ナザリック地下大墳墓が支配者を狙うエクレア。念願の支配者に就くことに成功したが……。

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エクレア、支配者になるってよ

「やはりナザリック地下大墳墓の支配者は私に相応しいのですよ!!」

 

 メイド達が食事をする中、高らかに一羽のペンギン……イワトビペンギンが声を上げた。

 全身を覆面で隠された部下に抱えられての宣言は旗から見るとシュールな光景ではあるが、至高にして偉大なる御方に仕えるメイドとしては耳障りでしかなく、そうあれと創られたと分かってはいても不快感は拭えない。

 

「もーう、ペンギンはあっちに行っててよ」

 

「そうです、そこの使用人さんも要らないペンギンはポイしちゃいましょう」

 

 周囲のメイドからフォークやらスプーンやらが投げつけられる。ペンギン――エクレア・エクレール・エイクレアーは部下の男性使用人を盾にしながら、半刻もの間演説を続けていた。

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓が支配者。当然ながらエクレアではなくアインズが――となるが、彼は第十階層に位置する大図書館で書物を読みふけっていた。

 

「今は昔、かつての日本には“一日署長”なる役職が存在したのか」

 

 キャンペーンの一環として有名人をその日限りの署長して据えることで、防犯や交通安全をPRすることが目的の行事である。

 

「ナザリックなら一日署長……いや、一日支配者となるのかな」

 

 アインズは頭の中で妄想を膨らませていた。アインズ自身としてはやる事が目白押しで毎日が祭り事の様に目まぐるしい日々を送っているが、ナザリックで働いている者達はそうではないだろう。変化の無い日常を送っている。

 変わらぬ日々を幸せに思う者が居るが、悠久の日々を送る彼らにしてみれば退屈に感じるやも知れない。

 気分転換に何か無いかと思っていた最中(さなか)、偶然目に入った一文。それがまさか、あんなことに発展するとは……この時は思っても見なかった。

 

「仮に据えるとしたらデミウルゴス……いや、奴は多忙を極めるから羽休めをさせた方が良いか」

 

 署長……もとい支配者に相応しい人材を探すのではなく、飽くまでもイベントの一環でしかない事を頭に置き改めて各NPCを思い浮かべていた。

 

「そう言えばナザリックの支配者を狙う設定の奴が居たな。名は確か――」

 

 

 

 

 

 

 執務室のドアがノックされる。

 

「誰だ」

 

「エクレア・エクレール・エイクレアーと申します。アインズ様に会いに参りました」

 

 呼んだのはアインズ自身なのだから聞くまでもないのだが、形式は守らねばならない。万一にも別人であれば違う対応を取る必要がある。別件と言う可能性もある為、確認は基本だ。

 

「失礼します。アインズ様」

 

「うむ、よくぞ参ったな」

 

 男性使用人に連れられたエクレアは扉の前で降ろされると、ペタペタと歩いて来た。

 おや……とアインズは首を傾げた。(ひざまず)かないのだ、こいつは。これからの展開を考えると、そうでなくてはと思うアインズであった。

 

「早速だが要件を言おう。エクレア……お前をナザリック地下大墳墓の一日支配者として据えたいと考えている。どうだろう、引き受けてくれるだろうか?」

 

「おお! なんという大役!! このエクレア・エクレール・エイクレアー、全力で務めさせて頂きます!!」

 

 もし仮に他のNPCであれば、「畏れ多くも――」などと断れれてしまっただろう。彼が支配者の座を狙っている(設定)であるからこそ、即答できたに過ぎない。

 アインズとしても、彼なら即断できるだろうと確信を持っていた。だからこそ、唯一引き受けてくれるだろうエクレアを呼んだのであるが。

 

「お前なら引き受けてくれると信じていた。皆を集めている。玉座の間へ向かおう」

 

 仮に一日支配者を任せるにしても、周りの者へ周知せねば意味を成さない。エクレアが強いのならまだしも、ナザリックの中でも最弱な彼に万一が有ってはいけない。同じ1lvでもメイドより弱いのだ。

 

 二人――正しくは一人と一羽と移動用の使用人ではあるが――はゆっくりと……いや、支配者らしく堂々とした足取りで玉座へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 3メートル以上はあるであろう巨大な扉の前で彼らは止まった。右側には女神が、左側には悪魔が精緻(せいち)な彫刻が施されている。

