さて、前回ちょこっと出てきたギャラドスさんは、一体どんなギャラドスさんでしょうか?
「ゴアァァァァアアッ!!」
「ギャラドス!?」
ヒカルはただ驚く。
コイキングから進化するギャラドスは研究対象となりやすく、進化を調べるナナカマド博士も一時期研究していた。よって、ヒカルも触れあったことがあるポケモンだ。
ただそれは、バトルのために鍛えられたポケモンではない。
「このコはね、色々あってわたしの元を一時離れていたの。その時とっても強くなったんだけど…さらに磨きをかけたわ。さあ、どう戦うのかしら?」
図鑑などで見たり、テレビで放映されたりするギャラドスは、基本気性が荒い。甘えたいが故の荒さというのも聞いたことがあるが、これはまた別種だ。
そんなこととは比べてはいけない。
戦闘に対する気迫、などではなく。
―――その奥に秘められた真っ黒な《何か》が、
(このギャラドスはまずい…!)
ヒカルの中で警鐘が鳴る。
しかし、始まったバトルはもう止められない。
カスミのボールから飛び出した脅威が、フィールドを支配するまで、あと数十秒。
「っああ!!?」
ヒカルとライに何度目かの激流が襲い来る。既に弱り切ってしまったライにかわすことは出来ず直撃を受けてしまう。
もう立っているのもやっとだったのだろう、遂にライがその場に崩れた。
「ありがとう、ライ。よくやってくれた」
ボールに仕舞いながら誠意を込めて感謝を伝える。前のスターミー戦のダメージが残っていたにも関わらず、ここまで戦い抜いてくれたのだ。
ここでヒカルが折れることは出来ない。
だが、現実はそうはいかない。
「さて、次はどんなコが出てきてくれるのかしら?」
「くっ…!」
ギャラドスを従えたままカスミは余裕の表情を見せる。当然だ、ライがまともに攻撃を当てられたのは一回もない。わずかに掠るだけで、向こうの攻撃はことごとくヒットするのだ。
《蹂躙》という言葉がここまで似合う戦闘はないだろう。
ギャラドス自体のレベルが高いのはよく分かったのだが、いかんせん攻撃が当たらない。隙を見つけるにも相手の攻撃を受けることは必至だ。
(どうしたらいい…! どうしたら相手の懐に飛び込める!? あの攻撃をかわしながらどうやって…!?)
ヒカルの中で焦りが渦を巻く。
じりじりと迫りくる恐怖がさらに恐怖を駆り立てる。
頭の中が真っ白になりそうになる。
(どうする……どうする……!)
ぐるぐると頭の中で渦を巻き――――
カタリ、と腰ベルトから音がした。
無意識のうちに音の発生源を掴み、眼前まで持ってきて、
「――――!!」
一つの作戦を思いつく。
(思い当たったら即実行!!)
