【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE8 明日への決意

襲撃と同日――深夜

 

更識家 蔵人私室

 

 

「私が感じていた違和感というのはラウの事だったのか……しかしまさか女性になっているとは思わなんだよ」

 

 

自室のPCを操作しつつ、一人蔵人は愚痴る。

すでにIS学園の真から連絡を受けており、学園が襲撃された事は蔵人の耳にも届いていた。

 

 

「フランスの代表候補生フレイ・シュバリィーの誘拐か、ラウの立場ならばいつでも出来たはず。この行動にも意味があるはずだ」

 

 

PC上にはラウ・ル・クルーゼこと【ライリー・ナウ】のパーソナルデータとフレイのデータが表示されている。

そこから何か得られるかと思って調べているが、別段有力な情報ではなかったようだ。

 

一息つくために、緑茶の入った湯飲みに手を伸ばす。

それと同時であった。

ディスプレイ上にメールが届いたアイコンが表示された。

 

 

「……ミスターM?」

 

 

そのメールの件名は【ミスターMからのヒント】

 

思わず件名の名前を確認してしまった。

悪質な迷惑メールにも見れるモノであった。

 

だが蔵人が使用しているPCの宛先を知っている。

しかもセキュリティソフトを介さずに送ってきたという事実に興味がわいた。

 

メールを開く。

本文には何も書き込まれていないが、ファイルが1つ添付されていた。

 

 

「……」

 

 

ファイルを開くとそれは座標と地図のデータ。

太平洋のど真ん中をそのデータは示していた。

 

 

「……これはっ!」

 

 

データを見た瞬間、蔵人の脳裏に電流が奔った。

すぐさま内線に手を伸ばし、部下を動かす。

 

 

「……罠、だろう。だが今はこれを確かめる事が先決か」

 

 

部下に指示を出した蔵人はそう呟いて自身も確認の作業に取り掛かった。

 

 

同じ頃――

IS学園でも動きが見られた。

 

 

「……ん」

 

 

空間投影ディスプレイを凄まじい速度で操作していた束の手が止まる。

ディスプレイにメールが送られてきた旨の表示が現れたからだ。

 

 

「……ミスターMゥ?」

 

 

怪訝な声を出した束で合ったが、その数秒後には表情を引き締めていた。

 

 

「……これって……っ!」

 

 

進捗が芳しくなかった情報収集に光が見えた。

そう感じた束のタイピングは先程よりも軽やかであった。

 

――――――――――――――

襲撃から一夜明けて ラキーナ 自室

 

 

「……」

 

 

自室でラキーナは蹲り、一睡もせずに虚ろな瞳で天井を眺めていた。

ライリー、否、クルーゼに完全に敗北し、目の前でフレイを奪われた。

 

かつてキラ・ヤマトが守れなかった彼女を、今度こそラキーナ・パルスとして守ろうと思い始めた矢先の出来事だ。

全力で相対したが、相手には一撃すら与えることができなかった。

そのショックは計り知れないものであった。

 

 

「……私はやっぱりだめなのかな」

 

 

何度目かの弱音を吐いた時であった。

自室の扉がノックされた。

 

今は誰にも会いたくなく、億劫なラキーナは無視を選択した。

しかし、数分経っても扉を叩く音は消えない。

 

すこしイラつきながらも、ゆっくりと扉に向かい開く。

 

 

「……誰?」

 

「俺だ、ラキ」

 

「……兄さん」

 

 

扉を開くと、そこには兄であるカナード・パルスがいた。

その右手にはゴーグル型のデバイスの様なものと、ISスーツらしきスーツが握られていた。

 

 

「……何の用?」

 

「いつまでそうやって腐ってるつもりだ。やるべき事はわかっているはずだ、そうだろ?」

 

「……っ」

 

 

ずきりと胸に突き刺さる言葉。

フレイを救出するために立てと彼は言っている。

だが――

 

 

「……私じゃクルーゼには勝てないんだ。一撃すら与えられなかったんだよ?S.E.E.D.も発動してた、なのに……なのに……!」

 

 