 この先には私の部下となる者達が頭を垂れ待機しているに違いない。

 

 まるで彼らを待っていたかの如く、扉は独りでに開かれた。

 

 最奥まで進むと、その席をエクレアに譲った。臆することなくエクレアは玉座に腰掛け……いや、この場合は乗っていると表現したほうが正しいのだろうか。

 

「皆の者、面を上げよ」

 

 アインズの声に従い、今まで最敬礼をしていた従者達が顔を上げた。一様に統率されたその動きは、まるで練習してきたかのごとき統一感を放っていた。

 

「ア……アインズ様、そちらのペンギン……いえ、エクレアはどう言った理由でしょうか」

 

「エ、エクレアさんの設定って確か……」

 

「ナザリックの支配者を狙っているんだっけ」

 

「まさかアインズ様が負けたでありんすか!?」

 

「ソノヨウナコト、アリ得ナイ……アリ得ナイ!」

 

 各守護者が口にする中、デミウルゴスのみが沈黙を貫いている。周囲のNPCや部下達が不安に顔を曇らせる中、アインズが口を開いた。

 

「騒々しい。皆、静かにせよ」

 

 アインズが手に持った杖で床を叩き、乾いた音が玉座の間に響き渡った。静まり返った事を確認すると言葉を続けた。

 

「彼の者、エクレア・エクレール・エイクレアーを本日付けでナザリックの一日支配者とする」

 

 周囲に困惑が色濃く現れる中、ナザリックの頭脳と呼ばれる悪魔が口を開いた。

 

「なる程……そう言うことでしたか。流石はアインズ様、その様なお考え、私では到底及びません」

 

「ド、ドウ言ウコトダ、デミウルゴス」

 

「え? え? それとエクレアとどう繋がってくるでありんすか?」

 

「ふふ、なる程、そう言うことね」

 

「ア、アルベドさんは分かったんですか?」

 

「今日限りだしイベントの一環じゃないの」

 

 恐らくはデミウルゴス、アルベド。一部ではあるがアウラも理解できたのだろう。そもそもイベント以外何があると言うのか。

 

「不肖、このデミウルゴス。アインズ様のお考えを伝えてもよろしいでしょうか」

 

「説明してあげなさい、デミウルゴス」

 

「畏まりました」

 

 デミウルゴスは一歩前へ出ると、教師が子供に教えるように優しい声で説明を開始した。

 

「先ほどアウラが言った通り、これは飽くまでもイベントの一環。エクレアは……いえ、この場合はエクレア様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか。エクレア様は(かね)てからナザリック支配者を狙っていました。それは創造された御方のご意思。であればそれを至高の御方が叶えるのも、ナザリックの意志と言うもの。一日限りと制約付きではあるものの、そうあれと創られたエクレア様が支配者として振る舞うことである種のガス抜きを図っているのでしょう」

 

「ソコマデオ考ガエトハ、流石ハアインズ様。感服致シマシタ」

 

「な、なる程。御方々のご意思を叶えるのですね」

 

「流石のあたしも、そこまでは考え及ばなかったよ」

 

「流石は私が愛して止まない御方……素晴らしいでありんす」

 

(いや、イベントとして以外考えて無かったんだが……凄いなデミウルゴスは)

 

 アインズは自らの考え以上の事を述べられ、あっけらかんに取られていた。何処をどう解釈したらそうなるのだろうと尊敬の念を送っている。

 

「流石はデミウルゴスだな。私の考えを全て見抜いてしまうとは」

 

「いえいえ、このデミウルゴス。アインズ様の深淵より深き叡智の一端しか掴めておりません。アインズ様には到底及びません」

 

「ハハハッ、デミウルゴスも自信を持って良いのだぞ。ではエクレア、お前にはこれを貸そう」

 

 アインズが渡したそれは呪詛を浮かべた蛇が並べられており、禍々しいオーラを纏いし杖。スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン(レプリカ)だ。エフェクトのみを備えた杖には力が備わっておらず、仮に壊れたとしても直せば良い、その程度の物である。

 

「よ、よろしいのですか!?」

 

 流石のエクレアと言えど、ギルド武器を下賜れたことに躊躇をしている。だが安心すると良い、偽物だ!

