【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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PHASE10 黄昏の魔弾

海洋プラント近海

 

IS学園から出港したブレイク号は判明した座標の付近に接近していた。

後数十分で座標に到着できる距離だ。

 

今回の作戦で突入する海洋プラントは大きく分けて7つの塔状の建造物で構成されている。

 

表向きの海洋開発の為に使用されている研究に使われる【偽装区画】が2つ。

職員が日常生活を行うための【生活区画】が1つ。

このプラントの最も重要な存在理由、核抑止兵器の研究を進めていた【研究区画】が3つ。

 

そしてプラントの機能を統括する中央指令区画が1つ。

この情報は蔵人が得た建設当時の情報であるが、大きくは変わっていないとの事だ。

 

ライリー、否、クルーゼがいるのはおそらく研究区画の何処か、という予測がされている。

ISでの室内戦闘が予測されるが、塔の中には充分な空間があり、ISでの戦闘機動にも問題はないという予測である。

 

今回の作戦では突入組とブレイク号を護衛する防衛組の2つに別れている。

 

突入組は以下のとおりである。

ラキーナ(マドカ)、真、簪、本音、カナード、アスラン、楯無、セシリア。

 

防衛組は以下のメンバーである。

一夏、箒、鈴、シャルロット、ラウラ、千冬、真耶、利香。

 

この内訳は先の襲撃の際に、襲撃犯と交戦したか否かと機体の相性を大いに加味されている。

突入組には実弾兵器を無効化するPS装甲を貫く事ができるビーム兵器、エネルギー兵器を多く装備しているISが回されている。

 

最もその理由はそれだけではないのだが。

 

防衛組に千冬がいる理由だが、いかに千冬といえど、ISの世代差は大きいからだ。

そしてその相手はクルーゼを含めて、亡国機業のエージェントとC.E.の元エースだ。いくら彼女でも分が悪い。

 

またクルーゼはラキーナとマドカのストライクが担当する事になっている。

これは彼女個人の希望であるが、誰も彼女の希望に不満を漏らすものはいなかった。

 

―――――――――

ブレイク号 ミーティングルーム

 

 

出撃まで残り15分。

ミーティングルームにはISスーツ姿の真がいた。

 

今回の作戦で1つ、相談したい事があったからだ。

それについてとある人物を待っていた。

 

 

「どうしたんだ、真、改まって」

 

 

そして真の待ち人は現れた。

その人物は、かつての上司であり無限の正義の名を持つISを身に纏う青年、アスラン・ザラだ。

 

 

「アスランに話したい事がありまして」

 

 

アスランもすでにISスーツを身に纏っており、そのデザインはかつてのオーブ軍のパイロットスーツに近いものであった。

 

 

「何か悩み事か?一人で抱え込むなよ、真。一人で抱え込むことができる量なんてたかが知れてるんだ」

 

 

アスランが諭すように真に告げるが、あんたがそれを言うかとあきれたように目を細める。

真の反応が予想外だったのか、アスランは慌てたように尋ねる。

 

 

「どっ、どうした?」

 

「いや、別に悩みとかじゃないですから……1つアスランにお願いがあるんです」

 

「ん、俺にできることなら言ってくれ」

 

「なら、今回の作戦、防衛組に回ってもらってもいいですか」

 

「……一夏君たちか?」

 

「はい」

 

 

すぐに真の言いたいことを理解したのかアスランは顔を引き締めた。

 

 

「撃てるかという事か、真」

 

「ええ。前回のエクスカリバーと違って、今回の相手は確実に殺しに来ます。俺達ならいい。けど一夏達にそんな奴等の相手は荷が重い。あいつ等の覚悟を侮辱するってわけじゃないですが、俺はあいつ等に血を流させたくないんです。あいつ等は防衛組ですけど、アスランがそっちにいるなら」

 

「一夏君たちが防衛組にいるのはやはりそれが理由か。言い方は悪いが、俺達は馴れてしまったんだろうな」

 

 

アスランの言葉に真は頷く。

 

 

「それに戦闘データを見ましたが、相手は間違いなくC.E.のエースです。前回の戦いは囮だったかのか、積極的じゃないように見えました」

 

「その相手についてだが、俺は彼女を知っているような気がするんだ」

 

 

