パリースィイを奪還した。機動六課を撃破して人類が管理局に対して納めた勝利は、全世界に対して反撃の狼煙と成った。
勝利の熱狂から覚めた参謀本部は予想以上の戦果に困惑した。これまでは守勢一方で、次の戦争計画が用意されて無かったのだ。
公式記録によると愛国者であるデグレチャフ中佐は、帝国東部国境の安定を目的に管理局の勢力圏に含まれつつある連邦に対する
「遺憾ながら帝国はコミーの連中に数で劣っております。コミーの連中が幾ら死のうが我々の知ったことではありませんが、無尽蔵に浪費出来るだけの人的資源の価値は大きい。ご承知の通り、先日、スパイから提供された情報によると、管理局が連邦内部の分離派に援助を行い接触してるとのこと。流石のコミーも管理局に押される一方で、講和を模索しております。それは帝国にとって東に脅威を抱えると言う事です」
幾ら各国の協力があるとは言っても、帝国もいつかは継戦能力の限界を向かえる。その前に敵を屈服させるか侵攻の意図を挫かねば帝国が滅ぶ。
「管理局になびく裏切り者がぼこぼこ増えており、間引かねばなりません。やられたらやり返す。殴られる前に殴り倒す。我々が介入し管理局の影響力を削いでやれば、たとえコミーの連中が白旗を揚げようと考えていても、自国に他国の軍隊を招き入れた以上、そうはいかなくなります」
デグレチャフ中佐の進言を検討した参謀本部だが、最も関心のある管理局の次元航行艦は、戦略資源の産出地であるハグー油田を目当としてヨセフグラードに留まって居た。火力と兵力さえ集めれば、これを捕捉し撃滅する事は可能だった。
そして纏められたブラウ作戦は決戦による敵野戦軍主力の撃滅、昔からある単純な行動計画を現状の管理局に当てはめた作戦だった。次元航行艦を沈めるのは味方魔導師の役割。突破口の形成はヴィクトール・フォン・シュラー大将の第IV軍団が行う。連合王国も限界一杯の8個師団を派遣してくれる。
それだけでは心許ない。ただでさえ硬い守りだ。次元航行艦から敵の兵力を引き剥がす必要があった。
「目標到達と目的達成は早ければ良い。ルージエンフで主力の助攻を行う。やれるかね?」
そう訊かれるとエルンスト・ウィルヘルム上級大将は笑みを浮かべ答えた。
「やれと言われるならシルドベリアの果てだろうと行きましょう」
帝国軍人として模範的、まったく妥当な回答だった。
──ハンス・フォン・ゼートゥーア帝国軍上級大将著/ターシャ・ティクレティウス訳
失われた敗北より
皮肉な事にアカと組んで最終決戦が始まる。
雷鳴が轟き太鼓の様な地鳴りが聴こえる。今頃、敵は蜂の巣をつついたような狂騒状態だろう。味方の砲兵が、管理局と手を組んだコミーの言う所の反革命分子を潰してる音だ。
連邦から派遣されている連絡将校の前では言えないが、我々にとってはコミー同士で潰しあってくれるのは好ましい。
航空魔導師が楔を形成し前進を開始した。戦車も続いて戦線に楔を打ち込む。
「トスパン中尉、デグレチャフ中佐より前進命令です」
車載無線機の前で通信帳に電文を筆記していた手を止めて上官に報告した俺はトッピー。指揮班の通信手をしている。上官のクラウス・トスパン中尉とはデグレチャフ中佐のサラマンダー戦闘団に吸収されて以来の付き合いだ。
一昔前の歩兵は文字通り自分の足だけが移動手段だったが、今の歩兵は自動車化されており、トラックや
これもサラマンダー戦闘団と言う特別編成の部隊だから受けられる恩恵だろう。
「我々に相応しい死に場所じゃないか。精々、今宵の宴を楽しむとしよう」
トスパン中尉の言葉に思わず吹き出してしまった。
「デグレチャフ中佐の口調が移ってますよ」
そう言うとトスパン中尉はニヤリと笑われた。
ここに居るのはデグレチャフ中佐の勲陶を受けた戦闘団所属の面子、優れた指揮官に従えられた羊は狼に成る。
自分にとって何をするのが懸命か、兵士なら知っている。与えられた職務の遂行だ。無線の周波数を、戦闘団から中隊の通信系に切り替えトスパン中尉の指示を伝える。
ドライバーのラナがアクセルを踏み込んだ。フレームアンテナを張り巡らした指揮班の
敵の砲火が待ち受ける中、
俺にしてみればまだ幼い彼女に大人の尻拭いをさせている事の方が申し訳ない。確かに魔導師は魔法という力を持っているがそんな事は関係無い。幼い子供を戦場に立たせる事こそ間違っている。
戦場云々を言う前に世の中が狂っている。神が存在するなら何故、この様な試練を与えるのだろうか?
