ポケットモンスターSPECIAL 光示す者   作:ワークス

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大変長らく…
長───っいのが出来上がりました。



第十七話 VSジュゴン 新たな敵

「ふああ……」

 

呑気な欠伸が空に響いた。

それに呆れるようにヒカルが苦笑いした。

 

「まだ昼前だ、寝るのは早いんじゃないか?」

「むにゃ…いや、大丈夫です……すぅ」

「大丈夫じゃないな」

 

喋りながら寝こけてしまった麦わら帽子の少年に毛布を掛けてやる。ピカも呆れているようで「やれやれ」と言わんばかりに首を振っている。

 

 

場所はトキワの森。

レッドを探す旅に出たヒカルと少年は、川辺りから少し離れた開けた場所で休憩を取っていた。

ヒカルは一度旅をしていたが少年は未経験らしく、そんな相手を急かすこともないと、ヒカルは少年に旅のペースを任せていた。

どうやらトキワの森は馴染みがあるらしく、森に入った途端に彼のペースが上がった。かと思いきや、その流れはとある事件で停滞する。

 

「はっくしょんッ!」

「…ルドラに頼む?」

「ズズ…いや大丈夫や。んな事よりも大事なことがあるさかい」

「うっ……」

 

偶然通りかかった川で出くわしたのは、色んな機材を背負ったマサキであった。

が、何かに気を取られてたらしくマサキが居たのは水の中だった。知り合いに遭遇したことで軽く回避行動に走りそうになったのは記憶に新しいが、勿論溺れてる人をスルーすることなど出来ず、少年が濁流を起こしていたシードラを止める間に引き上げた、のだが。

 

『ふいー…た、助かった……、ん? ──ああっ!? ヒカルやないか!? っておい待てどこに行くんや!!』

『……ヒカルさん一体何したんですか』

 

即座に離脱するという戦法は見事に失敗し、ヒカルは呆気なく捕まった。逃れるという術が見出せず無抵抗にしていると、今度は少年の無垢な軽蔑の眼差しを向けられた。もう散々である。

 

「何でマサキなんかと会っちゃうかなぁ」

「わいなんかとは何や! お前、二年も連絡寄越さへんで! わいらがどんだけ心配しとったか!」

「あー、もう怒られたくない…」

 

既にオーキド博士に大層しばかれているが、それも連絡を入れなかったヒカルが悪い。ぐでーっと項垂れたとしても、反省してないと勘違いされマサキの説教はヒートアップしていく。

 

「ごめんなさい、もう怒られるのはマジで勘弁だから許してください」

「何言っとるんや! そもそもどこに行くとかそういうことを予め伝えておらんから皆困ってもうて……」

「マーサーキィ……」

 

ヒカルは瀕死の状態である。

それでも容赦なくマサキの説教は続き、五分ほど経ってようやく終わった。

運動したかのように額の汗を拭うと、未だ寝こけている少年の傍らにいるピカチュウ(ピカ)に興味を向けた。

 

「にしても、ほんまピカと似とるなぁ」

「だってピカだから」

「はぁーん? 何言うとるんや。ピカはレッドのポケモンやで」

 

マサキが訝しげな目でヒカルを見た。

そこでようやく、レッドの失踪はあまり広まっていないことに気付いた。

 

(そう言えば、どれだけの人が知ってるんだろう。オーキド博士はともかく、もうジムリーダーの皆には伝わってるかな)

 

ふとそんな考えを巡らす。

マサキも追求する気はないのか、それ以上の質問はなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「────見つけたわ」

 

不意に遠くでそんな声が呟かれた。

 

次の瞬間、強烈な冷気がヒカルたちを襲った。

 

「な、なんやっくしゅッ! さ、寒うっ!!」

「これは…!」

 

突然のことにヒカルとマサキは構えようとするが、あまりの寒さに身動きが取れない。

ヒカルは咄嗟に地面に寝転がる麦わら帽子を見やるが、この寒さでも動じず未だ寝こけている。

 

「よく寝てられるなっ……!」

 

歯噛みでもしたくなる気分だったが、再び襲ってきた冷気に阻まれる。

どうやらこの攻撃はピカを狙ったものらしく、小さい体に薄く氷が張りかけていた。今のトレーナーである少年が動かないので、代わりにヒカルがピカを抱え直撃を防ぐ。

と、少年がようやくもぞもぞと動いたかと思えば。

 

