深海棲艦、抜錨! 作:深海棲艦提督
先日実行された、「航空戦力の影響を受けない夜間に敵艦隊を叩く」という艦娘側の戦略は、戦果を見る限りでは一応の成功をおさめた。
しかし、夜に戦うということは視認困難な状況で戦うということでもある。今回のように、突如鬼クラスと遭遇するというアクシデントがまた起こる可能性はゼロではなく、突如強力な敵艦艇と会敵するリスクは到底見過ごせるものではなかった。
それに加え、参加した艦艇6隻全員が大破、いや轟沈寸前だったということ、海峡奥にさらなる姫級がいる可能性があることから、提督たちは根本から作戦の見直しを強いられている状況である。ドックが貧弱なこともかなりきつい。当然ラバウルまで本拠を下げる、もしくは大破艦だけラバウルに送還するという案もあったが、作戦遂行は急を要するという意見に一蹴されていた。もたもたしていると敵の艦載機や修理済みの艦が増え、結局戦闘で勝利が不可能になる、と。至極当然な意見だ。
……なお、当然のことながら、姫級がいるという情報は、俺が提供したものである。
それと、泊地棲鬼が沈んだ。
沈みゆく最後の瞬間、刺し違えるかのように鬼気迫る表情で神通を大破させたらしい。全員大破させられた艦隊はこれ以上の進撃が不可能になり、母港に帰投した。
轟沈させられるかと思いました、とその時の状況を聞かれた神通は話していた。事実、泊地棲鬼の砲弾は神通の艤装を掠めていたらしい。もう少し砲弾の精度が良ければ、きっと……。そこまで話して、神通はぶるりと震えた。
ルンバ沖夜戦は、本来ならば起こりえなかった夜戦である。当初の計画通りならば、艦娘側にルンバ沖夜戦に突入するような余裕があるわけがなかった。罠による資源と基地の徹底破壊。艦娘側が作戦行動を起こせるようになるためには、少なくとも二ヶ月はかかっていたであろう。
「……はぁ」
「どうしたんですかぁ? 提督?」
「いや、覚悟ができていると思ってたのは頭の中だけだったんだな、と…… って、青葉?」
きょとん、とした顔をしている青葉が目に入る。いつも通り、何に使うのかよく分からないメモ帳を片手に持ち、首からカメラをぶら下げている。また何やらの情報収集でもしていたのだろうか。
「ふふん、これが気になるんですかぁ? 見たいですぅ?」
「いや。どうせ艦隊新聞かなにかなんだろう…… っと、俺は工廠に行かなければならんのだよ。すまんが、取材ならまた今度の機会にでも……」
「工廠で何するんですかぁ? 青葉、興味あります! ついていきます!」
「いや……うん、まぁいいか。ちょっと装備の調整をするだけだぞ、見ても面白いことはないと思うんだが」
「いーえ、いいネタになりそうですから。ね?」
にこにこと意思表明をする彼女に、変わってないなぁと感想を抱く。
彼女と初めて会った時もそうだった。突然写真を撮られ、仕事しているときに突撃インタビューなるものを再三された。バレンタインデーの時も、チョコを貰ってびっくりしているところをすかさず写真に撮られたりだとか、お返しを渡す場面を写真に撮られたりもした。正直、あの写真をどう利用していたのか未だに謎である。考えたくないと言ったほうが正しいか。
鎮守府にお偉いさんに呼び出されていた時、緊張していた俺はそっちのけでそこら中を取材して回っていた彼女の姿などは記憶に新しい。そのおかげで、その時抱いてた緊張などが綺麗さっぱり霧散してしまった。いやいや、これはおかげといっていいものだろうか……?