 

「これはギルド武器の試作品に過ぎない。本物は厳重に管理されている故に気にする必要はない」

 

「そうでしたか。ではこのエクレア、確かに授かりましたぞ」

 

 通常であればアインズとの間にメイドを挟むのが基本だが、今はエクレアが支配者。であれば対等に扱うのも頷ける。

 

「仮にも支配者だ。回れない階層があっては事であろう。耐性を強化する指輪を貸そう。転移はその杖で行うと良い」

 

「ありがとうごさいます。アインズ様。そのお心遣い、感謝の気持ちで胸が溢れそうです」

 

 エクレアでは1秒と生きられない地がナザリックには多く広がっている。時に灼熱、またある時は極寒の地。攻撃を無効化――とまではいかずとも、フィールド効果を無効にする程度なら可能だ。

 オールの様に平たい手でどうやって指輪を填めるのかと思ったがなる程、拡がった指輪が腕輪の様に手を包み込んでいた。

 

「では、私は下がるとしよう。遠慮は必要ない。エクレア、お前が思い描いた支配者を演じるが良い」

 

「ありがとうごさいます、アインズ様。不精、このエクレア。今日という日を謳歌したく思います」

 

「私は自室へと戻っている。有事の際はエクレアへ報告をするように。それでも対処できない場合は各階層守護者を頼るように。その時はモニターで確認をしておこう。万一の時には私も入るから安心するが良い」

 

 エクレアは軽い目礼を済ませると、アインズは王座の間を後にした。

 

 

 

 

 

 

 エクレアは思考した。自分はなにをすべきかと。

 普段であればブーイングしか巻き起こらない演説が大見得を切って発言できるのではないかと。思い立ったが吉日。しかし今まで通り演説をしても味気ない。ここは――

 

「よし! 第四階層へ行こう!!」

 

 エクレアは大きなヒレを天に向け、高々と叫んだ。強大な湖が広がる階層であれば、ペンギンの我が最大限に活かせるだろう、そう思ったのだ。

 

「しかしエクレア様、我々はともかくメイド達はどうなさるのですか?」

 

 紅蓮の炎に覆われた灼熱の第七階層、凍て付く冷気が魂をも凍らせる極寒の第五階層は1lvのメイドでは一秒とて生きることは許されない。だがエクレアには策があった。

 

「なに、心配は要らない。シャルティアさ――殿の《転移門》(ゲート)を使えば問題なかろう。MPが足りない時はペストーニャ――殿、ルプスレギナ殿から受け取るように」

 

 緊張しつつ名前を呼ぶエクレア。相手が反応を見せないことに気を良くしたのか、最後は躊躇わずに呼ぶことができた。呼び捨てではなく『殿』を付ける辺りが、完全に吹っ切れていない証である。女性だから『嬢』では? と思うかも知れないが、彼も内心ドキドキなのだ。仕方がない。

 

「了解したでありんすえ。でも移動先はどうしんすか? あそこは一面水で覆われていんすから、周囲の岩肌しか陸地がないでありんす」

 

「それには及ばない。マーレ殿の魔法で巨大な氷の大陸――氷床(ひょうしょう)を作成し、そこを広間として活用しよう」

 

 簡単に言えば北極を作ろうと言う話だ。それでは寒いのでは? と思うかも知れないが、魔法はかくも偉大。触れば冷たさを感じるが、それにより気温まで冷えることは無いのだ。

 

「あ、あの、じゃあ僕は先に第四階層で準備しておきますね」

 

「ああ、マーレ殿。よろしく頼むよ」

 

 すっと左手を天に捧げた彼は、指輪の効果により地底湖へと転移をした。同じ姉弟なのにどうして自分だけ……薬指を一点に見つめたアウラが妬ましげに「(うぅー)」と呻いていたが、小声だったので誰にも気付かれることは無かった。

 シャルティアの視線がペンギンに向かっていたのも幸を期したと言えよう。

 

 準備も整い、シャルティアの《転移門》(ゲート)で各メイドが移動を開始した。本来であればアインズがナザリックに居る間は休みたがらないメイドであるが、これも主の命。ともすればエクレアの指示に従うことも仕事の一環と言えよう。