弱音が心から溢れ、声に嗚咽が混じる。

これほどまで無力さを感じたのは、初めてだ。

キラ・ヤマトがフレイ・アルスターを失った時以上の無力さを今感じている。

 

同時に感じているのは恐怖だ。

次に相対した時にはフレイをまた失うかもしれない。

無力さと恐怖が負のサイクルをラキーナの中に作っていた。

 

嗚咽をこらえる様に俯いてしまった妹の様子に、ため息をついたカナードであったが少し考えた後、口を開いた。

 

 

「……【生きている内は負けじゃない】」

 

「……え?」

 

 

兄の言葉に顔を上げる。

涙でくしゃくしゃになったその顔にカナードは苦笑していた。

 

 

「確かにお前はクルーゼに負けた、完膚なきまでにな。だがお前は生きている。そして敵の能力も把握した。ならばやれることをするべきだ。次に戦って勝つために、勝ってフレイ・シュバリィーを奪い返すためにだ」

 

「……兄さん」

 

 

カナードはそうラキーナに告げて手に持っていたデバイスとスーツを放り投げる。

驚きながら投げられたデバイスとスーツを受け止める。

 

 

「束が一晩で作ってくれた。ドラグーンかBT適性の高い人間に渡せ、そうすれば勝機はある」

 

「……私にできるかな」

 

「さぁな、だが腐っているよりは足掻いて可能性を掴む事に賭けるべきだ」

 

「……強いなぁ、兄さんは」

 

 

受け取った物を確認しながら、薄く笑みを浮かべる。

 

 

「何かあれば言え。俺はこれから束を手伝いに行く。ラキ、お前はどうする?」

 

「……足掻いてみるよ、私も」

 

 

涙をぬぐってからカナードに告げる。

 

 

「私が、フレイを助ける……今度こそ絶対に、守ってみせるっ!」

 

 

そう告げた彼女の目は確かな信念の光が宿っていた。

 

――――――――――――――

数十分後 ブレイク号 マドカ私室

 

かつて歌姫の騎士団に所属し、セシリアによってとらえられた少女、コードネーム【M】

本名、織斑マドカはアスランと同じくブレイク号で保護に近い軟禁状態にあった。

 

 

「クロエ姉さんは……まだ意識不明、見舞いに行きたいが私が行くと余計な混乱が起こりそうだな。夜行けるか交渉してみるか」

 

 

生体支配が解け、ラクスに絶対のカリスマを感じるよう調整されていた彼女の人格は本来のモノに戻っている。

またその出自のせいかクロエには近しいものを感じていたらしく、彼女の事を姉の様にも感じていた。

そんな彼女がカナードをかばって重傷を負ったことは彼女の耳にも届いており、心から心配していたのだ。

 

そんな時であった。

ドタドタと物音が近づいてくる。

部屋には防音機能もあるのだが、所詮は船。

どうしても振動は伝わってしまう。

 

 

「……なんだ?」

 

 

首をかしげていると、部屋の扉が勢いよく開かれた。

それこそ扉を破壊するような勢いでだ。

 

 

「マドカちゃんっ!!」

 

「うわぁっ!?」

 

 

部屋に入ってきたのはラキーナだった。

かなり息が荒く、汗を滝のように流して肩で息をしている。

その手には大きめの手提げ鞄

 

「ぜぇ……寮から……ここまで……遠いね、やっぱり……ぜぇっ……!」

 

 

長距離を全力疾走したためか、脇腹がひどく痛む。

そのため、崩れ落ちる様に膝を付いてしまった。

 

 

「そっ、そんなに全力で走ってきたのか、ISを使えばよかったのに」

 

「スっ、ストライクは今束さんに預けてて……そんなことよりも、マドカちゃんにお願いがあって……おぇ……っ!」

 

 

ゲホゲホとむせる。

その様子をみたマドカは彼女の背中をなでる。

それにありがとうと返した後、つばを飲み込んだラキーナが続ける。

 

 

「単刀直入に言うよ、マドカちゃんの力を貸してほしいんだ」

 

「……亡国、スコール達と戦うために私の力がいるわけか」

 