勢いよく立ち上がってボールを構えたヒカルの目にはもう恐怖はなかった。
あのギャラドスに対抗するために、自ら立候補したポケモンの名を叫ぶ。
「頼むぜ―――《ロンド》!!」
***
「ヒトデマン…あんたも持ってたのね。というかかなり大きいわね」
「ええ、でかすぎます。でも、こいつであなたたちを倒します!!」
「言い切ったわね。本当にそれが出来るかしら? ――――わたしのギャラちゃん相手に」
カスミの言葉に合わせるようにギャラドスが前に出る。しかしロンドもまた前へと出る。臆することないその姿に、ヒカルも背中を押された気分になった。ますます負けないという気が強くなる。
数瞬の後、
「ギャラちゃん、“ハイドロポンプ”」
素早い技の発動によりあっという間に目の前まで水流が迫りくる。
それに対してヒカルは、真っ向から迎え撃つ。
「ロンド、“かたくなる”」
きらりとコアが光った後、ロンドの全身が硬化した。
防御を上げたその全身で“ハイドロポンプ”を真正面から受け―――平然としていた。
「うそぉ!?」
これにはカスミも仰天した。
カスミの手持ちの中で最強と言ってもいいほどの実力を有したギャラドスの“ハイドロポンプ”は、まともに食らえばかなりのダメージとなる。防御しても体力は削られるはず、なのだが。
どう見てもあのヒトデマンには効いてない。
いくらタイプによる威力の減少があったとしても、さすがにこれは‘あり得ない’。
「でも‘あり得る’んだ。このロンドなら!」
「くっ! ギャラちゃん、ストップ!」
カスミは威力任せの攻撃を諦め、戦略を練って倒すために次なる手を考える。
しかしヒカルはそれを既に終えている。
「“ハイドロポンプ”が切れた! 今だ、ロンド!!」
一瞬の隙を見せた、それを逃すわけにはいかない。
力を溜めたロンドは猛スピードで回転を始め、ギャラドス目掛けて突撃した。
「“すてみタックル”!」
どっ、と鈍い音を立てて、ロンドの攻撃が命中した。直撃を受けたギャラドスが苦しそうに呻き声をあげる。
「耐えてギャラちゃん、“かみつく”のよ!」
「“かたくなる”」
ギャラドスは暫しもがいた後、身体にめり込んだままのロンドを放り上げかみついた。しかし、二度の“かたくなる”で防御がさらに上がり、攻撃をしたギャラドスが逆に顔を歪める。
「“かたくなる”は単なる防御技じゃない。使い方によっては立派な攻撃技さ。それに、また密接してくれたね」
「何を…!」
「とっておきを見せるよ! ロンド!」
未だ噛みつかれたままで平然としているロンドは、コアを勢いよく光らせた。それはまるで“フラッシュ”のように視界を染め、隙を強制的に作り出す。
僅かに喰いつく歯が緩んだとき、
「10万ボルトォ!!」
水タイプから放たれた電撃は、効果が抜群であるギャラドスをあっという間に包み、爆発した。
「電気技が使えるなんてっ…!」
「ここに来る前に偶然拾った技マシンで覚えさせたんだけど、早速役に立ったぜ…! てか見えねぇ!」
爆発は未だ続いている。巻き上がった煙のせいで、ヒカルはポケモンたちがどこにいるか分からない。
しかし、カスミは攻撃を仕掛けた。
「終わりね―――“はかいこうせん”!!」
指示を受けたギャラドスは、その口にエネルギーを溜め、放った。
その光線は煙の中を突き抜け、命中し、ロンドをヒカルの前まで吹き飛ばした。
「ロンド!!」
ヒカルは叫びながら駆け寄る。ロンドはまだ動けるとコアを光らせるが、明らかにダメージが大きい。“ハイドロポンプ”より強力である“はかいこうせん”をまともに食らってしまったのだ。ライたちなら一発で戦闘不能だが、それに耐えているのはロンドの防御力の高さ故である。
だが無理はさせられない。
ゼロ距離からの10万ボルトを受けて尚あれほどの攻撃を放ってきたのだ。
いくらかダメージは与えているはずだが、あれは異常だろう。
「ヒトデマンやスターミーってのはね、コアの僅かな点滅で居場所を知らせることが出来るのよ」