一夏達が襲撃の際に戦ったのは【オレンジショルダーのセイバーガンダム】を駆る女性。

その容姿と戦い方に、アスランは引っかかるものを感じていたのだ。

 

 

「え、知り合いなんですか?」

 

「……ああ、戦い方に機体の動かし方がな。【黄昏の魔弾】、聞いた事はあるだろう?」

 

「……一時期サーペントテールに所属させてもらってた時に劾さんとイライジャさんから少しだけ。何でもオレンジのジンを使った赤服並みのパイロットだったとか」

 

「彼の名は【ミゲル・アイマン】、俺もお世話になった事のある人だ。彼のパーソナルカラーはオレンジ、そして襲撃の際にいたのは【オレンジショルダーのセイバー】……出来すぎているだろう?」

 

「……女性としてって事ですよね。またかよ、もう馴れましたけど」

 

 

少しげんなりしながら真が返す。

同じように苦笑してアスランは続ける。

 

 

「話がそれたな。襲撃の際、もしミゲルがその気ならば、楯無さん以外は落されていても不思議ではなかった」

 

「ええ、だからアスランに見ててほしいんですよ。今のアイツを信じてないってわけじゃないですけど、アスランの力は俺がよく知ってますから」

 

「分かった、俺の出来る範囲で一夏君たちを見ておこう」

 

「はい。ブレイク号は千冬さんと山田先生が守ってくれるみたいなので、お願いします」

 

 

頷いたアスランであったがあることに気づいた。

 

 

「真、彼女達は……簪さんと本音さんはどうするんだ?」

 

そう、簪と本音も突入組に振り分けられている。

これは真の希望との事であった。

 

 

「……惚れた弱みって奴です。彼女達には出て欲しくない、けど心の大部分で彼女達の思いを尊重したいんです。大丈夫です、簪と本音さんの2人は俺が守ります、信じてください」

 

「そうか……なら信じるしかないな、真」

 

「ええ、それじゃ出撃の準備ですね」

 

「ああ」

 

 

アスランと真は2人揃ってミーティングルームから出て行く。

 

 

―――――――――

同刻

 

ブレイク号 格納庫

 

 

『……ヴェント、レイン・オブ・サタデイ、各種実弾武装、拡張領域に格納完了』

 

 

ドレッドノートHを身にまとったカナードがディスプレイを高速でタイピングしつつ口に出しながら、出撃前の装備の最終確認を行っていた。

スコールの【アマツ】によって破壊された左マニピュレータはパーツ交換と自己修復機能によって修復されていた。

 

 

『展開確認、問題なし』

 

 

ドレッドノートの右マニピュレータにヴェントが展開される。

それを確認したカナードはヴェントを再び格納してディスプレイに目を移す。

 

ディスプレイには現在のドレッドノートの拡張領域に登録されている武装が羅列されている。

そのほとんどが普段からドレッドノートがメインで装備しているビームサブマシンガン【ザスタバ・スティグマト】とは異なり、【実弾武装】であった。

 

例を挙げるならば、五十五口径アサルトライフル【ヴェント】や六十二口径ショットガン【レイン・オブ・サタデイ】

ラファール・リヴァイヴでもよく使用される武装が、拡張領域ぎりぎりまで詰め込まれている。

もちろん好んで使用している【ザスタバ・スティグマト】も装備されている。

 

 

『はい、こちらも確認しました。弾薬もフルで投入しておきましたよ、カナード先生』

 

 

ディスプレイが展開されて、そこに映るのは真耶であった。

 

 

『相互確認感謝します、山田教諭。俺の我儘を聞いてくれて』

 

『何言ってるんですか、水臭い事言わないでください』

 

 

真耶の答えに笑みを浮かべる。

 

 

『武装はこれで問題はない、あとは……セシリア、聞こえるか』

 

『聞こえてますわ、カナードさん』

 

 

カナードがセシリアに通信をつなぐ。

 

 

『作戦は先程伝えた通りだ、俺はスコール・ミューゼルを狙う……背中は頼む』

 

『ええ、お任せくださいな』

 

 

セシリアが微笑むと同時に通信が終了する。

 

 

『頑張ってくださいね、船の防衛は任せてください』

 

『ええ、そちらも【銃央矛塵(キリング・シールド)】の呼び名が伊達ではない事を信じています』

 

『ええっ!?何で知っているんですかっ!?』

 

 

突然のカナードの返しに真耶が素っ頓狂な声を上げる。

 

