【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年 作:バイル77
「さて、これから僕達は現ザフト陣営に電撃戦による強襲を仕掛ける、傭兵である君達はこの3名を討ち取ることを第一に考えて欲しい」
バルトフェルドの言葉と同時に彼の背後にいた女性士官が手に持っていたタブレットを操作する。
すると背後にあったモニターに映像が移る。
そこに映るのはシンにとっては因縁の相手達であった。
C.E.の聖剣伝説とも言われるMSパイロット、【キラ・ヤマト】
無限の正義の体現者であり理想の軍人とも言われる、【アスラン・ザラ】
2度の大戦を終結に導いた、現プラントのトップである平和の歌姫、【ラクス・クライン】
「キラ・ヤマト、アスラン・ザラ、ラクス・クライン……今のザフトはこの3人に支えられているといってもいい、この3人を討ち取れれば僕達の勝利だ」
彼がそう告げるがシン達の表情は暗い。
その理由は――
「ちょっと待ってくれ、まずどうやってその3人を引っ張り出すんだ?」
叢雲劾の隣にいた美形のコーディネーターであり、傭兵としてのシンの先輩でもある【イライジャ・キール】がバルトフェルドに質問する。
そして劾も口を開く。
「それにその3人を引きずり出せたとして、MSや戦艦の相手はどうする? 戦力比率は絶望的なはずだ」
そう、どうやってこの3人を引っ張り出すかである。
メサイア戦役時とは異なり、今の彼らは軍のトップや重要職についている。
そして劾の言うように仮に引きずり出せたとしてもザフト全軍と相対することになるのだ。
「戦力比についてだけど、ここにはコーディネーターだけではなくナチュラルの同志もいるからね、そうでしょう、モーガン氏、エドワード氏?」
バルトフェルドがそう言って壁際に立っていた【切り裂きエド】こと【エドワード・ハレルソン】と、【月下の狂犬】こと【モーガン・シュバリエ】に問いかける。
エドの隣には【白鯨】の二つ名で知られる【ジェーン・ヒューストン】が寄り添うように立っていた。
「ああ、俺達には解体された連合へのコネがあってな、今も反抗の機会をうかがっている連中ならいくつも知っている……そいつ等にもMSや型遅れだが戦艦がある、戦力比は互角とまでは行かないだろうがそれなりの数値にできるはずだ」
「そうそう、特にモーガンのおっさんは俺と違ってマジモンの英雄だからな、おっさんが声かければすぐに集まるって奴等ばっかだぜ?」
「言ってくれるな、エド……それに俺たちの叛乱と合わせて地上でも同じように蜂起が予定されている、そちらについても問題はない、話はつけてある」
フレンドリーな口調で話すエドに少し照れたような拗ねたように返すモーガン。
2人の回答に質問をした劾はふむと納得したかのように頷いた。
「ザフト側のMSや戦艦についてはこの数年、予算不足が続いていてね」
世界から争いの種を取り除く鎮圧作戦、軍事支出増加に伴う増税に次ぐ増税。
しかしそれでも軍事支出を賄う事はできずにプラントの経済は冷え切り、一般労働者の賃金は日常生活にも貧窮するレベルまで低下してしまっている。
「だからOSやシステム周りのアップグレードが少々行われているだけで新型の開発などは全く進んでいない、ほぼメサイア戦役時と同等と考えてもらっていい。まぁ、数機は新しいMSがロールアウトされているが、戦力の拡充については問題ない。さて、質問はどうやって彼等を引っ張りだすか、だったね? それには1つ策があってね」
そう言ってバルトフェルドはシンに視線を合わせる。
「シン、君がこちらの陣営にいることを宣戦布告として流せばいいのさ」
「……俺を餌にして引っ張り出すって事ですね」
「そう、君には悪いがこれがベストだと僕は思っている。なぜなら君は彼等にとって最も脅威になる存在だ、力でしか語れない彼等は必ずこちらの誘いに乗ってくる、しかも自身の手で直接ね」
彼の言葉から少しだけ悲しさの様なものが滲んでいたがそれは今は無視を選択する。
「……分かりました、ただ俺そういうのやったことないんですが」