身重の妻を家に残して戦場に来てる俺は、なおの事、そう考えてしまう。
障害になる敵火力は前衛が排除している。歩兵の脅威は少ないので容易く敵陣地に達した。下車の号令で車両から飛び出した歩兵が掃討を開始する。
俺は指揮班なので移動は楽な方だ。
手をあげて投降して来る者も居たが攻撃は止まない。優位に成れば慢心から隙が生まれる。コミーの連中にたいしては油断や寛容さは無意味だ。共産主義から解放してやる為にも死は最適な慈悲だ。
戦場でも食欲や睡眠欲は変わり無い。性欲もあるが、女子供を暴行して欲求を晴らす馬鹿は居ない。女子供だからといって非戦闘員と区別はしない。今が仕事中だからだ。
歴戦の帝国軍にとって敵は脆く危惧された連邦の泥濘も凍りつき進撃は順調だったが、水を差す者が現れた。敵の反撃である。
来るべき平和の為に何を成すべきか。ただの終戦ではコミーの連中が残ってしまう。
対立するよりはましだと言うが、先ずは連中を消耗させる事だ。
今の所、接触する敵はコミーの分離派ばかり。抵抗は軽微だ。
だが、矢表に立たされているのは我々だ。
連中の火消しが到着すればこちらの優位性も変わる。
管理局の陸上部隊は空を飛ばない魔導師で構成されている。空戦魔導師を揃えるには金もかかるし数は足りない。それが慰めだろう。
捕虜からの聞き取り成果によると、次元管理局の最高峰評議会は機能して居ない。聖王教会と言う宗教団体が管理局の部門設立に関与したり、本局と地上本部の連携が取れていない等の問題が放置されている。これは我々にとって好ましい状況と言える。
まさか、ミッドチルダの首都クラナガンまで攻めていける等とは考えては居ないが、我々の意地を見せる事は出来る。だからこの作戦が始められた。
「デグレチャフ中佐、軍司令部より入電です」
いわく、側面を守るコミーの部隊が破られた。突進する我々、前衛は分断され敵中に孤立しつつあるとの事だった。
そして私の戦闘団は
「はぁ!?」
ここは連邦の領内であるから、尻拭いはコミーの連中に任せていた。我々、帝国軍が前進し敵を打通する。だからコミーは分離派の反撃から両翼を守り、第IV軍団を中核とするシュラー軍支隊の兵站維持は保証される。そう言う約束だった。
敵地で支援無し、補給も途切れるとか洒落にも成らない。コミーの連中が後方連絡線を回復出来るかと言えば、分離派を自力で排除出来ない時点でお察しすべきレベルだろう。
鉄道や道路が破壊された程度なら復旧すれば良い。
「まじむりぽ……」
コミーがここまで無能揃いとは……ジョンブルの連中なら安心して背中を任せれたのだが無い物ねだりはできん。これでは先が思いやられる。連中、戦争に勝ちたいなら足だけは引っ張ってくれるなと声を大にして言いたい。いや、上にはきっちり報告しておく。
「大隊長殿?」
コミーの連中に期待出来るか? 答えは否。
では後退すべきか? 自力での後退は可能だろう。だが作戦の放棄は論外だ。
これまでの勝ち分を帳消しにしてしまう。
「多分むりぽ……」
前進を続けるには消耗品も足りない。干上がるのは時間の問題だろう。さてさて、どうすべきか。
「デグレチャフ中佐!?」
ん、何だかセレブリャコーフ中尉の焦る声が聴こえる。
焦る。焦りは相対的優位性も欠ける行為だ。
そうだ、焦って撤退した様に偽装してやればどうだ。この地域は敵にとっても味方にとっても黄金を生み出す土地に成っている。分離派にとっては少々無理をしても手に入れたいはずだ。上手く行けば勝利条件を達成出来るだろう。
「注目。我が戦闘団は、身ぐるみを剥がされる前に占領地域を放棄する」
ざわめきの声をあげる部下達に混ざって、連邦から派遣されて居た連絡将校の同志フルフルチョフも不満そうな顔色を浮かべた。お前らコミーの尻拭いだぞ。
「しかしそれではレルゲン大佐の命令に反する事に成りますが」
任務遂行の為に最も効率的な方法は何か。その事を説明する。
「気に入らないか? 敵は我々の好みに合わせてくれる訳では無い。任務遂行の為だ。『今日の仕事は明日に回す』そう言う言葉があったはずだ! 取って守れと言う命令を守れない。ならば敵の手に委ねた後から取り戻しても良いのでは無いか。それならばレルゲン大佐の命令に反さない。そして何よりも皇帝陛下よりお預かりした諸官達、帝国の兵を損なわず家族の元に返してやれるだろう」
やられたら倍返しでやり返す。一時的に敵に占領地域を預けておくだけだ。そもそも土地を占領する事が最終目的では無い。あの忌々しい次元航行艦を沈める事が目的だ。
部下には、帰ったら戦利品のグルジョアワインを奢ってやると発破をかけておいた。こんな所だ。