「ふわっくしゅっ! うわっ寒い!」

「起きるの遅いでお前! いきなり襲われとんのやぞ!」

「喧嘩は後にしろ!」

 

二人の言葉を区切り、ヒカルは素早くボールに手を回した。

それと同時に冷気の嵐が止む。

ボールに掛けた手を離さないまま、周囲の気配に神経を尖らせる。ようやく起きた少年も眠気はすっ飛んでいるのか、ヒカルの手を離れたピカに寄り添い辺りを警戒している。

 

「そのピカチュウ…渡してくださらない?」

 

唐突に頭上から声が降ってきた。

 

「「っ!!」」

 

ヒカルと少年がその方向を向く。

そこにいたのは、黒いワンピースを纏った眼鏡の女性。その傍らにはジュゴンが寄り添っている。恐らく吹雪はジュゴンのせいだろう。

ふと、妙にピリピリとした緊張感を感じた。それは少年とピカから発せられるものであり、同時に二人の表情からもそれは一目で分かった。

 

「かつて行われたレッドと四天王の戦いにおいて、レッドの手持ちの中、たった一匹逃げ延びたポケモン」

 

女性から発せられた言葉でヒカルも遂に目を見開きかけた。

こいつは────知っているのだ。

 

「逃げ延びたって……どういうことや!? あのレッドが……負けたっちゅうんか!?」

 

唯一事を知らないマサキが叫び返す。

その反応が新鮮だったのか、女性は小さく笑った。

 

「ええ、負けたわ。いくらリーグ優勝を果たしても四天王に適うはずなどないもの」

 

知っている。レッドと志覇という者の間で行われたバトルの全てを。その結末を。

そのきっかけを。

目の前の‘敵’は、知っている。

少年が帽子を深く被る。彼も動揺しているのだろう。

 

「まさか、本当にお前は、レッドのピカ……!」

 

マサキの呟きに釣られピカを見下ろす。全身が治癒してなお右耳に残る傷跡が嫌に目に映った。

 

「そして、‘我ら’四天王の戦いには一点の汚れも許されないわ。名折れになってしまうもの。そのために私はそのピカチュウを追ってきたの」

 

その言葉に少年とマサキは愕然とする。

 

「我ら…って…!」

 

先程受けた冷気の威力を肌身で知ったからこそ、その事実はあまりにも残酷なものとなった。

ただ一人を除いて。

 

「────お前らが、レッドを倒したのか」

 

鋭く放たれた言葉に女性は笑みすら浮かべながら答える。

 

「そのように言ったつもりだけど」

「そうか。お前らが‘俺の仲間’を倒したのか」

 

ヒカルの眼から一瞬光が消えたのを少年は見逃さなかった。同時に宿った炎のような怒りの色も。

その姿に、女性の動きは一瞬止まる。

やがて、フフフと笑い出した。

 

「そういえば話に聞いていたわ。あのシルフでの戦いの際、彼らと共に戦った《もう一人の図鑑所有者》のこと」

 

ヒカルの眉がピクリと動いた。

 

「……四天王に知られてるなら、結構まずいかな」

 

自嘲気味に呟くと、ヒカルは振り返らず口を開いた。

 

「……少年くん、今すぐマサキを連れて逃げろ」

「っ、そんな!」

 

少年は首を横に振るがヒカルはそれを認めないほどの威圧感を出した。

いくら修行を積んだと言ってもまだまだレッドたちには遠く及ばないだろう。そんなやつが、四天王と名乗るこの途轍もない迫力を見せるトレーナーに勝てるとは到底思えなかった。

 

「そんなことはさせないわ」

 

しかし敵は止まらない。

僅かに見せた隙をつくかのように、傍らのジュゴンに乗り岩場の高台から飛び降りた──否、滑り降りてきた。

 

「うわああああ!? す、滑ってきたぁ!?」

「さっきのは岩場に氷のレーンを作るためだったか」

 

たった二回の攻撃で辺りの岩肌は凍結されて眩い光を反射していた。それが意味するところを今理解したところでどうにもならない。今はどうにか逃げることを考えねば。

 

