「…やっぱり、このビルって大きいな…」
シルフカンパニーを上り続けて一時間ほど。
ヒカルは一人敵陣の中を進んでいた。
マチスとの戦いが終わった後、ヒカルは先行したレッドを追って二階へと戻った。そこで行われていた戦いも既に終わっていた。
忍―――三幹部、キョウは二人によって倒されていた。そこに伝説のフリーザーまでいたのだから、ヒカルは初めて見た瞬間驚きを隠せなかった。サンダー同様トレーナーが倒されフリーザーも攻撃しようとしてこなかったが。
二人の無事な姿を見て―――まあ黒焦げだったのが気になったが―――ほっとしたのも束の間、女性の悲鳴が聞こえてきた。
囚われていたというオーキド博士たちの居場所も突き止めてあるらしく、救助をグリーンに任せ、悲鳴の主を救出に向かうためにレッドとヒカルが上階へと向かった。
その前に、グリーンが一つのものをレッドに投げてよこした。
「それは、バッジ…?」
ハート形のバッジ、キョウがジムリーダーを務めていたセキチクシティのジムバッジだった。
「キョウが言ってたろ、そいつはポケモンの能力を高めるんだ。―――お前が持ってろ」
「…グリーン」
能力を高めるバッジ。それをレッドに渡したということは、グリーンがレッドに‘託した’ということなのだろうか。
レッドの足元にいるピカがトレーナーを見上げる。その姿に、さっきまでの自分たちの姿を重ねた。
「レッド」
レッドの名を呼んだ。
「ん?」
「俺も…お前に、これを」
ヒカルが差し出したのは、太陽の形のバッジ、オレンジバッジとグローブ。
マチスに勝ったその証をヒカルも託そうと思ったのだ。それに、きっとヒカルよりレッドの方がよく使ってくれる気がした。
「行こう」
ヒカルの言葉に頷き、二人で階段に向かって歩き出す。ヒカルが階段を登り始めたとき、不意に後ろで声がした。
「また後で…必ず会おう」
それがレッドに向けられているものだとすぐに分かった。レッドの方を一瞥すると、彼も真剣な眼差しをしていた。
先に見据えるものを見ているような、そんな気がしてヒカルの中にもやる気が沸いてきた。
今はやるべきことをやるのみ。
三階へと上がったヒカルたちは別々に行動することにし―――今に至る。
「さすがに迷いやすいな…。さっきの悲鳴もこんな上から聞こえてきたのじゃないはずだし」
久しぶりに道に迷いながら通路を進む。
レッドがいる階を既に通り越し、最上階付近まで登ってきていたヒカルは、違うと思いながらも声の主を探していた。
大手のビルなだけあって高さも内部の入り組みようも相当なものだ。敵の本陣とするにはいいのかもしれない。
だが今更そんなことに怖気ついてもいられない。
「誰もいないって言うのがなんか不安なんだけど…」
警備の者すらいないこのフロアに辿り着いてから数十分は経っている。
不吉な予感がひしひしと感じられ、それが余計にヒカルを駆り立てた。
ぺしぺしっ、と両手で頬を叩き気合を入れ直す。
急にそんなことをやり出したので、隣を歩いていたアートが怪訝な顔でこちらを見た。
「仕方ないだろ、気が緩んでてもまずいだろ」
アートに小さく言い返す。戦いの中の僅かな会話がヒカルの焦りを少し解きほぐしてくれた気がした。
だが、それは長くは続かない。
辿り着いた最奥の部屋の前で、ふと足を止めた。
どういう訳でもないが、この部屋がとても気になったのだ。
その部屋はひと際大きな扉で閉ざされ、‘社長室’と書かれたプレートが上に飾られていた。
「…アート、戦闘準備」
ヒカルが静かに告げる。
何も言わずアートもそれに従う。アート自身もこの先に何かあることを感づいているのだ。
口に溜まった唾を飲み込み、数瞬の間をあけて、ヒカルは勢いよく扉を開け放った。
そこには。
「ほう、ここまで来る者がいたか」
そこには奴がいた。
「――――お前は」
黒いジャケットに《R》のマークを入れた、短髪の男が振り返る。
「マチスから聞いていた‘もう一人’の小僧とはお前のことか」
ロケット団の首領(ボス)。
――――サカキが、そこにいた。
「さて、少し遊んでやろうか」
***
その頃。
ヒカルとグリーンから貰ったバッジを見に付け、絶縁グローブをはめたレッドがビルの中を走り回っていた。
「くっそ、迷路かよこのビルは!」
探し人、ブルーを探しずっと走っているが、その影は全く見えない。それどころか広すぎるこのビルに迷子になりそうだ。
隣を走るピカもだいぶ疲れが溜まってきているようだ。いい加減に見つけなくては。