 

『調べたら出てきただけですが』

 

『やっ、止めてくださいっ、それ恥ずかしすぎて、もう黒歴史なんですぅ……!』

 

 

顔を真っ赤にした真耶にふっと笑みを零したカナードはISを一旦解除する。

 

 

「……奴はどんな手を使っても俺が落とす。待っていろ、スコール・ミューゼル」

 

 

待機形態となったドレッドノートHを握り締め、その瞳に闘志と憎悪を宿らせたカナードはそのまま格納庫から出て行く。

 

―――――――――

そして作戦決行時刻

 

 

ブレイク号は海洋プラント周辺海域に到着していた。

 

ブレイク号の甲板が一部せり上がり、展開されていく。

一部が電磁力によって帯電し、電流がはじける音が響いている。

 

ブレイク号の甲板に現れたのはIS用の電磁加速カタパルトだ。

 

それを防衛しているのは千冬を筆頭にした防衛組。

併せて海洋プラントの偵察も行っているが、いまだ動きはなかった。

 

そしてISがカタパルトに接続されていく。

最初に接続されたのは【ドレッドノートH】だ

 

ディスプレイが展開して、通信が繋がる――相手は束だ。

 

 

『カナ君、行けるよね?』

 

『当然だ』

 

『くーちゃん、泣かしたら許さないからね。分かってるよね?』

 

『……分かっているさ、戻ってくる。そこまで約束しただろ』

 

 

呆れたように返すカナードであったがすぐに顔を引き締める。

 

 

『……カナード・パルス、ドレッドノートH、ガンダム出るぞっ!』

 

 

カタパルトから得られる爆発的な推力を持ってドレッドノートが射出される。

続いて、カタパルトに接続されるのは真のデスティニーだ。

 

 

『あっくん、頑張ってね』

 

『ええ、ありがとうございます、束さん』

 

 

束にサムズアップで返して真は深呼吸してから出撃のコールを行う。

 

 

『飛鳥真、デスティニーガンダム・ヴェスティージ、行きますっ!』

 

 

カタパルトから射出されたデスティニーはAMBACを行いつつ、背部VLユニットを起動して光り輝く翼を広げた。

デスティニーに続いて接続されるのはラキーナの【ストライクガンダム】だ。

すでに【I.W.S.P.】を装着しており、司令部には同期ユニットを身につけたマドカが待機している。

 

 

『ラキちゃん、頑張ってね』

 

『ええ、ありがとうございます。マドカちゃん、頼りにしてるよ』

 

『ああ、任せてくれ』

 

 

マドカからの返答を確認したラキーナは自機にコントロールが譲与されたことを確認してコールする。

 

 

『ラキーナ・パルス、ストライクガンダムI.W.S.P.、行きますっ!』

 

 

爆発的な加速と共にストライクガンダムが射出され、空を駆けて行く。

 

 

――大切な人を奪還し、守り抜くために。

 

―――――――――

 

『何で俺達は防衛組なんだよ』

 

突入組の機体がカタパルトから射出された事を確認した、防衛組、【白式・雪羅】を纏う一夏が不満の声を漏らす。

彼の周りには【紅椿】を筆頭に【甲龍】【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】【シュヴァルツェア・レーゲン】の4機が滞空している。

少々はなれたところに暮桜、ラファール・リヴァイヴ、ガイアガンダムが浮遊していた。

 

箒は一夏と同じ意見であったが、代表候補生である鈴・シャルロットは薄々と、ラウラははっきりと、自分達が防衛組にいる理由が分かっていた。

武装の相性も大いに関係しているが、相手を殺す事が出来るか。

 

それを加味されたのが今回の組み分けだ。

 

 

(この組み分けはやっぱり、撃てるかって事だよね……いくらテロリストだからって……僕は撃てないな、多分)

 

 

シャルロットが組み分けの意図に気づいて、顔を顰める。

ほぼ同タイミングで気づいた鈴と視線が合う。

 

それに気づいたラウラが機体を2機に近づけてプライベートチャネルを開く。

 

 

『鈴、シャルロット、気づいたか』

 

『うん』

 

『そっちも?』

 

『ああ。私は軍人だが、人は殺した事はない。今回の組み分けは間違いなくその差だろう』

 

『……だよね』

 

『やっぱりね』

 

 

