砲雷長と神盾   作:みたらし饅頭

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第二隻「殺られる前に」

艦橋は緊張した空気に包まれていた。

中でも緊張感が強いのは艦橋内で指揮を執っている菊川だろう。

救命胴衣には「砲雷長」と、艦橋には不釣り合いな職名が書かれているが関係ない。

彼の眼は真剣そのものだった。

菊川は躱した魚雷の距離を計測するとCICへ連絡を入れる。

 

「砲雷士、主砲攻撃用意。目標、敵潜水艦魚雷。」

『了解!CIC指示の目標、主砲撃ちぃ方ぁ始め!!』

 

菊川がCICへ伝えると、127㎜砲弾が「かこ」の主砲からすさまじい爆音とともに撃ち出される。

撃ちだされた砲弾はまっすぐ航行中の魚雷に着弾し誘爆を引き起こすと、水柱を上げて爆発した。

それは実弾の魚雷であることを示しており、菊川と、かこは息を呑んだ。

冷や汗を掻くかこは菊川に尋ねた。

 

「砲雷長・・・あれがもし『私』に当たったら・・・・。」

「木っ端微塵だ。機関室や弾薬庫に当たれば目も当てられないだろうな。」

「だよなぁ・・・・。」

 

案の定の答えに、かこはため息をつく。

だが菊川はそんなかこに構う暇もなく海図に目を落としていた。

定規で線を引いているとCICから報告が来た。

 

『艦橋、CIC!砲雷長、潜水艦雷撃!距離3000!』

「回避行動時の衝撃に備えろ!」

『了解しました!』

 

艦内電話を切ると菊川は深めに識別帽を被る。

相手が此方に雷撃してきたのは明らかな戦闘行為。

攻撃して来れば対処しなければならない。

覚悟を決めた菊川は指示を下す。

 

「かこ!取り舵一杯!回避行動を!」

「了解!取り舵一杯!!」

 

自身の体でもある艦をかこは念じるようにして動かす。

艦は右へと傾きながらも進路を変えて魚雷の射線から逃れる。

潜水艦の放った魚雷は空しく外れ、離れた地点まで航行する。

それを見た菊川はCICへ連絡した。

 

「CIC!魚雷に向けて主砲発砲!」

『主砲撃ちぃ方ぁ始め!!』

 

再び127㎜主砲から砲弾が撃ち出され、魚雷は爆発する。

なぜ菊川がこの行動をとるかはその場所に理由があった。

現在、「かこ」が航行しているのは浦賀水道。

過去に衝突事故が多発するほど民間船が多く、沿岸には町がある。

そんな場所に魚雷を放棄すれば爆発した際の被害は甚大だろう。

菊川はそれを理解した上で破壊しているのだ。

だがそれに集中するあまり、菊川と砲雷士妖精は異変に気付いていなかった。

 

「や・・・殺られる・・・・。」

 

水雷長妖精が極度の緊張と本物の実弾が飛び交う「戦場」の抑圧に潰されていた。

全CIC妖精は潜水艦に集中しているため、大量の汗をかきながら過呼吸になる水雷長妖精には誰も気づかない。

そしてついに水雷長妖精はとんでもない行動に走り始めた。

 

「方位145度・・・距離3000・・・深度10・・・・前甲板VLS、アスロック対潜ミサイルへの諸元入力完了・・・・。」

 

砲雷長兼艦長の菊川の指示もなしに前甲板に装備されているMk41VLSに格納されているアスロック対潜ミサイルへ諸元を入力し敵潜水艦へ攻撃を行おうとしていたのだ。

諸元を入力し終えた水雷長妖精は、発射スイッチのカバーを開ける。

それ同時にCIC内の各戦闘装備が示された図の前甲板VLSのライトが点灯する。

 

「そんなに・・・・僕たちの・・力が・・・見たいのか?・・・・攻撃してくる・・・お、お前らが・・・悪いんだぞ!」

 

水雷長妖精は発射スイッチに指を乗せた。

 

「殺って・・・・・やる!殺られる、前に!!」

 

水雷長妖精がスイッチを押すと振動と重厚な音、そして噴煙を上げながら、VLSからアスロック対潜ミサイルが潜水艦の方向へと飛んでいく。

それが起こって菊川や砲雷士妖精達は始めて水雷長妖精のしでかしたことに気づいた。

 