「っ、隠れろ!」
頭を振って切れかけていた集中を元に戻したとき、視界の端に人影を捉えた。素早くピカと共に物陰に逃げ込み、その様子を窺う。
それでも一瞬しか聞き取れず、姿を見ることは出来なかった。
だが、彼の耳にはしっかりと聞こえていた。
「ンフフフ…面白くなりそうだ」
不気味に笑う、一人の女性の声が。
「っ、お前は!」
シルフカンパニーの社長室。
そこでヒカルが対峙するのは、一人の男。
「名を聞いてはいなかったな…レッドほど興味が湧かなかったものでな。さて、名を教えてやろうか」
男はボールを片手に一歩前へ踏み出した。
「私の名はサカキ。このロケット団を束ねる者だ」
「ロケット団を束ねる…!」
ヒカルは驚愕した。まさかこんなタイミングでボスと出遭ってしまうなんて思ってもみなかった。
倒したいことは山々だが、今のヒカルの手持ちは殆どがダメージを抱えている。長期戦も、いや勝負を挑むことも避けるべきだとは理解している。
「ここまでレッドたちと共に歯向かってきたということは、私を倒しに来た、ということか」
でも、やっぱりそうは出来そうもなかった。
ヒカルの信念がそれを断固として許そうとはしない。
(みんな、俺の気持ちに応えてくれる。だから、引いたりしない!)
ヒカルはサカキを睨み返した。
「そうだ! 俺はヒカル。俺たちは今、ここでお前を倒す!」
アートが前へ躍り出て威嚇する。
だがそれに動じることもなく、一つのボールを放った。
「行け、サイドン」
現れたのはヒカルたちよりも遥かに大きいサイドン。その目は凶暴さに満ちており、まともな相手ではないと肌身で感じた。
相性では最悪、でも逃げる選択肢は選べない。
「“でんこうせっか”!」
助走なしのマックススピードがサイドンを襲う。
しかしそれをあざ笑うかのようにサイドンが笑みをこぼす。アートの攻撃は全く効いていないようだった。
「“メガトンパンチ”」
サカキの指示が飛ぶ。
瞬間、サイドンの姿が掻き消えた。
「なっ!?」
ヒカルが驚くのも束の間、サイドンの攻撃は既にアートにめり込んでおり、小柄なアートを反対側の壁まで吹き飛ばした。勢いのまま叩き付けられたアートはその場に崩れ落ちる。
「アート!?」
思考が追い付かないままアートに駆け寄る。ぐったりしたその様子にもう負担を掛けさせることは考えられずすぐさまボールに戻した。
アートがほんの一瞬でやられた。それでようやく気付いた。
自身が思っている以上に敵との力が違い過ぎるということに。
手が震え、足が竦む。
動けるような気がまるでしなかった。それどころか勝てるとも思えなかった。
どれだけ力の格差を見せつけられても決して折れなかった心が途端に挫かれた気分だった。
今まで抱いたことのない感情がヒカルの中を駆け巡っていく。
それを打ち破るかのように腰が一瞬震え、ボールが勝手に開いた。
「……ルドラ…」
自分を鼓舞するかのように目を見る。
小さな反逆の意志がその目に燃え盛っているように見えた。
(一体、俺は何回こいつに叱咤されたんだろう)
最初出会ったときは敵だった。
でも仲間になって、家族であるライやアートとも仲良くなっていって。
かけがえのない家族の一人になったと思ったとき、ルドラはヒカルの新たな相棒となった。
相棒がやる気を見せている。
ヒカルも負けてはいられない。
(そうだ、前だって言ったじゃないか)
勝つか負けるかじゃない。
そうマチスに宣言したあの時のこと。
ヒカルは覚えている。そしてあの気持ちを忘れていない。
「たとえ力の差が歴然でも、俺たちはお前に負けない。ポケモンたちの自由を守ってみせる!」
今日何度も焚き付けられた心の火が爆発した。
「行くぞ、ルドラ!!」
最高の相棒と共に、最終決戦へと向かっていく。
***
戦いは激化する。
シルフカンパニー中層で伝説の三体とマサラのトレーナーが対峙しているその時。
最上階で二人のトレーナーがぶつかり合っていた。
「っ!!」
ルドラと共に吹き飛ばされる。
相手の攻撃がはるかに強く、こちらの攻撃が殆ど効いていないのがよく分かった。
だがそこで諦めることはもうしない。
「“かえんほうしゃ”!」
体勢を崩しながらも蒼炎を放つルドラ。一直線にそれはサイドンへと向かっていく。
「メガトンパンチ」
サカキの短い指示で繰り出された技は、ルドラの炎をあっさりと打ち消した。
炎が途切れた隙間にさらに炎を打ち込む。
