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「ん、ん……」
再びヒカルは唐突に意識を取り戻した。
そこは、意識が途切れる直前まで見えていた深い森ではなく、微かに黄ばんだ白い天井だった。
何度か瞬きを繰り返し呆然とする。
そこに縋りつくようにヒカルを見つめる影が一つ。
「ああ…大丈夫だったか、ライ」
「リン、リンっ!」
涙目で頬を摺り寄せてくるライの頭を優しく撫でた。
どうやらあの後気を失っていたらしい。ここが病院であると、着ていた病衣と病室を見て察した。
ライの頭にも小さな絆創膏が貼ってあった。小さな怪我だったようなので安心するが、今最も安心しているのはライの方だろう。何せ、トレーナーが病院のベッドで寝ているのだから。
取り敢えずライが甘えたいだけ甘えさせよう。そう思って更にベッドへ体重を預けた。
「おお、気が付いたようじゃの」
突如として開いたドアから、そんな声が聞こえてきた。
ノックもなしで入ってくるとはどこのどいつだ、などと考えていると、声の主はそのままヒカルの前まで歩みを進めた。そしてその姿を見てヒカルは
「お、おっ、オーキド博士ェ!?」
思いっ切り叫んだ。
ライが思わぬ攻撃にびっくりして文字通り飛び上がった。オーキド博士も少なからず驚いたようで、多少腰が引けている。
「これ、公共施設でいきなり叫ぶんじゃない!」
「申し訳ありません」
「うむ、素直でよろしい」
全然腰引けてなかった。むしろどっしり構えられた。
こんなにストレートに怒られたの久しぶりかも。
なんて考える暇はすぐになくなった。改めて今目の前にいる人物に話しかける。
「とところで、あなたは、おオーキド博士、ですよね?」
「何をそんなに怯えとるんじゃ。間違いなくわしはオーキドじゃ」
「えと、何故、博士がこんなところにいらっしゃるんですか?」
「ほう、ずいぶんと冷静じゃのう。もう少し慌てると思ったのじゃがな」
ヒカル自身は全く冷静ではなくむしろ激しく動揺しているのだが、オーキド博士には間違った伝わり方をしているようだ。
「いや、最近トキワの森の生態系に異変があるとかで調べに来てみたんじゃが、代わりにお前さんたちを見つけたというわけなんじゃ」
「トキワの森……」
やはりヒカルたちがいたあの場所はトキワの森だったらしい。
記憶が途切れる前に起きた、ポケモンたちが襲ってきたことは間違いないらしい。
(それにしても、森の生態系に異変…?)
なんだか思い当たる節があるような気がして考えを巡らせようとしていた時。
「正確にはお前を見つけたのはわしではなかったのじゃがの。わしはお前さんたちのことを頼まれただけじゃ」
「へ? ……そうなんですか」
思考を中断され、近くまで思い出しかけていたものは消えてしまった。
ヒカルは特に気にもせず、今博士が言った言葉の方に意識を持って行った。
(つまり、助けてくれた人がいるってことなのかな)
博士の言い方ならきっとそういう事なのだろう。
「じゃあ、もしまたその人に会ったらお礼言わないとな…博士、その人どんな人ですか」
「ああ、それはの」
「あ、でもお礼できるものとかないや。どうしよう」
「おい、あのなあ」
「うーん、どうしよう。ライどう思う?」
「リン?」
「君、ちょっと」
「博士は何か思いつきませんか?お礼」
「………はあ。もう好きにせい」
博士が何かを言おうとしていたようだが、向こうが言うのを諦めたので深追いはしなかった。
とても大きなため息をついていたので、いったい何を言おうとしていたのだろうか。
「なるほどのぅ。船の上から森の中へか……それは確かに変じゃの」
数分後。オーキド博士にこれまでの経緯を事細かく(覚えている範囲で)話した。話している最中は全く表情を変化させないので、ナナカマド博士とある意味違った怖さがあった。ナナカマド博士は普段から目つきが悪いので、怒っていなくても起こっているように見えてしまう時がある。
(博士って似たり寄ったりなのかな)
そんな考えが浮かんだ。もちろん口に出したりはしない。
「何を考えておるんじゃ?」
「いいえ、何も!」
話を聞き終えた博士は疑るような目で見てきたのでとっさに誤魔化した。幸いばれてはいないようだ。
「それで、お前さんはわしにこの話をして何をして欲しいんじゃ?」
ため息とともに改まって聞いてきた。まあ今までのことを話しただけであってこれからのことを話したわけではない。もっと言えば、博士に話す必要はない。
しかし、ヒカルにとっては博士に知ってもらいたかったのだ。
何せ今は、家族と離れ離れになってしまい、手掛かりが一つもないのだから。
「これから、父と母、それともう一匹の仲間を探しに行きたいんです。でも、今の状況じゃ俺一人で出来ることなんて限られてるから、博士にも手伝ってもらいたいんです」
だから、ヒカルは正直に言った。
偽る必要はないと思った。ヒカルの本心を、博士に分かってもらうのだ。
やがて、
「いいだろう。ここ最近は物騒なことが続いておるが、お前さんとそのポケモンとなら大丈夫じゃろう」
オーキド博士の口から出てきた言葉はそれだった。
「あ、ありがとうございます!」
「うむ、ならこれを渡しておこうか」
そういって差し出してきたのは、小さな赤い箱。
「これって…ポケモン図鑑?」
「そうじゃ。まあこれは一個盗ま、あいや、新しく作ったものじゃ。これからの旅にきっと役立つじゃろう」
「博士……」
思わずその度を越したといってもよいほどの優しさに目が潤んだ。少し瞬かせていると、博士の視線がさっきから一点を集中していることにようやく気付いた。
「はかせ?」
「ん? 何じゃ」
「こいつのこと気になりますか?」
「んグんっ! まあ、本物を見たことはないしのぉ」
やっぱりライのことが気になっていたらしい。
「少しぐらいなら観察しても大丈夫ですよ。ライも慣れてますし。…その代わり、それを」
「おお! そうか! では見させてもらう分も兼ねてじゃ。うけとれぃ!」
こうしてヒカルは、《四人目の図鑑所有者》となった。
***
「改めてみると、大きいな…」
オーキド博士より図鑑を受け取った数時間後。博士の観察タイムからようやく解放されたライと横に並んで立ち、トキワの森を見つめていた。
海水でずぶ濡れになっていた服はすっかり乾き、首には出てくる前に買った二つのスカーフの片方ーーー黄色のスカーフを巻いていた。
ちなみにもう片方は、助けてくれた人に対する"お礼"ということでオーキド博士に託してある。
その博士の話によると、すでにマサラタウンのトレーナーがポケモン図鑑を受け取り旅に出ているらしい。それならば、何かしらの情報を持っているはずだ。
そのトレーナーに会って話を聞くことを第一目標として、再び広大な大地へと歩を進めた。
あまり話が進みませんでした。申し訳ありません。
もうちょっといくはずだったんだけどなあ…。
ヒカル君は図鑑所有者になりました。
図鑑所有者になってみたい。
さて,原作だと赤・緑です。御三家はもちろん出ます。ピカチュウは出ません。ライがいるので。
次回辺りに出せると思うのでお待ちください。レッドたちはもう少し後になると思います。
では。
追記:今後の活動について報告を書きます。