夕張といい、青葉といい、なぜ俺の周りには一癖も二癖もあるような奴らが集うのだろうか。
……まぁ、なにはともあれ、そこまで言ったからには、覚悟を持ってもらおうではないか。
「青葉。最初に俺は止めたからな? それでも見るからには、こちら側へついてもらうぞ?」
逃がさないぞ、と言う意味を込めた笑みを作りながらそう青葉に告げると、彼女は表情を一転させて少し青くなりつつ、
「あははー。これは特大のネタになりそうですねぇ……」
と、乾いた笑いを漏らしたのであった。
「やるよー」
「さっさと作るですー」
「ここはもっと改造できますー」
「提督、これが試作品ですー。どうぞ」
工廠に入ると、カンカンと鉄を打つ音や、ジーと溶接の音が絶え間なく聞こえてきた。時折起こる爆発は失敗作の副産物だろうか? そもそも妖精さんたちは爆発に巻き込まれて怪我したりしないのだろうか。
爆発に巻き込まれてこちらへ飛んできた妖精さんを抱き留めつつ、そっと床に下してやる。ぴょんぴょんと跳ねつつお礼を言う妖精さんにほっこりしつつ、同じくぴょんぴょんと跳ねながらこちらへ試作品を持ってきた妖精さんに向き直る。妖精さんは、三種の装備を重そうに持ちつつも、それ以上に誇らしげであった。
「三式弾、甲標的、青艦爆。ちゃんとできているようだね、見せてもらってもいいかい?」
「はい、どうぞー」
妖精さんの許可をとって、3つの兵器を手に取ってみる。遠距離から雷撃を叩き込むことを可能とする甲標的。従来の物より隔絶した性能を持つであろう青艦爆。徹甲弾とはまた違った特性をもつであろう三式弾。どれも特に問題なく仕上がっていそうだ。
甲標的を装備することで、砲撃戦前に遠距離から雷撃を打つことが可能だろう。開幕雷撃、といったところだろうか。やられる前にやってしまう、この戦法は大多数の敵に有効に違いない。
青艦爆は従来の物よりも対潜・対艦のどちらも強化し、更に対空を付けるというかなり無茶ぶりを要求してみたが、驚くべきことにどれも水準を満たしているらしい。出来れば二つくらい併せ持てればいいな、程度の目算だったが、良い意味で裏切られたと言っていいだろう。本当に素晴らしい。
そして、最後の三式弾だが……
「おおー。これは新兵器ですかぁ? 青葉も載せてみたいですなぁ!」
「青葉が乗せれるのは三式弾くらいだろうな。ちゃんとできていれば、陸上型基地に対する特攻を持つはずだが」
「ほぉほぉ。つまりこいつは、噂されていた新種の姫への対策であると! 雷撃が効かないそうですからねぇ」
「そうだな、当たらずとも雖も遠からず、ってところだ。別の意図もあるぞ?」
まぁ、対地特攻を持っているわけだ。
はしゃいでいる青葉を温かく見守りつつ、俺は彼女を連れてきた目的を達成するべく口を開く。さて、答え合わせの時間だ。
「……さて、青葉よ。これを見たからには分かっているだろうな?」
「ええ、もちろんですよ。……これを使って、敵飛行場を華麗に撃破! するわけですな!」
「……」
「あれぇ、違いました?」
……それは先ほど青葉が言った答えと同じなのではないだろうか。
「当たらずとも雖も、だが…… そうだな、青葉。三式弾を装備できる艦娘は、どんな艦娘だと思う?」
「ふむー。やはり戦艦さんとかですかねぇ。あと青葉たち重巡も乗せれるんでしたっけ?」
「うむ、その通り。まぁ、派生である航巡や航戦も乗せれるように作ってあるが、基本的には重巡・戦艦だな。ちなみに、本来なら軽巡にも乗せれるのだが、今回は『敢えて』乗せれないように作ってある」
そう。わざわざ基地を放棄したのも、このためと言っていい。工廠機能を一番ベストな状態で保てるのは艦娘側につくしかなかった。それを妨害する罠を仕掛けるという手段は不都合だったので、此方からばらすことで信頼を得る手段としつつ、計画を無断変更していたわけだ。相手が多少たりとも警戒している場面では、あまり罠などは効果的な策とはなりえないということもある。
勝利への計画を実行しつつ、並行して将来の装備開発を進める。そして開発した装備は、次なる矢の布石とする。
「わざと不利になるようなことをした……? まさか、提督……?」
いくら艦娘の遠征隊が資源を大量に持ってきているとはいえど、それにも限度がある。限度がなければ、攻略を急ぐ必要など欠片もないし、無理して鹵獲基地を復興させる意味もないのだから。艦娘連合を動かすだけでも大量の資源を消耗するのだ。ましてや。
「艦娘側が一番避けたいこと、それは参加艦娘の轟沈や、資源の大量消費、これだ。そして、敵艦への特攻を持つ装備があり、それを乗せれるのが重巡以上ならば、当然艦娘側は採る手は一つだろう」