「うん。自分勝手なお願いだって言うのはわかってる。けどどうしてもマドカちゃんの力がいるんだっ!お願いっ!」

 

 

そういって彼女は土下座して頭を下げる。

ゴッと床に額が当たったが些細な事だ。

 

 

「っ、いや、土下座なんて……」

 

「私ができることならなんだってするからっ!だからっ……!」

 

 

ラキーナの勢いに少し苦笑しながら、彼女の肩に手を置く。

 

 

「正直なところ、ラキーナ達には私は恩を感じてる。私を洗脳していいように使ってくれたからな、協力する。それにクロエ姉さんの敵討ちも兼ねてるからな」

 

「っ!ありがとうっ、マドカちゃんっ!」

 

 

勢いよく顔を上げたラキーナはうれし涙を浮かべていた。

 

 

「だが私の力といっても……今の私にはISは無いぞ?」

 

「うん、分かってる。でもこれがあるんだ」

 

 

そう言って手に持っていた手提げ鞄から、先程カナードから受け取ったデバイスとスーツを取り出す。

 

 

「これを使って、私とマドカちゃんの身体をつなげるんだ」

 

「……は?」

 

 

ラキーナの言葉に思わず声が漏れたマドカであった。

 

――――――――――――――

同日 IS学園 第3アリーナ Aピット

 

 

『よし、視界センサーとストライクとのリンク完了。どう、見える?』

 

『ああ。ただ。自分が浮いているように見える。これは慣れなければ』

 

 

ブレイク号の整備区画内で特殊なゴーグルとセンサーを内蔵したISスーツを身につけたマドカが、第3アリーナ上空で浮かんでいるストライク、ラキーナに通信で告げる。

マドカの身に着けているISスーツから延びるコードは大破したXアストレイに接続されている。

Xアストレイを媒介にストライクに接続しているのだ。

 

 

『あまり無理はしないでね』

 

『いや、大丈夫だ。それに向こうは準備万端の様だぞ』

 

『準備はよろしいですか、ラキーナさん?』

 

 

相対しているのはセシリアが駆るブルー・ティアーズ。

自室で待機していたところ、訓練に付き合って欲しいとラキーナに頼まれたのだ。

 

情報収集は束が行っており、手持ち無沙汰であった事と雰囲気が変わった彼女に興味を持ったため、快諾したのだ。

 

 

『お願いします、セシリアさん』

 

『ええ、それでは行きますわよっ!』

 

 

ティアーズが切り離され、まるで生きているかのようにラキーナに向かって飛翔していく。

後方に加速しつつディスプレイを残像が残る速度で操作し、リアルタイムでプログラムを書き換えていく。

 

 

『センサー、マニピュレータ、スラスターのリンク開始、接続対象のXアストレイとのリンク形成、搭乗者認証問題なし!ユー・ハブッ!』

 

『アイ・ハブッ!借りるぞっ!』

 

 

ガグンと一瞬揺れたストライクであったが、すぐさま迫るティアーズから距離をとった。

それを追うように、360度全方位に展開したティアーズからレーザーが放たれる。

 

 

『速いが見えているっ!』

 

 

だがそれをまるで見えているかのようにストライクはAMBACで回避した。

 

 

『ならばこれはどうですっ!』

 

 

球を描くように展開され、次々と放たれるレーザーも最小の動きで、防御が必要な際はシールドを適宜展開して捌いていく。

 

今のセシリアのティアーズ捌きは国家代表、ヴァルキリーでも回避が困難なレベルに達している。

ラキーナ単体ではS.E.E.D.も発動していない今の状態では本来はなすすべもなく、高機動でティアーズに射撃をさせないよう動き回る必要がある。

 

だが、今の彼女は一人ではない。

マドカがいる。

 

マドカのドラグーン適正は現状のセシリアより少々劣るレベルである。

セシリアのティアーズを正確に感知して、Xアストレイを通じてストライクの機体を遠隔操作する。

 

