「かこ!主砲は!?」
「いつでも撃てる!どうするんだ砲雷長!」
「相手の動向を見る!それまでは発砲するな!」
「了解!」
菊川がかこに指示を下し、対処の準備が進められる。
近距離での砲雷撃戦など、現代艦が行う戦闘ではないのだが、そういっていられる状況ではないのは本人たちがよく分かってた。
だが、自衛隊である以上は攻撃ができない。
それを分かった上で、皆が戦闘の準備を進めていると、偵察のために発艦したSH60Jから報告が来る。
『こちらロクマル!伊58潜水艦を補足!通信アンテナや船体に亀裂有!戦闘は不能の模様!』
「了解。そのままソノブイを使って偵察を続けてくれ。これから水雷戦隊との砲雷撃戦の可能性がある。」
『どういうことですか!?我々はどうすれば!?』
「・・・・もし俺たちが沈めば適当な場所に着陸してロクマルを破壊だ。無責任なことを言うがな。」
『・・・いえ、この世界なら仕方ありません。本機は任務を全うします!』
「頼む。」
SH60Jの機長妖精との会話を終えた菊川は、マイクを元の場所に置くと艦橋の防風窓から見える黒煙を吐きながら進んでくる「神通」を眺める。
菊川は識別帽を被り直すと、声を張り上げた。
「総員、対水上警戒を維持。」
「・・・・・了解。」
菊川の言葉に応えるかこ。
いま、海上自衛隊は戦後初となる水上戦闘に参加し始めていた。
撃てば血を流し、海へと散る本物の戦闘。
それは彼らに変化を強要した。
「自衛隊」から「軍隊」への変貌を。
そして砲撃音と、発砲炎が「神通」から放たれた。
「『神通』発砲!続けて他の艦も発砲を開始してきます!」
「総員衝撃に備え!!」
ウイングで監視していた航海科妖精が叫ぶ。
直後、菊川が上げたの言葉通りに、皆が衝撃に備えた体勢をとる。
それと同時にいくつもの砲弾が「かこ」の周りに着弾し、爆発によって水しぶきを上げる。
それを見た妖精やかこ、菊川は悟った。
相手は自分たちを殺す気でいるということが。
だが、「神通」らが行ったことは逆に菊川に手段を与えることになった。
「1143、本艦に向けて砲撃を確認。現時刻をもって対抗艦隊を敵と判断する。各部レーダー、第三水雷戦隊を敵目標に指定。対水上戦闘!」
「対水上戦闘用意!主砲、15式対艦誘導弾、ハープーン、対水上戦闘用意よし!」
菊川とかこは流れるような運びで戦闘準備を整える。
自衛官、護衛艦として訓練を積んだ経験が生かされているのが分かる。
「左対水上戦闘。CIC指示の目標、トラックナンバー1968『神通』に向けて主砲、撃ちぃ方ぁ始めぇ!」
「撃ちぃ方ぁ始めぇ、発砲!」
かこの言葉と連動して主砲が「神通」の方を向く。
「神通」に向けられた127㎜単層速射砲は強烈な炸裂音とともに127㎜砲弾を放つ。
サイズこそ大戦時代の12.7㎝砲弾と同等ではあるが、そこは時代の差がある。
ほぼ完璧な射撃指揮装置と速射力によって雲低の差の戦闘が成り立つ。
砲弾は真っ直ぐ「神通」の一番砲塔へと吸い込まれる様に着弾、爆発した。
立て続けに行われる「かこ」の砲撃によって、「神通」は瞬く間に兵装をすべて破壊されてしまった。
「砲雷長!『神通』の無力化を確認!『川内』『夕立』が速力を上げて突っ込んでくる!」
「EA攻撃はじめ!続けてトラックナンバー1969、1971『川内』『夕立』に砲撃を慣行!」
「了解!EA攻撃開始!主砲、撃ちぃ方ぁ始めぇ、発砲!」
再び「かこ」の主砲から砲弾が飛翔して「川内」と「夕立」の兵装を吹き飛ばす。
だが、決して沈める手段はとらず、あくまで無力化を第一義に攻撃を行っていた。
しかし、全て「かこ」が優勢というわけではなかった。
順調に無力化を行っていた「かこ」に突然振動が襲い掛かる。
菊川やかこ、妖精たちは振動でふきとはされ、艦橋内の機器に叩き付けられる。
そのすぐ後に応急指揮所から被害が伝えられた。
『「夕立」主砲弾、後部CIWSに着弾!CIWS損失!』
「CIWSだけなら損失は軽い!撃ち続けろ!」
「了解!」
思わぬ着弾に戸惑う者が多かったが、菊川は戦闘を継続させることを命令する。
それにかこは従い、砲撃を続行する。
やがて、44発目の砲撃音が響き終わる頃には戦闘は集結していた。
