ポケットモンスターSPECIAL 光示す者   作:ワークス

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第二章 イエロー編
第十六話 VSドードー 再訪と予感


ヤマブキの決戦。

そして、ポケモンリーグセキエイ大会から二年。

 

かつてカントーを支配すべく悪行を重ねたロケット団は、頭領の不在により姿を消し、鎮圧された。

 

その戦いの際に活躍し、セキエイ大会でも名声を残したトレーナーがいた。

 

ブルー。

グリーン。

そしてレッド。

 

特にレッドはリーグ優勝者として名を馳せ、各地から毎日挑戦者を相手するほどの人気を誇った。

 

だが、ロケット団との決戦に尽力したトレーナーはもう一人いる。

 

 

《彼》がマサラの地を訪れるまで、あと少し。

 

 

 

 

 

 

  ***

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、全く忙しいのぉ」

 

下がってきていた裾を捲り直し、オーキド博士は大きなため息をついた。

 

レッドとグリーンの激闘から早二年。

レッドはリーグ優勝者として毎日のように各地を飛び回りあらゆる挑戦を受けている。

グリーンもグリーンで修行の旅に出ており、時折来る手紙には充実した日々を送っていることが綴られていた。

惜しくもベスト三になった‘マサラの図鑑所有者’ブルーもこの地を離れており、今マサラにいるのはオーキドのみである。

たまにカスミたちが連絡を寄越してきたりと気を使われているようだが、元々一人で研究を続けてきたのだ。むしろ元の静かな田舎町に戻ったことを喜んでいたりもする。

 

ただ一つの気がかりを残して。

 

 

 

 

 

「え、博士! オーキド博士!! ちょっと今なんて言ったんですか!?」

 

久しぶりに掛かってきたカスミからの連絡に応じ、オーキドは作業を続けながら他愛もない会話をしていた。レッドの近況を聞かれ「一ヶ月前に挑戦状を受けて飛び出した」と答え、今に至る。

 

「なんだ大声出すのは止めんか!」

「だって全然連絡付かないんだもの!」

「しかしカスミよ、珍しいことでもなかろう?」

 

オーキドの目が遠くを見つめる。

ポケモンリーグ優勝という大挙を成し遂げたのだ。何より本人もバトルを好んでいる。だからこそ毎日やってくるトレーナーたちの相手を受けていたのだ。

そのことはカスミだって知っている。

 

「そうだけど…何か納得いかない」

「その気持ちも分かるわい。あいつは力量(レベル)上げや試合ばかりやって、図鑑の完成に全く貢献しとらん! 全く困ったもんじゃ」

「あはは…まあ、レッドはそんな奴だって分かってるけど、博士だって昔はレッドと同じだったんでしょう?」

「まぁの」

 

この一ヶ月レッドからの連絡はない。だが心配もしていない。

今やレッドに敵う実力者はいない。その事実がオーキドたちに信頼を与えていた。

 

しかし、

 

「あやつよりも心配な奴がおるからの」

 

瞬間二人の間に沈黙が生まれる。

 

「…………情報ナシよ。全くどこほっつき歩いてんだか」

 

カスミはぶっきらぼうに吐き捨てた。

だがその言葉の裏には、何も告げず去ってしまった友人への苛立ちと、何も出来ずにいる自身への罪悪感が含まれている。

そしてそれは、オーキド自身も抱えている想いであった。

 

 

(一体、何をしておるんじゃ――――ヒカルよ)

 

 

黄色いスカーフをはためかせた少年が脳裏に浮かぶ。

同時にドアノブに流れた大量の静電気の音によって、その姿は掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

「――――ここまでは来たことはなかったな」

 

空飛ぶ一つの影から、そんな声が聞こえた。

幼く、でもどこか大人びた声。

 

「ちゃんと博士には謝っとこう。何も言わず飛び出したんだし──怖いけど」

 

声の主に返事をするように別の声が聞こえた。

 

黄色いスカーフを揺らす少年を乗せたポケモンは、オーキド研究所へと航路を切った。

 

 

 

 

 

   ***

 

 

 

 

 

「もしレッドさんが捕らわれているというのなら、このボクが助ける!」

 

傷だらけでオーキド研究所に帰ってきたレッドのピカチュウ(ピカ)

そしてピカを伴って旅立とうとする黄色い麦わら帽子の少年。

 

突如現れオーキドの目の前でそう言い切って見せた少年は、オーキドが仕掛けたバトルを‘互いに無傷で終わらせる’という形で乗り切った。

そしてオーキドの心を動かした。

 

ポケモンを想い、戦う少年。

 

素性は一切話そうとはせず、だが不思議な魅力を持っていた。

その姿にあの少年の面影を重ねた。

同時にこの少年の言葉と想いを信じてみたくなった。

 

そうしてオーキドはレッドの残したポケモン図鑑を託し、その旅立ちを見送ろうとした。

その時だった。

 

 

「あれ、あれは…?」

 

不意に少年が空の端に影を見つけた。釣られてオーキドも空を見上げる。

大きな鳥ポケモンだろうか、力強く羽ばたきながらこちらへと向かってきていた。そのスピードは途轍もなく速く、かなりの力を持っていることが予想出来た。

すぐに影は二人の頭上に到達した。鳥ポケモンと思っていたのは、なんとリザードンであった。

この地でリザードンを持っているトレーナーは、オーキドの知る限りではたった二人。

孫であるグリーンと、ヒカルのみ。

そしてそのリザードンの尻尾は蒼白い炎を灯していた。

 

オーキドは反射的に叫ぶ。

 

 

「――――ヒカル!?」

 

 

リザードンが急停止する。

ゆっくりと高度を下げ、搭乗者の顔がはっきり見える位置にまでなった。

 