 

「うわー! ひっろーい!!」

 

「ツルツルだー! 走ると少しすべ……って、おとと」

 

「氷のようにエクレア様も物静かならいいのにねー」

 

 初めての景色に感極まるメイド達。中には氷床を走ったまま止まることが出来ず転びそうになる者も居た。支配者となっても尚、言いたい放題に口にされるのはエクレアの性なのか。

 階層守護者と共にやってきたエクレアは、心なしかひと回り大きく見えた。

 

「私の種族はペンギン。であれば、この世界こそ私に相応しい玉座の間と言えよう」

 

 氷で創られた玉座に飛び乗ったエクレアは、鳥のようにその場にしゃがみ込んだ。

 

「それでエクレア様ー、ここで何をするのですか?」

 

「まさか何時もの演説を始めるんですか?」

 

 メイド達が行き来する第九階層と十階層では出来なかったこと……そう、遊泳だ。プール開きとも言う。

 

「あちらに水着を用意しておる。着替えて共に泳ごうではないか」

 

 よく見るとカーテンが2つ用意されており、青色と桃色の二色がそれぞれ円を描くように囲まれていた。

 

「でも私達泳げないですよ?」

 

「それには及ばない。魔法が付与された水着故に溺れる心配は不要だ」

 

 シャルティアの創造主が用意した膨大な衣装の中には水着も並んでいた。スクール水着から競泳水着、ローレグ水着まで多種多様だ。

 

「このワンピースみたいな水着、お腹の部分に穴……のような物がありますよ」

 

「それは水抜き穴でありんす。陸に上がった時に水着に入った水を外に出す役割があるでいんす」

 

「この白い水着、かわいいね」

 

「それは別名スケスケ白スクでありんす。水に濡れ肌に張り付いた時に肌が薄っすらと透けることから名付けられていんす」

 

「この水着、殆ど布が無いんですけど!!」

 

「ローレグ水着でいんすね。じゅにああいどる成る女の子に着せて楽しんでいたと聞いたでありんす」

 

 見た目では用途が不明確な水着に的確な回答を見せるシャルティア。博識に答える様は、ここ数日では最も輝いている瞬間であろう。

 

「チビスケ、ちょと身体を反ってくんなまし」

 

「えー、なんでそんなことしなきゃいけないのさ」

 

 理由も分からぬまま命じられた所でアウラは従う訳もなく、若干嫌な顔を見せていた。

 

「ペロロンチーノ様が仰っていんした。チビスケのような女の子は反れ! と」

 

 くいっ、バレリーナの如くしなやかなエビ反りを披露したアウラ。貧相ながらもほんのりと膨らみかけの丘陵、イカ腹のようにのっぺりとしたお腹にはオヘソのラインがくっきりと浮かんでおり、その左右には鼠径部が現れている。下へ目を配らせるとまんまるな恥丘に一本の線が見えていた。

 

「で、なんであんたは丸まっているのさ」

 

 身体を戻したアウラが、自分とは正反対に前屈をしたシャルティアに質問を投げかけている。

 

「貧乳は反れ! 巨乳は丸まれ! 以前、ペロロンチーノ様が仰っていた名言でありんす」

 

 自分が騙されたことに気づいたアウラは、ぷくーっと顔を膨らませシャルティアを睨んでいた。

 

「どうせあんたのは偽物でしょ。あたしのは純粋な胸。しかも成長途中なんだから!」

 

 えっへんと身体を反らそうとして、慌てて元の姿勢に戻るアウラ。

 

 

 

 

 

 

 エクレアの周囲には水着を身に纏ったメイドや守護者達が並んでいた。

 

「支配者と言えばやはり女性たちを蔓延らせる……いやあ、実に素晴らしい!」

 

 普段は全身スーツの男性使用人が部下として付き添っているため、色気に乏しいのだ。たまにシズに抱えられることもあるが、あれはなんか違う。

 

「エクレア様が望んでいた支配者って、なんか成金貴族みたい」

 

「はーれむおう?」

 

「なにそれー」

 

「そんな事を前に至高の御方々が話されていたような」

 

 結局のところ、エクレアと言えど本当に支配者に成りたいとは思っていないのだ。支配者を狙っている“設定”でしかない。ペンギンの頭では一日で出来ることなど高が知れており、女NPCを蔓延ることしか思いつかなかったのだ。