ドラグーン適性のないラキーナはその際、強制的に体をISに動かされている状態であるが、搭乗者保護が効いているため負荷は少ない。

これがライリーの【ロキプロヴィデンス】に対する攻略法。

S.E.E.D.状態でも適性自体が存在しないため、ドラグーンを感知するにはどうしても適性持ちよりも遅れてしまう。

ならばドラグーンの感知と回避は別の人間が担当すればいいというのがライリーのISの能力、言うならば【瞬間展開】への対処方法だ。

ロキプロヴィデンスの能力は1対1での戦闘では無敵に近い。だがそれが2対1に変わったのならば勝機はある。

 

 

『……成程、こういう事でしたのね。マドカさんが、ラキーナさんを通してストライクを操って回避しているのですね』

 

 

一旦ティアーズを自機に戻して深呼吸したセシリアがラキーナに尋ねる。

フレキシブルを使えばいかにマドカが操っているとはいえ、ダメージを与える事は可能だ。

しかし今回の訓練はあくまでクルーゼへの対処法を身につけるためのものだ、使う必要はない。

 

 

『ええ、身体が勝手に動くのはちょっと違和感ありますが……元は兄さんがあったことのあるジャーナリストの方が取った戦法なんです。その人は機体の目になって、メインのパイロットを補佐してたらしいです』

 

 

ラキーナの言葉になぜか、セシリアは苦笑に近い表情になっていた。

それを不思議に思ったラキーナが尋ねる。

 

 

『どうかしたんですか?』

 

『……C.E.という世界はジャーナリストも兵器を持っているのですね』

 

 

真やカナード、そしてラキーナの話からセシリアのC.E.世界に対するイメージはかなり悪くなっている。

絶滅戦争が2度も起こり、火薬庫に変わった世界。

最近友人である簪から借りて読んだ漫画の影響か、荒れ果てた荒野をならず者たちがバイクやMSに乗って奇声を上げて闊歩しているような世界を彼女はイメージしているのだ。

 

 

『……そうしてしまった当事者の1人としては何も言えないですね、はは……はぁ』

 

『笑ってる場合か、さっさと訓練を続けるぞ。ラキーナ、身体から極力、力を抜いてくれ、少し違和感がある』

 

『っと、分かったよ。すいません、セシリアさん。もう一度オールレンジ攻撃、お願いします』

 

『分かりましたわ。次はもう少し、複雑に動かしますわよ?』

 

『ええ、お願いしますっ!』

 

 

ラキーナの声とともに、セシリアがティアーズを切り離す。

この後辺りが暗闇に包まれるまで、彼女達の訓練は続いた。

 

――――――――――――――

時間は少し前後して――

 

――意識が浮かんでくる。

 

目を開けると目の前に綺麗な花が咲き誇っている。

 

見渡す限りの花畑。

一面に様々な種類の花が咲き乱れ、風が吹けば花びらが舞っている。

とても心地よい風と花の香りが鼻腔をくすぐる。

 

 

何度か訪れた事のある、見知った空間。

そこにジャージ姿の真が立っていた。

 

 

「……またここかよ」

 

 

呆れたような声でそう呟くと、背後に気配を感じた。

振り向くと、そこには自身のISの人格である金髪の少女が立っていた。

 

だが以前とは少し様子が違っていた。

 

 

『ようこそー、ってもう慣れちゃったかぁ』

 

「まぁな……あれ、デスティニー、髪の毛……いや、雰囲気変わったよな?」

 

 

そう、セミロングであったデスティニーの金色の髪が、今や腰あたりまで伸びている。

それに何処か成長したようにも見える。

自分よりも明らかに年下だった容姿が今や同年代のようにも見える。

 

 

『あ、気づいてくれた?そうなのっ!エクスカリバー事件の時、あの分身操作の時くらいかな!真との結びつきが強くなったからかも』

 

 

えっへんと何故か胸を張ったデスティニーに苦笑していると背後に気配を感じた。

振り返るとそこには、自身の最愛の人が立っていた。

自分とは異なりIS学園の制服姿でだ。

 

 

「あれ、真?」

 

「え、なんで簪がここに?」

 

 