「・・・・砲雷長、『神通』以下水雷戦隊、全艦の無力化を確認した。これからどうするんだ?」
「国際信号旗、O掲揚!立ち入り検査隊の装備で一番近い艦へ臨検を行う。」
「正気かよ!?いくらなんでも敵艦だぞ!?」
「かこ、俺は自衛官だ。攻撃した者とはいえ、負傷者の確認と収容を行う。以降の管内の指揮権はかこに委託。航海長、内火艇の準備を。」
「了解。」
菊川の言葉に、かこは正気を疑った。
あろうことか、救助活動中
それでも菊川は考えを改めず、立ち入り検査隊の装備を取りに、艦橋を後にした。
その後、菊川が装備を整えて内火艇の元へ向かうと、艤装を装備したかこが待っていた。
「・・・・指揮権を持ってるのになぜいる?」
「指揮権持ってるなら決定権もあるよな?砲雷長だけじゃ危なっかしいからな。」
「ヤレヤレ・・・お前に守られるようじゃあ、自衛官失格だな。」
「どういうことだよ!!」
菊川を守ると豪語するかこに、菊川は冷たく接する。
それに対してムカついたかこはうがーという擬音が聞こえそうなほどに怒り、菊川を睨み付けた。
妖精たちが苦笑いで作業を進める中、菊川が微笑んでいたことには誰も気付かなかった。
内火艇の準備が整うと、菊川とかこは内火艇に乗り込み、一番近い駆逐艦「睦月」へと向かった。
「睦月」は未だに兵装から炎が上がっており、十分な応急修理も行われていなかった。
菊川とかこは、持ってきたロープを用いて「睦月」の甲板へとよじ登った。
甲板の上には主砲や構造物の破片が飛び散っているという悲惨な状況だった。
かこは自前の艤装を、菊川は89式小銃を構えて艦内へと侵入した。
狭い艦内を進んでいき、艦橋へと到着した。
艦橋内は窓が破損して酷い惨状だった。
菊川はこれが自分の指示した結果であるという現実を受け入れつつも生存者を探した。
その時、偶然にも倒れている人影を発見した。
「おい、大丈夫か?」
菊川は89式小銃を背負うと人影に近寄った。
直後、菊川は倒れた人物を見て驚愕した。
目の前で倒れているのは緑と白のセーラー服に藍色のパーカーを羽織い、黒のストッキングと特徴的な小豆色のショートヘアー。
紛れもない艦娘の睦月、しかも改二であった。
そのことに驚きつつも、菊川は睦月の脈を測る。
運よく心停止には陥っておらず、気を失っているようだった。
「よかった、死んではいないな。かこ、人員の要請だ。」
「ほいよ。ロクマルはどうする?」
「そういえば偵察に出したっきりだな。とりあえず、ロクマルを負傷者収容に回して、潜水艦には艦首ソナーでモールス信号を打って浮上を促せ。伊58は・・・ハープーンや短魚雷があるから心配ないな。それと対空、対潜、対水上警戒を厳となせ。」
菊川は、睦月を「かこ」に収容するために人員を回そうとするが、かこに指摘されてロクマルを放置していたことを思い出す。
ロクマルを負傷者収容に回し、潜水艦への対処をかこに伝えるが、さらに問題が出来上がった。
「はいよ。それとさっき、九六陸攻や一式陸攻が確認されたんだ。どうやら私たちの上をグルグル旋回する気らしい。」
「陸攻とはきついな・・・・いざとなればスタンダードとESSMを使えるが特に警戒を。」
「了解っと。」
九六陸攻と一式陸攻が上空を飛行していることが確認されたのだ。
かこには対空兵装が装備されているため、何ら脅威ではないが、もしもの時には被害が甚大である。
特に恐ろしいのは突然の攻撃だ。
自衛隊である以上は先制攻撃は許されない。
それが弊害となって、突然攻撃されれば目も当てられない状況となる。
そのことが分かり切っている菊川は顔をゆがめるが、今は救助が優先であった。
かこがSH60Jに連絡を入れると、数分後にSH60Jが菊川達の待つ「睦月」の艦尾上空にやってきた。
『砲雷長、お待たせしました!今から担架を下しますので負傷者を載せて下さい!』
「了解だ!」
上空のSH60Jから音声に、菊川が声と身振りで理解したことを示すと、担架がワイヤーに取り付けられて降りてきた。
かこと運んだ睦月を静かに寝せると、菊川はハンドサインを送る。
それを見た妖精がワイヤーを巻き上げて睦月を無事収容した。
