やったことないんで分かりませんが…。
「ルドラ、かえんほうしゃ!」
もう少しで陽が真上に昇る頃、ヒカルは額に浮かんだ汗を拭いながら目の前の戦いに集中した。
その目線の先で、青白い炎を揺らめかせるヒトカゲがヒカルの指示を聞き炎を吐き出した。
ヒカルは今バトルをしている。
ニビシティでヒトカゲもとい《ルドラ》をゲットした後、オツキミ山を目指して出発した。その後何度か今と同じようにポケモンバトルを挑まれ、ことごとく返り討ちにしている。
そして今。短パン小僧の手持ちであるニドラン♂を相手に、ルドラと共に一歩も引かない戦いを繰り広げていた。
「ニドラン、かわせ!」
「逃がすな!」
短パン小僧の指示を受け、ニドラン♂は右に大きくジャンプする。が、それを予測したルドラの炎が着地したその場所を狙い撃つ。高温のかえんほうしゃをまともに食らったニドラン♂は、その場で立ち上がろうとしたがそのままダウン。勝負は決着がついた。
「ニドラン……よくやったな、戻ってくれ」
「なかなかいい動きしてたよ、君のニドラン」
バトルで体力を消耗したニドラン♂をねぎらいながらボールに戻し立ち上がった彼に声をかけた。
「それより、君のヒトカゲの方がすごいよ。さっきのかえんほうしゃも。良く育てられてるね」
「まあ、な」
彼の正直な感想に、多少のつまりを見せながら返した。
元々ルドラにはトレーナーがいたのでもとより十分強かった。そこにヒカルという“友達”の実力が合わさり、今のルドラはそこらのポケモンより遥かに強力なポケモンとなっていた。
勿論そんなことを目の前の少年は知らないし、ヒカルも話す気はない。
またバトルしてくれよ、などというありきたりな会話を交わしたのち、ヒカルは再びオツキミ山に向かって歩き出していた。
先ほどバトルをしたルドラはボールにしまっているが、ライとアートは出しっぱなしだ。
理由は勿論、ルドラにはさっきのバトルで消耗した体力を回復してもらうためだ。
ヒカル自身はバトルをしていないときは基本ボールの外に出しておきたかった。まだ仲間になりたてのルドラを早く二人と馴染ませたかったからであるが、これが意外と苦戦している。
ルドラはヒカルには心を開いている、らしい。
バトルの際にきちんと指示を聞いてくれるのはそう思ってくれているからだと信じている。のだが。
(どうして二人には馴染んでくれないんだろう?アートのことを気にしていたことがあったし、きっとすぐに心を開いてくれると思ったんだけどなぁ)
そう。ルドラがライとアートにあまり友好的な態度を示さないのだ。
これがまた理由が分からない。つっけんどんに対抗するようなことはしてないが、一定の距離を置いて接しているような気がする。
ライたちも少しずつ仲良くなろうとアプローチをかけているようだが、結果はいまだ出ていない。
ヒカルはトレーナーであるが、ポケモンではない。よってポケモンたちがどんな会話をしているのかも分からないし,どんなことを思っているかも分からない。
トレーナーとして出来ることは、見守ることのみ。
そう割り切っているが、やっぱり何とかしたいと思ってしまうのは,ヒカルの持つ優しさ故である。
陽がちょうど真上に昇り切った頃、延々と悩みながら歩いていたヒカルはトンネル近くのポケモンセンターに辿り着いた。
***
(………物足りない)
山籠もりして二週間。毎日を修行に費やしているが、それでも実力が付かないと思う。
あの日、赤い帽子を被ったあの少年と戦って以来、こうして山に籠っている。
それでも、足りない。
小さく息を吐き頭を振る。乱れた集中を整えるため、そのトレーナー――――ニビジムのジムリーダー・タケシは胡坐をかき瞑想を始めた。
タケシが山籠もりを始めたのは、もっと力をつけるためだ。
二週間前にジムに挑んできた、赤い帽子を被ったあの威勢のいい少年。
自慢のイワークを前に少年はなんとピカチュウで挑んできた。
イワークとピカチュウの相性は最悪。それなのに、タケシは負けた。通じるはずがないと思っていた電気技をもろに食らい、イワークは粉々に砕けた。
そして、実力不足を思い知った。
タケシは、そのピカチュウが捕まえたばかりで言うことを聞かないポケモンだということを勿論知らない。しかし、そのピカチュウは力量が野生のそれとは比べ物にならないほど高かった。そしてそれがタケシを上回っていたのだ。その事実だけが残り、タケシは今以上に強くなることを決めた。
そしてニビシティからほど近い、この山に修行をしにやってきた。
のだが。
そもそもここに住むポケモンたちはレベルが低い。それは知っているが、とある事情によりあまり遠出が出来ないタケシは、ここに来るしかなかった。結果、想像以上に伸び悩んでいる。
たまに通りかかるトレーナーにバトルを挑もうにも、大概はジムリーダーである彼の方が勝ってしまう。もしくは、逃げ出されてしまう。
これでは修業が続けられない。タケシはある種、危機に瀕していた。