「逃がさないわ!」

「っ、ルドラ!!」

 

間近にまで迫ったジュゴンが牙を剥く直前に、ヒカルの手から放たれたボールより飛び出したルドラが辺りの氷に蒼炎を放った。

途端爆発にも似た勢いで水蒸気が周囲を包み、彼らの視界を隠した。

女性は舌打ちをしながらも、ジュゴンの攻撃によって素早く水蒸気を払った。あっという間の早業であったが────そこにヒカルたちの姿はなかった。

 

「隠れたか……でもそんなに遠くへは行けないはず。フフフ、まさかこんな所で会えるなんて────必ず仕留める」

 

 

 

 

「全く、今日はなんちゅう日や。川で溺れかけるわ、いきなり襲われるわ。オイヒカル! 一体どないなっとるんや!」

「気持ちは分かるけど落ち着いてくれマサキ。集中したいんだ」

「んぐぅ……」

 

ヒカルの機転で何とか近くの洞窟に身を隠すことが出来た三人だが、その表情に安堵の色はなかった。

僅かでも生まれたこの時間で敵を倒す算段を立てなければならない。ヒカルとて焦りを感じているが、マサキのように騒ぐだけではどうにもならないのだ。

熟考し始めていたヒカルは、ふと様子が違うものに気付く。

 

「どうした?」

 

声を掛けられた少年は、傷ついたピカを見つめなながら呟く。

 

「…………あの人たちが、レッドさんを……」

 

その声色に震えが混じっているのをヒカルは見逃さなかった。

 

「そ、そうや! あのレッドがやられたってどういうことや!? あんだけの強さを持っとるっちゅーやつが」

 

思い出したかのようにマサキが捲し立てる。当然だ、元々彼は溺れかけていたところを助けられ、少し休んでいただけなのだ。明確な目的があって戦いに望むヒカルたちと違って、マサキは巻き込まれただけの被害者に過ぎない。

それでもレッドが絡んでいる以上放ってもおけないのだろう。ありがたいことだが、巻き込まれ体質に同情を感じてしまう。

 

「……詳しくは分かりません。ただレッドさんは彼らと戦い、そしてこのピカだけが帰ってきた」

「そんな…レッドでも勝てない敵…」

 

要約した内容だったがマサキは納得したようだ。まああれだけの実力を見せられては頷かざるを得ない。

恐らくヒカルの全力を持ってしても対抗し切れるとは考えにくい。少年にはピカがいるが狙われている以上戦いに出しづらい。残った二匹のレベルではどうしようもないだろう。マサキは──思い出して後悔した。

洞窟に逃げ込んで十分ほど経つ。そろそろ行動しなければ戦力で勝る敵に蹂躙されるだけだ。

一つの決意と共に地面に向いていた顔を上げ、宙を睨む。

 

「でも倒せないわけじゃない」

「えっ!?」

 

この場の空気を壊さん言葉に二人が目を見開く。

 

「ちょ、ヒカル!? お前なんか勝機でもあるんか!?」

「いやない」

 

ばっさりと言い切り、思わずマサキはずっこける。

 

「だからこれは賭け。俺が注意を引き付けておくから、二人はその間に何か対策を考えてくれ。逃げるでも何でもいい」

 

これが今出た最良の答え。最悪ヒカルはかなりの怪我、いや死ぬかもしれないが。

それでもマサキが付いているからこそ出た答えだ。彼がいるなら、少年とピカを守ることは出来る。

 

「オイヒカル、それはなぁ…」

 

そんな考えが浮かんでいるはずもないマサキは、堂々と言い切ったヒカルに詰め寄った。

しかしそれは少年の声により中断される。

 

「っ、待って! 何か変な音が…」

 

叫んだ瞬間、天井を突き破ってくるものがあった。

 

「うわああああ!? ドリル!?」

「くっ!」

 

咄嗟に崩れかけた天井から飛び退き、少年たちとは反対の方向に向かって走り出す。

 

「ヒカルさん!?」

「ヒカルどこに行くんや!?」

 

後ろから聞こえる仲間の声は、落石によって掻き消えていった。

 

 

 

***

 

 

 

「フフフ、やっと出てきてくれたわね」

 