鈴とシャルロットはため息を漏らすが、ラウラは笑みを浮かべて返す。

 

 

『だが私達にもできる事はある、それが船を守る事だ、今はそれを考えよう』

 

『……うん、流石だね、ラウラ』

 

『スイッチの切り替えは軍人の基本スキルだ。最もかつての私は……すまない、忘れてくれ』

 

『あはは』

 

『そう言えば最初はそうだったわね、あんた』

 

 

ラウラの苦笑した顔に鈴とシャルロットは思わず笑みを零した。

 

 

(そうだよ、僕達は僕達ができる事をすればいいんだ)

 

(やれること、ちゃんとやるわよ。だからさっさと終わらせなさいよ、ラキーナ、真)

 

 

その様子を少し離れた場所で、無限の正義の名を持つ【インフィニット・ジャスティス】――アスランは眺めていた。

 

 

(代表候補生の彼女達は気づいたか、今回の組み分けに……さて)

 

 

一夏と箒に視線を向ける。

引き締めているが、2人は不満そうな雰囲気を隠してはいなかった。

 

それに苦笑してアスランは2人に通信を繋げる。

 

 

『一夏君、箒さん。その件だが、君達は別に戦力にならないから外されたわけじゃないんだ』

 

『……アスランさん』

 

『アスランでいい』

 

『じゃあ、何でなんです?』

 

『突入組は基本的にエネルギー武装を持っている機体が選ばれている……が、本当は違う』

 

『違うのですか?』

 

 

ああ、と箒の言葉に返す。

 

 

『クルーゼとその一味は確実にこちらを殺す気で迎え撃ってくる。無力化できれば一番だが、いざとなったら殺める事が出来るかで分けられているんだよ、もっとも数名例外はいるけどね』

 

『そんな……事……』

 

 

一夏がマニピュレータに握っていた雪片弐型を力なく下げる。

自分が戦う理由、それは【笑顔を守るために戦う】ということだ。

 

だがそのために自身の手で誰かを殺める事が出来るか。

そう問われて一夏は答えられなかった。

 

それを見たアスランは薄く笑みを浮かべる。

 

 

『いいんだよ、それで』

 

『え?』

 

『誰かを殺すなんて、悲しい事は本来はしてはいけないんだよ。だから君だけにできる事を貫けばいいんだ、そのために君はその力に手を伸ばしたんだろう?』

 

『……難しいですね、アスラン』

 

 

苦笑しながら一夏がアスランに言う。

それを受けてえっと声を漏らしながら続ける。

 

 

『参ったな、真にも上手く言えなかったが、俺が言いたいのは力は使い様って事なん……』

 

『大丈夫です、なんとなく分かってます。俺がやるべきこと、今は船を守るって事を全力でやってみせます』

 

 

殺す事なんてやはりできない。

なら今は自分にできる事をするだけだと一夏は気持ちを切り替えたのだ。

 

 

『……そうだな、一夏、私もお前の力になるぞ』

 

『ありがとう、箒』

 

 

一夏と箒のやり取りを見て、一人アスランは胸を撫で下ろす。

 

 

(やっぱり誰かを導くのは苦手だな……ハイネ、君の様に上手くできたら……変わったのかもしれないが)

 

 

ふとかつての気さくな同僚を思い出したが、すでに状況は動いていた。

 

 

『超高速で浮上してくる動体反応が1っ!来るよっ!』

 

 

全機体のディスプレイが展開され、司令部から束の通信が繋がる。

その言葉とほぼ同時、海面から、海の色とは真逆の機体が飛び出してきた。

 

紅、そしてオレンジショルダーのIS、ミシェルが駆る【セイバーガンダム】だ。

 

 

『来たかっ!』

 

 

動体反応に向けてアスランがビームライフルを放つが、それをミシェルはAMBACで回避して、背部の【アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲】を展開。

即座に反撃を繰り出してきた。

 

 

『そぉらっ!』

 

 

【アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲】から発射された高出力ビームが突入組と防衛組それぞれを襲う。

だがそれを散開して回避する。

そして状況は再度揺れ動く。

 

 

『無数の動体反応……無人機の反応、数は14っ!』

 

 

束の声と同時に海面から次々と無人機ストライクやイージスが現れてこちらにビームライフルを放ってくる。

一夏達は散開してビームを回避し、ブレイク号に向かって行くビームは真耶と利香がシールドで防いでいた。

 