「砲雷長!前甲板VLSからアスロックが発射された!潜水艦に吹かって飛翔中だ!!」

「そんなことは見ればわかる!CIC、艦橋!誰が撃てと言った!?現状を報告しろ!!!」

 

菊川が艦内電話越しに怒鳴り声をあげると慌てた様子で砲雷士妖精が出た。

 

『水雷長が独断で発射しました!』

「水雷長ォ!貴様ァ、一人で戦争をおっ始めるつもりか!!?」

『殺らなければ・・・・殺られます、砲雷長!』

「言い訳は聞いてない!砲雷士!そいつをCICから叩き出せ!!」

『はっ!』

「砲雷長!アスロックはどうすんだよ!?」

「こうなった以上は仕方ない。敵潜水艦100手前で自爆だ。」

「分かった!」

 

砲雷士妖精から事情を聞いた菊川は、水雷長妖精をたたき出すように言ったあと、アスロックをどうするか聞いて来たかこに対処を伝える。

そして航海長を呼びつけた。

 

「航海長!メインマストに自衛艦旗を掲げろ!」

「了解!自衛艦旗掲げ!!」

 

航海長妖精が指示を復唱すると、メインマストに自衛艦旗が翻る。

これは自衛艦旗を掲げた艦が武力を行使することを示す行為だった。

自衛隊法第九十五条では、自衛艦に攻撃してきたものに対して、武力で反撃する自衛権の行使が認められている。

その際にはメインマストに自衛艦旗を掲げることになっている。

独断とはいえ発射されたアスロックは武力の行使に当たる。

菊川はそれを踏まえて自衛艦旗を掲げたのだった。

 

「総員対潜戦闘用意!」

 

菊川の号令と共に全員が戦闘配置につく。

それとほぼ同時にCICから情報がもたらされる。

 

『CIC、艦橋!猿島の陰から艦隊が出現!駆逐三、軽巡三の水雷戦隊です!』

「スキャニング急げ!ソナー、潜水艦はどうなってる!?」

『アスロックを目撃したのか急速回頭中!』

「どんな些細な音も見逃すな!」

 

戦闘ということも相まって菊川はいつも以上に言葉を強めていた。

しかし、それが戦闘というものだろう。

戦後71年間、日本人が経験しなかった戦争を経験している菊川には想像を絶する負荷がかかっており、それが彼の言葉を強める原因となっていた。

菊川が海図と環境の外を交互に見て戦略を練っているとCICから報告が来る。

 

『スキャニング完了しました!先頭から順に川内型軽巡洋艦「神通」「川内」「那珂」、特型駆逐艦「吹雪」、白露型駆逐艦「夕立」、睦月型駆逐艦「睦月」!!』

「第三水雷戦隊か・・・・砲雷士!相手に警告文を打て!」

『了解!』

 

相手が第三水雷戦隊だと知ると菊川は不安の色を見せた。

いくら現代科学の結晶であるイージス艦でも単艦で突撃することなど想定してない。

だが「かこ」は違う。

「かこ」はあたご型をベースに、艦橋からヘリ甲板までを一枚張りにした上で、兵装追加も行っている。

あたご型にはヘリ格納庫上部にMk41VLSが配置されているが、「かこ」では更に挟み込む様にMk48VLSが24セルずつ配備されている。

そして、前部の64セルのMk41VLSにはアメリカの"トマホーク対艦ミサイル"を元に貫通力を高めて作成した「15式対艦誘導弾」と呼ばれる巡航ミサイルが14発と「SM-2"スタンダード対空ミサイル"」40発、「アスロック対潜ミサイル」が10発、ヘリ格納庫上部の32セルには「15式対艦誘導弾」が満載されている。

更に、ヘリ格納庫のMk48VLS内部にはESSMが格納されている。

その上、「ハープーン対艦ミサイル」8発に68式魚雷発射管が二基も搭載されている。

これだけを見れば圧倒的な戦力なのだが、唯一の弱点があった。

それは装甲だった。

「かこ」はイージス艦という特性上、ミサイルでの遠距離攻撃が前提で設計されている。

近距離での砲雷撃戦などは範疇外であった。

そのため、ここまで接近されると最悪の場合を考えなければならない上に、菊川は頑なにミサイルを使うことを避けようとした。

理由は二つあり、一つはミサイルの補充が効かないかもしれないこと。

主砲弾であれば補充や互換はあるだろうがミサイルはそうもいかない。

菊川は、湯水のごとく補給が出来るか不明のミサイル兵器を使うのだけは避けたかった。

二つ目は、現代兵器を使った際に相手側への被害だ。

もし駆逐や軽巡といった装甲が比較的薄い艦に15式対艦誘導弾を発射しようものなら轟沈は免れない。

自衛官として、菊川はそれも回避することを念頭に置いていた。

そのため、水上艦隊の出現は菊川にとって最悪のシナリオだったのだ。

 