誘いに乗っかりまんまと出てきたヒカルに敵は追撃をせず、高みからこちらを見下ろしていた。傍らには先程いなかった巨大な二枚貝──パルシェンの姿もある。

 

「お前は俺のことを知ってるのか?」

「ええ。──シルフの戦いにおいて最後‘逃げ出した’臆病なトレーナー」

 

最後を強調して言い切られる。

その事実はヒカルの心を確実に抉るが、変えようのない真実であることも確かだった。

 

「……ああ、そうさ」

 

だからその言葉は肯定する。

しかし、瞳に宿るものは抗う意思。

相反するものを持ち合わせたヒカルに、女性は初めて興味を示す。その中心にあるものまでは分からないが、他のトレーナーとは違う何かを感じた。

それはヒカルに言わせれば何でもないただの自嘲だったが。

女性は笑う。

 

「その態度を評して名乗ってあげる。──私はカンナ。四天王、司る力は《(ひょう)》!」

 

 

 

 

四天王カンナ。

そう名乗った瞬間二人は動き出した。

片方はジュゴンとパルシェンに指示を出し、片方はそれをかわしつつ蒼炎を宿すリザードンを繰り出した。

登場と同時に放った“かえんほうしゃ”は“オーロラビーム”によって相殺され、迫り来る“ふぶき”を“だいもんじ”が蒸発させる。

一進一退の攻防に見えるが、技を打ち消した余波で煽られているのはヒカルの方である。それでも顔を逸らさずキッとカンナを睨みつける。

 

「勇ましく仲間を庇っても無駄よ。あなた一人で何が出来るのかしら」

 

カンナは軽く鼻で笑う。遊ばれているのは百も承知だ。その上でヒカルは賭けに出たのだから。

 

「……さあね、自分で確かめたらどうだ」

 

だから敢えて挑発とも取れる発言をする。少しでも奴の気がヒカルだけに向くように。

 

「とことん面白い。なら、そうするわ!」

「っ!!」

 

乗っかってくれたのか、今までより感じる覇気に真正面からぶつかっていった。

 

 

 

 

一方、洞窟内では。

 

「あああなんか外でドンパチやり出してしもたで!?」

「ヒカルさん…」

 

恐らく囮となったのであろう、ヒカルが単独で戦闘を開始してしまったことで更に混乱を極めていた。

洞窟が崩れる直前に言っていた《対抗策》を考えるにも、入口が氷塊で閉ざされてしまい冷気の篭ったこの場では頭も上手く働かない。

 

「うう…寒い……。わいらも早よ何とかせんと凍え死んでまうで」

 

口では言うもののそう簡単にはいかない。

 

「……何か、何か作戦は…」

 

少年が呟きながら必死に思考を巡らせる。

会って間もない彼が命を張って時間を稼いでいるのだ。

何故彼がそれほど必死になるのか少年には分からないが、何もせず見殺しにするようなことは出来ない。それに動かなければピカは奴らに連れ去られてしまうだろう。

それが何より許せなかった。

 

「! また何か来たで!」

 

思考を遮るように洞窟の近くが削られる音が響く。先程襲ってきたドリル、“とげキャノン”に間違いない。

そこで少年はふと気が付いた。

 

「あの“とげキャノン”、どう見ても威力が大き過ぎる。ヒカルさんが気を引いてくれてる今なら……!」

 

少年は素早くピカに向き直る。

両手でその体を抱え、数瞬の後、突如二人を強い光が包み込んだ。かと思えばそれはすぐに収まる

 

「っ…! い、今何を……」

 

突然のことに驚いたマサキは目を覆っていた腕を下げて、再び驚いた。さっきまで全身に傷を負っていたピカがまるで‘完璧な治療’を受けたかのようにすっかり消えていた。

マサキが唖然とする中、少年は元気になったピカに指示を出す。

 

「ピカ、ボールに戻って!」

「お、おい!」

 

すっかり置いてけぼりを食らっているマサキを尻目に、少年は常時携帯している釣竿を手に立ち上がった。

 

「ボールに入れてしまえばポケットにだって入っちゃう。だから…ポケットモンスター!」

 

釣竿の先にピカのモンスターボールを付け、振る。

 

「……せーの!」

 

狙いは一点。崩れた岩の隙間。

 

 

