけられたゴルバットの刃がさらに鋭くなった。その様に思わず唾を飲み込む。

 

「私はそんな楽しみなど与えん。すぐに終わらせてやろう――――まずは、こいつからだ」

 

レッドの首からゴルバットを放し、ゆっくりとグリーンに向かっていく。

 

「ま、待て! くっそ、グリーン! 起きろ! 起きてくれ!」

「ムダだ,こいつはさっき “かまいたち”の一撃を食らったばかり。すでに動けぬ状況よ!」

 

キョウがグリーンの隣で歩みを止め、腕に張り付くゴルバットを構える。

レッドが叫ぶ間もなく、キョウが動いた。

 

「今度こそ、死ね―――ッ!!」

「ッ!!?」

 

ゴルバットがグリーンの首目掛けて振り下ろされる。

 

その瞬間、レッドの目には僅かに動くグリーンが見えた。

そして同時に、キョウに攻撃を決めるピジョットが映った。

 

 

 

 

 

 

 

「うふふ、ロケット団さんったら随分と儲かっちゃってるのね」

 

その頃。

ヒカルがアギトと戦っている隙に裏口へと回り込み進入を果たしたブルーは、三階へと足を踏み入れていた。

レッドやグリーンが派手に暴れているおかげで、ブルーは無傷でここまで来られていた。

 

「さて、早く例のモノを見つけないと・・・アラ?」

 

通りがかった部屋に何かが見えたような気がした。

ブルーは数瞬考え、誰もいないことを確認してからその部屋に侵入した。

 

部屋はモニタールームと言うべきか、大小様々な画面に色々な映像が映し出されていた。いくつかは戦いの影響で壊れているようで何も見えない。

ブルーは見えないものを無視し、いくつかの画面に目線を配った。

 

そして、

 

 

「あれは・・・!?」

 

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

 

「「オオオオオオオオオオッ!!」」

 

二人の咆哮が重なる。

激しい攻防は衰えることなく続いていた。

 

「マチス・・・お前は、ジムリーダーとしての誇りを、本当に捨てたのか!?」

「誇りだぁ? ンもん持ってるわけねぇだろうがッ!!」

「じゃあ何で、お前はトレーナーになったんだ!!」

 

ポケモンは道具じゃない。

最初はみんな、心に持っていることだ。

でもそれは、今のマチスにはない。

 

彼のポケモンは、彼を慕っているのに。

 

「ポケモンは戦う道具だ! どう使おうがオレの勝手だろうがッ!」

 

そしてついに、マチスが動いた。

 

「サンダー! 最大出力!!」

 

背負った装置のレバーを引き下げ、サンダーにかせられていたリミッターを解き放つ。

 

言葉通り、最大の攻撃。

 

 

それが最後のチャンス。

 

二人の仲間が構える中、ヒカルが一人飛び出した。

 

「フハハハ! 血迷ったか! なら終わらせてやるよ!!」

 

サンダーがエネルギーを溜め始める。それまでと比にならない感覚は全身で感じた。

なら。

 

「これで、決める!」

 

数メートルを駆け、一人マチスの前に躍り出て。

 

「ふっ!」

「何ィ!!」

 

そのままタックルした。さながら‘たいあたり’のように。

軍人であったマチスに子供の体当たりが効くはずもないが、大事なことはそこではない。

不意を突かれたマチスをそのまま全身で拘束した。

 

「エレブーに“でんこうせっか”! ライ、俺ごと“かみつく”!!」

 

聞くやいなや、アートがエレブーに足止めをかけ,フリーになったライがヒカルごとマチスの腕に噛みついた。

 

「チッ! テメェ、最初からこれを狙って・・・!」

「お前を倒すのに強い技がいるんじゃない、仲間を信じて、その力をちゃんと使えば勝れるんだ!」

 

ヒカルが示したのは、マチスに勝つための道筋。

そして絶対にそれを決めるためにヒカル自身がそこまで導いた。

 

それがヒカル自身も気付いていない、ヒカルだけの力。

目指すもののために自分の持てる全てで、そこまでの道を示したのだ。

ポケモンたちが信じてくれることを信じて。

 