煙の向こうから聞こえてきたカスミの声。それはスターミーのトレーナーだからこそ出来る戦術。
あの煙の中で光を見つけることはヒカルには出来なかった。それは単にヒカルの実力不足もあるだろうが、ヒトデマンとの触れ合いが短いことも関係している。
ヒカルは小さく歯を食いしばった。
気付けなかったことに、自らを責めるように。
やがて、煙が晴れる。
ギャラドスは確かにダメージを負っていた。
しかしそれに耐えながら、まだ戦意を剥き出しにしている。
(どんだけタフなんだ…)
ヒカルは驚くが、絶望はしない。
ただ勝つために次の戦術を考える。
「……正直、これほどやってくれるとは思ってなかったわ。ギャラちゃんの“はかいこうせん”を受けてもまだ立ってられるなんて、よく育てられているわね」
「正確に言えば、今日ゲットしたばっかりなんだけど」
ヒカルが何気なく付け足した言葉にカスミは再び驚く。
「それでそこまで指示を聞いてくれるなんて、あんた、ポケモンたちによっぽど好かれてんのね」
「……そうだといいな」
「ええ、羨ましいくらいに」
「……でも、カスミも十分凄いと思う。ポケモンたちのことをしっかり理解して、戦術を立てて…ジムリーダーって本当に凄い」
バトル中に交わされる、本音をさらけ出した会話。
互いにポケモンを想う気持ちは同じ。
そんなヒカルが放つ言葉に、カスミは確かなものを見つけた。
(なるほど…これがタケシの言ってた《ヒカル》か)
数時間前に届いた連絡。久しぶりに言葉を交わした同僚の声は、何だか弾んでいた。
(全力で戦ってみて、ちゃんと分かった。タケシが思うのも分かる)
カスミはこのバトルの中で、微かに《彼》のことを重ねていた。
(あいつに………《レッド》に似てる)
ポケモンたちを大切に想い、ポケモンたちの潜在的な力を引き出す能力の高さ。
これなら、あの役を任せられるかもしれない。
カスミは言葉を交わしながらそう確信した。
「そろそろ、決着をつけましょう」
「そうだね。―――次の一撃で、決める」
楽しげに話していた二人は、そのままの状態で攻撃に移る。
ポケモンたちもそれに合わせて構えを取る。
「“はかいこうせん”!!」
「“10万ボルト”!!」
二体のポケモンが同時に放った技は、暫く拮抗したかと思えたが、やがて片方の勢いが衰え、‘ギャラドスの身体’が電撃に包まれた。
「ギャラちゃん!!」
カスミの叫びも虚しく、青い竜はその場に倒れた。
「はぁっ…はぁっ…! 勝った…!」
肩を大きく上下させながら笑みを浮かべる。
ぽてりと倒れたロンドを抱え上げ、ねぎらってからボールへと戻す。
「…っはあ~! 長かった…」
二対二というのはこんなに疲れるバトルだとは思わなかった。というか聞いていたものより激しすぎた。
因みにそれは二人のトレーナーの実力が高かったせいであるが、ヒカルにそれは分からない。
「確かに、普段やる二対二より時間かかったわね…。さすがに疲れた…」
見るとカスミもお疲れのようだ。ジムリーダーと言えただの人間である。これほどの激戦を終えて疲れないほどあほではない。
「まあ、休む前にやることはやらないと……ヒカル」
「はい…」
「しゃきっとなさい、ほらこれ、《ブルーバッジ》よ。このジムに勝った証」
ホラ、と無理矢理手に握らされたものは、涙滴型の綺麗なバッジ。
タケシから貰ったグレーバッジとはまた違った感慨があり、思わず「ほお…」と声が出た。
「綺麗でしょ?」
「うん、とっても綺麗だよ」
「…ストレートねあんた…」
「ん、何が?」
「これも聞いてたとおりね…天然なの?」
何故かカスミが呆れている。しかしヒカルには意味がイマイチ分からず首をかしげるだけだった。
***
試合が終わり、カスミの呆れ顔が元に戻ってから。
ヒカルはカスミに事の真実を聞いていた。
「じゃあ、俺のことを試すためにわざと公式戦ルールを替えて挑んだってこと?」
「そう言うこと。タケシに聞いただけじゃ分からないことだもの、実力っていうのは」