簪が何故此処にいるのかと疑問の声を上げる。

 

 

「えっと、襲撃後の情報共有が終わったら自室で待機してたんだよね?」

 

「ああ。蔵人さんに襲撃の事を伝えた後は俺も睡眠とって置こうかなって」

 

「うん、私もそうなんだけど……」

 

『呼ばれたのですよ、私たちは』

 

 

簪の横にふわりとワンピースを着た黒髪の少女が現れる。

エクスカリバー事件の際に協力した、簪のIS【飛燕】の人格コアだ。

 

 

「飛燕、呼ばれたって?」

 

「えっ、飛燕って私のIS……?」

 

 

真の言葉に簪の顔に驚愕が浮かぶ。

それにはっと気づき、飛燕が笑みを浮かべた。

 

 

『はい、簪様。その飛燕のコア人格が私です。そういえば、エクスカリバー事件の時はゆっくりとご挨拶もできませんでしたね、失礼しました』

 

「金髪の方が俺のISのコア人格【デスティニー】」

 

『はい、簪お姉ちゃん!デスティニーです!よろしくです!』

 

「すごいっ、すごいっ……ISにはこんなにはっきりとした意識があるんだ……っ!」

 

 

デスティニーと飛燕の自己紹介に簪が目を輝かせていた。

元々技術に秀でた彼女である。

また彼女がよく見るヒーロー物、勇者ロボアニメなどでよく人と同じように喜怒哀楽の感情を持ったAIたちが出てくるのだ。

彼女が興奮してしまうのは仕方が無いだろう。

 

そんな彼女達に声をかける存在がいた。

 

 

「あら、真君に簪ちゃん?」

 

「ほう、真と簪もいるのかね」

 

「「え?」」

 

 

振り返るとそこには簪の姉である更識楯無――刀奈が簪と同じように制服姿で立っていた。

その後ろには和服姿の蔵人もいる。

 

 

「お姉ちゃんにお父様っ?」

 

「はぁい、貴女のお姉ちゃんの刀奈よ。それでここ、どこなのかしら。綺麗な花畑ね」

 

 

疑問を浮かべる真が現状を刀奈と蔵人に伝える。

そしてデスティニーと飛燕に視線を移した刀奈が少し肩を落として口を開いた。

 

 

「えー、なんで【霧纏の淑女】はいないのよぉ」

 

『あー……』

 

『……』

 

 

デスティニーが苦笑しながら飛燕に視線を移す。

それを察したのか刀奈が尋ねた。

 

 

「え、何、そんなになの。私のISのコア人格って」

 

『そういうわけじゃないんです、ね、飛燕。そろそろアクセスの許可してあげなよ』

 

『いくら姉さんの頼みでも駄目です。向こうからのアクセスは当分許しません』

 

 

ぷいっと不貞腐れたような態度をとった飛燕に簪は苦笑していた。

 

 

(……あれだ、ペットは飼い主に似るってやつだろ)

 

(うん、霧纏は刀奈さんそっくりだから。飛燕も自我が目覚めた最初は受け入れてたんだけどね……)

 

 

思い出すように耳打ちで返すが、デスティニーは苦い笑みを浮かべていた。

 

 

「なぁ、デスティニー。さっき飛燕が呼ばれたって言ってたけど……」

 

『ああ、俺が皆さんを呼び込んだんだ、シン』

 

 

自分の疑問の声に返した男性の声とともに、視界に赤い影が映った。

それに視線を移すと、かつての戦友、非常に整った顔の美青年である【レイ・ザ・バレル】がザフトの赤服姿でこちらに歩いて向かっていた。

各々がそれに気づいて視線を移す。

蔵人は驚いたような表情であったが、簪と刀奈は初対面であるためか、誰と言う表情を浮かべていた。

 

 

『久々だな、シン』

 

「……レイ」

 

 

涙をこらえるように俯いた後、真は何故かレイから距離を取る。

大体10m程離れた所で一気に振り返りつつ全速力のダッシュに移行。

 

 

『何?』

 

 

突然の事でレイも反応が遅れた。

自体をまだ呑み込めていない簪と刀奈はさらに困惑していた。

 

