「コノハ」
呼びかけても返事が無い。
アイツに似た白髪の青年は、私が置いてあるテーブルの真ん前、つまりは正面のソファーでぐぅすぅと寝息を立てていた。
本来なら携帯がポンっと置いてあって、液晶画面がカメラレンズごと天井を向いているはず。
でも、偶然なことに今の私は、ボックスティッシュにたてかけられた状態で放置されているのだ。
そして、いきなりコイツの顔がどアップで視界に飛び込んでくれば、起こしたくもなる。
「おーい、ニセモノさーん!朝ですよー」
やはり反応0。
一瞬無視して居るのかとも思ったけど、コイツに限ってそれは無い。そんなに賢くない。
仕方なく、私はそのままコノハの寝顔を携帯画面越しに見ている事にした。
開けっ放しの窓から風が入り込み、コイツの真っ白い髪を揺らす。
陽の光が当たって輝くその顔立ちは、やっぱり・・・。
私はふと、アイツの事を思い出した。
私の名前を呼ぶアイツは、やけにお人好しで優しくて、ムカつく奴で。
最初はコノハの事を遥だと思ったけど。やっぱり違ったんだ。だって、アイツはこんな・・・雪みたいに真っ白い髪じゃなかった。
真っ黒で少し跳ねている、触ると気持ち良さそうな髪の毛。大きくて真っ直ぐな瞳も、あんな毒々しい様な桃色じゃない。漆黒の艶やかな目をしていた。
大体、遥はこんな事・・・私を忘れたり、しない。
・・・本当、私って、アイツの事になると馬鹿っぽくなる。
アイツは、もう居ないのに。
正直、後悔している。どうしてもっと優しくしてやんなかったのか。
でも、あれが私だった。仕方なかった。
こんな私、遥は嫌っていたかもしれない。一緒にいる事が嫌だったかもしれない。
でも、どんなに嫌われても、嫌がられても
私は、遥が大好きだった。
パタパタと、青いジャージの胸元に雫が落ちる。
・・・酷いや。
どうせ機械なら、電子の存在なら、涙だって流れなくしてくれれば良かったのに。
酷い。理不尽でしょーが。
電子の床に座り込み、電子の涙を流して、電子の私は、電子の声を洩らす。
「遥ッ・・・ごめんねッ・・・私、馬鹿・・・だよォ・・・」
ごめんね。
ごめんね。
優しくして上げられなくて。
ごめんね。
言えなくて。
言いたかった。
伝えたかったよ。
遥。
・・・遥。
・・・遥・・・。
「遥、大好き。」
この言葉を口にしたのは、何年ぶり?
あぁ、たったの2年ぶりだ。
それでも、これだけは、アイツに言いたかったな。
だから気のせいだよ。
目の前のアナタが、
遥によく似た美しいアナタが、
目を開けて、静かに微笑んでいるなんて。
その優しい顔が、驚くほどにアイツに似ているなんて。
きっと。
気のせいだ。
「・・・貴音」
気のせいだと言って。
「ありがとう」
そうじゃないと、
「貴音」
もっと泣いてしまう。
哭いてしまう。
啼いてしまう。
鳴いてしまう。
思い出してしまう。
「大好き」
遥、
貴音、
・・・大好き。
神様、ありがとう。