 

***

 

 

 

外ではアートも繰り出し、四対四の熾烈を極めたバトルが続いていた。

しかし力量も経験も不足するヒカルはじりじりと後退しつつあった。

 

(さすがに四天王と正面からやり合うのはキツイ……おまけにあっちは殺る気で来てる)

「どうしたのかしら。まさかここまで来て怖気付いたとか? ……パルシェン、ジュゴン!」

「っ、かわせ!」

 

二体の強力な氷攻撃が迫り来り、紙一重のところで身を翻す。同時にヒカルも動き、トレーナーをも巻き込まん攻撃をどうにか掻い潜る。

 

「いつまでそうしていられるかしらね」

 

狩る側であるカンナは薄く笑みを浮かべる。まだ本気を出していないことは明白だった。

 

(このままじゃやられる! けどあいつら全っ然動かないし!)

 

万事休すか。

ヒカルは奥歯をぎりっと噛み締めた。

しかし、

 

「フフフ…ん? あれは…!」

 

敵の狙いであるピカを敢えて送り出すという、仲間の奇策によって敵の一瞬の隙を垣間見ることが出来た。

 

 

 

 

マサキはただ不思議だった。

 

「ハァ……ハァ……っ」

 

少年は竿を引き戻しただけとは思えないほど息を切らしていた。まるで激しい戦いの直後のような感覚だ。

 

「お、おい……?」

 

心配する言葉もたどたどしく声をかけてみるが、かけられた少年は気付かなかったのか返答はない。

と突然、少年の手元が淡く輝きだした。手の中にあったピカのボールがふわりと宙に浮く。

 

「……パルシェンとジュゴンの合体技だったのか。なら、どちらか一方を封じれば……」

 

ぶつぶつと言葉を零す少年にマサキは眉根を寄せる。

まるで外の様子をたった今覗き見たかのような呟きに疑いを持つことは必然的であった。

 

「……さっきから何なんや、君は。ピカの傷を治したり、今は外の様子が見えとるかのように話しとる。それに、何でヒカルとおったんや」

 

今戦いにいる中で唯一事情を知らないからこそ、単刀直入に聞く。短い期間ではあったが、ヒカルとは中々の腐れ縁の関係になった。身分の証明まで行ったことだってあるのだ。

そんな彼が、マサキの友人であるレッドのピカと共にいる少年と旅をしている。

本人からは聞けなかったが、きっと訳があるはずだ。

 

暫しの沈黙を破って、細く確かな声が洞窟に響いた。

 

「────ボクはただ、ポケモンの気持ちがほんの少し分かるだけです。ヒカルさんは、このピカと一緒にレッドさんを探す…‘仲間’です」

 

敵と相対したとき、ヒカルから感じたものは悲しみと怒り。皆はきっとそれだけだっただろう。

だが、少年は別なものも感じていた。

それはまるで、後悔とでも言うべき暗く深いもの。

何故そんなものを感じたのか、ヒカルの過去を知らない少年には分からない。しかしそれだけ何かを背負っていることは分かる。何かを守ろうとしているのは分かる。

 

「オーキド博士に言われてヒカルさんと一緒にいました。けど、今は、ボクはあの人を信じています」

 

強い意志と仲間を信じる心。

それを見せられて、無視することなど出来ない。

だって、同じものを守ろうとしている‘仲間’なのだから。

 

「だから、助けに行きます」

 

 

 

 

「“オーロラビーム”!」

「っあ、しまっ!?」

 

ジュゴンの放った攻撃がルドラの翼に直撃し、その翼を凍らせてしまった。片翼を封じられ、完全に逃げ場はなくなる。

相性で優位に立つアートも既に力尽き、ボールに仕舞われている。

 

「これで空は飛べないわね。フフフ…終わりよ」

「っ……!」

 

先程生まれたスキを狙い仕掛けたものの、流石の対処であっさりと受け流されてしまった。

 

(……一かバチかに賭けてみるか)

 

少年たちが行った行動の意図は未だ理解し切れていない。しかし起点となるのは分かっている。

意を決し、口を開きかけた、その時。

 

「! あのボールはっ」

 

願ってもみないチャンスがやってきた。

もうここしかない。

 

「──ロンド、フルパワー!!」

 