「……特攻装備を乗せれる、資源を消費する重巡以上で出撃する、ですか。と言うことは……、提督は、深海棲艦側につくんですかぁ?」
「うむ…… まぁ、有体にいえばその通りだな。
さて、青葉の好きそうな計画だとは思うが、青葉はついて来るかね?」
表情を崩さない彼女の様子に半ば答えを確信しながらも問いかける俺に、青葉は楽しそうに返す。
「ふふっ、当然ですよ! そもそも、提督について行かないなんて選択肢がありませんしね!」
「そうか、よかった。……まぁ、1日中かけて説得してでも頷かせてやるつもりだったが」
「……あははー。それはちょっとご遠慮したいかな、なんて-」
はぁ、と安堵のため息が出る。そばにある机のほうに手をやると、座ろうと椅子を手探りで探す。はい、と椅子を差し出してくれた妖精さんに一言お礼を言い、俺は椅子に腰を下ろした。
実を言うと断られる心配は微塵たりともしていなかったが、それでもやはり緊張するものだ。
ふぅ、ともう一度息を吐き、机の上で腕を組んだ。ちょっと頭の中で思考を整理すると、そのまま話を続ける。
「あー、うん。とりあえず、基本方針はそんなところだ。敵地奥に誘い込み、資源の尽きたところで一網打尽にする。資源のあるうちは、ほとんどなにをやっても復活できるからな」
「ふむふむ。そう考えると意外と艦娘側もきつそうですねぇ。しかし、特攻装備があれば姫クラスであろうとも簡単に撃破されるんじゃないですかぁ? それだと本末転倒だと思いますけど」
「いや、基本的に基地甲板などは1日もあれば修復できる。陸上基地は不沈空母とも呼ばれているくらいだからね」
飛行場姫の周りには多数の修復施設を用意しておいたため、余程のことがない限り修復が間に合わないということはないだろう。……尤も、これらの修復施設は急遽建設しているため、仮に攻撃されるようなことがあれば厳しい戦いになるだろうし、そもそも稼働できるのはおおよそ一週間後からだったりもするが。
その時間を稼ぐために大量の航空戦力をサーモン海域に配備し、艦娘側の戦力を漸減しつつそれ以上の出撃を牽制する予定だったが…… 夜間突入という選択肢は本当に盲点だった。
「何度も蘇る姫クラス1隻が相手、ですかぁ。状況にもよりますが、それならかなりの確率で勝てそうですねぇ」
そういう青葉の言葉に、少し首をかしげる。どうやら、青葉は何か勘違いしているようだ。
海戦で一番愚とされることは、戦力の分散投入に他ならない。戦艦が1隻ずつ襲ってくるのと、戦艦が6隻纏めて襲ってくるのでは、普通に考えても脅威度が段違いだろう。
「……青葉よ、今回の迎撃戦はこちらの本拠で戦うんだ。
当然のことながら最深部は万全の態勢で艦娘を待ち構えているに決まっている」
飛行場姫が待ち構えているのは本当だ。それに、三式弾が特攻を持つことも本当だ。此処は信頼されるためにも、あえてリスクを冒して真実を伝える予定ではある。
……しかし、俺は今まで一言でも、鬼・姫クラスが1隻だけだと言っただろうか?
「飛行場姫には、護衛に戦艦棲姫や南方棲戦鬼、さらに南方棲戦姫も付ける予定だ。何度も言うが、当然、出来得る限りの万全の布陣を敷く。
……さぁ、これを艦娘側が突破できるのだろうかね?」
「あはは…… 提督が敵じゃなくてよかったですよ、本当に……」
艦娘側が総力を結集してくるならば、こちらも同じく総力を結集する。もう前回のような敗北は許されない。泊地棲鬼のようなことが起こらないためにも。深海棲艦提督として胸を張れるためにも。
全容を聞いて、全く冗談に見えない顔で力なく笑った青葉が印象的だった。
マルナナマルマル。
一週間後のその時刻に、ブイン基地の司令部から最終作戦の発令が行われた。予定通り、最深部に出現するであろう、敵姫クラスの撃破を主目的とした作戦である。
深海棲艦の命運をかけた一戦が始まろうとしていた。
海域名:アイアンボトムサウンド
I:昼戦 敵リコリス航空基地
飛行場姫、戦艦棲姫、南方棲戦姫、南方棲戦鬼、戦艦タ級flagship、戦艦タ級flagship
(陣形:単縦)
提督「海域ごとに分けたり、道中に配置したりせずに、ボス艦隊に全力を終結させてみた」
こんなボス艦隊だったら阿鼻叫喚でしかないに違いない……
【今日の艦船・重巡洋艦 青葉】
kancolle deta:火力72 雷装59 装甲70 対空59 運30
運の高い重巡洋艦。改造レベルが低いにもかかわらず運の値が高いことと、燃費の低さが特徴。
敵艦へ高確率で強力なカットインを叩き込むことができる。
ゲーム内では彼女を使った指定クエストも多く、提督諸氏は一回くらいは育てたことがあるだろう。
作中では深海棲艦提督の戦闘面の初期艦である。
取材やパパラッチ行為が好きな、好奇心の高い子で、提督も手を焼かされているとか。