真とレイの距離は約3m、そこで真は飛び上がった。

飛び上がった真は助走の勢いを前方宙返りでさらに強めて右脚を構えている。

 

ここでレイは真が何をしようとしているかを理解した。

だが遅かった。

 

 

「うぉりゃぁあっ!」

 

『ぐふぉっ!?』

 

 

十人中十人が間違いなく美男子と答えるであろうレイの顔面に真の飛び蹴りが直撃した。

硬いブーツではなくスニーカーだったがそれでも今の彼の身体能力は平均的な高校生を大きく上回っている。

つまりはかなりの威力であり、レイはたまらずぶっ飛ばされる事となった。

 

 

「しっ、真っ!?」

 

「なっ、何やってるの真君っ!?しかも滅茶苦茶綺麗に入ったわよっ!?」

 

 

突然の真の行動に2人が驚愕の声を上げ、蔵人は一人納得したかのように苦笑していた。

 

 

『ぐっ……一発殴られるくらいは覚悟していたが、まさか出会いがしらに飛び蹴りとは思わなかったぞ、シン』

 

「流石に言いたいことが溜まりまくってたからな。でもエクスカリバーの時はありがとう。おかげで簪を、エクシアさんを助けられた。だからキック一発で済ませた」

 

『ふっ、気にするな』

 

「俺は気にしないだろ?」

 

 

しりもちを着いたレイに手を伸ばして立ち上がらせる。

蹴りが直撃したためかレイは涙を浮かべているが、表情自体は笑顔であった。

 

 

『初めまして、ミス簪、ミス刀奈。俺はレイ、レイ・ザ・バレル。シンから聞いているかもしれないが……死人だ』

 

「……うん、貴方が真をC.E.からこの世界に送ったって。真の戦友……だよね?」

 

『ええ。ようやく心から大切にしたいと思える女性に会えたようで……友人として感謝を。ありがとう』

 

「それは私も。レイさん、貴方が真をこの世界に送ってくれなかったら、私は真に会えなかった。だから本当にありがとう」

 

 

簪の言葉にレイは笑みを浮かべる。

 

 

「え、初耳なんだけど。真君?」

 

「……そういえば刀奈さんには話してなかったですね、いろいろと省きますがレイがC.E.で死んだ俺をこの世界に送ってくれたんですよ」

 

「あらやだ、この露骨な贔屓。簪ちゃんには全部伝えてるのね」

 

「レイ、俺だけじゃなくて簪や刀奈さん、そして蔵人さんを呼んだのは理由があるのか?」

 

 

刀奈のジト目の抗議を無視して、レイに尋ねる。

 

 

『……ああ』

 

「やはり、ラウかね?」

 

『……ええ。俺の行動のせいでシンの魂にC.E.の人々の魂が引っ張られ、この世界に生まれ変わっている。ギル、あなたもシンに引っ張られた1人です』

 

 

レイの言葉に蔵人はうなずく。

 

 

「なるほどな、それならキラ・ヤマトやアスランも俺に引っ張られた訳だ」

 

 

真の言葉にレイが頷く。

 

 

『……そしてその中に、ラウがいたんだ』

 

「レイさん、彼女は何をしようとしてるの?」

 

『それを話すにはまず俺とラウのことを話さないとですね。俺とラウはとある人間のクローンなのですよ』

 

 

レイの口から出た言葉に簪と刀奈は驚愕の表情を浮かべた。

 

 

『クローニングは不完全でテロメアに欠陥があった俺達は、生まれながらにしてすでに短い時間しか生きることができないという運命に縛られていた』

 

「……レイさん」

 

 

簪が悲しそうな声を出す。

だがそれに少しだけ笑みを浮かべたレイが続ける。

 

 

『決まりきった定め……そのせいで俺やラウの感情の根底には世界と自分の運命への絶望がありました。俺は導いてくれる人、そして共に戦えた友人たちのお蔭で人間として死ねた。死ぬことができた。しかしラウは違う、彼は全く変わっていない』

 