「…まあそうだね。そう、うん」
「意外と素直なのね……あなたの性格って一体何? 統一されてる?」
「だからそれって何?」
オツキミ山でタケシから頼まれ、カスミから詳しく説明を受けた、とある事柄。
それは、カントー地方に暗躍する組織《ロケット団》の捕縛と解体。
タケシにバトルの腕とポケモン愛を見込まれ、その協力を頼まれたのだ。
カスミから聞けば、そのロケット団はもうすぐ大きな戦いを始めるかもしれないらしい。そうなれば周辺の町のみならず、カントー全体に影響が及んでしまうかもしれない。
それは何としても避けなければならない。
だからこそ、戦力が欲しい。
そうして白羽の矢が立てられた。
しかし、こんなことは簡単にイエスと答えられるものではない。
下手をすれば命にかかわるような戦いに赴かねばならないのだ。それにヒカルには、両親を探すという重要な目的がある。それを後回しにして最悪の結果が招かれる、なんてのは御免だ。
だがポケモンたちを道具としかとらえないロケット団のやり方に敵意を持っているのもまた事実。
『決して一人で挑んではならん』
オーキド博士の言葉が脳裏で蘇る。
『仲間をもっと増やすんじゃ。たくさんの仲間とともに―――』
数時間前に聞いたその言葉は、まさしくこのことを指していたのではないか。
ジムリーダーという《仲間》と共に、新しく加わったポケモンたちと共に、悪を討つ。
そしてそれが、もうすぐ起こってしまうというのなら。
「――――戦い、か…」
ヒカルの目にはいつも意志が宿っている。
しかし、今はいつものそれとは違う。
「カスミ」
目の前で答えを待っている仲間に対して、
「俺は、ロケット団と戦うよ」
確固たる《戦う意志》を宿して、そう宣言した。
「わたしとタケシはOKしたけど、最後の一人のエリカがなんて言うか分からないわ。だから、タマムシに向かって。エリカにはわたしから話しておくから、きっとすぐに会わせてくれると思うわ」
先の試合で傷付いたポケモンたちを癒すため、二人してポケモンセンターに向かう道すがら。
カスミはそう切り出て、更に言葉を続ける。
「取り巻きの人たちが頑なに突っぱねても…たぶん大丈夫だと思う」
「取り巻き?」
「ごめん失言だったわ」
「あ、そなの」
カスミが失言するほどだから相当だろうなぁ、などと考えてしまう。
エリカというジムリーダーの話は聞いたことがある。名家のお嬢様であり、バトルの腕も一流。さらには容姿端麗、という言葉も付いていた。ヒカルはそっちのことには疎く、あまりよく分からなかったのだが。
「でもごめん、先に行くところがあるんだ」
「え?」
ヒカルの言葉にカスミは思わず聞き返す。
「行くところって…」
「…どうしても確認したいことがあるんだ。実際に見てみないと、分からないことを」
ヒカルのその言葉に思わずどきりとした。
ジムの中で見せた真っ直ぐな目ではなく、縋るような、いや―――悲しい目に。
それはタケシも見たことがなかったものであるが、カスミにその心中を察することは出来ない。
よって引き留めることも出来なかった。
そんなカスミの中の疑問に気付くことなく、ヒカルは次なる目的のために行動する。
(ライたちを回復させたら、すぐに向かわなきゃ。―――父さんと母さんを探すために)
目指す町は、クチバシティ。カントー最大の港町。
そして彼は、運命に出遭う。
回答と行きましょう。
あのギャラドスは、レッドが捕まえて、カスミが暫く育てて、そして後に《ギャラ》と呼ばれるレッドのポケモンです。
って分かる人は分かりますよね、ハイ。
一応これも伏線のつもり…です。
レッドのところに行く前にトレーニングを重ねたギャラちゃんは、実はヒカル君と戦っていたのです!
そのギャラちゃんがどんな活躍をするのかは、原作読んでれば一目瞭然ですので書きません。
てかギャラドス動かしにくい!!
カスミさんごめん女の子としてあんまり書けなかった!
それもこれもヒカル君のせいです。きっと。