 

「はぁあー、幸せ……」

 

 一時の間を満喫したエクレアは次の指示を出した。

 

「さあ、皆の者よ。泳ぐなり、浮かぶなり、思う存分に楽しんでくれ。溺れる心配は無用だし、万一の時には私が全力で守ろう!」

 

 蜘蛛の子を散らすように四散したメイド達を少し残念に思いつつも、彼女達とて初めての体験。それを自分の我儘で無下にするわけにはいくまい。支配者とは常に下の者を思いやる気持ちが大切なのだ。

 

「ところでコキュートス殿は水着を穿かないのか?」

 

「私ハ常ニコノ姿。猫ガ服ヲ着ナイノト同ジダ」

 

「ああ、全裸なのね」

 

「全裸デハ無イ!!」

 

 プシューッと息を吐いたコキュートス。一糸纏わぬその姿は、実に漢であった。

 

 

 

 

 

 

「ふう……」

 

 ナザリックが誇る女性NPC達を眺めながら、エクレアは感慨深い溜息を漏らした。当然ながら男性や異形種も居るのだが、視界から外している。

 

「た、た、大変です! エクレア様!!」

 

 純白のドレス……もとい、レースの付いた白色の新スクを纏った絶世の美女が血相を変えて走ってきた。

 

「まずは落ち着きたまえ、アルベド殿、一体何があった?」

 

 軽く片膝を着いたアルベドが呼吸を整え、口を開いた。

 

「ナザリック地下大墳墓に巨大な魔獣らしき存在が接近しているとの報告がございました」

 

「え?」

 

 突然の出来事に間の抜けた返事となったエクレア。言葉の意味が頭の中に染み込んでくるに連れ、事の重大さを理解する。

 

「ええええええええええええええええええ!!!!」

 

 驚きのあまり椅子から飛び乗ったエクレアは羽をパタパタと動かしている。当然ながら飛ぶことはないのだが。

 

「どうなさいますか? エクレア様」

 

 アルベドは真剣な面持ちで見上げている。しかし戦闘経験も知識も無いエクレアではどうすることも出来ない。と言うか階層守護者に戦闘を任せる他無いだろう。

 だがエクレアは支配者。もしアインズ様であれば、的確な指示を命じられるに違いない。普段アインズ様がやられない指示を出したのは、比較対象が無ければ後でどうこう言われにくいだろうと思っての行為だ。それが敵襲だなんて聞いてない。

 

「ごめん……ちょっと……頭冷やしてくるううううううううううううううう!!!」

 

 バシャーンッと勢い良く湖に飛び込んだエクレア。何時もとは違い、水中を泳ぐ速度が速い。それにひと回り大きく成ったように感じた。

 ただひたすら愚直に進んでいた彼はコツンと何かにぶつかり、やっと動きを止めることと成った。

 

「戦略級攻城ゴーレム――ガルガンチュア。起動シマス」

 

 頭部と思しき部分から2つの光が灯し、エクレアと共に転移した。

 

「こ……ここは?」

 

 眼前には広大な平地が広がっており、高い位置から俯瞰をしている様だった。手元にはコクピットのような制御レバーが配置されており、ペンギンの手でも操作が出来た。

 

「キュルルルルルルルルグオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

「わわ! なんだこの巨大な生物は!!」

 

 突如目の前に現れた巨大生物。自分の目線と並んでいることから、30m以上もの高さだと推測が出来る。

 レバーを動かしてみると自分の手足のようにゴーレム……ガルガンチュアが動いていることが分かる。頭の中に操作方法が浮かんでくるのだ。

 

「取り敢えずは……ガルガンパーーンチ!!!」

 

 豪速で繰り出された右腕は、その巨大さ故に圧縮された空気による高熱が発生し燃えるような打撃と成っていた。

 対する魔獣は何本もの触手を絡めるように突き出すと、敵のパンチを受け流すように横へと逸らすことに成功した。だが高熱までは受け流せず、焼けた触手から芳ばしい香りが漂っている。

 

「グオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 

 痛みに触手を振るわせている魔獣。隙ありと言わんばかりに本体へ向かって再び攻撃を繰り出すガルガンチュア。

 