「もう一度“かえんほうしゃ”!!」
再びサイドンに炎が襲う。
サカキはそれを鼻で笑った。
「効かんと分からないのか―――“メガトンパンチ”」
拳を構えたサイドンは向かってくる蒼炎に再びその一撃を叩き込んだ。あっという間に炎は四散していき、サイドンには当たらない。
「効いてないなら、効くまで!」
だがそれだけではなかった。
炎が切れた隙間に今度はルドラの姿を近距離で捉えた。
「“きりさく”!」
ルドラの爪がサイドンの拳を捉えた。
激しくせめぎ合い、猛烈なエネルギーと火花が走る。
「ほう……」
先程までの余裕の表情から少し変化が現れた。
対して強くもない少年が、自分に抗うために食らいつこうとしている。たとえ力の差が歴然であっても。
それがサカキの中で何らかの変化をもたらした。
その変化が何なのかはサカキにも分からない。
戦っていけば、分かるだろう。
「もっと来い、私に抗ってみろ」
サカキの声が部屋に響く。
ルドラと、その奥で構えるヒカルに届いた。
「ったり前だ!!」
その目に灯る闘志を見て、トレーナーは次の手を打つ。
「“いわなだれ”」
途端に天井が崩れ、数々の‘岩’となって降り注いできた。
「っ、ルドラ!」
すかさずルドラの背に乗って崩れた天井から上空へと昇った。
天井はすっかり消え去り吹き抜けの部屋と化した。瓦礫が散乱した社長室からサカキがこちらを見上げている。
(攻撃を止めちゃだめだ!)
ヒカルは腰から新たなボールを握る。
「頼むぞ、ララ!」
放たれた光から大きな影が姿を現し、瓦礫の床へと着地した。
ラプラスのララ―――この戦いであまり出番が少ないヒカルの仲間。
そもそもララは戦いが好きではない。むしろ怖がっていた。
だが、ヒカルと出会って彼女も変わったのだ。
戦いから逃げるのではなく、仲間といるために戦う。
ララとの出会いを思い出しながら、ヒカルはララの気持ちを微かに感じ取った。
「ラプラス…確か殆どを我々が捕獲したはずだが」
「そうだ、こいつもお前らに追われてた。ロケット団って言う《悪》に」
ララにロケット団と戦わせるのは気乗りしなかったが、それでもいつかは乗り越えなくてはならない。
そして今は目の前にいる《悪》を倒すために。
「行くぞ! “なみのり”!」
ヒカルの声に鼓舞され、ララの目の色が変わった。
突如として巨大な波が全方位から現れ、部屋全体を襲う。
「フッ、効くか」
それでもサカキには届かない。
サイドンが尻尾の一振りで自分に襲い掛かる波を弾き飛ばした。
僅かに水を被ったが、たとえ弱点でも大した効果は得られなかった。
「“れいとうビーム”!」
体制を戻そうとしているサイドンに向かって水色の光線が放たれる。
回避をすることなくその攻撃が直撃し、微量でもダメージを蓄積させる。
「力の差をいい加減身に染みたろう?」
「それでも…っ!」
サカキの誘惑にもヒカルは惑わされない。
ただ目の前の戦いに集中し続ける。
「ならば、“つのドリル”」
ララの攻撃を受けながら、サイドンはララへと突進してきた。頭のドリルを回転させララの身体に直撃させる。
もろに攻撃を食らったララはそのまま壁へ吹き飛ばされた。
「ララ!!」
ルドラから身を乗り出し、地上へと飛び降りた。
駆け寄ったヒカルは傷付いたララの身体にそっと手を当てた。
まだ体力は尽きていないが、まともに戦えるとは思えない。それほどの傷だった。
「ララ…無茶させてごめんな。好きじゃないバトルさせて」
ヒカルの言葉にララは首を振る。
そんなことはないと、自分が望んだのだと。
そう言っているように感じた。いや、聞こえた。
「ならば終わらせてやろう」
サカキが背後から迫り来る。
今ここで指示を間違えれば、それで終わり。
なら、自分が今一番信じることをするだけだ。
「――――“ふぶき”!!」
恐らくルドラに指示を出させるだろう。
その予測を立てた上で、なおヒカルが信じたララの闘志に賭けて。
案の定、サカキの予測は外れた。
「っ、サイドン!」
まさかここまで抗ってくるとは思っていなかった。
そろそろ心が折れると思っていたのに、むしろ強くなっている。
折れることのない心。
手持ちのポケモンを傷付けてなお抗おうとしている。
勝負の初めに感じた変化。
それが今感じているものなのかもしれない。
ヒカルに対する――――嫌悪の感情。
光を排し、悪を求めるサカキにとっての、《敵》。
(こいつは、レッドと同じなのか…?)