「砲雷長・・・もういっそのこと白旗掲げた方がいいんじゃ?」

「ダメだ。この世界に自衛隊があるかも分からない上に、イージスシステム等の現代兵装をホイホイ渡すことはできない。今のアスロックもそうだが、俺たちはボタン一つでこの世界の進む進路を捻じ曲げ、個人の生命を奪うことができる武力を持っている。それを渡せるか?」

 

降参することを提案するかこに、菊川は彼女の目を見つめながら言った。

かこは溜息を着ながらあきらめた表情で口を開いた。

 

「・・・・砲雷長なら自沈までしそうだから怖いよ。」

「それも考えてある。」

「怖ッ!」

 

菊川のカミングアウトに、かこは冷や汗をかく。

事実、菊川は最悪の場合にヘリ格納庫のSH60Jと航空機用の燃料に着火することを考えていた。

ちょうど格納庫上部にはVLSがある為、爆発すれば被害は甚大だ。

それを考えてあるあたり菊川にも覚悟というものがあるのだろう。

 

「かこ、常に奥の手は隠しておくものだぞ?CIC、艦橋。警告に応じたか?」

『いえ、応答有りません。無線封鎖をしている模様。』

 

かこに当然だという顔で言った菊川はCICに連絡を入れる。

だが、水雷戦隊は無線封鎖をしていて警告文が届いていなかった。

そのことに菊川が唸っている所にCICから続報が入る。

 

『砲雷長!アスロック、目標まで100!』

「よし、自爆させろ!」

『了解!』

 

菊川が自爆命令を下すと、砲雷士が自爆スイッチを入れる。

それと同時に水しぶきが海面から上がった。

 

『でちぃぃぃ!!!』

「ぐわっ!?」

 

直後、女性の高い悲鳴がヘッドホンから流れて菊川や妖精たちの耳に損害を与えた。

キンキンと耳鳴りがする中、菊川はCICに問う。

 

「砲雷士、今のは何だ!?」

『潜水艦からの通信です!どうやら報告しようとした際にアスロックの衝撃を受けた模様!』

「よし、その潜水艦を伊号58潜水艦に登録しろ!他の僚艦は伊号潜水艦19、168、8、401、三式潜航輸送艇『まるゆ』、UボートIXC型『U511』、呂号潜水艦『呂500』のいずれかの可能性がある。今のうちに違いを分けておけ!」

『了解!』

 

今の声が「艦これ」に登場する伊号58潜水艦のものであると判断した菊川は、CICに僚艦と予測される潜水艦の名前を伝え、違いで選別するように指示する。

CICに通達した菊川はソナーに連絡を入れた。

 

「ソナー、何か聞こえるか?」

『圧縮空気排出音が聞こえます。急速浮上中!』

「わかった。かこ、ロクマルを偵察に向かわせろ。」

「ほいほい~。」

 

浮上してくる伊58の情報を収集すべく、かこにSH60Jを偵察に向かわせるように指示した菊川は右舷のウイングにいる航海科の妖精に声をかけた。

 

「ウイング、何か見えるか?」

「艦隊視認!距離45000!」

「他に何か見えるか?」

 

艦隊が視認できたのならかなりの情報が手に入る。

情報によっては菊川達を窮地へ追い込むこととなる。

そのため早期に判断するのがベストなのだ。

しかし、この場合はいい情報ではなかった。

 

「ッ!旗艦『神通』以下、全艦のメインマストに旭日旗が翻っています!!」

 

航海科の妖精から伝えられた情報に、菊川とかこは息を呑むしかなかった。

イージス艦初の砲雷撃戦の幕が切って落とされたのだから。




ここ最近いい感じに筆が進んで気分がいいです。
このまま多く書けるようになったらなぁ・・・。

次回「武鐘発動、対水上戦闘用意」
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