そんなとき、彼は救いに出会う。
「思ってたより明るいんだな……これならルドラ出してる意味ないかな」
ヒカルはオツキミ山を突き抜ける洞窟を通っていた。ここを通り隣町のハナダシティに向かうためである。
ルドラをゲットした次の日、前日の夜に迷惑をかけてしまった店やトレーナーに謝罪をしながら,それとなく情報収集をしていた。話題は勿論,《図鑑所有者》について。
そして、暴れ者のピカチュウを捕まえた少年がそれを持っていた、と。
その情報をくれた八百屋の店主に話を聞いてみると、その少年はこの町のジムに挑んだ後、ハナダシティに向かって旅だったと教えてくれた。この町にいないのなら滞在する必要もない。ヒカルはその日旅の準備を整え、今日ハナダに向けて出発した。
正直、ジムに行ってみたいという衝動が沸き上がったが、ジムリーダーが不在だという情報を得たため諦めた。
ヒカルにとって実力をつけるのも、この旅の目的の一つだと思っている。行方不明の両親を探すのだ。きっと危険なところにもいくことになるだろうと考えている。
本心では、そんなことを望んでいない。それを認めるということは、両親が危険なことになっているということを認めるも同然だからだ。
―――――早く会いたい。
そんなことをふと考えたとき。
「そこの君、トレーナーかい?」
頭の上からそんな声が聞こえてきた。立ち止まりその場を見回すが声の主を見つけられない。
「右だ」
また聞こえてきた声に従い右を向くと、仄かに浮き出たシルエットが視認できた。シルエットは立っていた岩の上から飛び降りヒカルに向かって歩き出す。
やがてルドラの尻尾の明かりに照らされてようやく顔がはっきりと見えた。
「目、細いですね」
「いきなりそれか…」
まるで閉じてるのではないかと疑うほど細い。しかしちゃんと見えているらしく、更には言われ慣れているようでそれ以上はツッコんでこなかった。
「ところで君、トレーナーだよね」
「ええ、そうですけど」
「………君、俺のことを知らないのかい?」
「???」
いきなり自分は有名人ですとか言い出したのだろうか。ヒカルの中で警戒レベルが少し上がる。
「警戒しないでくれよ…。俺はタケシ。ニビジムのタケシだ」
少し傷付いた様子の男はそう言って自己紹介した。
「ってジムリーダー!?」
「俺はそんなつっこみ役じゃないんだけどな…」
「ああはい、すみません取り乱しました」
「ほんとに俺つっこみ役にならないとダメか?」
自己紹介しただけでこれだけ色々かましてくれる人は中々いないだろう。
これと似たようなやり取りがあったような気がして軽く脳内を探ってみたが、合致しなかったので無視する。
「というか自己紹介ですよね。俺はヒカルです、よろしくお願いします、タケシさん」
「いや、敬語はもういいよ。あと“タケシ”でいい。……それでなんだが、ヒカル、俺と勝負してくれないか?」
「え、ここジムじゃないですし、っていうかジム外でジムリーダーとバトルって」
ヒカルが心配するのはもっともだ。だが、
「大丈夫だ。やって欲しいのは公式戦じゃなくてただの野良バトルさ。勿論バッジはあげられないけどね」
「……なるほど。分かりました」
数舜迷った後、ヒカルは肯定の意を示した。それを見たタケシは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ありがとう!じゃあさっそく始めようか。使用ポケモンは一匹ずつだ、いいかい?」
「ええ、それじゃあ…!」
双方すぐさま距離を取り、タケシはボールを構えた。ヒカルはその場にいたポケモンに目配せする。
「行け、ルドラ!」
「行くぞ、イワーク!」
タケシの放ったボールから飛び出したのは、
(何だ、あのイワーク…体が少し変なような…)
ヒカルの考えの通り、イワークはそれと知られている容姿とは違い歪な形をしていた。大きさも少し小さめでところどころにヒビも見える。
「君からどうぞ!」
「っ、余計なこと考えてる場合じゃないか。ルドラ‘かえんほうしゃ’!!」
灼熱の炎がイワークを襲う。効果はいまひとつであるが、実力がケタ違いなルドラのかえんほうしゃはイワークに確実にダメージを与えていた。だがそれでもやはり岩タイプ、かなり頑丈ならしくすぐに倒れる様子はない。
次にタケシが動く。
「‘たいあたり’」
「っ、かわせ!」
炎を蹴散らしながら突進してくるイワークを紙一重で避ける。体当たりとは言えないレベルのタックルが、ぶつかった地面にクレータを作る。その威力にヒカルは思わず冷や汗をかいた。
次なる手を考える前にイワークはどんどん迫りくる。
「右に避けて‘ひっかく’!」
「迎え撃て!」
ジャンプしたルドラと向き直ったイワークが正面からぶつかり合い、―――――パワー負けしたのはルドラ。
「ルドラ!」
「‘すてみタックル’!」
回避不能な姿勢のルドラにより強力な攻撃が迫る。
(どうしたらいい――――っ!!?)
