【完結】IS-Destiny-運命の翼を持つ少年   作:バイル77

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ANOTHER PHASE ただ一人の少女の為に

水深20mほどの浅瀬に金属の扉が見える。

 

海中に突入した真達一行は、ミシェルが指示した通り海洋プラントのハッチに到着していた。

ミシェルが言っていたハッチというのは資材運搬用の物であり、本来はハッチ部分が上昇して海面に出た後、資材を搬入する用途で設けられている。

 

 

『真、ビーム兵器でハッチ部分を切り開くぞ』

 

『分かった。円状に切ればいいな?』

 

『ああ』

 

 

ドレッドノートが右マニピュレータにビームナイフを展開する。

 

このビームナイフはドレッドノートの武装の中でも最も使用頻度が低いものだ。

基本的にカナードはALの発生率を調整したALランスを近接格闘の際に使用するからだ。

だが拡張領域には念のために登録されていた。用途はALハンディが破壊されてしまった場合など非常時用の格闘武器としてだが。

 

 

閑話休題。

 

 

デスティニーがヴァジュラビームサーベルを同じように展開し、ハッチに発振部分を直接触れさせる。

ビームが発振され、少しずつハッチの金属を互いに半円を描くように切り開いていく。

 

 

『切り開いた後はどうするの?』

 

 

カナードに疑問を飛ばしたのは楯無だ。

 

 

『この中にはさらにもう1つ扉があってその先から移動用ダクトに続いている。更識蔵人から内部のデータは貰っているし、あのセイバーに乗っていた奴からの情報と相違はない。ダクトには排水用の設備もある。内部の扉を閉めて排水設備を起動させれば浸水はしないだろう』

 

『成程、ならここから浸水しておじゃんみたいな事にはならないのね、カナード君』

 

『ああ。真どうだ?』

 

『こっちも大丈夫。切り開けた』

 

 

半円同士が円となり、ハッチ部分が完全に切断される。

切り裂かれた部分が水圧で弾き飛ばされ、凄まじい勢いで浸水が始まる。

 

 

『よし、行くぞ』

 

 

カナードの言葉に頷いた真達はその穴から侵入していく。

 

――――――――――――――――

第一研究区画

 

 

スコールとオータム、レインにフォルテの亡国のメンバーがいた。

オータムが展開されているディスプレイを一瞥した後、PCを覗き込んでいるスコールに告げた。

PCには小型のデバイスが接続されている。

 

 

「スコール、どうやら奴らが来たみたいだぜ?」

 

「ええ、そうみたいね」

 

 

スコールがPCから視線を外して、区画の隅にある監視カメラに視線を向ける。

監視カメラは一定の間隔で角度を変えていたのだが、先程からまるでスコール達を凝視するように彼女達に向いている。

 

 

「何処かのコンソールからハッキングしてこちらを見つけたようね。向こうには篠ノ之束博士もいることだし、不思議じゃないわ」

 

「叔母さん、情報の引き出しまでもう少しかかるんですよね?」

 

 

レインが監視カメラに手を振りながらスコールに尋ねる。

フォルテはその様子を見て苦笑していた。

 

 

「ええ。しかしニュートロンジャマー、この兵器の情報は欲しがるテロリストだけじゃなくて国家が動くレベルね」

 

「まさか核を抑止する兵器の研究なんてしてたとは思わなかったぜ」

 

「そうね。ただ日本だもの、抑止の兵器を作るというのも判らないではないわ」

 

 

彼女達はこの施設に残されているデータを引き出している最中であった。

つまりは【ニュートロンジャマー】と同質の兵器の情報をだ。

 

この兵器のデータを得ることができたのは現在の亡国機業にとってはまさに天啓にも等しい。

ラクスが亡くなった事による組織の崩壊を食い止め纏め上げるだけの力がこのデータにはある。

 

 

「ライリーさんは今何やってるんですかね、襲撃が終わってからからずっと何かしてるみたいッスけど」

 

 

フォルテが思い返すように尋ねる。

そうライリー、否クルーゼは学園の襲撃から帰還した後、フレイを連れて研究区画の一室にこもっていたのだ。

 

 

「さぁ?第二研究区画で学園から連れてきたフレイとかいう子を拘束して、何かしてるのは知ってるけど」

 

「ま、とにかくアタシ達はここでおさらばって訳だ。ま、やることは残ってるけどよ」

 