「ああ、台本とか演出は全部こちらでカバーするから、君はただそのとおり演じてくれればいい」
台本や脚本はもうしばらくかかるようで、準備が出来次第シンによる演説の映像を撮るとの事だ。
「さて、他に質問はあるかな?」
バルトフェルドが室内の人間を見回す。
そしてうむと頷く。
「作戦の詳細については後ほど伝えさせてもらう、それまで各々用意した部屋があるから待機していてほしい。まあ、数週間ほどかかるかもしれないが、それなりの施設は用意してるよ。 それとシン、そして赤鳥傭兵団の皆には渡すものがあるからついてきてくれ」
バルトフェルドがそう言ってミーティングルームから出て行く。
それに首をかしげながらもシン達は彼の後を追っていく。
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シリウス1 MS工場 アマデウス内 第1MS格納庫
バルトフェルドに案内されたシン達はMS格納庫に案内されていた。
その理由はMS格納庫に入った時点で判明した。
シン達の目の前に存在しているMS。
それはシン達にとってとてもよく知っているMSであったからだ。
血の涙を流すような特徴的な頭部に、背部に備え付けられている紅い翼。
VPS装甲が搭載されているため灰色に染まった機体。
運命の名を冠したその機体の名前は――
「【デスティニー】……?」
そう、彼らの目の前にあるMSはかつてシンが搭乗していた【ZGMF-X42S デスティニー】であった。
「その名称は今のこの機体には相応しくないわね、シン・アスカ君」
シンの呟きに女性の声が返す。
MSの整備用モニターの前に緑髪の女性が立っており、その女性がシンに話しかけてきたのだ。
「貴女は……?」
「私はロミナ、【ロミナ・アマルフィ】……このMS、【ZGMF-X42NEX デスティニーガンダム・ヴェスティージ】の開発責任者よ」
「アッ、アマルフィってあの、【NJC】を開発した【ユーリ・アマルフィ】のっ!?」
MS整備士であるヴィーノがロミナの名前に反応して大声を上げる。
彼の隣で後輩整備士も驚いた顔をしていた。
MS整備士の為技術的な造詣が深い彼等にとってその名前は特別なものだ。
C.E.では【
それを開発したのはロミナの夫、【ユーリ・アマルフィ】であるのだ。
「ええ、ユーリは私の最愛の夫よ」
「でも確かユーリさんは……あっ、すいません……」
「……いいのよ、それが事実だから」
ヴィーノが思い出したかのように謝罪する。
ユーリ・アマルフィはすでに故人であるからだ。
その死因は自殺、一説によればNJC搭載MSが強奪されたため精神錯乱を起こしての自殺とも言われている。
「……もしかしてこの機体を俺に?」
「ええ、貴方しかこの機体を託せる人はいないのよ、シン君」
シンを見つめるロミナの目に負の感情が宿るのをシンは見逃さなかった。
その感情は憎悪、おそらく復讐の為にこのMSを作り上げたのだろう。
「歌姫の騎士団の二振りの剣を叩き折ることができるのは貴方しかいない、このMSを使って頂戴、シン君」
「……分かりました」
しかし受け取らない選択はない。
正直現在の搭乗機体であるウィンダムではストライクフリーダムやインフィニットジャスティスを相手にするのは無理がある。
だがデスティニーならば勝率は跳ね上がる。
シンの返答を聞いたロミナの顔に笑みが浮かぶ。
40代とは思えないレベルで若々しいと赤鳥傭兵団の数名が内心考えたが話は進んでいく。
「それではこの機体のスペックの説明をしますね」
ロミナからこの機体、【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】の詳細スペックが説明されていく。
機体の最大の特徴はデスティニーのコンセプトであった【1機で全領域を対応する機体】から【超高速機動による強襲】に変更されている点だ。
機動力を極力損なわないために【アロンダイト】や【高エネルギービーム砲】は取り外されており、対MS戦を重視しているためか取り回しのいいビームサーベルが装備されている。