 

『虎の子の無人機だぜ、どうする、アスラン?』

 

 

アスランのインフィニットジャスティスにセイバーからのオープンチャネルが繋がる。

 

 

『俺の事を……やはり君はミゲルか!』

 

『覚えててくれて嬉しいぜ』

 

『ミゲル、何でこんな事を……!』

 

『今はミシェルだっての……ま、いいか。ミゲルのときの記憶を思い出してよ、パニックになって精神病院に叩き込まれそうだったところを隊長に、クルーゼに救ってもらったんだわ。だから恩返しって言うの?身寄りもなかったし、そんな感じ』

 

 

ミシェルは肩をすくめながら言う。

彼女のその態度にアスランは激昂した。

 

 

『ニュートロンジャマーだぞ!この世界にエネルギー危機が起こるかもしれないのに、そんな理由でっ!』

 

『俺だってそれは知らなかったんだよ、だからお前等に情報流したじゃないか』

 

『何っ、じゃあ、ミスターMというのは……!』

 

『そう、俺。おーい、聞こえてるよなー』

 

 

ミシェルがオープンチャネルで周辺の機体へ呼びかける。

無人機の攻撃を回避しながら、真やラキーナ、カナードはその通信に耳を傾けていた。

 

 

『この丁度真下にハッチがある。そこからプラント内部に侵入できるぜ、そこから入りな。あ、そこの光波シールド持ち、スコールは研究区画にいるぜ』

 

 

ほぼ名指しでカナードにミゲルは告げる。

 

 

『……信じていいのか、ミゲル』

 

『ミスターMも嘘は言ってなかっただろ?』

 

 

ニヤッとミシェルが笑う。

それを見たアスランがオープンチャネルで突入組に告げる。

 

 

『……各機、突入してくれ、無人機はこちらが受け持つ。リスクはあるだろうがプラントを破壊しようとしてクルーゼを逃がすよりは、マシな筈だ』

 

『『了解』』

 

『分かったよ、アスラン』

 

 

ラキーナに真、カナードがそう告げて機体を降下させていく。

そして海中に突入する。

 

それに簪に本音、楯無やセシリアも続く。

 

 

『……よーし、これで隊長たちは大丈夫だろ』

 

 

ミシェルは笑みを浮かべて、ビームサーベルを取り出す。

 

 

『……こちらに投降してくれるわけじゃないのか、ミゲル?』

 

『一応恩返しって事なんだわ、めんどくさい性格(タチ)だけど俺自身が納得しねぇんだわ。それにアスラン、お前がどれだけ強くなってんのか、知りたいんだよ』

 

 

獲物を狙うような好戦的な笑みを浮かべてビームサーベルを振るう。

 

説得は不可能かと、アスランも同じようにラケルタビームサーベルを起動させる。

サーベルの起動と同時にセイバーは高速で切りかかってくる。

 

 

『うぉらっ!』

 

『はぁっ!』

 

 

互いにシールドを起動し、サーベルを防ぐ。

グリフォンビームブレイドを起動させてのビームキック。

 

咄嗟の瞬時加速にAMBAC、再度爆発的な加速をもって、セイバーは上段から袈裟切り気味に斬りかかる。

 

 

『しゃあっ!』

 

『ふっ!』

 

 

インフィニットジャスティスはラケルタをもう1本起動し、その一撃を受け止める。

サーベル同士の干渉が発生して火花が弾けている。

 

S.E.E.D.が発動していないはいえ、接近戦ならば並ぶ者がいないといってもいいアスラン相手に、セイバーは互角だ。

現在のアスランは自分の意思でS.E.E.D.を発動させる事はできていない。

それは前世でも同じであったが内心で歯がゆさを感じてしまっていた。

 

セイバーの機体が後方に加速して、鍔迫り合いから逃れる。

そして以前見せたようなハイパーセンサーを振り切る【超加速】によって紅い残光となってアスランに襲い掛かった。

 

 

『くっ!』

 

 

咄嗟にビームシールドを広げるが、サーベルの1本を切り落とされてしまった。

 

 

『アスランっ!』

 

 

無人機ストライクを零落白夜を発動させた雪片で切り落とした一夏が、アスランの援護に向かう。

 

 

『一夏っ、来るなっ!』

 

『援護くらい出来るはずだっ!』

 