「ええ、彼らの相手をして、殺す。それがラクス様の敵討ち、それが私たちの新たなスタート。丁度データの引き出しも終わったわね」

 

 

デバイスを回収して懐にしまったスコールは右腕の腕輪に触れながらオータムに目線で合図を送る。

それにオータムは頷いて答え、彼女はチョーカーに触れて首を縦に降った。

それを見たレインは右腕の腕輪を、フォルテも左手中指の指輪に触れる。

 

それとほぼ同時であった。

区画に振動が走り、彼女達に高出力ビームが4条降り注いだ。

 

ビームを発射したのは、デスティニーガンダム・ヴェスティージとドレッドノートHだ。

束がハッキングした位置情報から、正確な位置を割り出して狙撃したのだ。

 

狙撃場所は研究区画の上層部からであるが、プラントを貫通して浸水する事はなかった。

移動ダクトからデスティニー、ドレッドノートH、飛燕、インパルスマークⅡの4機が現れる。

 

 

『……やはりここにはいないか、クルーゼは第二研究区画か』

 

 

カナードがバスターモードを解除しつつ言う。

この第一研究区画に、クルーゼがいない事は束が監視カメラをハッキングして確認していた。

 

そこでその第二研究区画にラキーナと楯無は向かっている。

 

 

ビームによって破壊されたPC郡。

爆発して残骸と埃が舞う中、4機のISがその爆炎を切り開いて現れる。

 

 

『はっ、いきなりぶっ放してくるとなぁっ!』

 

 

リジェネレイトを纏ったオータム、テスタメントガンダムを駆るレイン、ネブラブリッツを纏うフォルテは攻盾システム【トリケロス】を構えている。

そしてまるで鍵爪のようにも見える大型背部ユニットが特徴的な【アマツ】を駆るスコール、その手にはビームライフルを展開している。

 

 

『来たようね、カナード・パルス』

 

『……スコール・ミューゼルっ!』

 

 

スコールが健在である事を確認したドレッドノートは即座に展開していたヴェントのトリガーを引く。

炸裂音と共に、弾丸がスコールのアマツに降り注ぐ。

 

だがその弾幕をスラスターとAMBACによって弾丸の雨を踊るようにスコールは回避した。

 

 

『どうする、俺達もやるか?』

 

『いいえ、あの機体は貴方達では相性が悪いわ。私がやるわ』

 

『了解。ならレイン、フォルテ、移動するぞ。私達はシン・アスカを相手にする』

 

『りょーかい』

 

『了解ッス』

 

 

オータムのリジェネレイトが別の移動ダクトへと機体を駆けさせる。

それを追って、テスタメントとネブラブリッツも移動ダクトへ消える。

 

 

『実弾……私への対策のつもりかしら?』

 

 

回避しつつ、ビームライフルでドレッドノートに照準を合わせる。

ロックオンアラートが奔る前に、ヴェントによる射撃を維持しながらカナードは回避行動に移っていた。

 

 

『真、更識、布仏、奴は俺が。残りは頼むぞ』

 

『分かった』

 

『任せて』

 

『まっかせて、カナカナー!』

 

 

真達も逃げたオータムを追うために別のダクトへと向かう。

 

 

真達の援護をヴェントで行いながら、何もない虚空を見て頷く。

そして真達が充分離れたところで、残弾を確認する。

 

射撃モードは現在、フルオート。

そのため残り数秒で残弾が尽きる。

 

 

『貴様だけは俺の手で……どんな手を使ってでも倒すっ!』

 

 

カチンと、ヴェントの残弾が切れる。

それと同時に、残弾が尽きたヴェントを放り投げ、拡張領域から追加のヴェントを展開する。

 

機動を維持しながらの高速射撃戦。

プラントの隔離壁やPCなどは流れ弾によって見るも無残な有様へ変貌していた。

 

 

(……成程。高速機動を続けることでアマツの【拡散結界】に捕らわれることを防ぎつつ、ビーム兵器ではなく実弾を使用する事で、結界による防御もさせないって魂胆かしら。たった1度の戦闘で【拡散結界】への対策をしっかりと立てるのは流石といったところね)

 

 

スコールの予測は当たっていた。

カナードはビーム兵器がアマツの能力の前に無力化される恐れを考慮し、【ザスタバ・スティグマト】を使用せずに既存の実弾武装を使っているのだ。

 