「……だから世界を滅ぼすのか、クルーゼは」

 

『……ああ、できてしまうんだ。事実ヤキン戦役の終盤は彼が裏から操っていたという記録が残っていた。もっともそのせいでラウに自分たちの罪をすべて擦り付けた奴らもいたんだが……失礼、話がそれた』

 

 

手の仕種で話題を変える、とそう言った。

 

 

「この世界でも彼は変わらずか……レイ」

 

『恐らくそうだと思います。でなければ今回の様な行動は起こさないでしょう。彼は』

 

 

そう蔵人に告げたレイは真に視線を移した。

彼の瞳は何かを訴えるようなものであった。

 

 

「……レイ」

 

『シン、ラウを止めてくれ。お前にこんなことを頼むなんて勝手な事だとは重々承知している。だがこんなことを頼めるのはお前しかいないんだ』

 

「わかってるよ。できるだけやってみるさ。ただ、俺だけじゃなくて皆でさ」

 

 

そう返した真に怪訝な表情を浮かべる。

 

 

『……キラ・ヤマト、いやラキーナ・パルスに期待しているのか?』

 

「……ああ」

 

 

真の返答に舌打ちしつつ、レイは続ける。

 

 

『カナード・パルスの影響で随分と変わったようだが……俺はヤツを信用できない』

 

「そうだろうな。俺もキラ・ヤマトがやったことを許すつもりなんてないし信用もしないさ」

 

『なら何故だ?』

 

「……一緒に戦ったから分かるんだ。はっきりと今のアイツはキラ・ヤマトじゃないってな。だから俺はキラ・ヤマトとしてじゃなくてラキーナ・パルスとしてならアイツを信用できるんだ」

 

 

真の返答にレイはため息をついて苦笑を浮かべた。

 

 

『……分かった、お前がそういうならばそうなんだろうな』

 

「まぁ、まだ情報もつかめてはないけどさ」

 

「それなんだが、私が1つ有力な情報を掴んだよ」

 

 

真の言葉に蔵人が返す。

 

 

「本当ですかっ!?」

 

「ああ。レイ、これは夢なんだろう?」

 

『はい、夢を通じてギル達につながれている状態なんです』

 

「ならば起きた後だね、資料があったほうがわかりやすい話だ。私もIS学園に向かう、そこで話そう」

 

「……分かりました」

 

 

蔵人の言葉に真は頷いて返す。

するとレイの身体がうっすらと透けていく。

 

 

「レイ、身体が……」

 

『あまり長い間は干渉できないのですよ、ギル。俺は所詮死人ですから。意図はしていませんでしたが、あなたもこちらの世界で幸せそうに暮らせているようで本当によかった』

 

 

そうレイは笑みを浮かべる。

蔵人は笑みを浮かべたレイを抱きしめる。

 

 

『ギッ、ギルッ!?』

 

「……レイ、私は君の事を息子の様に思っている。君は自分の行動に責任を感じているようだが、私は感謝しているんだ。愛する妻も娘も2人できたんだ。本当にありがとう」

 

『……っ、ギル……っ!』

 

 

蔵人の言葉にレイは目尻に涙を浮かべ、言葉に詰まる。

それを見た刀奈が歩み寄って告げる。

 

 

「なら、レイ兄さんって呼んだほうがいいかしら?」

 

『ミス刀奈……』

 

「貴方はお父様の息子、なら私は貴方の妹ってことよ、レイ兄さん」

 

「お兄様……何か新鮮」

 

『ミス簪まで……』

 

 

刀奈と簪が微笑みつつ、レイに告げる。

 

 

「レイ兄さん、ラウ・ル・クルーゼのことは私達に任せて」

 

「うん、真に協力するから……信じて、レイお兄様」

 

『……なら、頼もうかな。俺の友人と妹達に……』

 

 

刀奈の言葉にレイは目尻に溜めていた涙を零して笑みを浮かべた。

 

 





モモリュウ、タツロット、レムと考えると特撮関連に出てる方が多いなって。


次回予告

「PHASE9 深遠への出撃」


「覚悟は出来たか?」


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