あの少年も同じだ。
レッドに抱いた感情と同じものを目の前の少年にも抱いている。
だからこそ。
「“いわなだれ”!」
この敵を排しなければ。
「っ、ルドラ!」
何処からか新たな瓦礫が現れヒカルとララに降り注ぐ。ヒカルの声に素早く反応したルドラが咄嗟に炎でそれを防いだ。
粉塵が舞う中、それまで堪えていたララが倒れた。
最後の力であれほどの攻撃をしてくれたのだ。
「ありがとう」
ボールの中に戻ったララを胸の前で抱き、腰に戻す。
すぐに目の前の戦いに意識を切り替える。
ルドラの先に見える、サカキ。
「俺の、俺たちの」
ヒカルが一歩を踏み出す。
「全部を乗せて――」
ルドラの尻尾の炎がさらに勢いを増す。
口から漏れ出す火の粉が煌めく。
「これで、終わらせる!」
ヒカルの声と同時にルドラの炎が爆発的に膨れ上がった。
圧倒的な熱量が辺りを襲い、距離があるはずのサカキのところまでその熱が届いた。
「―――訂正しよう、ヒカル。貴様は、私の《敵》だ」
サカキもそれを迎え撃つ。
「“だいもんじ”!!」
ルドラの炎が一気に解き放たれた。
大の字に象られた炎は一直線にサイドンへと向かう。
「“つのドリル”!」
その炎をかき消さんとサイドンがドリルを回転させる。
だが先程までと違い、炎をかき消すことが出来ない。
「絶対に勝てないことなんてない! 勝つ方法があるその場所まで、俺がそこまでの道を‘示して’やる! だから!!」
ルドラの炎は、まだ増大していた。
「信じて放て! ルドラ―――!!!」
爆発が噴き出されたかの如く蒼炎がサカキたちを飲み込んだ。
それは“だいもんじ”を越えたさらに強力な炎の技。
‘オーバーヒート’せんとばかりの技―――さらにその先、炎の究極技へと。
《示す者》と後に称されるその少年の力によって引き出された、“ブラストバーン”と呼ばれることになる、その技を解き放った。
爆発が起こった。
炎がまだあちこちに残り、部屋を焦がし続けている。
その中で揺らぐ影を目に捉えた。
「きりさけぇッ!!」
ルドラの爪が辺りの炎を纏い影へと向かっていく。
だが。
突如として地面が揺れた。
瓦礫が散乱する床が嫌な音を立て、次の瞬間。ばっくりと割れた。
「――――え」
途端に無重力の中に投げ出される。
ルドラがその進行先を変え、こちらに向かって飛んでくるのが分かった。
煙が晴れる。
その切れ間から影の主が現れた。
やけどを負っているもののその足をしっかりと地につけ、見下したかのような目線を向けるサイドン。
そして、哀れなものを見るような視線を向ける―――サカキ。
瓦礫と落下のせいで視界がどんどんぼやけていき、それは見えなくなった。
だが、同時に理解していった。
自分は、負けたのだと。
***
ヒカルは唐突に意識を取り戻した。
急激に入ってきた光に思わず目を細め、わずかな視界で現状を捉えようとする。
「―――…カルさん、ヒカルさん!」
そんな声が耳に届いた。
出会ってからそれほど経っていないのに、すっかり耳慣れてしまった声。
細めた目をゆっくりと開けた。
目の前には綺麗な黒髪の女性がヒカルを覗き込んでいた。
「ヒカルさん!」
目を少し潤ませたエリカがそこにいた。
「あの…これってどういう状況…」
「あ、えっと…わたくしの勝手にしたことでして…」
目が覚めたヒカルはその後、エリカが見える位置が少しおかしいことに気が付いた。
何というか、とても近いのだ。顔のすぐ近くにいるというか。
そして、頭の下には何やら暖かい感触。
「エリカが…エリカが、膝枕してる…!?」
「一体何があったんだ…いや! 何をしたんだあいつ!?」
離れた物陰からその様子を見ていたカスミとタケシが複雑な感情に挟まれていた。
まさかあの二人は、そういう関係に至ったのだろうか。
そんな二人の葛藤はつゆ知らず、ヒカルたちも戸惑いを隠せなかった。
(な、何でこんな感じになってるんだろ…。エリカも何か慌ててるし…)
(どうしましょう…勢いで膝枕しちゃってますが、ヒカルさん怒ってないでしょうか…)