ヒカルはこの場に出していないはずの仲間の名を呼ぶ。そして、その声に応え‘氷の岩場に変化’していたロンドがコアから強烈な“フラッシュ”を放った。

 

「くっ」

 

完璧なタイミングで放たれた不意の一撃は、確実にカンナの視界を遮る。突然の光に驚きながらも、カンナは反撃のため攻撃の指示を出そうとした。

だが、彼らの攻撃は続いている。

 

「今だああああっ!!」

 

ドゴオオォッ! とカンナの後ろの岩が吹き飛ばされ、一つの影が飛び出す。

 

「“でんきショック”!!」

 

ドードーの背に乗った少年は竿を大きく振りかぶる。先端に付けられたボールはパルシェン目掛けて投げられ、登場と同時にピカの電撃が放たれた。

 

「“からにこもる”!」

 

回避されることなく、パルシェンの動きが止まる。“からにこもる”のお陰でダメージは抑えられてしまったようだが、麻痺状態になったパルシェンは暫く攻撃出来ないだろう。

と、突然肩を強く掴まれ揺さぶられる。振り返るとそこには焦った表情のマサキ。

何かを言おうとしたヒカルの返答を待たず、ヒカルの手を掴みそのまま引っ張っていった。慌ててルドラとロンドをボールに戻す。

連れて行かれた先は少年とピカの元。

 

「ヒカルを連れてきたで!」

「ドドすけ、お願い!」

 

問答無用でヒカルをドードーの上に乗せ、助走なしで走り出した。流石地上を翔る鳥ポケモンだ、そのスピードとパワーはあっという間にヒカルたちをカンナから引き離した。

と、マサキがヒカルの腕を引っ張って耳打ちをしてくる。その内容に驚き、少し体勢を崩してしまう。

 

「おっとっと」

「気を付けてください。重量オーバーでドドすけが走れなくなっちゃいます」

 

掴んだままだった腕を引っ張られ体勢を戻す。ダメ押しで告げられたプレッシャーを頭を振って払拭しようとする。

 

「分かってる! おい、この作戦上手くいくのか!?」

 

八つ当たり気味に叫ぶ。

マサキから伝えられた、現状を打開する策。それはヒカルが考えていたよりもずっと難しいことだった。

 

「……分かりません。でも…!」

 

ひたすらに逃げ道を見つける。

逃走する中、その張り詰めた言葉の中に、少年は奮い立たせるような怒気を孕ませていた。

 

「どこへ行くのかしら?」

 

しかし、それすらも相手には通じない。

重量オーバーでスピードが落ちているが、途轍もない馬力を誇るドードー。そのすぐ後ろから冷酷な声が届く。

振り返ると、ジュゴンに乗ったカンナがそこまで迫って来ていた。

 

「あ、アカン! “れいとうビーム”で道を作って来よるで!」

 

水系のポケモンだが同時に氷タイプも併せ持つジュゴンは、マサキの言った通り“れいとうビーム”によって地形の差をカバーしてしまった。滑るのも得意らしく、地上を走るドードーと大差ない。

と、不意に“オーロラビーム”が飛んできた。

 

「ちいっ!」

「うわぁっ!?」

 

ヒカルとマサキが振り落とされないようにしがみつき、少年が必死に手綱を操る。

直撃は免れたものの、いつ次の手が来るか。

 

 

そんな極限状態の中、カンナが声を上げる。

今までの攻防が、どうしても引っかかるのだ。そして不思議と興味を惹かれた。

ただの攻撃対象ではなく、それなりの敬意を持つべきかもしれない。

そう、ほんの少し思ったのだ。

 

「────ただ逃げ回っているようには見えないわね。──名を聞いておこう」

 

そんなカンナの心情などヒカルたちには分からない。

だが、自然と断る気にはならなかった。

 

「……ヒカルだ」

 

名乗ってからちらりと振り返る。

今まで一回も言おうとしなかったその名を、少年は果たして口にするのか。

 

 

「ボクは…ボクは────」

 

麦わら帽子の奥から声がして。

 

 

 

「イエロー・デ・トキワグローブ」

 

 

少年────イエローの瞳が眩く光った。

 




言い訳はしません。
サボってました。
イエロー可愛いよ可愛いよ。
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