 

白式・雪羅に進化した際に発現した【荷電粒子砲】を放つ。

だが、ミシェルのセイバーはそれを踊るように回避して、背部の【アムフォルタスプラズマ収束ビーム砲】を展開してトリガーを引く。

 

発射された2門のビームをスラスターを噴かせて一夏とアスランは回避する。

 

 

『……あれが織斑一夏か、今の攻撃……まさかよぉ』

 

 

AMBACによって姿勢制御を行った白式に、セイバーがサーベルを振り上げて迫る。

その一撃を一夏は雪片で受け止める。

 

 

『一夏っ、くっ!』

 

 

アスランがビームライフルでセイバーを狙うが、横方向からロックオンアラート。

上方にスラスターを吹かせて迫るビームを回避する。

イージスが執拗にこちらを狙っているのだ、落とさなければダメージを受ける可能性がある。

その分、一夏の援護が遅れてしまう。

 

 

『ぐっ!』

 

『やっぱりな、お前っ、殺気がねぇんだよっ!』

 

 

受け止めた雪片越しにミシェルは吼える。

 

 

『男性搭乗者だからって状況にでも流されてんのかっ!?一般人が居ていい場所じゃねぇんだよ、戦場はっ!』

 

『状況になんて流されてないっ!俺は自分の、自分の戦う理由の為にここに来たんだっ!』

 

『はっ、口だけは一丁前ってか?口だけならなんとでもいえるよなぁっ!』

 

 

ミシェルは突然、サーベルを消失させる。

当然、受け止めていた力が急になくなれば、その刃は振り切られる。

 

だがその刃は空を切る。

セイバーは再びセンサーを振り切る加速能力で白式の背後を取っていた。

 

 

『っ!?』

 

『これで終わりだ、さっさと家に帰りな、後はアスランたちにでも任せな』

 

 

サーベルが振るわれる。

だが、その刃は白式に届かなかった。

 

 

『喰らえっ!』

 

 

ミシェルの上方から光刃が飛来したのだ。

 

 

『ちぃっ!?』

 

 

咄嗟にシールドで光刃を防ぐ。

だが――

 

 

『甲龍の力、受けなさいっ!』

 

 

次の瞬間、まるで巨大な鈍器で殴られたような衝撃がセイバーを吹き飛ばした。

 

 

『ぐっ!?』

 

 

セイバーはVPS装甲を搭載しているため、ダメージはないがその分エネルギーは消費してしまう。

そして攻勢はまだ終わらない。

 

 

『まだだよっ!』

 

『パンツァー・カノニーア発射っ!』

 

 

グレネード弾とリニアカノンがセイバーに襲い掛かる。

再度シールドで防ぐが、リニアカノンほどの大質量を受け止めるのは不可能であった。

 

シールドが破砕され、衝撃でセイバーが弾き飛ばされる。

 

 

『シールドは破壊できたな、これで前回の借りは返せたぞ』

 

『好き勝手言っちゃって、あんた何様よ!』

 

『そうだよ、僕達や一夏のこと何も知らないのに!』

 

 

射撃武装でセイバーを狙うが、その全てを回避されてしまう。

だがそれでいいのだ、一夏を援護できているのだから。

 

 

『一夏、私達もお前と共に行くぞ』

 

 

箒が微笑んで一夏に告げる。

その笑みを見て不思議と身体に力が溢れてきた。

 

 

(――ああ、そうだよ、俺は皆の笑顔の為に戦うんだ。間違ってなんかない!)

 

『……ああ、ありがとう皆』

 

 

一夏が再び雪片を構え、吼える。

 

 

『……確かに俺は弱いし、アンタ達を殺すなんて事も考えられない。けどあんた達の親玉がやってることで皆の笑顔が失われようとしてるんだっ!俺はそのために力を使うっ!それが俺の正義なんだよっ!アンタに否定なんてされてたまるかぁああっ!』

 

 

雪片から零落白夜の光が溢れる。

それを見たミシェルは感心したように笑みを浮かべた。

 

 

『ならお前の正義ってヤツ、見せてみろよ、織斑一夏ぁっ!』

 

 

再びセイバーが加速して白式に向かった。

 






次回予告
「ANOTHER PHASE ただ一人の少女の為に」


『貴様だけは俺の手で……どんな手を使ってでも倒すっ!』


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