「くっ……こいつ硬いな!」

 

 強靭な筋肉で打撃を吸収した魔獣。しかし高熱により焼けている。

 

「これはもしや……」

 

 この魔獣は炎系の攻撃に弱いのでは、そう考えたエクレアはガルガンチュア最大の火力で攻撃を仕掛けた。

 

「ナザリックを襲おうとしたことが運の尽き……至高の御方々に創造されなかったことを神に怨むんだな!! 必殺! ウルトラファイヤーブルカノブレストブロおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

 

 灼熱に染まった右腕は触手を弾き、魔獣の本体へと突き出された。

 

「いっけえええええええええええええええええええ!!!!!!!」

 

「グッ……グオオオオオオオオオオォォォォォオオオオオオ!!!!!」

 

 真っ赤に焼けた肉体からは芳ばしい香りを漂わせていた。

 

「なんスかなんスか?」

 

「わわ、巨大なイカだねえ」

 

 地表にはルプスレギナ、そしてアウラが姿を現していた。

 

「二人共、どうかしたのか?」

 

 気がつくと視線が低く戻っており、戦闘が終わり用済みとなったガルガンチュアは再び地底湖へと沈んでいった。

 

「いやぁ〜良い香りがしたっスから来てみたっスよ」

 

「あたしは心配で見に来たよ。エクレア様は攻撃を掠めただけで死んじゃうんだから」

 

「心配してくれてありがとう。魔獣なら先ほど撃退したよ」

 

 杖を持ち、キリッとした顔つきで答えるエクレア。ぺたぺたと歩いていなければ格好良いのだろうが……いや、ペンギンの姿では何をやってもギャグにしかならないだろうか。

 

「それよりこれイカ焼きっスよね! もう涎が止まらないっス!!」

 

「うーん、あたしの第六階層には居ないけど、確か……メガスクイドって種族だったかな」

 

「毒などは持ってないのか?」

 

 仮に食べるとしても、魔獣であれば体内に毒素を備えている者も少なくはないだろう。その血を浴びるだけで骨の髄まで溶かされることだってあるのだ。

 

「ううん、なんにもないよ。むしろ食用として適してるみたい」

 

「美味しそうだな。では第四階層まで運んで食事としよう!」

 

 何人……いや何千人分か検討もつかない巨大なイカは見る見るうちに減っていき、大半を平らげたメイド達の身体の何処へ入ったのだろうと疑問に思うエクレアだった。

 

「エクレア様が戦われている間、少し調べ物をしていましたが疑問が解決できましたよ」

 

 デミウルゴスが口を開いた。エクレアは真意が掴めず首を捻らせている。

 

「そのお姿……間違い御座いません、皇帝(エンペラー)ペンギンと一致します」

 

「な……なんと!?」

 

 ナザリック地下大墳墓が一日支配者となったエクレアは、これまでのイワトビペンギンから皇帝(エンペラー)ペンギンへと種族(クラス)チェンジしていたのだ。至高の御方の手により創造された彼が、最後まで残られた慈悲深き至高の御方により新たに生み出されたのだ。二人の神に手がけられた自身を誇りに思うエクレアだった。

 

 

 こうして一日支配者は意外な結末を迎え、幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

「イー!」 「イー!」

 

 全身を覆面で隠された男性使用人に抱えられ、メイド達が朝食の最中である食堂まで参上したエクレア。その姿は何時も以上に自信に満ち溢れている。

 

「こうして皇帝(エンペラー)と昇格した私こそ、ナザリックの支配者として相応しいのだ!!」

 

 食事中のメイド達がエクレアに目を配らせると、昨日の朝と同じ姿のイワトビペンギンがそこに居た。

 

「エクレア、また小さくなってるよ!」

 

「降格したペンギンはポイしちゃいましょう」

 

「エクレア、これ大きな鏡っス」

 

 不安な面持ちとなったエクレアの元へ全身鏡が運ばれた。そこには昨晩までの凛々しい王の名を冠したペンギンではなく、ただのイワトビペンギンが映し出されている。

 

「ふ……ぶびゃあああああああああああ!!!!」

 

 白目を向き、ガックリと項垂(うなだ)れたペンギンがそこに居た。


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