 

『ふっ!』

 

 

ドレッドノートは瞬時加速で距離を詰めつつ、ALマニピュレータから、ALランスを展開する。

試作型ではあるが新装備のALマニピュレータを用いた発生率の調整は、以前のハンディよりもエネルギーの消費は少なく、それでいて発生速度が向上している。

 

もちろん空いているマニピュレータではヴェントを追加で展開、今度はセミオートに切り替えて正確にスコールを狙っている。

 

 

『ちぃっ!』

 

 

近接戦闘に持ち込みつつの高速切替(ラピッドスイッチ)

ヴェントとALランスを同じように瞬時加速で回避したスコールの舌打ちが響く。

 

回避しつつビームライフルでドレッドノートを狙うが、非常に難度の高い技術である個別連続瞬時加速(リボルバーイグニッション・ブースト)を当たり前の様に成功させ、距離をとったカナードは再度射撃戦に戦術を切り替えていた。

数瞬前のやり取りで弾切れとなったヴェントを投棄し、今度はスナイパーライフル【ストラトス】を展開していた。

 

 

『ぐっ!』

 

 

ヴェントの弾速よりも速い狙撃銃の一撃。

一発だけ、左腕部に被弾して装甲が砕ける。

シールドエネルギーも減少するが残りはAMBACで回避していく。

この程度でやられるスコールではない。

ビームライフルを連射し、その内の数発は正確にカナードを捉えていた。

 

しかしトリガーが引かれるのと同時に、カナードはALを本来の用途であるシールドとして展開していた。

ただのビームライフル程度では、ALを貫くことは不可能だ。

ビーム粒子がALに弾かれて消えていく。

 

 

(……)

 

 

AL越しに、カナードは被弾したアマツをしっかりと観察していた。

 

 

(悔しいけど単純な技量と戦闘能力は、やはり彼のほうが上ね。でもそれだけじゃアマツには届かないわ)

 

 

口元を弧に歪めたスコールは行動を起こす。

アマツの背部ユニット、マガノイクタチと同機能を宿すユニットが展開され、禍々しく赤色に発光するフレームが現れる。

 

カナードと同じく個別連続瞬時加速(リボルバーイグニッション・ブースト)を成功させ、一気にドレッドノートに接近する。

当然ライフルで迎撃され、数発直撃してしまい装甲が砕け、大きくエネルギーが減少する。

だがそれでもアマツはドレッドノートに接近できた。

 

 

『最大出力の拡散結界よっ!』

 

 

アマツを中心に球状の拡散結界が肉眼でも見えるレベルの高出力で展開される。

直径約10mほどの球体状の結界に、ドレッドノートは囚われてしまった。

 

ガグンッと、ドレッドノートの機体が力なく振動し、PIC、スラスター、シールドバリアの稼働率が大幅に下がっていく。

 

 

『っ!』

 

『これで終わりよ、失敗作っ!』

 

 

抵抗を続けるカナードに照準を合わせ、ライフルのトリガーを引きかける。

 

勝った、とスコールは笑みと共に確信していた。

だが、それはカナードの表情を見たことで笑みと共に凍り付いた。

 

拡散結界に囚われたカナードの表情は、自身と同じような笑みを浮かべていたからだ。

いや、自分よりも邪悪な、嘲笑うかのような笑みであった。

 

 

「それを待っていたぁぁぁっ!」

 

 

カナードの狂喜の咆哮と共に、ドレッドノートHが消えた。

 

彼はISを解除した(・・・・・・・・・)のだ。

当然、ISが解除されれば生身の身体は重力に従って落下していく。

 

拡散結界の強力な点はISがISたる機能のほとんどを無効化できる点にある。

だが、それはあくまでISにのみ作用する能力だ。

 

つまりそれは、生身の身体には何ら影響はない(・・・・・・・・・・・・・・)という事だ。

 

 

『なっ、ISを解除し……ぐぅっ?!』

 

 

カナードの予想外の行動に動きを止めてしまっていたスコールのアマツを爆発と衝撃が襲った。

背部ユニットの一部が砕け、アマツのエネルギーは5割を下回った。

 

何をされたのか、一瞬思考が停止してしまったスコールだが、すぐさま意識を切り替える。

機体のセンサーには何も映ってはいない、つまりは狙撃だ。

 

 