また背部の大型機動翼【VLユニット】は光圧推進機能しか搭載されていなかったデスティニーの近似種とは異なり、エネルギー操作機能が搭載された正真正銘のVLユニットとの事だ。
「シン君、君はこの数年ウィンダムで傭兵を続けていたのですか?」
スペックを確認しているとロミナがシンに尋ねてきた。
「ええ、ウィンダムは素直な機体でしたよ」
「確かに連合のMSの中では良作ともいえますが……デスティニーと同レベルの超高機動戦闘はメサイア戦役後からないという事ですね?」
「……ええ、つまりは身体を慣らせってことですか?」
「はい、訓練の申請はバルトフェルドさんに……あら、イザーク君?」
ロミナがふと視界に移った白銀の髪にザフトの白服を纏った青年に声をかける。
【イザーク・ジュール】、ザフトでも指折りの部隊であった【ジュール隊】を率いていた人物だ。
「ロミナさん、少々彼らをお借りしたい」
「……ええ、私はいいけど……」
チラリとシン達に視線を合わせる。
「いいですよ、ちょうど話もしておきたかったですから」
シンが横目で仲間たちを見る。
アビーを筆頭に何名かが顔に怒りの感情を浮かべていた。
「感謝する、ならば着いてきてくれ」
「シン君、終わった後にガンダムの慣らし、お願いしますね」
ロミナの言葉に頷いた後にイザークの後についていく。
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シリウス1 MS工場 アマデウス内 レクリエーションルーム
シン達はデスティニーを受領した後、レクリエーションルームに集められていた。
その理由は共に戦う人物を見極めたいためだ。
「久しいな、シン・アスカ」
「イザーク・ジュール隊長……でよかったですかね?」
白銀の髪にザフトの白服を纏った青年、【イザーク・ジュール】にシンが返す。
「……もう隊長ではないな、だが共に戦う仲間として……」
「私は信用することはできませんね」
嫌悪の感情が多分に込められた視線と共にアビーの言葉がイザークの言葉を断ち切った。
「彼等はメサイア攻防戦の際にこちらの陣営を裏切っています、今回も裏切らないとは限りません」
「アビー……」
シンもヴィーノもその他団員もそれは同じ気持ちであった。
メサイア攻防戦の折、イザーク率いるジュール隊は当時のデュランダル政権下のザフト軍を裏切って歌姫の騎士団側についている。
ジュール隊の裏切りの真相は未だに闇の中とされ、様々な噂が飛び交ったこともあったが結局は有耶無耶になっている。
「……そういわれても仕方のない事をしたのは分かってはいたが、実際に言われるとまた……きついな」
イザークが自嘲の笑みを浮かべつつ口を開く。
彼の隣で副官であるシホ・ハーネンフースの表情が曇る。
「あのときの裏切り……部下の為と言っても信用されようもないか」
「部下の……為?」
「……ああ、メサイア攻防戦が始まる前にクライン派、つまり歌姫の騎士団側から接触を受けてな、ザフトから寝返りこちら側につけば今後の進退は約束するとな」
当時を思い出すかのようにイザークは瞳を閉じる。
「当初は突っぱね、参戦した。議長にはかつて救ってもらった恩義があったからな……だが新型フリーダムとジャスティス、歌姫の騎士団の戦力によるメサイアの陥落は目に見えてしまった」
瞳を開いたイザークが再度シン達を見つめる。
「多数の部下の命と進退、議長への恩義……俺は部下達、こんな情けない男についてきてくれた部下を選択したのだ」
語られた真相にシンやアビーの口から言葉は出なかった。
軍と傭兵、職は違うがシンやアビーも赤鳥傭兵団のトップと幹部である。
部下の今後の為、彼が相当悩んだことも理解できたからだ。
「……アビー」
「なんですか、シン?」
少々不機嫌そうにアビーはシンを見つめる。
「……俺はイザークを仲間として信用するよ」
「……裏切られない保証はないんですよ?」
「それでもだよ、俺はイザークがちゃんと周りを見れてる人間だって思う、それに万が一裏切ったら……俺が彼を落とすよ」