傍から見れば恋人に見られるかもしれない。いや現に見られている。
それに気付くはずもなく二人だけで顔を赤らめていた。
「だ、あのとき…ヒカルさんが傷だらけで、わたくし動転してしまって…」
エリカが呟いたその言葉で、ヒカルは何となく理解することが出来た。
ビルの外で戦いが一段落したと思ったその時、爆発が起こった。それはレッドたちと伝説のポケモンによる戦闘の結果によるものであり、グリーンのリザードンの”かえんほうしゃ”による影響も合わさってビルに多大なダメージを与えた。
次の瞬間にはビルは倒壊をはじめ、エリカたちはビル内にいるレッドたちを探しに向かった。
レッド、グリーン、ブルーはすぐに見つかった。ビルのすぐ近くでこちらに向かって脱出しているところで合流出来たのだ。
だが、ヒカルの姿がそこになかった。
タケシたちが止めるのも聞かずエリカはビルに乗り込んだ。そして、傷ついたルドラが傷付き気を失っているヒカルを乗せて飛んでいるのを見つけたのだ。
「あのとき、ヒカルさんが倒れているのを見て悲しかったんです。ヒカルさんは倒れることはないって思ってましたから…。でも、そんなことはないですよね。ヒカルさんだって負けることはあるはずです。あなたと戦ってそれは分かっていたはずです。絶対に負けない人なんて、どこにもいませんから」
エリカは俯きながら言葉を紡ぐ。
「傷だらけになるほど戦ってくれたのに、わたくしたちはそれに見合うほどの戦いが出来たのか、わたくしには分かりません。ヒカルさんたちだけに背負わせてしまったのではないかと…今は、後悔してるんです」
エリカの潤んだ目を見て、ヒカルは体を震わせた。
(違う…)
手を強く握りしめた。
(違う……)
強く口を閉ざし、歯を軋ませた。
(俺は、そんなに強くない)
目が覚めれば戦いは終わっていて、レッドたちは戦いに勝利して、自分は負けて。
自分がやるべきことだった戦いは、結局は負けているのだ。
それなのに、エリカに後悔をさせてしまった。
追わなくていい責任を自らに負わせてしまった。
(俺のことなのに、エリカがこんなに考えなくていいのに)
それがとても許せなかった。
そう思わせてしまった自分が、許せないと思った。
ゆっくりと体を起こす。
エリカが支えようと手を差し出したが、それを反射的にはね除ける。
(これ以上ここに居てはいけない)
エリカの顔を見ていられなかった。
これ以上いては、悲しい思いを増やしてしまいそうで嫌だった。
「ヒカルさん…」
エリカが自分の名を呼ぶ。
振り返ることはしなかった。
「エリカ」
背を向けて立ち上がる。
「後のことはお願い――――ごめん」
それだけ呟いて、ヒカルはルドラを出しその背に乗った。
エリカが何かを言ったような気がしたが、それも耳に入ってこなかった。
ほんの僅かな涙を残し、足早にヒカルはそこから立ち去った。
時が経った。
風の噂でレッドがポケモンリーグで優勝したと聞いた。
僅かな時間しか会っていないが、彼が後々強者と呼ばれるだろうとは分かっていた。
自分も、その強さに置いてかれてはいけない。
その強さに追いつかなければ、あの時と同じなのだから。
「さあ、修行を再開しよう。みんな」
ヒカルは、五体の仲間たちと今やるべきことを成すために振り返った。
それから新たな物語が始まるまで、もう少し――――。
さて、カントー編最終回です。
長らくお待たせいたしました。そしてようやく一区切りです。
ヒカルとポケスペキャラの絡みをこうしてかけたことにとても喜びを感じています。
物語はまだまだ続くつもりですが、ここまで読んでくれた方にとにかくお礼を。ありがとうございます。
カントー編は終了ですが、番外編をこれから載せていけたらいいなと思っています。いつになるかは不明ですが。
そしてカントー編の次と言えば何編になるか、もう分かりますよね。あの子出せるのすごい楽しみです。
これ以上のことは活動報告にでも。
また読んでください! それでは。