『狙撃っ!?センサーの範囲外からっ!?』

 

 

先程真達が移動したダクト部分に狙撃手はいた。

 

周囲にノイズが奔り、狙撃手を隠していた【ミラージュコロイド】が散っていく。

そして現れたのは蒼き雫、その名の通り蒼のIS【ブルー・ティアーズ】を身にまとったセシリアだ。

 

その手に持つのは機体全長程の大きさを誇る大型の炸裂狙撃銃【天山】

ガシャンと排莢した後、コッキングレバーを入れ、装填。

再度構えると同時に、ミラージュコロイドが起動して彼女の姿を消していく。

 

 

(まさかISを空中で解除するなんて……無茶をしますわね、カナードさんは)

 

 

落下していたカナードであったが、拡散結界の範囲外に出た後すぐにISを再展開していた。

セシリアはスコープ越しにその様子を見ながら出撃前に話し合っていた作戦を思い出していた。

 

 

―――――――――――――

出撃の10分ほど前、カナードさんに私は格納庫に呼び出されていました。

なんでも話があるとの事でした。

 

 

「来てくれたか、セシリア」

 

「友人のためですもの。お話というのは今回の作戦の事ですね?」

 

「ああ、スコール・ミューゼルのアマツに勝つための戦術だ」

 

 

私の言葉に頷いたカナードさんは、空間投影ディスプレイを展開して概要を説明し始めました。

 

その作戦の内容、それは単純な狙撃プラン。

彼がアマツを相手に戦い、決定的なタイミングを作ったところで私が狙撃する。

 

単純だがハイパーセンサー外からの狙撃ならば有効なはず。

しかし相手は一度は彼を破った相手、油断はできませんわね。

 

 

「外付けのミラージュコロイド発生装置を渡しておく。出力は低いがそれでもIS1機程度はどうとでもなる。それと奴の機体がPS装甲搭載機であるかは前回の戦闘の際に確認はできなかった。奴の装甲に実弾でダメージが通るのならば炸裂狙撃銃、もしPS装甲なら狙撃はエネルギー武装で頼む」

 

「わかりました。私でよろしければ、お手伝いいたします」

 

「……すまない。俺の我儘に付き合ってくれて、ありがとう」

 

 

そう頭を下げるカナードさんにふと笑みがこぼれてしまった。

私の態度に気づいたのか、少し不機嫌そうな表情になった。

 

 

「……どうかしたのか?」

 

「それほどまでにクロエさんの事を大切に想っていると思ったら。気に障ったのでしたら謝ります」

 

「……別にいい。いや、代わりに1つ教えてほしい」

 

 

何か思いついたような表情になったカナードさんは私に尋ねてくる。

 

 

「何でしょう?」

 

 

少し言いづらそうに、視線を泳がせた後彼はつづけた。

 

 

「その……なんだ、クロエが目を覚ましたらなんと言えばいいか参考に教えてくれないか?気の利いた言葉でも言えればいいんだが、自信がないんだ」

 

 

まぁ、まぁまぁ!

おっと、取り乱しましたわ。落ち着きなさい、セシリア・オルコット。

常に優雅たれが、オルコット家の家訓。素数を数えるのですわ。

 

 

「……そうですね、やはりカナードさんのお気持ちを率直に伝えるのが一番だと思います」

 

 

私の返答に、カナードさんは静かにうなずいて答えた。

 

 

「……俺の気持ちか。分かった、ありがとう」

 

 

そう返した彼の表情はとてもいい笑顔でした。

 

―――――――――――――

 

 

『ふはははっ!どうしたっ!その程度か、スコール・ミューゼルっ!』

 

 

残弾が尽きたスナイパーライフルを投棄し、今度は六十二口径ショットガン【レイン・オブ・サタデイ】を両マニピュレータに高速切替で展開したカナードの狂喜の咆哮が響く。

 

嘲笑うかの様な挑発の声を上げるほどに今の彼は高揚していた。

自身にとって大切な人間となった少女を傷つけた相手が、自身の策に完璧に嵌ったことによる高揚か。

 

面の攻撃に適した特徴を持つ、散弾がスコールのアマツを襲う。

セシリアの狙撃によって、能力の要でもありスラスターを兼ねている背部ユニットを損傷したアマツはその全てを回避することは不可能であった。

 