「……分かりました、分かりましたよ、シン」
シンがアビーに告げるとアビーも渋々と了承の意を返す。
それにニコッと笑みを浮かべるとシンはイザークに視線を移す。
「イザーク、こっちは信用するって決まったよ」
「……本人の目の前で言ってくれるじゃないか、シン・アスカ」
「……それくらいの覚悟があってのことだろ? 」
「当然だ、俺が不審だと思ったら迷わず落とせ、シン」
「分かった、よろしくな、イザーク」
シンが右手を差し出す。
それに答えてイザークも右手を差し出し、握手する。
「そういえば、エルスマンとかいう副隊長はどうしたんだ?」
その様子を見ていたヴィーノが思い出したかのように告げる。
「ヤツは……」
ヴィーノの言葉にイザークの表情が曇る。
それを察してかシホが代わりに口を開いた。
「エルスマンはここにはいません、彼は歌姫の騎士団側に付きました」
「あれ、でも確かジュール隊隊長とそのエルスマンって人は相棒だったんじゃ?」
「……ええ、そうです、ですが彼にも守るべき人がいるんですよ、それが歌姫の騎士団側だった、それだけです」
「……そっか、分かったよ」
ヴィーノがシホの言葉に頷いて答える。
「シン、そういえば受領したデスティニーの慣らしは済んでいなかったのではないか?」
「ああ、この後カナードか劾さんに頼もうかと思ってた」
「……ならその慣らし、俺が手伝おう」
「え、イザークがか?」
「ああ、俺にも【新型】があってな、俺もまだ慣らしが済んでいなかったのだ、どうだ?」
イザークの言葉に少し考えたシンであったが頷いてから答える。
「……なら手伝ってもらうかな」
「そうか、ならば1時間後に第3区画を訓練用に申請しておこう、ビーム兵装は外して置けよ」
「分かった」
そう言ってシンとイザークはMS用格納庫に向かう。
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シリウス1 MS工場 アマデウス内 第1MS格納庫
『シン、申請が通りましたので出撃可能になりました』
通信コンソールに映るのはアビーだ。
やはり顔見知りであり信頼できる仲間である彼女がオペレートしてくれるのは安心できる。
『分かった』
返答と同時に起動のシークエンスを開始していく。
コックピット内の各種コンソールが起動して点灯していく。
システムの起動共に中央のディスプレイがポップアップして、OSが起動していく。
Gunnery
United
Nuclear-
Deuterion
Advanced
Maneuver
System
Ver.2.52 Rev.32
ZGMF-X42NEX DESTINY GUNDAM VESTIGE
OSの起動が確認され、デスティニーはカタパルトに向け移動が開始される。
訓練区画のカタパルトに接続されたことを確認したシンは繋がったままであったアビーにコールする。
『アビー、またこれからよろしくな』
『ええ、当然ですよ、シン……それでは発進どうぞ』
アビーの言葉と同時にコンソールに各種コンディションOKが表示され、出撃可能状態に移行した。
『シン・アスカ、デスティニーガンダム・ヴェスティージっ! 行きますっ!』
シンのコールと共にカタパルトからデスティニーが射出される。
同時に全身のVPS装甲に通電され、デスティニーは灰色から姿を変える。
全身の装甲が黒色。
特徴的な大型VLユニットの機動翼や一部関節装甲はまるで血の色の様な紅色に。
スラスターを全開にしてデスティニーはコロニーの空を翔る。
正義の剣に叩き折られた翼はこの日――この瞬間、傷跡の名を背負って再び蘇ったのであった。
種シリーズはMSのOSが起動して頭文字がガンダム読みになるって演出は大好きです。
シン最後の搭乗機となる【デスティニーガンダム・ヴェスティージ】を受け取り、逆襲のシンへと近づいて行きます。
過去編と番外編を交互に更新していると、同一人物なのにC.Eの世紀末具合がよく分かって複雑な気分になりなりました。
追記:一部ならび直しましたので再投稿です、申し訳ありません。