とっさの判断も浮かばす、ヒカルの頭が真っ白になる。
迫りくるイワークとルドラを見つめ、ヒカルは何も発しなかった。
ただ、体は真っ直ぐルドラへと向かって走っていた。
(!!?)
タケシが驚愕の表情を見せたその瞬間、“岩肌”にぶつかりイワークの周囲に煙が巻き上がり、“ヒカルに抱きかかえられた”ルドラも同じような表情をしていた。
「……大丈夫か?」
ヒカルの足には切り傷が出来ており、少量ながらも血が出ている。それでも、自分のことよりルドラのことが心配だった。幸いけがはどこにもない。ルドラが心配そうにこちらを見つめ返していた。
「お前もそんな顔が出来るんだな……なら、あいつらともすぐ仲良くできそうだな…」
ルドラが本気で心配していることをよそに自分の気持ちを正直に呟いてしまった。
それを聞いて、ルドラはバトル最中ながら呆れ返り,トレーナーの肩に軽く噛みついた。
「いででででっ!?ちょ、ルドラ今やめっ!?」
そんな傍から見れば微笑ましいような光景を見ながら、なおタケシの顔は驚きを隠していなかった。
(似ている、あの少年と)
あの時も、イワークのすてみタックルを受けそうになったピカチュウをかばい、イワークの眼前に飛び出した。そして、バトル最中ながらも話をし出し、挙句負けた。
(似ている、あのときと)
タケシの中で、あの少年と目の前の少年が重なった。
そして同時に思う。
この少年も、きっと、希望なのだと。
***
「すみません、バトルの最中だったのに」
「いいや、俺にとってもいい経験になった。――――ヒカル、君にこれを」
そう言って差し出されたのは、ジムリーダーに認められた証。
「これは…」
「《グレーバッジ》。君に受け取って欲しい」
「でも、公式戦じゃないからバッジは…それにあのバトルは俺たちが負けてたし」
ヒカルの言葉を遮るようにタケシは首を振った。
「あのバトルで大事なことに気付くことが出来たんだ。これはそのお礼。それに,君には実力が十分備わっている。気付いてないかもしれないけど、最初の"かえんほうしゃ"、結構効いてたんだ」
「え…ほんとですか」
まさかと思ったが、タケシの方は過大評価しているわけではないらしく頷き返してきた。
自分の育てたポケモンがジムリーダーに褒められたことに素直に嬉しく思う。その功績を作ったルドラを見下ろすと、わずかに胸を張っているのが分かった。
「…よくやってくれたよ、ありがとう」
そう言ってルドラの頭を撫でる。
手を放したところにすかさずジムバッジが置かれ驚くが、してやったりの顔をするタケシに、仕方なく苦笑いを返した。掌に乗ったジムバッジは、その大きさからはかけ離れた重みを感じ、ヒカルはしっかりとその感触を握りしめた。
そしてもう一度ルドラに褒め言葉をかけようかと下を向いて。
変化が訪れる。
「これは…!」
ルドラの体が震え出したと同時に光り出し、ひときわ大きな輝きを生んだ後その変化を露わにした。
体格がより逞しくなり、身長が伸び、目つきがより鋭くなったその姿。
つまりは進化。
「《リザード》に進化、おめでとう」
「…ありがとう、タケシ」
ルドラも少し野太くなった声で返事をした。よくよく見ると、青白かった尻尾の炎がより青くなっている。これも進化の影響なのだろうか。
そんなことをふと考えたとき。
「……これからきっと、激しい戦いが待ってる」
タケシがぽつりと呟いた。
思わず顔を上げタケシを見やる。タケシもヒカルを真っ直ぐに見据え、更に言葉を紡ぐ。
「ヒトカゲの進化は、きっとヒカルを更に強くしてくれるはずだ。――――だから、君に会ってほしい奴らがいる。俺と同じ、《正義のジムリーダー》に」
はい、長くなりました。
どうしても、正義のジムリーダーさんたちに会ってほしいんです。
そのため,タケシのキャラが多分ぶれました。すみません。
ルドラの進化はこのタイミングで大丈夫だと信じてます。
ゲームでも育てる人によってはもう進化してるかもしれませんが。