シールドバリアを削り、そして装甲も同じように削り取っていく。

残弾が切れた【レイン・オブ・サタデイ】を投棄し、背部のHユニットが形態を変化させ、バスターモードに切り替える。

 

 

『喰らえっ!』

 

 

バスターモードの砲口にビーム粒子が集い、最大出力のビームが放たれる。

 

 

『この程度でっ!』

 

 

狙撃に対して意識を裂きつつAMBACと姿勢制御を駆使し、ビームを回避したスコールはビームサーベルを展開して、ドレッドノートに向かう。

 

砲戦形態のバスターモードの機動力と運動性能が低いことを経験でスコールは看破していた。

だがそれがカナードの狙いであった。

 

――全てはスコールを自身の距離にまで近づけるために。

 

 

『ここだぁっ!』

 

 

両マニピュレータにグレネードランチャーを展開。

それと同時に一気に機体を上昇させ、Hユニットを切り離した。

 

切り離したHユニットに照準を合わせ、グレネード弾を発射。

発射されたグレネード弾は正確にHユニットに直撃、爆発に包まれた。

 

 

『なっ!?』

 

 

今までの戦闘でドレッドノートHの背部ユニットはスラスターも兼ねている事を確認していた。

切り離しても本体のスラスターで行動できるだろうが、その機動力は激減する。

 

ならばそこを狙う。

おそらくは煙幕のつもりで装備を切り捨てた彼の行動を失策と判断したスコールはサーベルを構えつつ、爆煙に突っ込む。

センサーはしっかりと生体反応を捕捉していた。

 

その生体反応に向けて単一仕様能力を起動させる。

 

 

(失策ね、これなら狙撃側も分からない。終わりよっ!)

 

 

拡散結界が展開され、捕らえた手ごたえを感じたスコールは笑みを浮かべる。

 

そして目の前に彼は現れた。

 

拡散結界に捕らわれて、何もできないはず――であった。

だが、カナードは下方のスコールに向かってきている。

 

いや、向かってきているのではない。

落下してきている。

 

彼の身体には【IS】が装備されていなかった。

爆発に呑まれると同時に、彼は先程と同じようにISを解除していたのだ。

 

そのためか、頬や肩には無数の裂傷が見えているが、彼の瞳に宿る戦意は揺るがない。

振り上げている左腕に待機状態のドレッドノートが見える。

そこまでならば、先と同じ手を食うスコールではなかった、だが――

 

だがその手にはしっかりと【得物】が握られていた。

 

 

「そう来てくれると信じていたぁっ!」

 

 

上空から襲い掛かるカナードは笑みを浮かべていた。

その笑みは獰猛かつ、計画通りと嘲笑うような色を多分に含んでいるが。

 

その手に握られているスコールにとって見覚えのある武装。

以前に苦渋を舐めさせられた【プリスティス・ビームリーマー】だ。

 

この武装は彼が束に頼み、今回の作戦のみドレッドノートHに装備された武装だ。

ISを解除する瞬間に拡張領域への登録を削除した事で、格納してもドレッドノートの武装とは認識されずに別個の武装として使用が可能だ。

生身であるため、ビームは発生していないがその鋭利な切っ先は、充分凶器となる。

 

生身の状態でISの武装を使用する。

非常識かもしれないが、一部の人間ならば可能である。

 

例を挙げるのならば世界最強の織斑千冬だ。

そしてこのカナードもその1人であった。

 

銃火器の場合は反動制御などはできずにただトリガーを引くだけ。

近接武装は銃火器よりもマシなレベルだが、IS装備時と比較すると雲泥の差だ。

 

だが今この瞬間、それは些細なことであった。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

振り下ろされた一撃。

咄嗟にビームサーベルを振り上げるが、すでに遅かった。

 

プリスティスは装甲毎スコールの身体を切り裂き、豊満な胸に一筋の大きな傷を残した。

 

破砕された装甲の一部が彼女の血に濡れて落下していく。

落下しつつの攻撃、加えて生身の状態でISの武装を使用するという非常識な一撃だが、その効果は充分であった。

 

 

『あっ、ぐぅっ……!』

 

 

苦悶の声をかみ殺して、ビームライフルで落下していくカナードを狙う。

だが、再び轟音と共にビームライフルが砕け散った。

炸裂弾頭によって、飛び散った破片がアマツのエネルギーを削り取っていく。

 

 

『ぐぅ……っ!?』

 