そしてSH60Jが「かこ」に旋回て帰還したのを見届けると「睦月」から離艦し、内火艇で次に近い「吹雪」へと向かった。
霧先の予想通り、艦橋内で、黒と白を基調としたセーラー服に身を包み、短い髪を後ろでまとめた改二姿の吹雪が気絶していた。
再び、SH60Jを呼び寄せ救助し、終了したら次の艦へというのを繰り返す菊川とかこ。
最後の「神通」になった時、かこは作業の終わりが見えてほっとする。
「はぁ~これでやっと終わりだよ。」
「気を抜くな。今も零戦が上を飛んでるんだぞ?」
内火艇を操作する菊川は、緩み始めるかこに喝を入れる。
実際、二人の上空には零式艦上戦闘機や九六陸攻、一式陸攻に瑞雲といった航空機が旋回して監視していた。
救助に来るSH60Jも、旋回する航空機を避けながら飛行する状態で、救助を進めるうちに、戦艦や重巡、軽巡に駆逐艦が「かこ」と水雷戦隊を取り囲んでいた。
ご丁寧に主砲や魚雷発射管、高角砲に機銃までもが、銃口を向けているという状況だ。
そんな状況にもかかわらず、かこは呑気な声で菊川と話す。
「でもさ砲雷長。これだけの戦力相手に勝てるわけないよ。長門型、伊勢型、大和型までいる始末。戦艦だけでも大変なのに他の付随艦や空母までいると来た。どうしようもないね~。」
半場あきらめた様子で言うかこに、菊川は溜息をつく。
確かにこの状況ならいつ沈められても可笑しくないが、菊川なりの信念があった。
それはこの世界に来てからも変わっていないものだ。
「それでも俺達は負傷者を収容するのが先だ。自衛隊としてな。」
「へいへい・・・・それがいつまでもつかな?」
「持たせるんだよ馬鹿野郎。」
自衛隊であることを保持しようとする菊川の言葉に、かこが適当に相槌を打ってそれが続かないかもしれないことを述べる。
菊川はその言葉を聞いた途端、拳をかこの頭に落とした。
「痛っ!殴ることないだろ!?」
「馬鹿言ってないで乗艦準備だ、乗艦準備!」
「くっそぉ・・・三佐だからって私のことをなめるなよ!!」
ブツブツと不満を言いつつも、かこは乗艦準備を進める。
乗艦準備を終えて「神通」に乗艦した菊川とかこは、すぐにオレンジ色を元に、特徴的な構造の服と靴、緑の鉢巻を巻いた神通を発見した。
というのも、神通が甲板上に倒れていたのだ。
特に目立った外傷もなく、容体も悪くないことから、菊川とかこは疑問符を浮かべるしかなかったが、とにかく収容を優先した。
「・・・・うん、うん・・・・了解。砲雷長、上空を飛んでる零戦やら瑞雲やらをよけながら来るから到着が遅れるとさ。」
「分かった。」
SH60Jからの報告をかこから聞いた菊川は、短く答えると顎に手を置いて何かを考え始めた。
かこが不思議そうに覗き込むと、菊川は言葉を漏らし始めた。
「・・・・にしても相手の動きが分からないな。何がしたいんだ?攻撃してきたかと思えば、一転しておとなしく見てるだけだなんて・・・・。」
「それもそうだよなぁ・・・砲撃受けたら、私が沈むだけの火力はあるのに何で攻撃しないんだろ?」
菊川とかこは同じように顎に手をついて悩み続けた。
結局、上空を旋回する航空機を掻い潜って救援に来たSH60Jが到着しても、その考えの答えは出なかった。
一方、横須賀鎮守府では一人の若い女性が頭を抱えていた。
海上自衛隊の幹部常装第三種夏服に身を包み、肩には海将補の階級章がつけられている。
そのことから、諸外国海軍の少将に該当する階級であることが窺えるが、外見年齢が若いことに違和感が溢れ出る。
女性は目の前に広げられた写真を見て今日で何度目になるか分からない溜息を吐きだした。
目の前の写真には「かこ」と炎上する水雷戦隊や飛行中、負傷者収容中のSH60Jが写されていた。
「何で試験飛行段階にも入っていないヘリに、自衛艦旗を掲げた護衛艦が・・・?この艦影も見たことない艦影だし・・・・というかなんで第三水雷戦隊は攻撃したのよ・・・当たり前に反撃されて大破してるし、相手は明らかに海上自衛隊所属だし・・・・絶対始末書で済まないわよこれ・・・・・・。」
女性は再び頭を抱え、胃に穴が開いているのではないかと疑われるほどの腹痛に耐えることとなった。
やっと戦闘終わりですな。
というか次の展開が難しいお・・・。
次回「ありえない接触」