「――……あ、オーキド博士」

 

少し伸びた前髪の間から漆黒の瞳が覗く。

二年の月日が経ち、以前の子供ぽっさをあまり感じなくなったが、オーキドから図鑑を託された《四人目の図鑑所有者》ヒカルが、確かにそこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

(……どうしよう、すっごく気まずい。というかこれは完全にまずい)

 

ヒカルの心臓はさっきから急加速しまくっている。

何せ、二年間も連絡をしなかったのだ。一年でもまずいことをヒカルはやってのけてしまっていた。

さっきからワナワナと拳を震わせるオーキドの様子が更に危機感をひしひしと与えていた。

普段ならオーキドと一緒にいる麦わら帽子の少年が一体誰なのかと尋ねるところだが、今はそんなことも気にしていられない。寧ろ一刻も早く逃げ出せとヒカルの中で警鐘が鳴り響いている。

 

「え、えーっと、それじゃあ俺、まだちょっと用事があるんで…」

「ほう、二年間もまーったく連絡を寄越さんような奴に一体どんな用があるんじゃ?」

「それは…その、えーと…」

 

段々と額の辺りに怒りマークが増殖していくのがありありと分かった。

ヒカルの顔が引きつった、瞬間。

 

「一言くらい連絡を寄越さんか、この大馬鹿もんがぁぁあああっ!!」

「ぴひゃいっ!? す、すみませんごめんなさいィっ!!?」

 

予期していても驚くときは驚くもの。約一名と二匹がびくりとなり、一人は委縮し震え上がった。

 

「全く、いくら事情があったとしてもせめて一言くらい寄越すとか考えんのか! わしらがどれだけ探し回ったと思っとるんじゃ!!」

「し、修行に出ようと…、連絡は…頭になくて」

「ヒィカァルウゥゥゥウ!!」

「わああぁぁぁァァ…!?」

 

修行で身に付けたはずの成長は微塵も発揮出来ず、言われるがままに怒声を受けることとなった。勿論連絡をすることをすっかり忘れていたヒカルの自業自得であることは言わずもがな。親の立場になって怒鳴り散らすオーキドの気持ちが大きいこともあるが、ヒカルには察することなど出来るはずもなく。

怒られているトレーナーが誰なのか、何故博士はこれほどまでに激昂しているのか理解出来ていない少年だけが、その行く末をオロオロしながら見ていた。――その足元にいるピカが何故呆れているのかも考えながら。

 

「今回のことを反省させるためにも、お前には罰をやらんとな」

「ふ、ふひゃい……二年振りに怒られた…あれ、もっと前だっけ…」

「(ギロリ)」

「ひっ!?」

 

余計なことを考える暇などなく、有無を言わせぬ眼差しにすっかり縮こまったヒカル。二年前の彼を知っている者なら、この姿に間違いなく大笑いするだろう。

さながら水やりを忘れた植物のようにすっかり萎れていた。

 

「ヒカル、彼の手伝いをしなさい」

「えっ」

 

突然話を振られた少年はビクッと後退る。

だがオーキドの声色が変わったこと、そしてその少年の傍らにピカがいることに気付いたヒカルもまた険しい表情になる。

 

「――――レッドに何かあったんですか」

 

それは先程までと全く異なり、真剣な眼差しを伴っていた。

その様子はかつてより成長したレッドたちを彷彿とさせ、オーキドですら身震いを覚えた。

 

「一ヶ月前、志覇(シバ)という者からの挑戦状を受け飛び出していった。そして今日このピカだけが傷だらけで帰ってきた」

「つまり、行方不明であると」

「そうじゃ。そして彼が代表して探しに出る。お前さんはそれを手伝ってやって欲しいのじゃ。わしが彼の実力を認めて決めたことじゃ」

 

ちらりと、少年の方を見た。

 

「彼のことを信じていないのではない。じゃが、お前さんが加わることでレッドの発見がより早まるじゃろう」

 

オーキドの言葉をヒカルの中で吟味する。

確かに人手が多い方がいいだろう。そしてきっとレッドに親しい者たちはこの調査に加わるはずだ。タケシやカスミ――エリカだって。

だがそれ以前にヒカルは許すことが出来なかった。‘行方不明’という単語が出てきた時点でヒカルの答えは決まっている。

断る理由などなかった。

 

「もちろん、協力します。俺に出来ることなら何だって」

 

未だ情報を得られない両親の面影。

違った形ではあるが、レッドもまた消えてしまった。

もう誰にも、自分と同じ悲しみを抱いて欲しくない。

 

ヒカルはゆっくりと少年に歩み寄った。

警戒心が働いたようでサッと半身を引かれるが気に留めない。正面に立って、自分よりも小柄なその少年を見る。

本当の《おや》ではない彼に寄り添うピカと鞍を身に付けたドードー。彼の手持ちであろうドードーを見ただけでは実力を推し量ることは出来ない。

だが柔和な眼差しの中に確かな決意を感じた。決して猛者たちが放つような威圧感ではない。ただレッドを見つけたいという意志を感じ取れた。

そんな少年に、ヒカルも少し不思議な感慨を持った。

 

それが何なのかは分からない。

それをこれから確かめていくためにも、ヒカルは右手を差し出す。

 

 

 

「改めて、俺はヒカル。――――よろしく」

 

 

 

 

ヒカルの新たな旅立ちはこうして始まろうとしていた。

 

 




はい短いですね。
そしてようやく第二章に入ることが出来ました。

ヒカルが怒鳴り散らされるのはやっぱり必要かなぁと思いまして。
だって真正面から怒ってくれる人って、ここだと博士かマサキくらいなもんで(マサキ美化説)。
でも安心してください。マサキはマサキです。
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