 

ISの探知範囲外からの狙撃、セシリアの援護であった。

爆煙に包まれている中、正確にスコールを打ち抜いた彼女の狙撃能力には脱帽するしかない。

 

 

『援護感謝する、セシリア』

 

 

再度ドレッドノートを展開して、AMBACで姿勢制御を行ったカナードが瞬時加速でスコールに詰め寄る。

機体のダメージもさることながら、搭乗者であるスコール自身へのダメージも深刻であり、彼女は動けなかった。

 

 

『生身でISの武装を……っ!?非常識にも……程が……っ!?』

 

『多少骨が折れたが十分な効果があった。先ほどの手ごたえとその様子、能力を使っている間はシールドバリアが解除されていたようだな』

 

 

アマツの【拡散結界】の弱点、それは結界の展開中は、エネルギーを多大に消費する他、自身を覆っているシールドバリアが解除されてしまうのだ。

そしてアマツは、先のヴェント、大型炸裂狙撃銃【天山】によって損傷したことからPS装甲搭載機体ではないのは明白であった。

 

 

再度振り上げるのはプリスティス、鋭利なその先端はまだスコールの血で塗れていた。

 

 

『これで終わりだぁっ!』

 

『まだよっ!』

 

 

袈裟切りで振り下ろされたプリスティスをサーベルで受け止める。

だが、今度はただの実体武装ではない。

プリスティスのビーム発生器からビームが発振されていた。

 

互いの機体へのダメージの影響からか、鍔迫り合い、拮抗状態だ。

 

だがスコールは生身に大きなダメージを受けている。

その差からか、少しずつ、少しずつプリスティスにビームサーベルが押し返されていく。

 

 

『こんな、こんなところで私が……っ!』

 

『貴様はここで終わりだぁっ、落ちろぉっ!!』

 

 

焦りの表情を見せていたスコールにカナードが吼える。

 

拮抗はそこまでだった。

アマツのビームサーベルはプリスティスに振り切られた。

 

 

『あぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

シールドバリア毎アマツの胸部装甲を切り裂いて【絶対防御】が発動。

同時にアマツのエネルギーは【Empty】を示した。

 

衝撃と共にアマツは、先のデスティニーとドレッドノートの狙撃によって築かれた残骸の山の中に落下した。

 

 

『…………』

 

 

それを確認したカナードは、プリスティスを構えたまま、息をつく。

そして背後に接近するISの反応。

 

振り返るとそこには狙撃銃を持ったままのセシリアのブルーティアーズがいた。

 

 

『……最高のタイミングでの援護だった。セシリア』

 

『いえ、カナードさんもお疲れ様です。流石ですね、まさか生身でISの武装を使うだなんて思いませんでした』

 

『奴の能力を前もって知っていたからこそできた策だ、それに……俺だけの力じゃない』

 

 

そう、むず痒そうにカナードはセシリアに告げる。

 

 

『……勝ったぞ、クロエ』

 

 

落下し、ISが解除され力なく倒れているスコールを見下ろしカナードはそう呟く。

その様子を見て、静かにセシリアは笑みを浮かべていた。

 

―――――――――――――

ほぼ同時刻、IS学園医務室

 

 

「……ん」

 

 

黒に金の瞳を開いて、クロエは意識を覚醒させる。

上半身を起こした際に、骨折した腕から奔る痛みに少し顔を顰める。

 

 

「あら、目が覚めたの?」

 

 

クロエが意識を取り戻した気配を感じてか、保健医が遮蔽カーテンを捲って声をかける。

目を閉じて保健医に頷いて答える。

 

 

「はい。あの……声が聞こえませんでしたか?」

 

「ん、声?いえ、聞こえなかったけど……空耳じゃない?」

 

「……そうですか」

 

「あまり無理しちゃ駄目よ。全く……さっさと帰ってきなさいよ、パルス先生」

 

 

保険医が呆れたようにため息をついて、それじゃとクロエに告げてカーテンを閉じる。

 

 

(……カナード様の声が、聞こえた。空耳なんかじゃ……ない)

 

 

確かに声が聞こえた、彼の声が。

 

 

「……待ってます、帰ってきてくれる事を」

 

 

そう、クロエは微笑んだ。

 




次回予告
「PHASE11 繋がる想い」

『フレイ、私の本当の想いが……君を守るから』
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