ライが噛みついた部分を引きちぎる。

ヒカルの左手のリストバンド。そしてマチスのアンダースーツが破られた。

 

サンダーのエネルギー充填が完了し、撃ち出される。

迫り来る雷撃がヒカルとマチスを襲う瞬間。

 

「ラアアアァァァアィッ!!!」

 

ライの“みがわり”がヒカルを包み、電気を遮る盾となった。

 

 

光が爆発的に膨らみ、収束し―――――

 

 

 

 

「ガアアァァァッ!!?」

 

 

マチスの体を稲妻が走り、長き因縁の戦いが終結した。

 

 

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

 

「ハァ・・・ハア・・・・・・っ!」

 

激しく肩を上下させる。

蔓延っていた電気は消え去り、電気を放っていたサンダーもトレーナーが倒れたことにより攻撃を止めている。

 

「ハァ・・・っ、・・・マチス・・・」

 

ヒカルは敗者を見つめる。

大の字に寝転がり、所々から煙が立っている。

 

「っ・・・た、かった・・・!!」

 

ヒカルの中にこみ上げる熱いものが一気に溢れるようだ。

まだそんなことをいえる状況ではないが、それでもこらえきれなかったのだ。

 

 

「・・・チ、負けたか・・・」

 

マチスが呟いた。

 

その声に、悔しさとは違う感情が込められているように感じて、ふと思考を巡らせた。

 

同じ《悪》であるマチスとアギト。

だが本質は違っているように見えた。

もしかしたら、マチスにはまだ‘あれ’が消えていないのかもしれない。

 

「こんなことしなくたって、もっとちゃんと真っ直ぐ向き合っていれば、俺たちはこうならなかったかもな」

 

ヒカルは気付けば言葉を発していた。

 

「…あァン?」

 

マチスが息を切らしながら聞き返す。

 

「戦って、人生を変えてしまったやつがいた」

 

ポケモンを巡る争いから、その心すらも歪めてしまった。

それに気付かず、ただの《悪》としか考えていなくて。

ただ、敵対する者としか見られなくて。

 

「戦ってるあいつらは、みんな悪者だって思ってた」

 

ポケモンに対する思いやりを持っていなくても、トレーナーとしての情熱を忘れていないのなら。

 

 

――――マチスと、最初からあのときの言葉のように接し、関わっていたなら。

あんな状態では難しかったかもしれないけど。

 

もう少し、違った未来になっていたかもしれない。

 

もっと違う関わりが生まれていたかもしれない。

 

もっと―――――。

 

 

 

「――――違いなんてねぇ」

 

マチスの声が思考を遮った。

 

「お前が《悪》を嫌ってんなら、オレたちは戦う運命だ。そんなの変わりゃしねぇ」

 

けどよ、と言葉を区切った。

 

「トレーナーとしてお前がオレを超えるってんなら、もっと強くなってみやがれ。そんときゃまたオレが相手してやるよ――――ジムリーダーとしてでも、な」

 

マチスがふっと笑った。

 

心を許した友に向けるような顔で。

 

「ほらよ、くれてやる」

 

そう言って二つのものを投げてきた。慌てて手を伸ばしキャッチする。

それは太陽の形を模したバッジとマチスが使っていたグローブ。

 

渡されたものの意味を汲み取った瞬間、ヒカルは顔を上げた。

マチスはそっぽを向いている。

もう興味がないと言いたげに。

 

 

 

『―――――ジムリーダーとしての誇りを―――――』

 

 

 

その時初めて、彼がジムリーダーに見えた。

 

 

ジムリーダーからたくさんのことを教わった。

ならば、ちゃんと返そう。

 

 

 

それまでは、また。

 

 

 

 

 

「ありがとうございました」

 

 




今回は短かったですね。
…毎度毎度あとがきとか書くと読みづらいでしょうか。
読みやすいってことはないんだろうけど…。


あのランチャーはマルマインだけを撃ってるんじゃないと自己解釈して書きました。
かみなりのいしについても同様です。

p.s. 十五話と合わせました。勝手ながら申し訳ありません。

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